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野党共闘の壁 「共産党アレルギー」の歴史と正体
2016年1月14日 日刊ゲンダイ http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/173336 野党共闘を呼び掛ける志位和夫・共産党書記長(C)日刊ゲンダイ 
野党共闘を呼び掛ける志位和夫・共産党書記長(C)日刊ゲンダイ
 
 安倍政権の国会答弁は相変わらず、むちゃくちゃだ。

 野党の批判に対し、真摯に答えず、「民主党時代はどうだったんだ」「対案を出せ」と感情的にわめき散らして終わってしまう。憲法学者の小林節氏との対談で民主党の岡田代表も語っていたが、議論ではなく、「一方的に切り捨てようとする」(関連記事14ページ)のである
こんな傍若無人な政権は改めて、選挙で鉄槌を下すしかないのだが、ここに立ちはだかっているのが「共産党アレルギー」という壁である。

 7月の参院選でカギを握るのは野党が一致団結できるかどうか、で
ある。とくに大事なのは32ある1人区だ。前回(2013年)の選挙では自民が29勝2敗で圧勝した。前々回(2010年)は21勝8敗(この時は29選挙区)だ。
 野党が共闘して、この1人区の勝敗をひっくり返せれば、安倍政権の暴走を止められる。しかし、この共闘がなかなかできない。「共産党は嫌だ」「組みたくない」−−こんなアレルギーがあるからだこれがいかにバカげたことか。

 
■野党が共闘すれば安倍退陣も現実に
「まったくですよ。例えば、前々回の選挙で、もし野党が共闘して、自民党に立ち向かったらどうなったか。栃木、鳥取、徳島、熊本、長崎、沖縄で野党が逆転勝利を収め、自民21勝8敗が15勝14敗になった。青森、山形なども大接戦になりましたから、自民が1桁になる可能性もありました。合理的に考えれば、共産党が好きだ嫌いだと言っている場合ではなくて、ここは共闘するしかないのです。安倍首相はすでに参院選で改憲を争点にすることを明言している。おおさか維新などを巻き込んで、改憲勢力3分の2を目指すことを宣言している。

今度の選挙はこれまでの国政選挙とは様相が一変しています。この国の分水嶺だと言ってもいい。この選挙で改憲が可能になったら、平和憲法が文字通り葬り去られるだけではありません。緊急事態条項などを使って、徐々に主権が制限されていく。10年後、20年後になったら、主権も何もなくなっている懸念がある。今度の選挙は感性で『なんとなく』選んではいけない。そのために野党は与党の“野合批判”なんて気にせず、きっちりとした選択肢を明示する義務があると思います」(政治評論家・野上忠興氏)
 生活の党の小沢一郎代表は今度の選挙で「野党が80議席以上取れば過半数を奪える

野党共闘すれば32の1人区はすべて勝てる。複数区では野党が1人以上取れるから47議席はいける。比例も20以上取れる。共産党も比例で10以上取るから、それで80議席以上になる」と皮算用をはじいた。
そうなりゃ、自公は参院過半数割れ。安倍は即刻、退陣という流れになる。それもこれも共産党を含めた野党共闘の成否にかかっているのだが、なぜ、かくも共産党アレルギーが強いのか。これを分析する必要がある
新党大地の鈴木宗男氏がいきなり共闘を拒否した理由
 共産党は昨年、いち早く、「国民連合政府構想」を打ち出し、参院選での選挙協力を呼びかけた。「打倒安倍政権」「立憲主義破壊を止める」という一点での共闘をうたったが、その瞬間、民主党などから「反対論」が噴出、いまは様子見というか、水面下に潜ってしまった。
 と思ったら、4月に行われる北海道5区補選でも動きがあった。参院選の前哨戦ともいうべき補選で、野党共闘が実現するはずだったのに、新党大地の鈴木宗男代表が共産党が候補者を取り下げる野党共闘に反対を表明、何と自民党候補支持を宣言したのである。
 本紙は13日付紙面で〈亀井静香衆院議員が「協力すべきだ」と持ちかけ、宗男も「わかった」と答えたのに手のひらを返した〉と書いたが、宗男代表は「違う」と言った。
「亀井さんと会ったのは事実だが、このときも『わかった』なんて言っていない」と言い、なぜ、共産党と共闘できないかをこう話した
「革命路線を捨てていない人たちが政権に入ってくるのは危険です。共産党とは国家観、世界観が違う。そんなところと妥協はできない」
 この頑迷さの背景には一連の宗男疑惑の際、共産党が追及の急先鋒だったという事情もある。とはいえ、それを差し引いても宗男の反共は強烈だ。
 確かに共産党は国民連合政府構想では自衛隊も日米安保も守るとしているが、綱領には自衛隊は段階的縮小、日米安保は対等平等の友好条約を結び直すとしている。この辺が「革命政党」と警戒される理由なのだろうが、それだけではない。評論家の佐高信氏はこう言った。

「日本人は自分たちは中流だと思っていて、プロレタリアート革命のイメージがある共産党には違和感を抱いてしまうのです。日本はすっかり格差社会になって、みんなが下流に落ちているのに、自分たちはそうじゃないという錯覚に陥っているんですね。もうひとつは、共産党というと、小林多喜二じゃないが、弾圧の歴史を思い出してしまう。弾圧されるんじゃないかという恐怖心。これもあるかと思います。いずれも錯覚なのに、それがアレルギーになっている。思い出してほしいのは、かつては創価学会アレルギーだってあったんです。それを自民党が上手に隠した。その結果、共産党アレルギーだけが注目されるようになってしまった。本来であれば、安倍アレルギーを日本人は感じなければいけないのです」
 まったくその通りなのだが、日本人の多くが錯覚している状況はゾッとする。ナチスが台頭した時がまさしく、これだったからである。
 第1次世界大戦後の凄まじいインフレと世界恐慌で、ドイツ経済は疲弊した。中産階級の多くは失業し、激しい収入減に苦しみ、政権への不満を募らせたが、〈彼らの運命を社会主義的労働者階級に結びつけることは彼らの「誇り」が許さなかった。プロレタリア階級との距離、区別を強烈に意識し、社会主義的労働者階級と提携することは、彼らの「利益」の上からも亦排すべきであると考えた〉(「独逸デモクラシーの悲劇」=岡義武著)。

 そこにナチスが登場、強硬外交路線や扇情的なスローガンで中産階級の人気をかっさらった。その結果、選挙ではナチスと共産党が伸びて、社会民主党が廃れていく。まさしく、今の日本が重なってくる。ドイツの良心的な中間層に社会主義、マルクス主義アレルギーがなければ、ナチスの台頭を防げたとも言えるのだ。

■共産党にも求められる協調性
 だからこそ、今度の参院選での野党共闘は重要になってくるのだが、そのためには共産党の努力も必要だろう。
 政治評論家の森田実氏は自身の経験も交えてこう言った。
「私も活動経験がありますが、嫌われていましたね。権力側やマスコミにそういうイメージを作られた部分もありますが、やはり、相手を立てようとしなかったことも大きい。自分がへりくだって、奉仕する。そういう精神に欠けていた。だから原水爆禁止運動なども分裂してしまったんです。
いま、日本の政治状況は一強多弱で、かつてないほど野党の団結が必要です。そのためには共産党の協調性が必要です。共産党が議席を増やし、社民党が壊滅的になったのは、共産党が孤立主義を貫いたからという側面もある。しかし、それを捨て去らなければ始まらない。共産党は表に出ず、地下に潜って奉仕する。それくらいの決意と覚悟が必要です」

 野党共闘が実現しなければ、安倍政権が笑うだけだ。「共産党アレルギー」なんてバカバカしいし、安倍政権を倒せないくせに連合政府への懸念なんて、鬼が笑う話である。とはいえ、そうした原則論でアレルギーが消えるわけでもない。国民にきちんと選挙の選択肢を示せなければどうにもならない。

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