(クラクション)
(今井聡)あっ…ほら邪魔になってるぞ。
(上山登紀子)あらあらあら…すみません。
(須藤正雄)運転手さん隣に置かせてもらっていいですか?
(森茂之)ああ…お客さん来たら退かしてくださいね。
(須藤)了解了解。
すみませんね。
すみませんどうぞ。
(横田彩花)まだ走らないの?
(横田和美)もうすぐよ。
だからうるさくしないの。
(彩花)はーい。
(大森佐代子)いいんですよ。
うちの娘なんかお嬢ちゃんぐらいの時にはバスでも電車でもじっとしてなくて大変だったんですから。
(大森桜)お母さん!
(大森洋二)本当の事だろう。
お嬢ちゃんキャンディー好き?
(彩花)うん大好き!どうぞ。
すみません。
お母さんもどうぞ。
(彩花)これにする。
(女性)あなたも。
はいありがとう。
(イヤホンから漏れる音楽)
(春日友美)ねえこれじゃない?早く早く…!
(山崎克也)ああ…これだな。
わあ…ねえ久しぶりこういうバス。
ゆっくり寝て帰るよ。
ゆうべは君のせいで寝不足だ。
もうやだ!もう!フフフフ…。
新宿駅西口行き高速バス出発致します。
はあ…眠い眠い。
本当に寝るの?
(川岸一義)うっうう…ああーっ!
(川岸由紀子)大丈夫?お父ちゃん!お父ちゃん…!クビよ!ここは辞めてもらう!
(ため息)
(山田邦彦)バカ野郎!子供を産めないってどういう事だ!?せっかく授かった子供だっていうのに!
(イヤホンから漏れる音楽)どうかしましたか?
(岩瀬厚一郎)ドクロがねえ口に入っちゃったのよ。
ええっ?だからドクロが口に入って…やばい…気持ち悪いのよ!すぐに…すぐに高速下りてくんない?もう少しで休憩します。
我慢してください。
無理無理無理!いい?すぐ下りないんだったらこのバス燃やすよ。
(森)何言ってるんですか!
(岩瀬)ほら!これ見えねえのか!?
(乗客たちの悲鳴)おとなしくしろよ…騒ぐなよ!
(乗客たちの悲鳴)
(岩瀬)運転手さん急いでよ!
(急ブレーキの音)
(岩瀬)危ねえ…!安全運転だろ!
(森)はあ!?
(岩瀬)後ろだよ。
(森)なんだよ!?
(岩瀬)後ろ行けっつってんだよ!
(森)ちょちょ…ちょっと落ち着いてください!
(岩瀬)行けよ!お前らもだ!ドクロがどんどん大きくなっていく。
ほらドクロが…!病院で診てもらったほうがいい!
(岩瀬)ええ?救急車呼ぶから。
そうだよ。
そうしてください!いいんだよ!俺はなここで死ぬんだよ。
お前らと一緒にな!
(今井)ああーっ…!ああっやめろ!お前…!
(岩瀬)うう…!
(今井)うわあ…!
(今井)よせこんなもん…!
(岩瀬)離せよ…!離せ!やめろおい…!バスから降りてください!
(乗客たちの悲鳴)うわあ…!
(爆発音)
(乗客たちの悲鳴)
(牛尾正直)
人は運命という流れにたゆたう小舟のようなものです
そして時として運命は過酷な試練を人に与えます
生きていくがゆえの軋轢や争い
行き場のない憤り
愛する人を失う悲しみ
そんな時その試練にどう立ち向かえるかそれが人としての分かれ道になるのかもしれません
(川岸)ああ。
どうも…!
(刺す音)
(雷鳴)あっ…か…!あっ…うう…。
(足音)
(雷鳴)
(パトカーのサイレン)
(大上刑事)死因は刃物で刺された事による失血死です。
凶器はまだ。
そのブルーシートが死体に被せてありました。
第一発見者はブルーシートの持ち主であるホームレスです。
(海野)死亡推定時刻は昨夜の午前0時前後の1時間です。
その時間は確か…。
(海野)はい。
新宿一帯は突然の豪雨でした。
足跡も文字どおり洗いざらい消えてますね。
被害者の身元は?
(大上)川岸一義さん60歳。
リュックの中には作業着も。
(山路刑事)間宮土木っていう会社の現場作業員のようだ。
(山路)それから胸ポケットにはこいつが。
川岸さんは昨日も仕事を?
(三浦良文)ええ。
夜の10時まで荻窪の青梅街道の現場を。
そのあとは寮へ戻る車には乗らず1人で荻窪駅へ向かったそうです。
荻窪駅といえばJRと地下鉄の丸ノ内線だな。
丸ノ内線の西新宿駅は現場から歩いて10分ほどの距離です。
新宿の中央公園には何か心当たりはありませんか?さあ私には…。
(向井勝)あの…参考になるかわかりませんが…。
何か?
(向井)3〜4日前の事なんですが…。
(向井の声)車の人と川岸さん知り合いだったみたいで。
工事の音がハンパないですから川岸さん聞き返すみたいにこう言ったんです。
(川岸)新宿の中央公園ですね?
(三浦)ここが川岸さんの部屋です。
川岸さんは几帳面な方だったようですねえ。
はい。
でも運がなかったんでしょうね。
なんでも3年前に勤めていた会社が潰れたそうでそれでうちに。
川岸さんのご家族は?いるはずですよ。
えっと確か…淡路島だったかな。
手紙が来てました。
淡路島…。
(三浦)はい。
(大上)ありました。
(大上)「兵庫県南あわじ市沼島…」沼島ですかね。
(携帯電話)もしもし牛尾です。
冴子さん…。
(川村冴子)ご無沙汰しています。
今朝の新宿中央公園の事件の事で牛尾さんにお話ししたい事があって。
3年前のバスジャック放火事件の生存者の一人が川岸一義さんだった…。
はい。
それも一昨日インタビューさせてもらったばかりでした。
まさかこんな事になるなんて思ってもいなかったので本当に驚いてしまって…。
それで話というのは?事件が起きるまで気にかけていなかったんですが川岸さんがインタビューの中で気になる事を…。
最近のインタビューは動画なんですか?「高校時代の同級生が経営していた甲府の観光イベント会社が倒産しまして…」「頼るあてなどないのに新宿行きのバスに乗りました」それで気になる事というのは?はい。
放火事件があったバスに乗り合わせた人の話になった時なんですが…。
「ああ…!」「そういえば昨日あの時バスで一緒だった人に…」「お会いになったんですか?」「ああ…いやでも関係ないか」「どなたですか?」「あ…いやすみません」「その方があの事件の事をもう思い出したくないかもしれませんのでこの話はもう…」「すみません勘弁してください」川岸さんは3年前のバス放火事件の生存者に偶然会った。
そうなんです。
このあとその話には二度と触れてはもらえませんでしたけど。
あの事件で亡くなった方は9人で生存者は11人です。
生存者のうちこの8名の方々の取材はすでに終わっています。
川岸さんが会ったというのはこの8人のうちの誰かかこれから取材をする予定の3人ですね。
はい。
でもこのあと取材予定の方はこの方しかいません。
残り2人は?男女のカップルという事はわかってるんですが居所がつかめなくて…。
病院で手当てを受けた時の名前で探しても見つからないんです。
病院で2人は偽名を…。
恐らく。
お忍びの旅行だったって事ですかね?それと…確証はないんですけど恐らく生存者はもう1人。
もう1人?はい。
川岸さんが言うには自分の前の席に男女のカップルが座りその前に新聞を広げたサラリーマン風の男性がいてさらにその男性の前にもスーツを着た男性がいたそうなんです。
新聞を読んでいた男性は前園豊さんという方で犯人の岩瀬とともに焼死しました。
でももう1人の男性は安否はもちろん乗車していた事も確認されていません。
消えた乗客ですか…。
新宿西署の牛尾です。
(川岸京子)川岸でございます。
確認をお願いします。
あんた…あんた…。
あんた…うう…。
父に間違いありません。
(由紀子)神様に生かされたんだって言ってたのに…。
3年前の事件ですか?
(由紀子)はい。
あの事件のあと自分は拾った命だからこそ生まれ変わったつもりで働くんだって…。
川岸さんが淡路島をお出になられたのはお仕事の都合ですか?父は漁師だったんです。
でも私が中学3年の時に台風で港がめちゃくちゃに…。
(由紀子)その時の事故で足に大怪我をしてしまって…。
(由紀子の声)大丈夫?お父ちゃん…。
それで父は観光のイベント事業をしている高校の同級生の方を頼って山梨に…。
ですがその会社も3年前に倒産してしまって…。
あの時淡路に帰ってくればこんな事にならなかったのに…。
川岸さんが肌身離さず持ってた写真です。
お父さんはいつもあなたと一緒でした。
(2人のすすり泣き)
(大上)今のところ現場である公園及びその近辺で不審者や不審車両の目撃者は見当たりません。
(坂本課長)ホームレスはどうだ?
(山路)それが犯行時刻前後は豪雨だったので段ボールの家に閉じこもって物音さえ聞いていない有り様です。
(坂本)モーさん川岸さんは3年前のバスジャック放火事件の生存者だそうだが何か関連はありそうか?いえまだそれは…。
そうか…。
まずは川岸さんの周辺を洗うしかないな。
人間関係何かトラブルを抱えてはいなかったか徹底的にだ。
モーさんは明日川岸さんが3年前まで働いていた甲府へ飛んでくれ。
はい。
(緒方浩平)つまりこういう事か?お前さんが取材した3年前のバス放火事件の生存者の一人川岸さんがその取材の3日後に殺された。
でお前さんはその川岸さんがインタビュー中に偶然バスの乗客の一人に出会ったって言ったまま口を閉ざしちゃった事がどうにも引っかかっててその再会した人物こそ川岸さん殺しに関係があるんじゃないかと思うようになってきたと。
どうだ?これで合ってるか?そう。
だから生存者の一人一人に電話をかけて調べたわよ。
おお…それで?でも誰も川岸さんに会ってないって。
アホか。
当たり前だろ。
もしその中に万が一犯人がいたとしてもだよ「はい私が会いました」なんて言うわけないだろ。
それ言った瞬間から容疑者になっちゃうんだからな。
それもそうね。
(ため息)成長しないねお前は。
そしてよく食うね俺の分まで。
(流水音)
(蛇口を閉める音)
(牛尾澄枝)ああっ!あ…!どうした?え?ああ…指輪から石が外れて排水口に落っこっちゃった。
石?この間買ってもらった指輪の…。
ああ…うっかりしてたなあ。
洗い物の時外せばよかった。
ごめんなさい。
いや…。
そんな高いもんじゃないんだ。
気にするな。
値段の問題じゃないわよ。
あ〜あ…。
せっかくあなたに買ってもらった指輪なのに。
はい。
ありがとう。
あらこれ…。
バスジャックされて放火された事件でしょ?確か3年ぐらい前の…。
うん。
悲惨な事件だったわよね。
この事件で生き残った人の一人が指輪とかネックレスのデザイナーなのよ。
うーんと…あっこの人この人。
小松美穂さん。
テレビでよく見かけるの。
亡くなった人の分まで生きなきゃって頑張ってジュエリーデザイナーになったんですって。
あっそうだ!この指輪この人のところで直してもらおうかな。
ねえこれ。
うーん…いいんじゃないか?もう…どうでもいいような顔で言わないでよ。
(井上正敏)はい。
3年前まで川岸は私の会社で働いてました。
ニュースで事件の事を知って今も信じられずにいます。
当時川岸さんが何かトラブルを抱えてたような事は?
(井上)聞いた事ありません。
高校の頃から真面目な男でしたし思いやりもある人間でしたから。
(小林一郎)ええ川岸さん。
よく覚えてますよ。
ここの203号室にお住まいでした。
(大上)ここは倒産した会社の寮だったんですよね?
(小林)はい。
会社が傾いても愚痴一つこぼさず友達の会社立て直すんだって頑張ってました。
何か人間関係で揉めてたような事は?ないない!あの人に限っちゃあり得ませんよ。
(大上)どこを当たっても同じですね。
人間関係のもつれがあるとすれば東京か故郷の淡路島でしょうか。
そうかもしれないな。
どうします?元の会社の同僚も当たってみますか?うん…。
すまないが3年前のバス放火事件を担当した所轄に行って当時の捜査資料を借りてきてくれないか?俺は被害に遭ったバス会社へ行ってみる。
3年前の事件で何か引っかかる事が?いや気になるだけだ。
川岸さんが生存者の一人に会ったと話した事が。
(室井則和)あっお待たせしました。
これが3年前のバス放火事件の捜査資料です。
まだ細かいものの要望があればすぐに送るようにしておきますので。
ありがとうございます。
これお借りします。
(及川慶一)週刊誌の記者さんにも話したんですけどね発券機で売られた指定席の数と実際に乗車した方の人数が合わないんですよ。
発券機で発券した数の方が多くてね。
確か…3人分。
2人ではなく3人分ですね?
(及川)そうなんですよ。
でも買ったけど事情があって乗られないっていう方もいらっしゃるんでね。
それと…あの放火事件の明くる日黒い鞄の事を電話で尋ねてきた方がいらっしゃるんですよ。
(男性)「ゆうべのバスに黒い鞄なかったか?」え?あっ…事件に巻き込まれたバスにですか?
(男性)「そうだ。
黒い鞄残ってなかったか?」
(及川)男性でしたけど妙な電話でしたねえ。
それでその黒い鞄は?焼け跡からは見つかりませんでした。
もしあればその方が取りにいらしたと思うので…。
数に合わない乗客の方だったかどうかわかったはずなんですけどねえ。
そうですか。
黒い鞄…。
(北沢尚子)約束守ってくれたのね。
ムービーは嫌だって。
声だけでも配信させて頂ければ。
で何から話せばいいの?もうすぐ開店だからあんまり時間がないの。
では早速…。
先日3年前のバス放火事件の生存者のお一人だった川岸一義さんが殺害される事件があったんですがご存じでしたか?知らない。
毎日どこかで人が殺されてるのよ?いちいちチェックしてないし。
あのバスに乗ってたからって顔とか覚えてないもの。
これって3年前の事件となんか関係ある事?いえ。
ご存じならどういうお気持ちかな?って。
別になんとも思わない。
ただそれも彼の運命だったんじゃないの?運命?殺される運命。
まあそういう意味でいったら私が3年前の事件で助かったのも運命ね。
ただ私は自分で運命を変えたの。
どういう意味ですか?あんなところで死にたくないって必死で逃げたの。
(尚子の声)あんなバカな事に巻き込まれて死ぬなんてまっぴらでしょ。
だから自分で運命を変えた。
結果こうして自分のお店が持てる幸運をつかんだのよ。
フフ…。
社長三田様がお見えです。
悪いんだけど今日はこれぐらいで。
取材出来る日はまたこっちからご連絡するわ。
(尚子)ああ三田さんお待ちしてました。
(三田和男)お邪魔じゃなかったですか?ううん野暮用です。
さあどうぞ。
ご連絡お待ちしてまーす。
覚えてますよ。
3年前のバスの放火事件。
へえ…。
ママがあの事件の生き残りだったとは驚きだ。
3年前といってももう随分昔のような気がしてて。
結構金になったんじゃありませんか?え?いやあ…バス会社からいくらか出たんじゃないかと思って。
(三田)あれだけの事件だったんだ。
補償とかいろいろ…。
とんでもない。
ほんの雀の涙よ。
またまた…。
(尚子)本当よ。
ねえそれよりお願いしていた件なんですけど…。
やっ…!何すんのよ!?ああっ…あっ!ちょっと待ちなさい…!イッタ…!牛尾さん借りてきました。
これが新宿行きのバスですね。
(携帯電話)ご無沙汰してます。
牛尾です。
こちらこそご無沙汰しちゃって。
実はですね先ほど川村がひったくりに遭ったんですよ。
冴子さんが?
(緒方)「まあ幸い怪我は大した事なかったんですけど…」奪われたバッグの中に取材を終えたばかりのボイスレコーダーが入ってたらしいんですよ。
これは単なるひったくりじゃねえなと思ったもんですから。
取材というと3年前の…?バス放火事件の生存者のインタビューです。
もしかしたら聞かれちゃまずい何かが録音されててそれ絡みの犯行なんじゃないかななんて気がしてね。
(緒方)「一応牛尾さんのお耳に入れたまでです」それじゃ。
危険ドラッグを使用し精神錯乱状態に陥った犯人が引き起こした事件は9名もの尊い命を奪いました
その後の犯人の明確な動機は見つからず被害者や遺族の方たちはやり場のない怒りや憤りを抱えて日々の暮らしを送っているはずです
(女性たちの笑い声)ねえねえねえねえ…それちょっとちょうだい。
ええ!?ちょっとダイエット中って言ってたじゃん。
川岸さんの娘さんと同じ年頃ですかね…。
うん…。
(大上)甲府での聞き込みも東京同様川岸さんの周辺でトラブルらしきものは見当たらず人間関係においても気になるものはありませんでした。
こうなると行きずりの可能性もあるんじゃありませんかね?どう思う?モーさん。
わかりません。
ただ殺害される2日前川岸さんが工事現場で出会った知り合いと思しき人間が誰なのか気になっています。
新宿の中央公園ですね?そんなものは単なる知り合いってだけかもしれない。
確かにそうなんだが…。
(携帯電話)すみません。
(携帯電話)川岸さんの奥さんからです。
(京子)突然お電話してすんません。
川岸です。
刑事さんに言うたほうがええか迷いましたんやけど娘が言うたほうがええって言うもんやから…。
留守中に香典を持って来た女の人が?
(京子)「はい」東京へ娘と主人の確認に行っている間にです。
その香典に30万も入っとったんです。
30万も…。
香典に名前は?いいえ。
名前も何も書かれておりませんでした。
けど女の人やったそうです。
そうですか…。
ありがとうございます。
女…。
どうかしたのか?モーさん。
課長。
淡路島へ行かせて頂けませんか?
川岸一義さんの死が3年前のバス放火事件と関連があるのか?
事件の翌日黒い鞄の事を訪ねて来た男は何者なのか?
そして川岸さん宅に30万の香典を置いていった謎の女…
事件と関わりがあるとするならば解決への糸口が見いだせる…そう思いました
(バスの扉の開く音)
(長江正和)牛尾さんですか?ええ。
ああやっぱり。
東京の方でも刑事は同じにおいがするもんですな…。
南あわじ中央署の長江いいます。
新宿西署の牛尾と申します。
この度はご面倒をおかけします。
いえいえ!川岸さんの奥さんには連絡してあります。
沼島への定期船待ってる時間もったいないさかい船用意させてもらいました。
さあ行きましょう。
あれが沼島です。
昔駐在で勤務しとった事があったんですが誰も悪さする人間がおりませんでね駐在が無うなったほどのんびりした島ですわ。
川岸さんも怪我せんかったらまだ船に乗って漁に出とったかもしれんのにな。
家族とも一緒に暮らせとったかもわかりません。
ホンマ人生いうんはわかりませんな…。
どうもありがとうございました。
(長江)おおきに。
(長江)いや〜元気やな。
久しぶりで元気やなあ!まだ生きとったんかいな。
駐在さん。
(長江)あんじょう長生きしてや。
(汽笛)川岸さん!はい!お客さんやで。
(京子)わざわざ来てもろうて…。
(京子)娘は仕事で今日は泊まりなんです。
(長江)ホテル勤めやったな。
偉いもんや…。
うちの人からの手紙です。
なんかあれば書いてくる人でした。
なんべんも読み返したんやけどあないな目に遭うような事はなんも…。
最後の手紙には「正月には帰る」そう書いとったのに…。
この手紙差し支えなければお借りしても…?どうぞ…。
奥さんに見て頂きたいものが。
この中に知ってる方いませんか?そうですか…。
この人らうちの人の事件と?いえそういう事では…。
香典を持ってきた女性の確認をしたかったものですから。
愛子ちゃん。
帽子の女見たんやって?
(愛子)うん。
訪ねてきはったで。
どんな女性でしたか?それがなこないな大きな帽子被って下向いて話す人でな…。
せやけどなええにおいさせて芸能人みたいやったわ。
ほな顔は見てないんか。
うん見てない…。
ごめん。
大きな帽子を被ったべっぴんさんやったそうや。
いや…お泊まりじゃなかったですね。
ちょっと覚えてないです。
(長江)おおきに。
はあ…。
狭い島やから目立つんでしょうが顔見た者はおりませんな。
帽子はそのために。
上立神岩?そこで帽子を被った女性を見かけたんですね?はい。
あれです。
あれが上立神岩。
(鐘の音)
(由紀子)こちらが海の教会です。
またブライダルホールは海と空が一望出来る開放的な空間となっています。
(女性)うわあすごく素敵ね。
うんそうだね。
ありがとうございます。
川岸さん。
ちょっと失礼します…。
はい。
東京から雑誌社の方が…。
(ピアノ)父が3年前の事件の生存者の方と?はい。
偶然お会いしたそうなんです。
その事をお父さんから聞いた事はありませんか?いいえ。
父はほとんど電話をかけてこない人で手紙にもその事は…。
でもその人が父の事件と何か関係が?それはわかりません。
ただ次の号は川岸さんを予定しているので早く事件解決の手掛かりになればと思って…。
ありがとうございます。
あちらでございます。
牛尾さん…。
お知り合いなんですか?ええ…何かと腐れ縁で。
存じ上げない方ばかりです。
そうですか。
先日東京に来られている間に沼島のご自宅にお父さんへの香典を持ってきた女性がいたそうですがそちらにも心当たりありませんか?ありません。
申し訳ありません。
お役に立てない事ばかりで。
いえ…。
沼島へ?いいとこでした。
島を出て行かなければあんな事にはならなかったかもしれないんですよね川岸さん。
それで怪我のほうは?なんで知ってるんですか!?浩平さんか…。
もう本当おしゃべり!警察へは被害届は出しましたし病院で診てもらって怪我も思ったよりも軽傷でした。
っていうかむしろそのあとのほうが大問題で!そのあと?病院から帰ったら家中がしっちゃかめっちゃかで…。
ひったくられたバッグに家の鍵が入っていたんです。
でも何も盗まれていませんでしたけど。
その犯人の狙いはバス放火事件の…。
インタビュー映像だと思います。
編集部に保管してあったから無事でしたけど。
でもきっと犯人にとって知られたくない何かが3年前の事件にはあったって事。
そうか。
ひったくり犯が川岸さんを殺した犯人って事も考えられますよね…。
ええっ!?私殺人犯に遭遇してたって事?牛尾さん。
そういえば香典ってどういう事ですか?川岸さんのお宅に30万の香典を持ってきた女性がいたんです。
30万!?
(携帯電話)失礼。
(携帯電話)大上です。
麻布中央署に協力を仰ぎ冴子さんを襲った男が防犯カメラで確認出来ました。
(大上)顔はわからないんですが車のナンバーから所有者を割り出せました。
大東和商事の営業部長山崎克也です。
わかった。
何か事件に進展が?いえ…。
ただあなたを襲った犯人が割り出せそうです。
誰ですか?私は被害者ですから当然教えてもらえますよね。
まだ捜査中ですので。
こっちはいろいろ協力してるっていうのに…。
事件が動き出しました
お待たせ致しました。
山崎です。
お尋ねの車なら3日前に盗まれて警察には届けを出していますが。
それは確認してます。
だったらなんのご用ですか?新規プロジェクトの大事な会議が控えてるんで手短にお願いします。
あなたの車がある事件に使われた痕跡があるんです。
事件?
(大上)強盗致傷です。
一昨日の夜6時頃どこにいらっしゃいましたか?ちょっと待ってください…。
どんな事件か知りませんが私が関わってるとでも言うんですか?大事な会議の邪魔をしたくありません。
どこにいらっしゃったかそれだけお聞き出来れば。
はあ…。
時間はよく覚えていませんがこの近くの店で食事してたはずです。
(大上)アリバイの裏を取ってきます。
どうかしましたか?見覚えないか?あのネクタイピン。
ネクタイピン?山崎です。
3年前のバス放火事件。
焼け焦げたバスの車内に同じものがあった。
山崎はあのバスの乗客だったって事ですか?偽名を使って病院で手当てを受けたカップルの男かあるいはバスから消えた男…。
「どなたですか?」「あっいや…すみません」「その方があの事件の事をもう思い出したくないかもしれませんのでこの話はもう…」「すみません…」ああ…確かに気になるな。
ねえ。
例えば川岸さんが会った人間と私を襲った犯人が同一人物だったとしたらどう?あり得ねえ線じゃないと思うぞ。
でしょう?なのに牛尾さんったら…。
こっちはいろいろ情報を提供してるっていうのに。
そりゃまあ牛尾さんには牛尾さんなりの捜査上の守秘義務っていうのがあるんじゃねえのか?まあ地道に調べるしかねえよ。
そうよね。
じゃあこのインタビューの素材も預けておくから何かわかったら連絡して。
オーケー。
…っておい!俺が調べるのか?もう締め切りが迫っちゃって忙しいのよ!よろしく。
「よろしく」じゃねえよ!お前。
俺が暇人だとでも思ってるのか?おい。
(舌打ちとため息)
(遠山千明)いらっしゃいませ。
あの…この指輪なんですけども石をなくしてしまって。
同じようなものがあればなと思って来たんですけどなるべくお高くないもので。
かしこまりました。
お預かりして見積もりを出させて頂きます。
小松美穂さんに見てもらえたりするんですか?あいにく小松先生は今日からヨーロッパ行きの予定がございまして。
(小松美穂)いらっしゃいませ。
お見積もり承りますよ。
本当ですか!ただ帰国してからのお見積もりになりますので少しお時間かかってしまいますけどよろしいですか?はい。
牛尾と申します。
指輪これなんですけど…。
拝見させて頂きます。
(坂本)そうか…山崎克也のアリバイは灰色か。
食事に来たのは間違いないようなんですが薄暗い上に客の出入りが多く店内の防犯カメラでも確認出来ませんでした。
山崎においますねえ。
3年前のバス放火事件で偽名を使った不倫カップル。
その片割れが山崎だとすれば川岸さんを殺した犯人である可能性は十分にあります。
その根拠はなんだ?この記事です。
3年前は不倫旅行がバレないで済んだもののこの記事によっていつ白日の下にさらけ出されるかわからなくなった。
山崎は若くして大手商事会社の営業部長にまでなった男です。
今の地位はどんな事をしても死守したい。
(山路)そこで山崎は取材を続ける記者からボイスレコーダーを奪い返す刀で自宅からインタビュー映像を盗み出そうとした。
不倫旅行の証拠となる証言があれば消し去るためです。
それと川岸さんの殺害はどうつながる?川岸さんは山崎の不倫旅行を知っていたというのか?山崎は偽名を使ってました。
当然川岸さんには大東和商事の社員だとわかりようがありません。
人の話は最後まで聞けよモーさん。
川岸さんは黒い鞄を持ち逃げしたんだ。
えっ?3年前バス会社へ問い合わせのあった黒い鞄か。
そうです。
モーさんは不倫カップルの男と黒い鞄の男を別に考えているようですがもしその2人が同一人物で山崎だとすれば川岸さん殺しの動機はさらに濃厚になります。
どういう事だ?黒い鞄には人に言えないものが入っていたんだ。
つまり金です。
そうでなければ事件のあとわざわざバス会社に電話などしないだろう。
ゆうべのバスに黒い鞄はなかったか?
(山路)川岸さんはその金を目当てに事件後のどさくさに紛れ黒い鞄を自分のものに。
そうして3年が経ち偶然にも川岸さんが働く工事現場で山崎は再会した。
新宿の中央公園ですね?
(山路)そうして川岸さんを呼び出した山崎は…。
(西谷刑事)なるほど…辻褄は合いますね。
だが川岸さんは汗水流して働いていた。
川岸さんの人となりを併せて考えると金を持ち逃げしたというのは無理がある。
仕事はカムフラージュだったかもしれないだろう。
それと川岸さんはバスにはもう1人男が乗っていたとそう言ってる。
私は事件後行方がわからない男の存在を忘れてはならないと思います。
その男を見たというのも川岸さんのでたらめかもしれませんよ。
いずれにしろ川岸さん殺害には3年前のバス放火事件が関係している可能性があるか…。
よし!山崎が3年前のバスに乗っていたか確証を取ってくれ。
ネクタイピンには特徴がある。
作り直した店も限られるはずだ。
それと黒い鞄がバスにあったかどうかの確認もな。
(一同)はい!
(遮断機の警報音)えーっ?じゃああの指輪小松美穂さんの店に頼んだのか。
そうなの。
でも思い切って行ってみてよかったわ。
ねえ着替え何日分?3日ぐらい用意しておいてくれ。
はい。
美穂さんっていう人ね飾りっ気がなくて本当いい人なの。
これからヨーロッパに行く用事があるっていうのに私の事もちゃんと相談に乗ってくれて。
お安くお願いしますってそう頼んじゃった。
ふ〜んよかったじゃないか。
ヨーロッパはどのぐらい行ってるんだって?1週間って言ってたかしら。
1週間か。
あのバス事件に遭っていろいろと考えさせられたんだって自分の人生や夢について。
亡くなった人の事を考えると今でもつらいけどその人たちの分もちゃんと生きなくっちゃってそう思ってるって。
そうか…。
指輪がどんな仕上がりになるのか楽しみ!
次の日から徹底した聞き込みが始まりました
(尚子)川岸って人が亡くなったのは取材の記者さんから聞きました。
ただその人の事は覚えてません。
では黒い鞄を持った男性を覚えてませんか?黒い鞄?さあ?いちいち人の荷物なんて覚えてられますか?この男性についてはどうでしょう?見たような気もするけど…。
(森)どうもありがとうございました。
事件のあとバスの運転手は辞めました。
ハンドルを握るとどうしても事件の事を思い出してしまってね。
そうですか。
この男に見覚えは?黒い鞄を持っていませんでしたか?見たような気もします。
ただ鞄まではね…。
ありましたか?なんか似たようなデザイン多いな。
これ似てませんか?おお…。
今も火傷の痕が痛みます。
同時に亡くなった人たちの悲鳴も耳鳴りのように聞こえましてね。
そうですか…。
ところでこの男が黒い鞄を持っていたかどうか覚えていませんか?いいえ…何も覚えてません。
あの事件の事はお話ししたくありません。
思い出したくないんです。
ただいま。
彩花…。
入ってなさい。
あの子も火を見るといまだに怖がって…。
もうそっとしておいてください!
捜査は進展せず時間だけが過ぎていきました
どうぞごゆっくりしていってください。
馬場さん!おおママ!ごゆっくりしていってくださいね皆様。
あっ…この間は悪かったわね。
今日は時間があるからなんでも聞いてもらって構わないわ。
ありがとうございます。
あっこの間出た川岸さんの号読んだわ。
私のインタビューはいつ載るの?次の特集になる予定です。
なんだか嫌ね…殺された人のあとなんて。
ねえ小松美穂がトップだったんなら私のはトリでお願い出来ない?最後ですか…。
うん。
わかりました。
検討してみます。
それで何から話せばいいの?お話に上がったのでまずは小松美穂さんの事から。
生存者のお一人であるジュエリーデザイナーの小松美穂さんとは同じ甲府のご出身だそうですが。
…みたいねえ。
(尚子の声)でもあのバスに乗ってたのさえ知らなかったの。
そうでしたか…。
まあ生き残った人がみんなそうでしょうけど私も運がよかったのよ。
流産で子供を亡くしてもう子供が出来ないからってまるで犯罪者扱い。
バカ野郎!子供がもう産めないってどういう事だ!?せっかく授かった子供だっていうのにうちの跡取りはどうなるの?お前のせいだ!もういい!
(山田)何?出て行ってやるわよ!こんな家。
(尚子の声)どうでもよくなってあのバス乗ったの。
新宿で住み込みの仕事でも見つけて二度と甲府に戻るもんかと思ってね。
それであの事件。
もうなんて運がないんだろうと思ったけど生き延びたおかげでこうして今があるわ。
あの日あの街を捨てなかったらこうはいかなかったはずよ。
あの日が人生の岐路だった…。
さすがうまい表現するじゃない。
ええまさしく運命の分かれ道だったわね…。
どうぞ。
いや私は…。
社長に申しつかっておりますので。
どうぞ。
すみません…。
お好きなものを差し上げて。
ではごゆっくり。
まあいっか。
何になさいますか?せっかくなので…シャンパンを。
(バーテンダー)かしこまりました。
いらっしゃいませ!
(尚子)あらうれしい!来てくださったんですね先生。
(樽見良勝)約束は守るよ。
ママに恨まれたくないからね。
あらお上手。
ねえ先生今日はごゆっくり出来るんでしょ?ああもうとことんママと飲み明かすつもりだ。
うれしいわ。
あっユカちゃんチエちゃん。
(ユカ・チエ)は〜い。
いいお客さんって感じ…。
国会議員の秘書さんだそうですよ甲府のほうの。
甲府…。
(尚子)新人のねチエちゃんです。
…よろしく。
(チャイム)いらっしゃいませ。
警察の者です。
小松美穂さんが帰国なさったと伺ったものでお話を伺いに。
わたくしが小松ですが…。
新宿西署の牛尾と申します。
同じく大上です。
ヨーロッパのほうへおいでになってたんですよね。
家内からの情報です。
牛尾さん!思い出しました。
指輪の石をなくされた奥様ですね。
そそっかしいものですから…。
今お見積もりを立たせて頂いております。
お世話になります。
どうぞこちらへ。
宝石のほうは全くの門外漢なんですがやはり美しいものですね。
ありがとうございます。
おこがましいですが今年の新作その中でもこちらの作品はこれまでで最高のものが出来たと思っています。
きれいですねえ。
ありがとうございます。
あっ改めまして小松です。
牛尾です。
こちらへどうぞ。
新宿といいますと川岸さんの事件の事で?
(大上)ご存じでしたか。
ええニュースで。
3年前の11月4日川岸さんがあのバスで一緒だった事はご記憶に?ええ…とても暗いお顔でバスに乗ってこられたのを覚えています。
あの時勤めていた会社が倒産し頼るあてもなく川岸さんはあのバスに乗ったんだそうです。
そうだったんですか…。
様々な思いを抱えた人があのバスには乗ってたんですね。
あなたも甲府の宝石デザイン会社をお辞めになってあのバスに…。
週刊誌の記事で読みました。
自分がいいと思えるものを作らせてもらえなかったんです。
その上デザインを盗んだと疑いをかけられて…。
クビよ!ここは辞めてもらう!それで私も川岸さん同様行くあてもなくあのバスに乗ったんです。
同じ高校出身の方も乗っていらっしゃいましたね。
北沢さんですね。
高校の先輩のようでしたね。
北沢尚子さんとは今は?いいえ。
あれ以来会ってません。
会えばどうしてもあの事件の事を思い出してしまいます。
ですから振り返らない事に決めたんです。
運命なんて自分ではどうしようも出来ないですから。
では黒い鞄を持った人に覚えは?黒い鞄ですか?
(大上)例えばこの男性。
この方なら覚えています。
確か女性と一緒に…。
でも黒い鞄を持っていらしたかは記憶にありません。
そうですか。
お役に立てず申し訳ありません。
いえいえ。
また家内がお邪魔するかと思いますがよろしくお願いします。
こちらこそ。
(大上)では。
ところでこのネクタイピンなんですが…どこで作ったものかわかったりしますか?
(美穂)このデザイン…。
恐らくですが…。
わかりますか!?やりましたね。
(携帯電話)大上です。
えっわかりました。
山崎の車が出ました。
違う。
車は本当に盗まれたんだ。
しかし中古車販売店であなたの写真を見せたところ間違いなくあなたが車を売りに来たと言ってます。
この車をです。
だからそれは何かの間違いだ!そのネクタイピンいつもされてますね。
(山崎)婚約中に妻にもらったんです。
そんな事より…。
3年前甲府発の高速バスの中でもそのネクタイピンされてませんでしたか?なんの話ですか?あの放火されたバスの車内にそれと同じものが落ちていました。
違う…違います。
これ私のじゃありません。
だったら3年前事件直後にネクタイピンを作り直した理由はなんですか?あなたがそのネクタイピンを特注した銀座の店も特定出来てます。
3年前あんたは出張を利用し当時の浮気相手と甲府で合流しそして帰りにあの高速バスに乗った。
そうですね?ねえ久しぶりこういうバス。
ゆっくり寝て帰るよ。
彼女は当時ここで働いていた春日友美という女性です。
事件に巻き込まれ手当てを受けた病院で偽名を使ったのは婚約者であった今の奥さんに知られないためだったんですね?
(山崎の声)そうです。
プレゼントをなくすわけにはいかなかった。
だって妻は専務の娘です。
もし知られたら私はこの会社にいられなくなる。
(大上)『週刊トピックス』の川村さんを襲ったのも同じ理由ですか?余計な取材をするからです。
クソッ!3年前にあんなバスにさえ乗らなければ!自業自得ってやつじゃないんですか?あのバスに乗ったおかげで何もかも歯車が狂っちまった。
犯人だって素直に金をもらってあのバスからいなくなればよかったんだ。
金というのは?バスに乗っていた男が犯人に金を渡して助かろうとしたんです。
この中にその男はいますか?こいつだ。
(岩瀬)なんだよお前らその顔は。
(前園豊)これ…これで助けてくれ…。
(前園)頼む…。
お願い…。
(岩瀬)俺はなここで死ぬんだよ。
お前らと一緒にな!
(今井)ああーっ…!
(川岸)ああっやめろ!お前…。
(爆発音)その後金…黒い鞄はどうなりましたか?知りません。
あのバスから女と逃げるのに必死で。
死亡した乗客を調べる?はい。
前園豊…大手ゼネコン帝日建設本社の前総務課長です。
彼が黒い鞄の持ち主でした。
ええ?うかつでした。
生存者にばかり目がいってしまって…。
山崎は川岸さん殺害の犯人ではなかった。
だからといって3年前の事件にこだわりすぎるなよモーさん。
ですが気になるんです。
事件の翌日誰が黒い鞄の問い合わせをバス会社にしてきたのか。
はい。
甲斐交通です。
(男性)「ゆうべのバスに黒い鞄なかったか?」鞄に金が入っていたのを知っていた山崎の線は?確かめましたが強く否定しています。
保身のため偽名を使ってバス事件との関わりを絶った山崎がわざわざバス会社に電話をしたとも考えられない。
そしてまた前園さんがなぜ大金を持ち歩いていたのかも謎です。
確かになあ…。
ただこうは考えられませんか?前園さんはバスの中で誰かに金を渡すつもりでいた。
つまりバスの中には金を受け取る側の人間もいたんです。
当然公に出来ない金です。
その何者かが翌日バス会社に黒い鞄の問い合わせをした。
(坂本)黒い金の受け渡しがバスの中で行われようとしていたというのか。
はい。
そして金を受け取り損ねた人物こそがバスが放火された直後消えた乗客…そう思います。
(太田幸三)どっこいしょ…。
(太田)ああご苦労さま。
この人よ!六本木のクラブで見かけたのは。
樽見良勝…民生党の領袖太田幸三代議士の第一秘書だよ。
これまではな太田の地盤を継ぐのは太田の息子が最右翼だって言われてたんだけどここへきてこの樽見を推す声が高まってるんだよ。
次の選挙じゃ間違いなくこいつが太田の後釜として立候補するんだろうよ。
甲府選出でしかも生存者の北沢尚子さんとつながりがあるなら川岸さんの事件と何か関係があるかもって思ったんだけど代議士候補じゃ無関係か。
うんにゃ。
それがそうでもねえんだよ。
何?ネットで調べてみたんだ。
ちょっと見てみそ。
これがどうしたの?何か気づきませんか?っていうんだよ。
ええ?おやおや?冴えてる冴子さんも焼きが回っちゃったかな?ああ…この手!ピンポーン。
いいか?こっちの写真は3年前の11月5日つまりバスの放火事件の翌日の写真。
そしてこっちはその事件の前日の写真だ。
ほら。
こっちは樽見は左手に包帯をしていない。
さあ!これをどう解く?バス放火事件で…?火傷を負った。
なあ?そうだとしたらちょっと面白い展開になってきちゃったんじゃないか?でも樽見はあのバスには乗ってなかった…。
ううん可能性はある。
スーツを着ていた消えた乗客が樽見だとしたら…。
そうよ!黒い鞄…。
あ?あ?あ?なんだ?その黒い鞄っていうのは。
バスに忘れた黒い鞄を探して事件の明くる日バス会社に電話をしてきた男がいるの。
それ樽見だったのよ!事件の次の日にか?そう。
きっとその鞄に何か大事なものが…。
おうおうおうおう冴えてきたじゃねえか!え?え?ちょっと待て…。
確かさ焼死した乗客の中に帝日建設の社員がいたよな?ちょっと待って。
前園豊さんよ。
でもそれが?実はな帝日建設の代議士の太田幸三には昔からよからぬ噂があったんだよ。
政治家と大企業の黒い噂といえば…?おかげでいろいろつながってきた!さすがは年の功!サンキュー!おいちょっと待て!自分の勘定ぐらい払っていけ!俺はあの子のなんなのさ…?
(今関光男)確かに前園さんは3年前の事件でお亡くなりに…。
ですがあの日は有休を取られていてなぜ甲府からバスに乗られたかはわかりかねます。
(大上)しかし前園さんはスーツをお召しになってました。
休暇中だというのに不思議じゃありませんか?
(今関)さあ…プライベートまでは把握していないので…。
前園さんが持ってらした黒い鞄については?
(今関)黒い鞄…。
さあ…なんの事やらさっぱり…。
3年前御社は山梨県での公共事業をいくつか受注なさってます。
仲介したのは太田幸三代議士。
(今関)ご質問の意図がわかりかねます。
時間ですので失礼。
においますね。
くさいものには蓋って感じで。
牛尾さん…?牛尾さん?冴子さん…。
亡くなった前園さんの話を聞きに?牛尾さんも?でも私のほうが牛尾さんより一歩先を行ってると思いますよ。
ええ?ひったくり犯を捕まえてくれたのは牛尾さんたちだったそうですね。
お礼です。
お教え致しましょう。
何を?民生党の太田幸三代議士の秘書の樽見良勝という男が北沢尚子さんの店に通っているんです。
太田幸三代議士の秘書?そうなんです。
それと…これ。
これバス放火事件の次の日です。
この怪我がもし火傷だとしたら面白い展開じゃありません?牛尾さん!確かに。
でしょ?この写真お借りしてもいいですか?どうぞ差し上げます。
(携帯電話)美穂さん?もしもし。
思い出した事があるんです。
もしお時間があれば今夜ショップに来て頂けますか?もちろんです!伺います。
裏献金?はい。
バスから消えた男は太田幸三代議士の第一秘書樽見良勝。
3年前のバスの中で樽見と帝日建設の裏献金の受け渡しが行われていたとみて間違いないかと思います。
川岸さんの前に山崎と愛人の女。
その前に当時帝日建設の総務課長だった前園豊。
そして前園の前の席に太田の秘書樽見がいました。
前園は前の席の樽見にタイミングを見計らって黒い鞄を渡すつもりだったんだと思います。
だがその前に事件が起きてしまった。
これ…これで助けてくれ…。
(前園)頼む…頼む…。
助けてくれ…。
そして黒い鞄は別の誰かの手に渡った。
(坂本)前園と通路を挟んで隣だったのは北沢尚子だな。
ええ…。
山崎と同様に北沢尚子も黒い鞄に金が入ってるのを見ていたとすれば混乱に紛れ持ち去った可能性もあります。
樽見が北沢尚子の店に姿を現したのも北沢尚子が黒い鞄を持ち去った人物…そうにらんでの事だとすれば…。
立候補を控えている樽見は『週刊トピックス』の特集記事を読み黒い鞄に触れられる恐れを感じたとしてもおかしくありません。
そうか。
身の危険を感じた樽見は生存者を調べ偶然を装いまずは川岸さんに会った。
新宿の中央公園ですね?
(樽見)はい。
(山路)そうして樽見は川岸さんから黒い鞄を持ち去った人物が北沢尚子だと聞いた。
川岸さんは北沢尚子が持ち去ったのを見ていたんだ。
(坂本)その上で樽見は川岸さんを口封じのために殺したというのか?そうです。
樽見は太田幸三の地盤を継ぐと噂されている男です。
邪魔な人間は排除したいはずだ。
決まりですよ。
(坂本)どう思う?モーさん。
黒い鞄を持ち去ったのは北沢尚子かもしれません。
甲府からあてもなく新宿へ向かった北沢尚子が六本木に店を出す費用をどうやって捻出出来たのか調べる必要はあります。
川岸さん殺しの犯人も樽見で決まりだ。
いや…それにはまだ証拠が…。
ただ…。
(坂本)ただ?もし北沢尚子が黒い鞄を持ち去ったと樽見が思ってるとすれば彼は黙っていないかもしれません。
(山路)出かけた?
(黒服)はい。
行き先はわかりますか?
(黒服)さあ…?誰かと待ち合わせてるみたいでしたが。
(西谷)どうも。
樽見はまだ帰ってません。
事務所はもうとっくに出たっていうのに…。
遅かったじゃない。
う〜ん!
(チャイム)わざわざお呼び出ししてすみません。
いいえ。
ああ…新作が出来たんですね。
甲府産の水晶を使ってるんです。
きれい。
で思い出した事はその甲府に関係している事なんです。
(美穂の声)甲府選出の太田幸三という代議士がいるんですがその太田代議士の秘書をしている樽見という人を甲府で見かけて思い出したんです。
何を?3年前のあのバスにその樽見という人が乗ってた事を。
この方の前の席ですね?ええ。
確かそうだと。
ありがとうございます。
おかげで消えた乗客の謎が完全に解消されました。
新宿西署の牛尾と申します。
ああ…刑事さんには適用されないんでしたか?住居侵入罪は。
いえ…2〜3お尋ねしたい事があるだけです。
1つに絞ってください。
明日も早いもので。
でしたら3年前の11月4日山梨でバス放火事件が起きた時どちらにいらっしゃいましたか?いきなりですか。
あいにくですが忘れましたね。
思い出して頂けませんか?なんの捜査かは知りませんがそんな事件があった事すら覚えがない。
明日事務所のほうに尋ねてもらえますか?わかりました。
事務所のほうにお尋ねします。
大物気取りですね。
(携帯電話)モーさん一歩遅かった。
北沢尚子が殺害されたよ。
(海野)死亡推定時刻ですが午後9時から10時です。
(大上)防犯カメラに犯人のものと思われる車が写っていましたがナンバープレートに粘着テープが貼りつけてあり特定不可能です。
しかもレンタカーの可能性もある。
割り出しには時間がかかるぞ。
凶器は?見つかっていません。
ただですねこの刺し傷の形状から見るとナイフのようです。
(町田雅美)樽見でしたら昨日の午後7時から10時の間太田と一緒に会食を致しておりました。
そうですか。
それでは3年前の11月4日は?
(雅美)3年も前の?お手数おかけします。
(雅美)いいえ。
(雅美)3年前の11月4日は東京で行われた太田先生の後援会のパーティーに樽見は出席しております。
パーティーの時間は?
(雅美)午後5時から8時までです。
(山路)亡くなった北沢尚子さんの自宅からこちらから2000万借りた借用書が出てきましてね…。
(三田)いや〜うちとしても困ってましてね…。
金を貸したはいいが死んじまったら焦げついちまう。
殺されたそうですね?
(山路)まさかあんた貸し借りで揉めて殺ったんじゃないだろうな?冗談じゃない。
生かしておけばいくらでも金にする手段はありますよ。
(西谷)北沢さんの店はかなり経営が行き詰まっていたんですか?そうでしょうね。
うちみたいなところに泣きついてくるぐらいですから。
頼る親兄弟もいなかったみたいだし。
六本木のあの店出す資金どこから入手したのかご存じない?どこぞのジジイでもだまくらかして出させたんじゃありませんか?ハハハハ…。
(坂本)北沢尚子が店を出した時の金の出所は不明か。
(山路)はい。
銀行から融資を受けた形跡もありません。
(坂本)やはりバスから持ち逃げした黒い鞄の金を使ったか。
しかし北沢尚子はおろか川岸さんが殺された夜も樽見にはアリバイがある。
しかも3年前のバスには乗ってはいなかった。
太田幸三や息のかかった後援会の連中が証人だ。
アリバイを崩すのは難しいな。
ですが突破口はあるはずです。
バス放火事件の翌日樽見は左手に怪我をしていました。
治療した医師が事件の現場付近にいるはずです。
そして怪我が火傷だとわかれば樽見を追い込む事が出来ます。
うん。
山梨県警に協力を要請しよう。
医師と樽見の足取りを追ってくれ。
(一同)はい。
(山路)すみません。
3年前の11月4日バス放火事件があった日なんですがこの男性現場付近で乗せませんでした?
(室井)この男を治療した覚えはありませんか?3年前の診察記録を確認させてください。
牛尾さん!大上さん!
(室井)病院が見つかりました。
3年前平成24年の11月4日大月市の井上外科であなたが火傷の治療を受けた診断書です。
バス放火事件が起きた夜あなたは東京にいらしたはずです。
そのとおりです。
だが同じ夜山梨県大月で火傷の治療をなさってる。
理由を説明して頂けませんか?
(大上)加えてあなたを東京まで乗せたタクシー運転手の確認も取れてます。
あなたは3年前の11月4日甲府午後5時発の新宿行き高速バスに乗った。
帝日建設の前園からバスの中で黒い鞄を受け取るためにです。
その鞄には表には出せない金が入っていた。
だがあの事件が起きてしまい黒い鞄を受け取る前にあなたは命からがらバスから逃げ出すしかなかった。
そして現状近くの病院で左手の火傷の治療を受けたあなたは事件の翌日バス会社に電話をした。
ゆうべのバスに黒い鞄なかったか?そんなバスには乗ってない。
ええ?火傷の治療をした事がバスに乗ってた証拠になるんですか?いやたとえ乗ってたとしてもそれで私は一体なんの罪に問われるんです?ふざけるな!口封じに川岸さんと北沢尚子さんを殺したのはあんただ!バカな事言うな!私はそんな事件に一切関与しちゃいない。
その2つの事件があった夜は囲ってる女のところにいたんです。
何を今さら!大上。
本当ですか?本当です。
女のマンションの至るところにある防犯カメラが私の無実を証明してくれる。
調べてみてください。
ハッハッハッハッハ…。
愛人というのも時には役に立つもんだな。
ハハハ…。
これ以上は警察も突っ込んではこられまい。
はい。
この先も3年前の事は認めるな。
口裏は合わせてある。
私の跡を継ぎたいならいいな。
承知致しました。
そろそろ時間だな。
はい。
行くよ。
(ドアの閉まる音)
(山路)樽見が犯人じゃないだと!?
(大上)川岸さん及び北沢尚子さんが殺害された時間樽見は愛人のマンションに…。
防犯カメラが樽見の姿を捉えアリバイを証明してました。
クソッ…。
週刊誌の記事が出た直後樽見は太田代議士の息がかかった人間を使い3年前の生存者を短期間で調べ上げました。
そして事件後まもなく六本木に店を出した北沢尚子さんが浮かび上がった。
しかし殺すつもりはなく借金を重ねて店が破綻しそうな事を知り金で口を封じるつもりだったんじゃないかと思います。
そうだとしたら川岸さんや北沢尚子さんを殺したのは誰なんだ?それはまだわかりません。
3年前に死んだ前園豊…。
そして3年後北沢尚子さんと川岸一義さんが殺された。
黒い鞄を持ち逃げしたのは北沢尚子で間違いないはず。
そして川岸さんはその事を知っていたがために殺された。
(女性)ねえねえねえねえ…それちょっとちょうだい。
ええ!?ちょっとダイエット中って言ってたじゃん。
もし黒い鞄を持ち去ったのが北沢尚子1人じゃなかったとすれば…。
川岸さん。
(京子)はい?電話。
もしもし。
牛尾です。
お仕事中申し訳ありません。
お願いがあって電話しました。
はい。
お話というのは…?淡路島に沼島という島があります。
殺害された川岸さんの奥さんとお嬢さんが暮らす島です。
その奥さんとお嬢さんが留守の時に高額の香典を渡しに一人の女性が沼島に現れました。
美穂さんそれはあなたではありませんか?なぜ私が?3年前のバスから北沢尚子さんとともに黒い鞄を持ち去ったのはあなたではないか?そう思っています。
そしてその事を知っている川岸一義さんと北沢尚子さんを殺害した。
尚子さんが殺された夜私は雑誌記者の方と一緒にいました。
『週刊トピックス』という雑誌の川村冴子さんという方です。
私は尚子さんを殺せませんし川岸さんを殺す理由がありません。
運命というのは自分ではどうしようもない。
あなたはそうおっしゃった。
ええ。
でも自分の意思で自分の運命は変える事が出来る。
そう思います。
私は。
もうお話する事はありませんので。
牛尾さん奥様にお伝えください。
「お見積もりが終わりました。
ご希望の金額で大丈夫です」と。
どうやら牛尾さんたちの捜査でも樽見は殺人には関与してなかったらしいな。
うーん…。
だとすれば3年前のバス放火事件の生存者の中に犯人がいる可能性は高い。
例の黒い鞄の行方もまだ不明のままなんだろ?金のトラブルっていう線もあり得るわな。
牛尾さん!冴子さんにお尋ねしたい事があって参りました。
なんですか?北沢尚子さんが殺された夜小松美穂さんの店にいたというのは本当ですか?なんだお前…小松美穂と一緒にいたのか?ええ。
3年前の事件の事で思い出した事があるって美穂さんから電話があって。
彼女樽見があのバスに乗っていた事を思い出してくれたんです。
それ聞いた時犯人は樽見!って確信したんですけどね…。
北沢尚子さんが新宿の地下駐車場で殺害されたのは午後9時から10時の間です。
あなたが会ったのは?ちょうど10時でしたけど…。
冴子小松美穂の店はどこだ?原宿よ。
っていう事は…。
9時に犯行に及べば10時までには原宿の店に戻れる可能性があるって事ですよね?ええ。
ちょっと待ってよ浩平さんまで。
そんなのあり得ないでしょ。
美穂さんが尚子さんを殺すなんて。
一体なんのために?あくまでも可能性の段階ですが…。
利用されたっていうんですか?私アリバイのために。
あなたは美穂さんに呼び出されて店に行った。
その事をよく考えてください。
では。
気持ちはわかるよ。
でもな情に流されてたら事件記者は務まらねえぞ。
(牛尾の声)あなたは美穂さんに呼び出されて店に行った。
その事をよく考えてください。
牛尾さんですか?長江です。
南あわじ中央の。
ええ川岸さんの奥さんから借りてきた香典袋ですが…。
はいどうでした?そちらから送られてきたデータと照合した結果…。
そうですか。
ありがとうございます。
(大上)牛尾さん。
指紋が一致しました。
(坂本)そうか!
(西谷)よし!これで決まりだ!
(ノック)小松美穂さんにお会いしたい。
あ…先生いらっしゃいませんよ。
来季のルックブックのプランを練りに今朝お出かけになりました。
ルックブック?はい。
なんていうか…商品の宣材みたいなものです。
どちらに?淡路島です。
淡路島?牛尾さん。
宿泊先は?ウェスティンホテル淡路です。
(由紀子)いかがでしたか?
(美穂)どこも素敵でした。
ルックブックの撮影には申し分ないと思います。
協力させて頂ければ幸いです。
ありがとう。
このお部屋からの眺めも素敵ね。
(波の音)いい海ですね。
山に囲まれたところで生まれたせいか海って猛々しいところがあって好きじゃなかったんです。
でもこの海は包み込んでくれる感じがしてふるさとの山に似ています。
ありがとうございます。
私もこの海が大好きです。
川岸さん。
はい。
あ…よろしくね。
かしこまりました。
何かございましたら遠慮なくお申し付けください。
(由紀子)失礼致します。
牛尾さん!美穂さんに確かめに来たんです。
あの美穂さんが犯人だなんて…。
私にはとても信じられません。
(由紀子)あっ牛尾さん川村さんも。
こちらに東京から小松美穂さんという方がいらしてませんか?小松様なら先ほどタクシーでお出かけになりましたけど。
どちらへ行かれました?さあ…わかりかねます。
でも小松様が何か?牛尾さん!どこへ行くんですか?もし向かったとすれば沼島だと思います。
沼島?川岸さんのふるさとですよね。
もしかして彼女…。
なんなんですか?牛尾さん。
もしかして…。
え…。
美穂さんはどこへ?あっ美穂さん!美穂さん!駄目です!死ぬなんて!言ってましたよね。
亡くなった人の分までしっかり生きなくちゃちゃんと生きなきゃって。
それに私の事利用しといてちゃんと謝りもしないで勝手に死ぬなんて絶対に許さない!ごめんなさい。
ごめんなさい…。
あなたから頂いた名刺の指紋が川岸さんへの香典袋から見つかりました。
やはり香典を手向けたのはあなただった…。
(愛子)川岸さんお留守ですよ。
じゃあこれ渡して頂けますか?
(愛子)はあ…。
でもそんな事が償いではないはずです。
美穂さん。
何もかも本当の事を話す事からあなたの償いが始まるんです。
(パトカーのサイレン)今回の事件の始まりは3年前のバス放火事件だったと思っています。
あのバスには様々な思いを持った人たちが乗っていました。
そしてあなたもその一人だった。
何一つ思いどおりになった事なんてない人生でした。
それでも小さい時から憧れだった宝飾デザイナーの職に就きなんとか続けてきました。
でも私のデザインが採用された事はなくいつも要領のいい人のものばかりが使われてその上デザインを盗んだって疑われて…。
私のデザイン盗んだのあなたね!このデザインだって私のアイデア盗んでる!そんな…。
クビよ!ここは辞めてもらう!
(美穂の声)デザインをまねされていたのは私のほうでした。
なのに逆に盗んだって言われて…。
いくら違うって言っても聞き入れてもらえませんでした。
いつかは自分の工房を持ちたい。
そんな夢を見ていた事もあったけどいつしか夢を持っていた事さえ忘れてしまっていました。
(美穂の声)ただ一つ私に出来た事といったらあのバスに乗る事だけでした。
でもそれだって現実から逃げたかっただけなんです。
あのバスに乗った事が全てを変えました。
(急ブレーキの音)
(岩瀬)なんだよお前らその顔は。
(前園)これで助けてくれ…。
頼む…。
(岩瀬)言うとおりにしないとバーベキューになるぞ。
俺はなここで死ぬんだよ。
犯人が火をつけた瞬間必死で逃げ出しました。
そして尚子さんが黒い鞄を持ち出した事に気づいたんです。
(美穂)その鞄…。
(美穂の声)そして手当てを受けた病院で…。
嘘でしょ…一億ある。
山分けよ。
受け取って。
駄目よ…。
5000万あればなんでも出来る。
運命はね自分でつかみ取るもんなの。
もう流されるのは嫌。
振り回される人生なんてこりごりだわ。
あんただってそうでしょ?今までどんないい事あった?思いどおりになった事なんてなんにもないじゃないの!いい?明日からはもう元の他人同士。
二度と会わない。
お互いのためにね。
(美穂の声)手にしてはいけないお金だとわかっていました。
でもそのお金さえあれば忘れていた夢がかなうかもしれない。
運命を変える事が出来るかもしれない。
そう思ったんです。
いえ思う事で本当は罪の怖さから逃げたかった。
尚子さんも同じだったと思います。
だから二度と会わない約束をしたんです。
(美穂の声)そうして1年後夢が実現しました。
尚子さんにとっても夢の幕開けだったんだと思います。
そして2年が経ち取材で冴子さんがあなたのもとにやって来た。
黒い鞄の事を隠したいその反面3年前の被害者だという事を公表して夢をもっと広げたい。
そう思う自分がいました。
(美穂の声)でもあの取材を受けた事がまた私の運命を変えたんです。
冴子さんの書いた記事が出たあとであなたは偶然川岸さんに会ってしまったんですね。
はい。
あの夜たまたまあの工事現場を通りかかったんです。
あ?
(ノック)あーやっぱりあなただ。
週刊誌見ましたよ。
いやあ元気そうでよかった。
あっそういえばもう1人の方も元気でしょうか?ほらあの…黒い鞄を持ってた女性ですよ。
今度どこかでゆっくり話をしませんか?どこでも行きますよ。
じゃあ新宿の中央公園で。
新宿の中央公園ですね?
(美穂の声)川岸さんは黒い鞄の事を覚えていた。
一人は怖かったので尚子さんを呼び出しました。
会うのはあの日以来3年ぶりでした。
(ドアの閉まる音)電話で言ってた事本当なの?その人黒い鞄の事知ってたって。
ええ。
見られてたなんて…。
いいわ。
私に任せて。
(美穂の声)黒い鞄の事は2人揃って知らないと言えば納得してくれると思ってました。
でも尚子さんは…。
ああ。
もう1人の方は?
(刺す音)
(川岸)あっ…!?はあはあ…。
(川岸)うっ…うっ…。
(雷鳴)せっかくここまで来たのに後戻りなんて出来る?また惨めな自分に戻るなんて嫌よ。
でも殺すなんて…。
あの鞄と一緒。
黙ってればバレない。
もし警察が来ても絶対シラを切るのよ。
待って…。
それでもあなたの贖罪の気持ちが沼島へ向かわせたんでしょうか?そんな事で許されるなんて思ってません…。
でもせめて川岸さんのふるさとを訪ねて手を合わせたかった。
だがそれで終わりではなかった。
犯した罪の深さに比べれば私の夢なんてガラスのように脆いものでした。
でもその事に気づくのが遅かったんです。
尚子さんがあなたを脅してきた。
自信満々に見えた尚子さんでしたがお店の経営は破綻寸前まで追い込まれてたんです。
はあ…。
尚子さん!フフッはーい。
あんたの共犯者来ちゃったわ。
アハハッ…。
ねえねえねえ〜。
(美穂)尚子さんどうして?
(尚子)お金!お金貸してくれない?2000万でいいの。
今のあんたならそれぐらいどうにでもなるんじゃないの?そんな急に言われても…。
つべこべ言わずに出しなさい!私にはもう捨てるものな〜んにもないけどあんたにはあるでしょ?川岸殺した事表沙汰になっていいの?フフッこんなきれいなお店や名声全部なくせちゃうの?フフフフッ…。
川岸さん殺害の共犯になってしまった事でこのままでは北沢尚子に一生つけ狙われる。
あなたは冴子さんを利用する事を思いついたんですね。
思い出した事があるんです。
もしお時間があれば今夜ショップに来て頂けますか?思いどおりにならない人生には二度と戻りたくない。
そう思いました。
遅かったじゃない。
う〜ん!ハハッ…。
(刺す音)あっ…!?うっうっ…。
それからあなたは店へ戻り冴子さんを待った。
樽見の事を冴子さんに話したのは樽見を川岸さんと尚子さんを殺した犯人に仕立て上げるためだった。
もう自分の事を止める事は出来ませんでした。
気づいたら悪いほう悪いほうへ流されていくだけで。
もう私に出来る事といったら罪を悔いて死ぬ事しかなかったんです。
結局私は自分の手で何も変える事が出来なかった。
川岸さんのお嬢さんがあの淡路島のホテルで働いているのをあなた知っていましたか?知ってました。
だからあのホテルに?はい。
死ぬ前に川岸さんのお嬢さんに会っておきたい。
そう思って…。
由紀子さんは週刊誌の記事を読んであなたが川岸さんと同じバスに乗っていた事を知っていました。
あのバスに乗り合わせたあなたがもし川岸さんの事を覚えていたならあのバスで川岸さんがどういう様子だったのか本当は聞いてみたかったそうです。
ずっと離れて生活していた親子ですからどんな事でもいい。
自分の知らなかった父親の事を誰かから聞きたかったんでしょう。
川岸さんにしても同じだったんだと思います。
同じバスに乗り合わせあの事件から生き残った者同士だったから話をしてみたかった。
だからあなたに声をかけたんだと思います。
そこには…他意はなかった。
ましてやあなたを落とそうという思いなどなかったはずです。
だが罪の意識を背負ったあなたや尚子さんにはそうは思えなかった。
川岸さんは正月には沼島に帰ると家族に宛てた手紙に書いていました。
(由紀子)ただいま!おかえり。
(由紀子)あっお父さんから?えっ見せて見せて。
うわっ…えっお父さん帰ってくるやん。
いや楽しみ!由紀子さんも奥さんもそれを何より楽しみにしていた。
そして川岸さん自身もです。
それを奪ったのは他でもないあなたです。
これから先2人は川岸さんのいない正月を迎える事になる。
あなたが自分の夢を大事にしてきたように川岸さんにとって家族はかけがえのないものだったんです。
あなたにはしっかりと罪を償ってほしい。
それが父親が浮かばれるただ一つの道なんですと由紀子さんがそうあなたに伝えてほしいとおっしゃってました。
あなたが戦わなければならなかったのは振り回されるだけの人生でも思いどおりにならない人生でもありません。
本当はあなた自身の心だったんじゃないでしょうか。
(泣き声)
(太田)なんだ?君たちは。
なんの騒ぎだ?
(綿貫)東京地検特捜部です。
収賄容疑での家宅捜索です。
始めろ。
(検察官たち)はい。
(検察官)はいそのまま手触れないで。
(検察官)机から離れてください。
(綿貫)太田さんにもお話を伺いたい。
一体なんの話だ?帝日建設の使途不明な一億についてです。
帝日建設はあなたに対して用意した裏献金であった事を認めています。
そんなものは知らん!やったのは秘書だ。
この男だ。
話を聞きたいなら全てこの男から聞け!
(樽見)いやいや…ちょっと待ってください!ちょっと待ってください!
(太田)おい樽見!誰のために…誰のためにこれまで汚い仕事やってきたと思ってるんですか!太田幸三先生!俺はあんたの右腕なんじゃないのか!先生見捨てる気か!クソッ…!あっそうそう。
昨日ね美穂さんのお店からこれが届いたの。
ああ頼んでおいた指輪か。
うん。
そうなんだけど。
でもね…。
この度はご希望に添えず大変申し訳ありませんでしたって丁寧な手紙が添えられてたわ。
うーん…じゃあ違う店で作り直してもらえよ。
でも考えたの。
やっぱりこの指輪美穂さんに直してほしいなって。
時間はかかるけどいいかしら?お前がそうしたいならそうすればいい。
うん。
じゃあそうする。
そうですか。
バス放火事件の特集記事は続けられますか。
はい。
でもつくづくショックです。
亡くなった方のご遺族や生き残った人たちへのエールのつもりであの記事を書いてたのにまさか殺人事件の発端になるなんて思ってもいませんでした。
まさに嵐を呼ぶ女だな。
なんだって!?フフフッ。
いやでも今回も冴子さんにはいろいろ協力を頂いてありがとうございました。
浩平さんも。
いやいや俺は…。
そうよね。
ただここでコーヒー飲んでただけだし。
何?それにしても運命ってわからないものですね。
亡くなった人生き残った人そのご家族も含めてたまたまバスに乗り合わせた人たちの人生があの事件で変わってしまったんだもの。
確かにな。
運命ってなんでしょうね?やっぱり自分で切り開いていくものなんだろうな。
そう。
運を天に任せるなんてのは駄目なんだよ。
一に努力ニに努力三に忍耐。
そして最終的には決断力だ。
なあそろそろ決断してみたらどうだ?あんた何者?
(緒方)アイタッ!まだまだ忍耐っすね。
ヘヘヘッ…。
(由紀子)お母さん!お弁当持ってきたよ。
今日も人は生きていきます
幸せや苦しみ抱えきれない悲しみ
それぞれの思いを胸に秘めながら…
そして人を待ち受ける運命の行方もまた様々です
でもただ言える事は運命がその人を変えるのではなくその人の生き方が運命を変えていく
そんな気がするのです
2016/01/09(土) 21:00〜23:21
ABCテレビ1
土曜ワイド劇場「森村誠一作家50年記念企画・終着駅の牛尾刑事vs事件記者冴子」[デ][字]
生存者〜新宿行高速バス放火事件!!生き残った11名の中に殺人犯がいる!?1億円入りの鞄と消えた乗客の謎…
詳細情報
◇番組内容
大好評“牛尾VS冴子”シリーズ第15弾!
バスジャック放火事件で生き残った乗客たちがたどった数奇な運命!
“消えた乗客”、そして“黒い鞄”の謎とは…!?
東京・新宿で起きた殺人を皮切りに、事件は山梨・甲府、兵庫・淡路島へ…!!
◇出演者
片岡鶴太郎、水野真紀、岡江久美子、船越英一郎、南野陽子、七瀬なつみ、津田寛治、古村比呂、神保悟志、螢雪次朗、秋野太作、東根作寿英
◇スタッフ
【原作】森村誠一「誇りある被害者」
【脚本】吉本昌弘
【音楽】大野克夫
【監督】池広一夫
◇おしらせ
☆番組HP
http://www.tv-asahi.co.jp/dwide/
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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