桜島を望む料亭。
(料理長)どうぞ。
(内山)ありがとうございます。
鹿児島の郷土料理を楽しもうとやってきた女優の内山理名さん。
わ〜美しい。
目を奪われたのは色鮮やかなガラスの器。
ものすごく欲しいですね。
細やかな切り込みを施したカットガラス。
きょうのイッピン。
線や模様の境がにじんだように見え幻想的な表情を醸し出しています。
これが「ぼかし」。
薩摩切子の特徴なんです。
今ぼかしを生かして薩摩切子はいっそう華やかに変身中。
青と黄緑の2色を組み合わせより深いグラデーションを表現したグラス。
繊細可憐なアクセサリーも。
今回は夢幻にきらめく薩摩切子の魅力に迫ります。
薩摩切子は鹿児島市や霧島市など4つの町にある5つの工房で作られています。
内山さん今最も人気のグラスを作る鹿児島市の工房を訪ねました。
わ〜きれい。
創業30年。
グラスの他デカンターなど60種類の切子製品を作っています。
あかわい〜。
中でも気に入ったのは…。
これすっごいすてき!今お手持ちのものはオンザロックグラスで非常に人気のある商品なんですよ。
そうですね。
注文して2か月待ちという大人気のロックグラス。
巧みに施されたぼかし。
まるで移ろう光が封じ込められたかのような美しさです。
切子といえば「江戸切子」も有名ですがこちらは模様がシャープに浮き出るのが特徴。
一方薩摩切子は柔らかで幻想的。
ではこのぼかしどう生み出されるのか見ていきましょう。
まずは生地づくりから拝見。
お〜暑い!こんにちは。
こんにちは。
職人歴35年のベテラン…わ〜この汗がすごいですね。
毎日こんななんですか?ですね。
きょうはまだいい方じゃないですか。
え〜!時に40度を超えるという作業場では「吹き師」と呼ばれる職人が立ち働いています。
生地づくりは2人一組。
西村さんとコンビを組むのは園田新太郎さんです。
キャリア16年ですがここでは若手。
担当するのは色ガラス。
まず園田さんがさおの先に付けた赤いガラスを「ポカン」という鉄の型に入れて吹き大まかな形を作ります。
お〜膨らんだ膨らんだ!お〜すごい薄くなった。
一般的なグラスの生地より厚めに作っているんだそうです。
ここにベテラン西村さんが登場!透明なガラスをくっつけました。
重ねられたガラス。
ここに美しいぼかしの秘密があるんです。
カットする前の生地。
断面を見ると赤いガラスの内側に透明ガラスの層が重なっています。
斜めに刻むと色ガラスに厚みがあるため透明ガラスとの境目に近づくほど色が薄くなります。
ガラスを厚く2重にすることがぼかしには欠かせないんです。
2人一組の作業にはあるコツが必要。
それは息をピタリと合わせること。
西村さんの合図によって園田さんが動き出します。
園田さんが色ガラスを吹き終わったのを見計らって今度は西村さんが動きだしすばやく透明ガラスをくっつける。
このタイミングが少しズレてもきれいに重ならないんです。
ガラスは冷めると固くなり加工しにくくなります。
窯から出したばかりのガラスは859度ですが30秒足らずでこのとおり。
100度も下がりました。
冷めたガラスに高温のガラスをくっつけると…。
(音)パリッ。
急激な温度差によって割れてしまうこともあるんです。
色ガラスに透明ガラスをくっつけてからがベテランの腕の見せどころ。
生地を温め直しながら形を整えグラスの型で成形します。
厚みが均一になるには吹く息の僅かな乱れも許されません。
さらにさおを回すスピードを巧みにコントロール。
生地がまんべんなく行き渡るようにします。
これぞ熟練の手さばき。
お〜!そして余分な部分をカットして生地づくりは終了。
いよいよカット。
第一人者の…このガラスの表面に…あ…。
下書きは模様の大枠となる長い線のみ。
細かな部分は勘を頼りに彫っていくんだそうです。
高速回転するグラインダーにグラスを当てまず斜めの線を彫ります。
この時中根さんが見ているのはグラスの内側。
ライトを当て透けて見える下書き線を頼りに刃を当てます。
透け具合によって彫りの深さや線の太さを見極め慎重に彫り進めていくんです。
次に最も神経を使う「菊文」という精緻な文様。
下書きもなしに2センチ四方に8本の線を均等に彫っていくんです。
線ごとにグラスの向きを変えながら常に正確な位置で彫り進めます。
色ガラスの厚さは2ミリ。
僅かな幅の中で彫る深さをコントロールして初めて美しいぼかしが生まれます。
それにしてもきれいで細かいですね。
ガラスという硬い素材を相手にしているとは思えない見事な彫り!内山さん試してみることに。
そ〜っと道具に近づけていってください。
で当ててください。
いい所に当たりました。
そしたら押しながらはい上下に動かします。
あ〜感覚が分からない。
慎重に慎重を重ねますが。
あ…。
ちょっと違う所に入れてしまいましたね。
なんかだんだんここが見えなくなっちゃって…。
あ…うまくできなかった。
内山さんのは彫りの深さが一定せず線が不ぞろいです。
一方の中根さんは全ての線を同じように彫りしかも見事に一点で交差させています。
硬いガラスを削る際重要なのはグラインダーに押し当てる力加減なんです。
力の入れ具合を間違えると線が乱れます。
しかもやり直しは利きません。
中根さんは手に伝わる振動と内側から透ける光を頼りに力加減を調整。
正確な彫りを実現していました。
グラス1つに4時間。
並外れた集中力を持続しなければなりません。
カットを終えたら仕上げ。
ゴムや布で細かな溝まで丁寧に磨き上げます。
こうしてロックグラスが完成。
柔らかで美しいぼかし。
吹き師と切子師の高度なワザが幾重にも重なってできたイッピンです。
江戸時代産業の発展を目指し薩摩藩が築いた工場。
その跡地にある「尚古集成館」。
薩摩切子は幕末ここで誕生しました。
え〜。
「欧米列強が驚くほど美しいガラス製品を!」と藩を挙げて開発に取り組んだ切子は鮮やかな色彩とぼかしによって比類のないものになりました。
ところが明治維新の動乱の中ガラス工場は壊滅。
切子の製造は十数年で途絶えました。
それを復活させたのが実は中根総子さん。
30年前県が復元事業を立ち上げ全国のガラス職人に呼びかけた時ただ1人応じた人物だったのです。
しかし復元の頼りに出来たのは薩摩切子を写した写真集だけ。
100年前に途絶えた薩摩切子の製法に関する資料が残っていなかったからです。
切子の文様や線を1つずつ数えて図面に起こすことから始めざるをえませんでした。
途方もない試みにたった1人で取り組んだ中根さん。
心の支えになったのは尚古集成館に残る1つの切子でした。
美しい色合いと緻密な模様。
今よりも粗末な道具ですぐれた器を作り出したいにしえの匠の存在が中根さんを奮い立たせました。
(中根)なんとも言えないこの深い色彩と精巧なたたずまいというかこれに引き付けられるものがありましてひたすらに試作を重ねる日々。
ガラスの厚み彫りの角度自ら道具も作って美しいぼかしの秘密を探り続けました。
ついに満足のいくカットに到達。
5年の月日がたっていました。
やっぱり「やったな」っていうフフフフ。
なんか我ながらやったなというそんな気がしますね。
すごい今伝わってきました。
う〜ん。
中根さんは今2色を用いた薩摩切子の制作に取り組んでいます。
瑠璃色と緑。
深みを増した色合いがぼかしの美しさを際立たせています。
曲線も取り入れ従来なかった「動き」という要素を表現しました。
一度途絶えた薩摩切子は復活し今さらに世界を広げています。
う〜んあかわいい。
内山さんが夢中になっているのは話題のアクセサリー。
彩り豊かなピアスやヘアピン。
全部薩摩切子なんです。
キラキラ反射する。
わ〜きれいきれい!あ…いいですね。
アクセサリーを手がけたのは…へぇ〜まさかですよね。
「何つけてるの?」。
「薩摩切子」って…。
フフフフ。
(弟子丸)え〜!みたいな。
「え薩摩切子つけてるの?」って。
そうですね。
オーダーメイドも出来ると聞き内山さんも作ってもらうことに。
デザインを担当する女性スタッフにアドバイスしてもらいます。
オーダーするのは貝殻がモチーフのヘアゴム。
(専務)ここでこういう感じでいいですか?そういう感じとか出来るんですか。
こういう感じでクロスを入れて…。
ここからこういう感じでいったらきれいなんじゃないんですか?内山さんのこだわりは放射状に線が交わる緻密なカット。
デザインが決まったら弟子丸さんの登場。
アクセサリー用のグラインダーは特注品。
通常の3分の1の大きさです。
小さなアクセサリーを彫るのは至難のワザ。
僅かな線のズレで全体のバランスが崩れてしまうため慎重に進めます。
いったいどんな仕上がりになるんでしょう?お楽しみは番組の最後に。
出来上がるまで内山さんはバーでちょっとひと休み…ではありません!ちゃんとイッピンリサーチしに来たんです。
それがこちら。
黒い薩摩切子。
やはり人気ありますか。
透明と黒の鮮やかな対比に息をのむグラス。
スタイリッシュな風合いが人気を呼んでいます。
内山さんその工房を訪ねました。
わ!ワイングラスおちょこビアグラスどれも高貴で落ち着いた感じです。
開発されたのは10年前。
黒い薩摩切子は従来になくたちまち話題となりました。
こんにちは。
開発した…そうなんですか。
はい。
黒い薩摩切子の開発は色づくりから始まりました。
目指したのは深みのある漆黒。
青藍緑を発色させる金属を混ぜ合わせ2年かけて生み出しました。
しかし黒の切子には大きな問題が。
それはカットの作業。
めちゃくちゃ真剣な瞬間ですよね。
こちらは削られたんですか?そうですね。
そう!黒は見えないんです。
普通は内側に透けて見える下書き線が全く見えません。
赤の生地と比べるとこのとおり。
グラインダーの刃も見えません。
最も難しいのは「菊文」の斜めの線。
一点でピタリと交わらなければならないんですが…これを見えない中実現する驚きのワザがあるんです。
それはなんと!振動っていうのは私も体験して分かるというか音って…色と音と削るの関係あるんですか?そうですね。
まずはズレてない時の音ですね。
はい。
(削る音)これがズレてない時の音。
でズレてる時の音。
(削る音)これぐらいの差なんですけども。
うん?縦線と横線を彫ったガラスはこのようにくぼんでいます。
斜め線を重ねる時刃が正確に中心を捉えるとこの2か所を削ります。
一方中心を外すと刃は3か所に当たり削る面積も異なります。
この時の削る音は正確な時の音よりも僅かに高いと鮫島さんは言います。
ではもう一度聞いてみましょう。
(削る音)
(削る音)ほんの僅かな音の違い分かりましたか?さらに鮫島さんは指先でも振動の違いを感じ取りながら見えない線を彫っていました。
黒い切子のカットには倍以上の時間が費やされます。
不可能を可能にしたい。
挑戦する職人が生んだイッピンです。
さあお待ちかね!いいものが出来ました。
ホントですか楽しみにしてきました。
では早速こちらへどうぞ。
オーダーしたアクセサリーの仕上がりはどうでしょうか。
わぁその箱に入ってるんですか?はいどうぞ。
ご自分で開けてみてください。
わ〜ドキドキします。
わ〜!きれい!結構いい感じにね仕上がったと思います。
すごい。
すごいすごいすごい。
すごいきれいです。
このね菊の紋がですねきれいにぼかしも利いて。
ぼかしもはい。
わ〜想像以上の仕上がりでわうれしい!繊細なぼかしが美しい貝殻のヘアゴム。
内山さんが望んだ放射状の線が見事にデザインにマッチしています。
線と線をつなぐ細かな格子が上品さを引き立てます。
弟子丸さんの心憎い演出です。
かわいらしい編み込みにぴったり。
ふだん着だけでなく浴衣などにも似合いそう。
つけてみたんですけどいかがでしょうか?とっても似合ってますよ。
いやすごい…。
本当になんか日常使いできる事がすごいうれしいです。
そうですね。
自分でデザインされて。
そうですね。
こういう事ができるっていうのがすごく身近に感じました薩摩切子。
よみがえった薩摩切子。
そのともし火を二度と絶やすまい。
それどころかいっそう強く輝かせたい。
職人たちは歴史を刻み続けます。
2016/01/10(日) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
イッピン「夢幻にきらめく 彩りのガラス〜鹿児島・薩摩(さつま)切子〜」[字]
繊細なカットを施し、移ろう光を封じ込めたようなガラスが大人気。鹿児島の薩摩(さつま)切子だ。シックな“黒い”切子や、かわいいアクセサリーも登場。内山理名が探る。
詳細情報
番組内容
繊細なカットが施され、移ろう光を封じ込めたような幻想的なガラス。鹿児島の薩摩(さつま)切子だ。幕末に誕生しながら十数年で途絶え、長らく幻の輝きと言われたイッピン。それが30年前に復元されたのだ。復元の手がかりは写真と実物のみ。不可能を可能にした職人の驚くべきワザとは?近年では、いっそう身近な薩摩切子も登場。かわいらしいアクセサリーや、黒くシックな“大人の”切子まで。女優・内山理名が徹底リサーチする
出演者
【リポーター】内山理名,【語り】平野義和
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
情報/ワイドショー – 暮らし・住まい
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