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アーティストから見た「東京」の姿 長谷川祐子インタビュー

アーティストから見た「東京」の姿 長谷川祐子インタビュー

東京都現代美術館『東京アートミーティングVI “TOKYO”―見えない都市を見せる』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:相良博昭

2020年の『東京オリンピック』開催を控え、いま東京は盛り上がりを見せつつある……などと報道で言われているが、日本で暮らす多くの人の実感は異なるものではないだろうか。悲観的、とは言わないまでも、バブル崩壊後の惨状を経験してきた人たちにとって、10年、20年後の自分たちの未来の姿を鮮明に想像できる人がどれほどいるだろう。少なくとも、未来は光り輝くものではなく、予測しがたい曖昧な空気として私たちを待ち受けている。

そんななか、あらためて東京を考える展覧会『東京アートミーティングVI “TOKYO”―見えない都市を見せる』が東京都現代美術館で開催されている。1980年代のバブル絶頂期をスタート地点に、音楽、ファッション、科学といった多様な文化事象を紹介し、2016年のいまへと接続しようとするこの展覧会は、いかなる東京像を示そうとしているのだろうか。同展のキュレーションを担当した東京都現代美術館チーフキュレーターの長谷川祐子に、彼女が捉える「東京」について話を訊いた。

(メイン画像:YMO+宮沢章夫 キュレーション展示風景)

PerfumeのNYコンサートで、大勢のアメリカ人が熱狂しているのを見たとき、1980年代に世界を席巻したYMOの姿をどこかに感じた。

―『“TOKYO”ー見えない都市を見せる』展は、現代アートとさまざまな分野の表現が出会うことで新たな可能性を探るシリーズ企画「東京アートミーティング」の第6弾です。これまで「建築」「パフォーマンス」などとジャンルを横断する展覧会が続きましたが、今回は「東京そのもの」を提示する内容になっていますね。

長谷川:海外のアート関係者とやりとりしていて、ここ10年くらい気になっていたのが「いまの東京はどうなっているの?」という質問が多いことでした。話を聞くと、1980年代はよく東京に行っていたけれど、1990年代後半以降は一度も行っていない、と言う人が多い。実際のところ、みなさん東京を素通りして、北京や上海や香港に行ってしまうんですよ。2011年の東日本大震災のときに、災害に対応する力強い人間像で注目を集めたけれど、彼らのなかでは「東京=未来的」という、1980年代のイメージで止まってしまっているんです。

『“TOKYO”ー見えない都市を見せる』展 エントランス
『“TOKYO”ー見えない都市を見せる』展 エントランス

―たしかに1980年代の東京は、経済的に世界のトップで、文化的にもいろんな人が集まっていたといいます。それがバブル経済の崩壊と共に急下降し、1990年代から2000年代初頭にいたっては「失われた10年」なんて不名誉な名前で呼ばれ、その余波はいまも続いています。

長谷川:文化都市としての東京を、マッピングして可視化するというのが今回のテーマなんです。ご存知のように「オタク」という言葉は1980年代後半から1990年代初頭にかけて一般に定着し、いまや日本文化の代名詞のように語られています。けれども、漫画やアニメだけが日本や東京を表象しているのではない。そこで着目したのが、文化の爛熟期としての1980年代と、反動として現実を別の視点で見る表現が現れた1990年代です。その2つがいろんなかたちでレガシー(遺産)になって、現在の東京にポップアップしているのではないか? という仮定からはじまっています。

―もうひとつ、今回の特徴は、YMO+宮沢章夫、蜷川実花、ホンマタカシ、岡田利規、松江哲明、EBM(T)と、複数のクリエイターが各展示をキュレーションしていることです。

長谷川:東京って、ものすごく多面的な都市で、すべてを知っている人なんて想像もできないし、ちょっとリサーチしたくらいで全貌が把握できる都市ではないと思うんです。残念ながら、私は夜遊びに出歩いたりもしないし、東京のことを熟知しているとはとても言えません。そのときに、わかったフリをしてキュレーションするではなく、東京のさまざまなシーンにディープに入り込んでいる人たちの視点をお借りしようと思いました。それって、東京で生活する多くの人にとってリアルな感覚だと思うんですよね。

YMO+宮沢章夫 キュレーション展示風景
YMO+宮沢章夫 キュレーション展示風景

蜷川実花 キュレーション展示風景
蜷川実花 キュレーション展示風景

―長谷川さんは、1980年代に東京藝術大学の学生として、バブル期の東京を直に体験した世代です。その記憶も展覧会に反映していると思いますか?

長谷川:働きながら藝大に通う苦学生だったので華やかさには欠けていましたけど、それでもいまとは違う空気に溢れていた時代でした。『CREA』とか、いろんな雑誌でライターのアルバイトをしていたんですけど、現代アーティストのキース・ヘリングや写真家のロバート・メイプルソープが東京にやって来るので、ちょっと赤坂プリンスホテルに行ってインタビューしてくれとか。単なる大学生の私にですよ(笑)。

長谷川祐子 撮影:高橋保世
長谷川祐子 撮影:高橋保世

―すごい経験ですね(笑)。

長谷川:そのくらい勢いがあって、世界中からアート関係者が集まって、新しいもの、クールなものが次々と生まれる場所が東京だったわけです。そんな感覚は長らく失われているように思っていましたが、昨年その記憶がいまの東京と鮮やかに結びつく経験をしたんです。

―それはいったい?

長谷川:たまたまニューヨークでPerfumeのコンサートを観る機会があって、たくさんのアメリカの若者が熱狂しているのを目撃しました。人間的なキュートな部分と、機械的なロボティクスがオーガニックな関係を結ぶところにPerfumeの特異性があって、新鮮な感覚と共に1980年代に世界を席巻したYMOの影響もどこかに感じた。それで、ファンの子に「あなたたち、YMOって知ってる?」って訊ねると「Sure!」と即答されて(笑)。もちろん当時のYMOを観ているはずはなくて、ネットや情報を介して、記号化されデザイン化されたシンボルとしてのYMOをサウンドとともに受容し、リスペクトしているんです。

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イベント情報

『東京アートミーティングVI “TOKYO”―見えない都市を見せる』

2015年11月7日(土)~2016年2月14日(日)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館 企画展示室 1階、3階
時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)

キュレーター:長谷川祐子(東京都現代美術館チーフキュレーター)
共同キュレーター:難波祐子

『文化事象としてのYMO』
キュレーター:YMO+宮沢章夫
出展作家:
奥村靫正
羽良田平吉
鋤田正義
伊島薫
藤幡正樹

『自己演出の舞台装置』
キュレーター:蜷川実花

『何かが起こる前夜としての東京』
キュレーター:ホンマタカシ
出展作家:
桑原甲子雄
中平卓馬
トーマス・デマンド
赤瀬川原平
大西麻貴+百田有希
黒河内真衣子mame
津村耕佑(FINAL HOME)
Chim↑Pom
丹下健三
川上未映子

『飛べなくなった魔法の絨毯』
キュレーター:岡田利規
出展作家:小金沢健人

『ポスト・インターネット世代の感性』
キュレーター:EBM(T)
出展作家:
テイバー・ロバック
ジェレミー・ショウ
TCF
ジェイムス・フェラーロ
イェンナ・ステラ

『東京と私をつなぐ、極私的な風景』
キュレーター:松江哲明
展示上映作品:
『その昔ここらへんは東京と呼ばれていたらしい』(監督:松江哲明)
スクリーニング&トークイベント上映作品:
『トーキョードリフター』(監督:松江哲明)
『極東のマンション』(監督:真利子哲也)ほか

新作出展作家:
SUPERFLEX
サーダン・アフィフ
林科(リン・ク)
目【め】

休館日:月曜
料金:一般1,200円 大学生・専門学校生・65歳以上900円 中高生700円
※小学生以下無料(保護者の同伴が必要)
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方と、付き添いの方2名までは無料

プロフィール

長谷川祐子(はせがわ ゆうこ)

京都大学法学部卒業、東京芸術大学大学院修了。水戸芸術館現代芸術ギャラリー、ニューヨーク・ホイットニー美術館研修、世田谷美術館、金沢21世紀美術館で活動。『マシュー・バーニー展』(2005年)などを手掛ける。2006年、多摩美術大学美術学部芸術学科教授、および同芸術人類学研究所所員に就任。同年より東京都現代美術館チーフキュレーターを務める。『イスタンブール・ビエンナーレ』(2001年)、『シャルジャ・ビエンナーレ』(2013年)などの海外展を企画。東京都現代美術館では『うさぎスマッシュ展 世界に触れる方法』(2013年)、『ガブリエル・オロスコ展』(2015年)などを企画。近著に『「なぜ?」から始める現代アート』(NHK出版新書)、『キュレーション 知と感性を揺さぶる力』(集英社)など。

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