おればなな氏インタビュー
 「鏡音リン・レン V4X」発売を記念して、これまでにリン・レンでたくさんの楽曲を発表してきたボカロPたちに、開発プロデューサー(クリプトン佐々木渉氏)自らが、あれやこれやインタビューしていく企画が開始! 第一弾は、2008年の活動開始からこれまでにリン・レンで発表してきたカバー&調声は約100曲! 数々のヒット曲に参加し、今なおリン・レン調声のトップランナー、おればななさんの登場です!

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おればなな(以下、お) 「鏡音リン・レン V4X」発売おめでとうございます! append発売からずっと待ってました!(笑)

佐々木(以下、佐) おおっと、「ありがとうございます」と言うべきか、「すいませんと」言うべきか......V3を飛ばしてお待たせしてしまいました......(汗)。まずは、おればななさんとVOCAOIDとの出会い......特にリンレンにこだわって調声(調教)作業を行なうようになったきっかけと、更にのめり込むようになったきっかけは何だったのでしょうか?

 はじめて聴いたVOCALOIDは動画サイトに投稿されていた、ゲーム音楽をMEIKOに歌わせたものだと思います。当時は「機会音声で歌を歌わせられるのは面白いなぁ」程度だったのですが、その後比較的すぐに初音ミクの歌を聴く機会が増えて、可愛い声と、いい意味で人っぽくない機械的な歌声に惹かれました。鏡音リン・レンは、発売前からこの2人にとても興味があって、発売日を待ち望んでいたのを覚えています。私は歌が苦手というのもあって、当時2歳の息子に子守唄を歌わせてみたら面白そう......という理由で、発売から少し遅れて購入して、四苦八苦しながら趣味にいいなと歌わせていました(笑)。そのまま楽譜を見ながら童謡などをメインに歌わせたり、自分の好きな曲を歌わせていたのですが、子供は成長をするので子守唄が必要なくなって、親の趣味だけが残った状態が今です。

 「VOCALOIDで子守唄」という発想がもうSF過ぎて言葉が出ません!いやぁ斜め上ですね~。 その後、おればななさんは、たくさんの作品に関わられていますが、ネットにアップされていない物を含めるとトータルでどのくらいの曲数を手掛けられているのでしょうか?

 数えたことは無いので曖昧ですが、先ほどの童謡を含むと500曲以上は歌わせていると思います。半分以上は童謡です!

 500曲!! 童謡で250曲以上!!! もう教材用のMIDIデータ集を作れそうなボリュームですね(汗)。8年続けられているとして1年で約62曲、平均すると1週間1曲以上のペースです。こんなに使って頂けるとは、リン・レン達を作ってよかったと心から思います。その中でも、特に思い入れが強い楽曲をいくつかご紹介頂けますか?

 どの曲もそれぞれ思い入れは強いのですが、「ぎがばなな」名義で歌わせた曲はああじゃない、こうじゃないと相談しながら進めていたので、印象に残っているものが多い気がします。締め切りと戦いながら(笑)。あとは、「ぴんこすてぃっくLuv」は好きなことを思い切りぶつけられたり、はじめての長いラップに挑戦したりとやりたいことをやらせもらえた曲だなと思ってます。

 確かに、童謡から、ぎがばなな名義などでの、ちょっと(?)エロティックな楽曲まで......と考えたときの幅広さはトンデモナイですね。「カエルの歌」から「テクノブレイク」までが収まったフォルダが存在すると思うと胸熱です。おればななさんの手掛けられた楽曲は、ノリが良かったり、とても可愛らしかったり、もしくはムーディで、VOCALOIDの感情が伝わってくる曲が多いように感じます。曲に合うように調声するコツはありますか?

 ノリが良かったり、可愛らしい感じの曲は個人的にも好きな曲調なので、好き勝手にやらせてもらうことが多いです。ゆっくりめの曲は少し苦手だったりするので、作曲者さんに「こんな感じでどうですか」と相談したり。あとは曲をひたすら聴きます。急ぎでないときは100回とか聴いたあとで作業に入ったり。音楽が好きなので、この聴いている時間がとても好きです。調声に入ってからは、私はVOCALOIDの機械的な歌声に魅力を感じているので、どうやったら機械っぽく、聴きやすくなるかというのに重点を置いていることが多いです。今はVOCALOIDはかなり自然に歌うようになってきているので、おかしなことを言っているように感じますが、色々な楽しみ方の幅が広がって楽しいなと思っています。ちなみに、作業のやり始めは「よしやるぞ!」と力んでいることが多いので、調声は大サビから始めます。一番盛り上がるところを思い切りやって、他の場所はここより派手にしない。と、意識して調声しています。

 一番の「魅せ所」から作って、Aメロやコーラスなどを対比させていく感じですね。歌声を調声していて楽しい瞬間はどのようなときでしょう? 逆に辛いときはありますか?

 思わぬことが起きたときにテンションが上りますね。ベタ打ちが凄くハマっていたりする箇所があったり、なんとなく入れた発音記号が思わぬ効果を出したり。きっと自分以外は気づかない程度だろうけど、その一文字で喜んでいることがほとんどです。辛いと感じるのは大体締め切りギリギリのときが多くて(笑)。まだやりたい! となっているときなどは「時間よ止まれ!!」と無意味に叫びたくなります。あとは苦手な曲調でうまくハマらないときは辛いですね。何度も全部消してやり直したりしてます。

 -締め切り直前は、何故か唐突にアイディアを閃いたりしますよね。今までたくさんあったコラボレーションで、特に難しかったオーダー、特別なオーダーはありますか?

 難しいと感じるのは今でもラップです!! ラップは音程があるような、ないようなという感じで、今までラップを聴きこむことはほとんどなかったので勝手が分からずに苦労しました。音階に正確なVOCALOIDだと読経のようになってしまって逆に困ったりしました(笑)。特別になるかは分かりませんが、既に調声が終わっているデータの手直しとか、掛け声だけとかのオーダーはイレギュラーですがたまにあります。このオーダーも勉強になったり、気付かされることが多くてとても面白いです。

 童謡から、あまり聴いていなかったラップまでを手掛けるようになる、その振れ幅は、ピアノレッスンでバイエルから超絶技巧練習曲まで一気に駆け上った感じですよね(笑)。おればななさんにリンレンなどのかけ声をお願いしたくなる気持ちがわかります。「元気に可愛くお願いします!」って感じですよね。おればななさんの経験上で、ボカロ調声をコンスタントに続けるのに、コツのようなものがあれば教えてください

 個人的にはとにかく楽しむのが一番大事かなと思っています。曲でも、VOCALOIDのキャラクター・声でも、何かひとつでも好きだったり、やり甲斐を見出せないときっと続きませんよね。私は両方大好きなので、常に楽しんでやっています。

 おればななさんが活動を始められた当初と現在ではリスナーの層も変わっている部分があると思います。ナウなリスナーやトレンドを意識することはありますか?

 ナウでヤングなリスナーさん増えましたよね(笑)。私は好きなことをひたすらやっているので、カバーメインだったのがオーダーメインになったり、個人の時間軸内で変わることはあっても、基本は変わらずにやっていると思います。オーダーも、私の調声の癖などを理解した上でオーダーしてくださる人が多くて、作業前にイメージを聞いたりのやり取りはあっても大体は「思ったようにやってください」と言ってくれるのでトレンド意識はほぼしないですね。

 ギガPさんやHoneyWorksさんなど、むしろ、トレンドを引っ張っている楽曲に関わられていることも多い印象がありますね。私事ですが、今度リン・レンにどのような表現を追加するか、できるか、悩みながら生活をしています。ベーシックなクオリティアップはもちろんですが、おればななさんにとって「リンレンらしさ」「これからも愛される歌声」を表現するのに、人間らしい歌手のテクニックが増えるのが良いと思いますか? もしくは、子供っぽい歌い方ができるパラメータとか、息切れ感を追加でき表現とか、少し特殊なスパイスの方が、ぐっとくるイメージでしょうか? 両方ですか?

 欲張りなので機能が増えれば増えるほど嬉しいです。どんな鏡音でも受け入れる自信はありますが、まずリン・レンが人間らしさのある歌唱力になれば歌わせる敷居はぐっと下がりますよね。私みたいに機械的な声が好きなら個人的に機械的にすればいい話ですし。語尾のバリエーションが増えると色んな場所で活躍しそうなのでお願いします! あと、とても個人的ですが子供っぽい歌い方ができるというのも期待したいです! (笑)。単体ではとても使えないけど、クロスシンセシスによって味をつけられて本領を発揮する調味料のようなライブラリとか、需要はわかりませんが面白そうです。特殊な付加要素がたくさんほしいと思っていますが、リンレンが可愛ければもう大満足です!

 了解です。ユーザーさんの感覚......今回お話に出た中だけでも、童謡から高速ロック、パワフルなEDM、ラップまでを試行錯誤しながら歌わせる需要感覚とか、我々にはそういう経験が欠けていますし、精進します。今回のインタビューを考える中で聞きなおしたのですが、おればななさんが関わられていた「レン7人盛り」動画などを改めて聴くと、リンレンの熱量を形作っているのは、つくづくユーザーの方々の想像力と、歌への解釈があってのことだなあと思いました。とにかく、リンレンがこれからもキラキラと可愛くなれるように自分のできることを頑張ります。



 現在、好評発売中の「DTMマガジン2016年2月号」では、WONDERFUL☆OPPORTUNITY!、ライブP、Dios/シグナルPへのインタビューも掲載! 本でしか読めない、開発者とボカロPとの熱い対話をチェック!