安倍首相が国会で、厚生年金の加入を逃れようとする会社への指導を強化すると表明した。

 経営者が保険料の半分を負担するのを嫌い、届けをしない事例があることは、以前から指摘されながら解消されずに来た。働く人にとっては、本来もらえるはずの年金がもらえず、生活不安も高まる。これを機に加入逃れを是正して、将来の年金受給を確かにしてほしい。

 厚生労働省は今年度から3年計画で、給与天引きで所得税を納めている事業所と、厚生年金に加入している事業所の突き合わせを進めている。

 この結果見つかった「加入逃れ」の疑いのある事業所が、まだ79万あるという。調査を急ぎ、必要があれば指導を徹底するべきだ。

 ただ、これは加入逃れの一例に過ぎない。中には、正社員は厚生年金に入れているが、非正社員は外すケースもある。

 パートやアルバイトでも勤務時間・勤務日数が社員の4分の3以上なら厚生年金の対象で、もちろんこれも違法だ。

 厚生年金に入っていない事業所だけでなく、適用事業所についても、きちんと運用されているのか点検が必要だ。

 厚生労働省は、国民年金に加入している人のうち、本来は厚生年金の対象になるとみられる人が約200万人いると推計している。若い世代に多く、20、30代が6割を占めるという。

 しかし、これもあくまで国民年金に入っている人の話だ。若い人の中には国民年金にすら入っていない人もいる。

 将来、無年金や低年金になる恐れのある人がどれだけいるのか、その実態を把握する必要もある。

 調査や加入指導には、手間も人手もかかる。日本年金機構は昨年度、約4万社、12万人余りを新たに加入させたが、問題解消にはほど遠い。予算、人手を厚くし集中的に取り組むことも必要だろう。

 会計検査院は昨年、立ち入り検査の要件を満たしているのに年金機構が実施していない事例が多くあるとして是正改善を求めた。

 制度を理解してもらい、納得して加入してもらうことはもちろん大事だが、まじめに保険料を納めている事業者との公平性の問題もある。悪質な場合は、事業所名を公表するなど、強い姿勢で臨むことも必要だ。

 政府は厚生年金の対象を広げて、短時間の非正社員も含めようとしているが、加入逃れを放置したままではそれも台無しだ。対策は待ったなしだ。