コンゴのおしゃれ人、サプールの本を読んだ。
WHAT IS SAPEUR?
サプールとは何か?
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SAPEUR
道路すら舗装されていないコンゴの街を、高級スーツに身を包み歩くサプールと呼ばれる人々。
その色のセンスはさすがアフリカ的でとても鮮やか。
黄色いスーツ、真っ赤なスーツ。
背筋をまっすぐ伸ばし、常にクールさをイメージして行動する。
足元も当然高級な紳士靴。それで泥道を闊歩していく。
周囲とのコントラストは、まるで合成写真。
もちろん皆が皆、収入があるわけではない。
コンゴの平均月収は、日本円で25,000円。
普段は労働者としてコツコツ働き何か月も金を貯め、給料の大半を服につぎ込み、そして週末はサプールとしてスーツに身を包み街を闊歩する。
こちらのムービーを見るとわかるがそんな違和感のあるサプールは現地で尊敬され称賛されている。
勘違い野郎だとか、服に金を使うなんて勿体ないとは言われない。
日本では、服を何着減らしたとか、何着着まわすとか、こういう服を着るとモテるとか、そんな話題ばかりだが、貧しくとも華麗に着飾るコンゴのサプールの方がよほど清廉に見えるのは何だろうか。
どちらの精神が豊かなのか。
SYMBOL OF MY INDIVIDUALITY
デヴィッド・リンチ監督作品「ワイルド・アット・ハート」にこんなシーンがある。
ニコラス・ケイジ扮するセイラーがディスコでパンク男と揉める。
パンク男はセイラーの着る蛇革のジャケットをバカにし、セイラーはこう答える。
「このジャケットは、魂の自由を信じるオレって男のシンボルだ(This is a snakeskin jacket! And for me it's a symbol of my individuality, and my belief... in personal freedom.)」
サプールにとっての高級スーツは、セイラーの着る蛇革のジャケットと同じシンボルなんだろう。
どれだけ貧しい環境であれ、自らの尊厳を服として表現する。
泥の中の伊達男。
華美な格好は単なる気障な見掛けだけではなく、魂の象徴でありコンゴという貧しい環境(ケ)の中でも魂は高貴であると見せつける(ハレ)。
ファッションにアイデンティティがあるから薄っぺらくない。
だから周囲も彼らを称賛する。
MODS
英国。
モッズ音楽のファンは、仕立てた細身のスーツに身を包んでライブに出かける。
しかし金のない若者らに一張羅のスーツだけでは当然寒い。
そこで軍放出品のミリタリーコートをスーツの上に着るようになった。
これがミリタリーのM51コートがモッズコートといわれる由来だけれど、そんなモッズらにとってもモッズスーツやモッズコートがアイデンティティだった。
細身のスーツというモッズファッションのコードが自分の属性を表現する手段。
パンクロックにしろそうだけれど、音楽リスナーは普段着るファッションも聞く音楽の属性(コード)に左右されがちだし、聞く音楽が変わればファッションも変わり行動も変化する。
監獄実験というものがあるけれど、人は何かの役割を与えられ、その恰好をすればその影響を受ける。
高級スーツをアイデンティティとして生きるサプールは高級スーツを着ることで、どんな貧困の中にあってもクールでダンディに生きる誠実な意思を確固とする。
WHAT IS FASHION?
服という布のことをファッションと呼ぶのではない。
ファッションという概念には、その服をまとうことで己の階級や属性、あるいは精神性まで社会的に表現する無言のコミュニケーション手段までも含む。
そしてそのアピールは、周囲だけではなく己にも及ぶ。
襤褸は着てても心は錦ではなく、着飾ることで心を錦にできるのもファッションの効能。
昨今は、そこから概念的な意味性が引き剥がされ、単なる「服の合わせ方」「選び方」「流行」「モテ」という商業主義、あるいは実用性オンリーのみで語られ、それがファッションのすべてだと言われてしまう。
軽薄で即物的なファッション。
サプールがあれほど純化し概念的なストイックさを保っているのは、皮肉なことに国土の貧困が商業・物質主義的に形骸化したファッションが発達するほどの経済的余裕を持てないからだろう。
そして内戦などで国土が荒れる中、サプールはポリシーを持って武装を忌避する。
外見だけではなく、内面も綺麗でなければならないのがサプールなのだという。
NO FASHION NO LIFE
「流行を追いかけるのは金持ちのすることだよ」
半年後には古くなるような服を買うのは、どんどん買い換えられる金持ちのすること。それに古くさく見えるのはその人にそれだけのセンスしかないから。そうならないように着こなせばいい。
「おしゃれというのは無限の組み合わせの中から自分だけの色のハーモニーを奏でること」だとジョンは教えてくれた。
確かにジョンは服のコーディネートを考えるのに、ゆうに一時間はかける。
汗をぬぐいながら真剣に服を選ぶその姿は神々しくも見える。
豊かな日本では、経済的余裕があるからファッションを意識しオシャレをする。
しかしコンゴでは、自分の生きるスタイルとして、精神性の発露としてのファッション……サプールとして発展した。
サプールとは、単なる見た目だけのファッションではない。
ライフスタイルなどという軽い言葉で呼びたくないサプールという生き方。
ファッションの持つ意味を改めてまざまざと見せつけられた。
写真も多く取材も多い、これはなかなか面白い本。
久々にきちんとモッズな格好をしようかなぁ、と思わされた一冊。
こちら↓の「平和をまとった紳士たち」は、300円と安いしサプールのスナップ写真も多いので、是非一読をお勧めしたい。
(買った「WHAT IS SAPEUR?」は1,600円するので、興味のある方はこちらの方が)
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