(ジュン)
「やまない雨はない」という言葉が嫌いだ
今の俺には陳腐な慰めにしか聞こえないのだ
(ため息)《恋愛小説?》
(館山)《うん。
今度うちで若い子向けにウェブマガジンを出すのよ。
そこに読み切りでどう?》《いや無理ですよ恋愛小説なんて》《俺SFしか書いたことないですし》《おっと…ハハ》《何?橋本君仕事選んでるわけ?》
(ジュン)《いやまっそういうわけじゃ…》《連載だって終わっちゃったしさ単行本だってもう2年?出してないじゃない》《生活どうしてんの?》《まあ…貯金切り崩したりあと家電の取扱説明書を書くバイトと…》《ワオ》《バイトするくらいだったらさもっと作風を広げること考えなきゃ》《そうでしょ?もう30じゃない》《若手イケメンSF作家じゃ通じないぞ》《これラストチャンスだから》あと1週間…。
あ〜!もう!どうしよう。
純愛…一目ぼれ…。
・
(チャイム)
(男性)ジュンちゃん久しぶり。
ジュンちゃんってあの…。
ちょっどちらさん…。
お邪魔しま〜す。
ちょっちょっと!何ですか!へ〜これが文豪の部屋か。
あっあるね。
やっぱ自分の本あるんだね。
ちょっと!警察呼びますよ?ひどいなジュンちゃん。
俺のこと覚えてないの?えっ?ハマグリグリグリ。
あっあっあっ…。
グ〜リグリグリグリ…。
あ〜!それはバスケ部のエバヤンが中1のときに開発したしょうもない駄じゃれ。
あっ!お前…。
いきなりびっくりさせんなよ。
ごめんごめん。
驚かせたくってさ。
いやでもホント久々だよな。
10年…んっ?いやそれ以上か。
そうだね〜。
ジュンちゃんが引っ越してからもうそんなになるか。
おじさんとおばさん元気か?うん。
元気元気。
あっそういえば俺ジュンちゃんの小説全部読んでるよ。
えっ?デビュー作『イガヌの雨』これ昔俺にしてくれた話だろ?だから読んだとき興奮したよ。
ついに俺の同級生はやったと思ったね。
やめろよ。
3作目のさ『喫茶プラネット』これもいいよね。
装飾的な表現をそぎ落とした…。
あ〜もうやめろよ!恥ずかしい!グ〜リグリ〜!いっ…痛い痛い。
ちょっ…。
何が恥ずかしいの?すごいことじゃん。
すごくねえよ。
ぶっちゃけここ数年きつくてさ。
えっ?アイデアに行き詰まって書けねえしネットじゃ一発屋のSFバカとか書かれるし。
あんま売れないから単行本もここ2年出せてないし。
だから編集者に恋愛物書けって言われてんだけど全然書けなくて。
ハァ〜もうやめてえよ作家なんて。
大丈夫だよ。
ジュンちゃんなら書けるって絶対。
恋愛小説。
えっ?その根拠は?勘?って勘かよ〜!俺の勘当たるんだって。
もう勘で言うなよ。
こっちはアイデアが何も出てこねえのに。
あっそういえば昔ジュンちゃんのごみがよくなくなるっていう事件あったよね?あのネットに書かれてたじゃん。
えっ…ああ。
あのデビュー当時にいた俺の痛いファンね。
人が捨てた物拾って何が楽しいんだか。
でもさあれも一つの愛の形だと思うんだよね俺は。
そんな…やられるこっちの身にもなってみろよ。
作家なら何でも飯の種にしないと。
ねっ?うん…。
(あくび)あ〜長旅で疲れたわ。
ちょっと俺寝るね。
えっ?布団借りるわ。
あ〜違う違う違う違う…。
そっちじゃないそっちじゃない。
こっちこっちこっち。
あっこっちね。
サンキュー。
じゃおやすみ。
おやすみ。
ってここはお前の実家かよ。
(男性)《そういえば昔ジュンちゃんのごみがよくなくなるっていう事件あったよね?》あっ。
え〜…。
《「はっきりいって彼女は俺のタイプではない」》《「そう会社の部下である彼女…」》
(林)《中村安未果は一見社交的だが人と適当な距離を置くので腹の底がまったく見えないのだ》
(男性)安未果ちゃんのドレスアップ姿たまんねえ。
オフィスのできるイメージとのギャップが…。
(林)《同僚たちは彼女にほれ込み口説き落とそうとしたが撃沈》《今では孤高のマドンナというポジションを不動のものにしていた》
(林)よし。
俺が彼女を口説き落とす。
(男性)無理だよ。
彼女ガード堅いぞ?ハァ〜お前ら分かってねえな。
ここは結婚式の2次会だぞ。
結婚式ってのは相手のいない女の嫉妬や羨望の感情をざわつかせんだよ。
そこを突かない手はないだろ。
(男性)お〜。
まあもし落とせなかったらお前らに熟成肉でもカウンターずしでも何でもおごってやるよ。
(2人)お〜。
(林)《異性との駆け引きはアイスホッケーに似ている》《相手の出方を見てシュートかパスか…》《ベストな選択を瞬時にできるかでゲームの展開は大きく変わるのだ》あっ…。
たばこ吸っていいかな?
(安未果)どうぞ。
最近はどうよ?仕事順調?はい。
何とか。
(林)《明らかな愛想笑い》《だがこの程度ではまだ引かない》
(林)中村さんの爪奇麗だね〜。
ありがとうございます。
(林)《褒めたときの反応で相手の気持ちはある程度判別できる》《現時点で俺の印象は良くも悪くもなく無》チッ。
(林)《ただの上司か》《上等だ》《ここから俺が独学で学んだ行動心理学を使って落としてやる》それ何?ディタグレープフルーツです。
もらってくるよ俺のももうないし。
あっ大丈夫です自分で行きます。
(林)いいからいいから。
そこ座ってて。
(林)《そう》《これは他人から何か与えられると自分も返さなければならないという心理好意の返報性を使った作戦だ》わざわざすみません。
(林)いいえ。
(林)《よ〜し》《まずまず効いたようだな》《では次の作戦だ》ねえ中村さんってホントは今の職場嫌だって思ってない?どうしてですか?
(林)んっ?何となくみんなと距離をとって見えるからさ。
(林)《これはポジティブなことよりネガティブなことを話して心の緊張をほぐすカタルシス効果を応用した作戦だ》あるとすれば部下の私を口説こうとしているところですかね。
(林)《まっまさかの強烈なボディーチェック!》《全てお見通しかよ〜》今夜のことはお酒の席のジョークとして大目に見ますのでお気遣いなく。
(林)《完敗だ〜》・
(男性)よっしゃ。
・
(男性)よし。
頂きます。
(林)《くっそ〜》《潔く引き下がるのも男の美学》《ここはすし屋を予約し…ない》
(林)んっ。
あっありがとうございます…。
(林)《勝利の女神は俺を見捨てなかった》中村さんってもしかしてアイスホッケー好き?えっ?あ〜はい。
アイスバックスのファンですけど。
嘘!俺もなんだよ!えっ?嘘!
(林)初めて会ったよ女の子でアイスホッケー好き。
しかもアイスバックスのファンなんて。
福藤選手っているじゃないですか。
子供のころ彼のNHLデビュー戦を衛星放送で見てホッケー好きになったんです。
(林)えっ!それってえっと…2007年1月のキングス対セントルイス・ブルース戦?俺生で見たよ。
(安未果)えっ?ホントですか?いや私感動したんですよ福藤選手のあのプレー!
(安未果・林)ダグ・ウェイトのシュートをスーパーセーブ!
(安未果・林の笑い声)
(林)乾杯。
(安未果)乾杯。
(林)《まさか彼女がアイスホッケー好きとは》《同じ価値観を持つ人間に人は親近感を抱く類似性の法則が作用し会話が弾んだ》《心が通ったら次はそう》《体だ》あの…もしよかったら家まで送ってくれませんか?実は相談したいことがあって…。
(林)《まさかの本人からキラーパス!》
(安未果)実は私ストーカーに遭ってるんです。
夜道を歩いてると誰かがつけてくる気配を感じたりごみをあさられたり私怖くて。
(林)あ〜。
俺も以前ごみをあさられることがあったよ。
気持ち悪いよな。
(林)《勝利はもう目前だ》
(林)《必殺ミラーリング》《相手の行為をまねることで潜在意識に働き掛け好感を持たせるテクニックだ》《さあどうだ?》
(安未果)ここです私のマンション。
(林)そっか。
じゃあ俺はここで。
(林)《来い…来い…》
(安未果)あの…。
(林)《来た〜》もしよかったらお茶かコーヒーでも飲んでいきませんか?
(林)《さあ彼女のネット揺らしちゃいま〜す》お〜っとっとっと…。
(林)《なぜこれに見覚えが?》
(安未果)《林さんは今日も話し掛けてきません》《大して世話にもなっていない上司の結婚式に出席したのは林さんとお近づきになるためだけなのに》あっ…。
(安未果)《何ということでしょう》《チャンスの女神が私に微笑みかけました》たばこ吸っていいかな?
(安未果)どうぞ。
(安未果)《「火お付けしま〜す」って言いたいけどここは我慢》最近はどうよ?仕事順調?
(安未果)はい。
何とか。
(安未果)《彼に興味のない女を演じなければ》
(林)中村さんの爪奇麗だね〜。
あっありがとうございます。
(安未果)《ウフ。
褒められちゃった》《ネイルをしてきて大正解》
(林)それ何?ディタグレープフルーツです。
もらってくるよ俺のももうないし。
あっ大丈夫です自分で行きます。
(林)いいからいいから。
そこ座ってて。
(安未果)《林さんお得意の好意の返報性を求めるやり方》《私に使ってくるなんて…》
(林)中村さんってホントは今の職場嫌だって思ってない?どうしてですか?
(林)んっ?何となくみんなと距離をとって見えるからさ。
(安未果)《次はカタルシス効果を使ってきました》《うれしい》あるとすれば部下の私を口説こうとしているところですかね。
今夜のことはお酒の席のジョークとして大目に見ますのでお気遣いなく。
(安未果)《私はガードの堅い女を演じある賭けに出て…勝ちました〜》《このスマホを受け取る瞬間が勝負》《うまく彼に見える角度でそ〜れ》中村さんってもしかしてアイスホッケー好き?えっ?あ〜はい。
アイスバックスのファンですけど。
嘘!俺もなんだよ!
(安未果)《もちろん知ってます》
(安未果)《林さんとの運命の出会いは4年前私がまだ大学生のころでした》《その爽やかな笑顔に一目ぼれでした》《それ以来私は血眼で林さんの情報をかき集め4年間林さんを知ることに捧げました》《林さんの勤務先から後をつけ自宅を突き止め定期的に林さんのごみをチェックし持って帰りました》《そして親のコネを使い林さんの会社に就職》《今日という日を迎えることができたのです》
(安未果)《ようやく夢がかなった私は…》
(シャッター音)
(安未果)《世界一の幸せ者です》
(安未果)《あ〜バレちゃった》《でもきっと彼は私の愛の深さに胸打たれていることでしょう》私のことは捨てないでね。
あ〜。
できた〜。
(館山)読んだよこれ。
これ元ネタ橋本君の頭おかしいファンだよね?あっはい。
さすがですね。
(館山)まあさすがっていうかまあ面白えんだけどさこれホラーだよね?恋愛小説じゃなくて。
何かさまだこう照れがない?恋愛を書くってことに対して。
もっとこう何ていうのかな?あっそうそう。
『ノルウェイの森』みたいな胸きゅんっていうそういうの書いてよ。
『ノルウェイの森』そうそうそうそう!きゅんっていうさ。
というわけでこれ没ね。
えっ?
雨は当分やみそうにない
奮ってご応募ください
2016/01/09(土) 23:40〜00:05
関西テレビ1
[新]傘をもたない蟻たちは #01[字]【原作・加藤シゲアキ】
「再会と妄想」
桐山漣 加藤シゲアキ 阪田マサノブ 足立梨花ほか 原作の短編集を“因数分解”。肝の要素を散りばめた全4話の苦悩と希望が渦巻く物語です。
詳細情報
番組内容
橋本ジュンのペンネームで小説を書く若手SF作家の橋本純(桐山漣)は、作家とは名ばかりで唯一の連載が終わり貯金とバイトで食いつなぐ日々を送っていた。そんなジュンに担当編集者の館山(阪田マサノブ)は、恋愛小説を書くように勧める。
締め切りが迫るなか、行き詰っていたジュンの前に、ひとりの男(加藤シゲアキ)が現れる。突然家を訪ねてきたその男は、橋本純が生まれ育った那珂湊の幼なじみだった。
番組内容2
10年以上ぶりの再会を喜びつつ、小説のアイデアが浮かばずに苦戦していることを話すジュンに、幼なじみは過去にジュンが経験したある事件の話題を持ち出してきた。ジュンはその事件をヒントに、小説『インターセプト』を書き始める———。
【『インターセプト』】
結婚式の二次会に出席していた会社員の林(桐山漣)は、部下の中村安未果(足立梨花)に声をかけるタイミングを見計らっていた。会社のマドンナ的存在
番組内容3
でありながら誰の誘いにも乗らない安未果を口説き落とすと、同僚に豪語したからだ。独自の行動心理学を用いて巧みに口説く林を、安未果はあっさりとかわして去っていく。
諦めかけた林だが、安未果が忘れた携帯を手に再び声をかける。すると……!
出演者
桐山漣
加藤シゲアキ
阪田マサノブ
足立梨花
他
スタッフ
【原作】
加藤シゲアキ「傘をもたない蟻たちは」(KADOKAWA刊)
【脚本】
小川真
(『救命病棟24時』『恋なんて贅沢が私に落ちてくるのだろうか?』『世にも奇妙な物語’13春の特別編』『山田くんと7人の魔女』『星新一ミステリーSP』など)
【編成企画】
羽鳥健一
(『高校入試』『東京にオリンピックを呼んだ男』『信長協奏曲』『ようこそ、わが家へ』など)
スタッフ2
【プロデュース】
江森浩子
(『1リットルの涙』『僕のいた時間』『遅咲きのヒマワリ〜ボクの人生、リニューアル〜』『わが家の歴史』『ストロベリーナイト』など)
【演出】
河野圭太
(『フリーター、家を買う。』『マルモのおきて』『わが家の歴史』『オリエント急行殺人事件』『一千兆円の身代金』など)
【主題歌】
「ヒカリノシズク」NEWS(ジャニーズ・エンタテイメント)
【制作】
フジテレビ
スタッフ3
共同テレビ
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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