もしパリを訪れるならオススメしたい場所があります。
では凱旋門のたもとからメトロでまいりましょう。
〜ここから2号線に乗ってください。
降りるのは9つ目のアンヴェール駅。
地上に出たら北側のスタンケルク通りへ。
すると正面に真っ白な建物が。
目的地モンマルトルに到着。
オススメしたいのはここからの眺め。
パリのパノラマきれいでしょう?19世紀後半から20世紀初頭にかけてモンマルトルは印象派からキュビズムに至るまでさまざまな画家たちのたまり場でした。
この街からたくさんの名作が生まれたのです。
当時モンマルトルで人気のダンスホールを舞台に生まれた一枚がこちら。
印象派の巨匠オーギュスト・ルノワールが描いた明るく陽気なモンマルトル。
一方夜のこの街を描いた画家も。
トゥールーズ・ロートレックは老舗のキャバレームーラン・ルージュの怪しげな雰囲気をドラマチックに描いています。
その頃です。
オランダからこの画家がやってきたのは。
今日ご紹介するのはゴッホのパリ時代の作品なのですが…。
えっ?日本の雪景色?こちらには花魁が…。
なんとも不思議な作品の正体とはいったい…。
パリ7区英雄ナポレオンの墓が安置されたアンヴァリッドから程近い場所にそのゴッホの作品はあります。
こちらのロダン美術館。
彫刻家オーギュスト・ロダンのアトリエでした。
昨年大がかりな改修工事を終え展示スペースも作品数も格段に増えました。
2階にロダン自身が買い求めた作品が。
今日の一枚…。
縦およそ92センチ幅は75センチ。
手を重ね座る老人が一人。
まっすぐこちらを見つめています。
男の名はジュリアン・フランソワ・タンギー。
パリ時代のゴッホを知る数少ない友人の一人です。
奇妙なのはその背景。
なぜか日本の浮世絵でびっしりと埋め尽くされているのです。
その数6枚。
向かって右下は花魁でしょうか。
上に並ぶ3枚は日本の風景のようです。
右は桜真ん中は富士山そして雪景色。
左側にも花魁が。
その下はひょっとして朝顔でしょうか。
タンギーの職業は絵の具職人。
当時モンマルトルで小さな画材屋を営んでいました。
ゴッホはその店の常連客。
しかし店で扱っていたのは絵の具です。
タンギーと浮世絵とはなんとも奇妙な取り合わせ。
なぜゴッホは浮世絵を6枚も描き込んだのか?《はぁちっとも売れない。
もうすぐ展覧会なのに絵の具代どうしよう…。
いつかこんなステキなギャラリーで個展が開けたらな…》ボンジュール。
《あら?額の中にまた額に入った絵ってどういうこと?あっこの作品の一部なんだ。
こっちはキューピッド?これもやっぱりこの絵の一部…》ようこそ私の自慢の画中画コレクションへ。
えっ画中画?えぇ。
画中画とはつまり絵の中に描かれている絵のことなんです。
なんで作品じゃなくて画中画を集めているんですか?それはね画中画には画家の意外な本音が隠されているからなんです。
例えばこちらの画中画は点描画で有名なスーラのものなんですが…。
え〜と…。
あっもしかしてスーラの傑作『グランド・ジャット島の日曜日の午後』ですよね。
それを画中画にしたんだ。
そうなんです。
スーラの本音が聞こえてきませんか?「俺はこれよりもっとすごい新作を描いているんだぞ!」ってね。
うん確かに。
こっちはゴーギャンの『黄色いキリストのある自画像』ですよね。
えぇ。
じゃあゴーギャンの本音は?はりつけにされたキリスト…。
あっ!キリストと孤独な芸術家である自分をダブらせているとか?なかなか鋭い読みですね。
あら?こっちの画中画は浮世絵?そう。
実はゴッホの画中画なんですよ。
わ〜6枚もあるんだ。
ということはゴッホの本音がこの浮世絵に?ええたっぷりありますよ。
無一文同然でパリに来たゴッホは弟テオのアパートに転がりこみます。
当時テオはモンマルトルで画商をしていました。
そんなやっかい者の画家を何かと面倒をみていたのが近所に住むタンギーだったのです。
ゴッホはこの老人について…。
その言葉の意味とは?そして6枚の浮世絵に隠されていたゴッホの本音とはいったい?今日の作品。
フィンセント・ファン・ゴッホの『タンギー爺さん』。
ここに描かれたタンギーという老人は腕利きの絵の具職人でした。
モンマルトルにあった彼の画材屋は貧しい画家たちのたまり場だったといいます。
それはタンギーが食うや食わずの画家に絵の具を貸し作品をショーウインドーに飾ってくれたから。
ゴッホもそんな老人の恩恵にあずかった一人でした。
実はこの他にも画家はタンギーの肖像を2枚描いています。
恐らくこちらが1枚目。
背景には何もありません。
そこになぜ浮世絵を描き込んだのか。
オランダで牧師の長男として生まれたゴッホは父と同じ道を志すも挫折。
37歳という駆け足の人生で画家として生きることができたのは10年にすぎません。
そのうち32歳からの2年間をモンマルトルですごしました。
ボンジュール。
おやおや先日のお嬢さん。
実はあれからゴッホと浮世絵のことが気になってしまって。
は〜そうでしたか。
実はゴッホだけじゃないんですよ。
浮世絵を描き込んだのは。
ほらこの作品の右上を見てください。
エドゥアール・マネが19世紀に描いたものなんですが日本の力士が描き込まれているんですよ。
ホントだ。
その隣ってマネの野心作『オランピア』ですよね?そう浮世絵に注目していたからこそマネは2つを並べたんです。
でもなんでゴッホは6枚も描き込んだのかしら。
たしかタンギーの店はクローゼル街だったはず。
住所を調べてみますね。
お願いします。
モンマルトルのクローゼル街にはかつてタンギー爺さんの小さな画材屋がありました。
あっタンギー爺さんと書いてありますね。
どうやらここがその場所のよう。
実は10年前から日本人の浮世絵愛好家の方たちが浮世絵を展示するギャラリーとして使っているそうです。
およそ130年前ゴッホもここを訪れていたんですね。
実は背景の6枚の浮世絵のうちゴッホが手本としたと思われるのがこちらの5枚。
比べてみるとどうです?極東の見知らぬ島国。
日本の浮世絵。
その独創性に驚愕したゴッホは400点以上もの浮世絵を集めていたといいます。
それだけではありません。
例えばこのそれをわざわざトレースしていました。
画面を横切る太い幹の構図にゴッホは圧倒されたのです。
更に衝撃だったのが雨。
西洋画では捉えどころがなかった雨を浮世絵は線だけで表していたのです。
では今日の一枚に画家が描いた浮世絵とは?右上の桜は広重を手本にしゴッホ特有の強いタッチで満開の様子を描いています。
内側は薄いピンクで外側は濃く鮮やかに。
中央の富士は2つの山の重なりはそのまま。
しかし画家は空を茜色に変えました。
人物の両脇には枯れかかった葦。
季節は秋でしょうか。
左上の雪景色の元絵についてはまだわかっていません。
その下は花魁の役者絵。
表情や仕草そして背景のアヤメまでほぼ忠実です。
左下には夏の花朝顔が。
一方右下の花魁はなんと雑誌の表紙を参考にしていました。
ゴッホがパリに来た年に発行された浮世絵の特集号。
その表紙も画家はトレースしていたのです。
日本の自然や文化について詳しく書かれたこの雑誌を繰り返し読んだ画家は日本人についてこんな印象を。
そしてゴッホは今日の一枚に日本人と四季の移ろいを凝縮させたのです。
うららかな春爛漫の桜を。
夏の風物詩朝顔を。
茜色の空に映える晩秋の富士を。
しんしんと降りしきる雪を。
そしてタンギーの両側に描いたのは日本の女性の艶姿。
6枚の浮世絵には画家のメッセージが隠されていると専門家は言います。
ではなぜそんな浮世絵をタンギーの周りにゴッホは描き込んだのか?おやまた気になることが?はい実は浮世絵以外にもう一つありましていいですか?どうぞどうぞ。
気になっているのはひょっとしてタンギーのこと?そうなんです。
やっぱりね。
この老人相当な危険人物でしてね。
実は過去に逮捕歴が。
えっなぜ?なんと画材屋を開く前タンギーは獄中にいました。
その事実を知りながらゴッホは老人の肖像を描いたのです。
愛する浮世絵でなぜタンギーを囲んだのか?パリ6区にある17世紀に創立された美術学校。
その前の通りにあるのが学生たち御用達の店。
店の歴史はおよそ130年。
一方ゴッホが馴染みにしていたのが今日の一枚に描かれたタンギー爺さんの画材屋でした。
さてこの老人の意外な正体とは?1870年に勃発したプロイセンとの戦いにフランスは惨敗。
このとき徹底抗戦を主張するパリ市民が蜂起し自治政府パリ・コミューンを結成します。
実はこれにタンギーも加わっていたのです。
しかし結局政府に鎮圧され…。
そんな経歴を持つ男の画材屋はちょっと変わっていました。
弱者に寄り添うタンギーにかつて聖職者を志していたゴッホは己の理想を重ねていたのです。
ゴッホがイコンとして描いたもの。
それは自分たち画家を優しく見守るタンギー。
その周囲にはまるで聖人を称えるかのごとく己の芸術に決定的な影響を与えてくれた日本の浮世絵を。
孤独な画家がやっとパリで見つけた芸術的恩恵。
それに対する深い感謝がこの一枚だったのです。
タンギーの肖像を描いてまもなくゴッホは南仏へ旅立ったんですよね?ええでも新生活は思いどおりにはいかず発作的に耳を切りつけてしまいました。
でもねゴッホは復活するつもりだったんです。
え?ほら。
あっ浮世絵!それに新しいキャンバスも。
もっと描きたいんだ!それがゴッホの本音だと思いませんか?私も描き続ける!そのいきそのいき!この作品から3年後…。
その寂しい葬儀の場にもあの老人の姿が。
純粋で孤独な画家を最期まで見届けたのです。
フィンセント・ファン・ゴッホ作『タンギー爺さん』。
炎の画家が描いたイコンモンマルトルの守護神。
川口市のはずれの小さな工場地域。
2016/01/09(土) 22:00〜22:30
テレビ大阪1
美の巨人たち ゴッホ『タンギー爺さん』6枚の浮世絵に込めたゴッホのメッセージ![字]
毎回一つの作品にスポットを当て、そこに秘められたドラマや謎を探る美術エンターテインメント番組。今日の作品は、フィンセント・ファン・ゴッホ作『タンギー爺さん』。
詳細情報
番組内容
今日の作品は、ゴッホ、パリ時代の作品『タンギー爺さん』。数少ない友人のタンギーを描いた作品です。タンギーは画材屋を営み、貧しい画家たちに手を差し伸べていました。ゴッホもその恩恵にあずかっていたひとり。そんなゴッホが描いたタンギーの背景には、よくみると日本の雪景色に花魁…6枚の浮世絵で埋めつくされているのです。ゴッホがタンギーを描いた本当の理由とは…?また浮世絵に隠されたゴッホの本音に迫ります。
ナレーター
小林薫
蒼井優
音楽
<オープニング&エンディングテーマ>
辻井伸行
ホームページ
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趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
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