倒産の憂き目とは、どのような壮絶体験なのだろうか。
本書「30歳で400億円の負債を抱えた僕が、もう一度、起業を決意した理由」は、ワンルームマンションのイノベーションで市場を席巻した最年少上場男(当時)のエスグラント・杉本 宏之氏の自伝本。
30歳で400億円の負債を抱えた僕が、もう一度、起業を決意した理由
- 作者: 杉本宏之
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2014/07/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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当ブログでは、読書によって得られる他人の人生の疑似体験=「THE READING EXPERIENCE」の視点から、書籍をレビューしています。そのようなエクスペリエンスこそが、自己啓発本や教科書的なビジネス書よりも、得るものがあるのではなかろうかと。そんなアプローチをしながら、私の読書ライフをゆっくりアウトプットできればと。そんなブログです。
ところが、ここでとんでもないエクスペリエンスと出会ってしまったわけです。100億円単位の借金を背負ったことあります?債権者から怒鳴られたことあります?
私自身は零細企業の経営者で、なんかいろいろ聞く銀行の始末などを鑑みて「無借金経営」に徹しております。すなわちリスクを負っていないだけの小心者なので、では本のなかだけも疑似体験してみようと本書を手に取るや、ですよ。
栄光も苦悩も、自身の言葉で克明に綴られており、大変に興味深い読書体験となったわけです。本書は杉本氏の生い立ちから復活までを描いておりますが、「栄光」「地獄」にフォーカスして、ご紹介。
身を起こす杉本氏
いつも経営者の自伝本を読むときは、「なぜこの人は起業を決意したのか?」「いつ頃から才覚を現していたのか?」ということをチェックしています。元ペイパルのイーロン・マスク氏は12歳の時にはゲームを自作していたり、ドン・キホーテの安田氏は29歳まで麻雀をして暮らしていたり。そこにも、本に没入できるポイントが隠されていたりするものです。
9・11をきっかけに起業を決意する株式会社エスグラントコーポレーションを起業したのは、2001年12月のことだった。
育ちは「貧乏」「川崎のワルガキ」から、父との家庭内事件をもとに立身を決意。仕事バリバリ系の青年期から、起業を志すきっかけはリーマン・ショックだったとのこと。22歳にして年収2000万円って。当時の不動産の活況は知らないし、本人も相当頑張ったと思うけど、センスもあったんだろうなー。
起業してすぐ、倒産の危機
社長としての幾多の経験は、25歳の頃の倒産の危機からはじまり、1期目の7億円から、2期目は21億円へ、3倍の売上げに到達した頃から研ぎ澄まされていくよう。
本を読み、人と会う
この後、最盛期に年商377億まで到達している男の源流として、さらには、この頃の努力がいわば下積み的に「才能を自覚する時期」として一役買っていたのではと印象深い箇所があります。
私は本は読むけど、いつの間にか人と会うことはそこまでやらなくなったな。。そもそもの視点と水準が違うので、比較にもなってはいないと思うけど。しかし、デキると思わせる社長はやっぱり「酒をのめ、本を読め」とか「人と会え」とかそういう事をいうので、ビジネス書でよく見かける”あっ同じこと言ってるのまた見かけた”現象として記憶していくのであります。
不動産業界では最短・最年少上場し、栄光へ。
この時、私は28歳。エスグラントを起業して、まだ48カ月しか経っていなかった。エスグラントはワンルームマンションのデベロッパーとして、短期間で上場に漕ぎ着けることができた。(中略)28歳でエスグラントを上場した私は、史上最短にして、最年少社長としての上場記録を更新したのだ。
上場し、ここから周りの環境が激減していくこととなります。ここ、エクスペリエンス・ポイントです。自分の車に運転手が付く生活ですよ。秘書は付けるでしょうけど、運転手って今でもそうなのかな?まぁ会社によるのかな。いずれにしても28歳で運転手付きになるって相当な経験では。
業績も順調なようです。
順調な業績と裏腹に、徐々に行動面での疑問、または攻め過ぎではないかという心配をさせる意思決定などが本書では目に付きはじめ、よくいえば「勢い」が、悪く言えば「違和感」を覚え始めるのがこの頃。
でも、まあまあ。この辺までは分からないでもない、というか。
凄まじい忘年会に、派手な生活
この忘年会は、後程、凄まじい地獄も描かれるので、対比すると痺れます。本書の面白さが凝縮しています。
さて、ここまでで栄光パート。上場し、なおも業績絶好調な中、高級ブランド尽くし、飲み会尽くし。よくここまで書いてくれたな、と思うほど描かれており、続きは、本書を手にとってその全貌をぜひご覧いただきたいところ。
地獄の始まり。サブプライム問題
私、その時学生でしたので、あまりリーマン・ショックまわりの知識に詳しくなくて。何が何故起きたのかはぼんやりと理解しているけど、日を追って当時を振り返ることはありませんでした。
で、勘違いしてたのが、リーマン・ショックってある日突然起こったことだと思ってたんですよね。実際は異なっていて。サブプライム危機が1年位ずーっと起きてて、ある日突然全てが壊れたのではなく、1年かけて実はじわじわと全部壊れてた感じ。真綿で首を絞められるような感覚だったでしょう。
いやマジ地獄のはじまりですね。
サブプライム危機の先頭バッターはアメリカ・ニューセンチュリーフィナンシャル社の経営破綻だったようですが、日本でのリアクションはこんな感じ。
次第に広がっていく中、いずれ不動産価格は反発するだろうと睨み、物件の仕入れを欠かさなかったエスグラント。例によって私の小さな経験で比較をすると、下がり続ける株を切れずに大損失を出したことはありますが、いずれ下げ止めるであろうという判断、当時は出来なかったのは致し方無いことなのだろうか。というかFRBのバーナンキ議長もわかっていなかったようですからね。
「これはまずいぞ」融資を渋る銀行担当者の表情から、私は直感的な恐怖を感じ取っていた。
ついに破綻のはじまり
この時の心情は全部引用したいくらい、リアルな状態が日に日に描かれています。
私も、円ドル80円から120円にかけての時代、クレジットカードで仕入れた海外ブランド品の販売をしていたことはありますが、マーケットの動きは読めない。読まなきゃいけないし、多少の想定外と言われる変動でも耐えられるように設計をしないといけない、といわれればそれまで。私はそのビジネスは売却しました。円ドル110円くらいの時に売ったから、ババ抜きには一応買ったし、銀行取引もなかったから良かった。
杉本氏には、私とは規模も水準も違う利害関係者がいて、大切な仲間もたくさんいたことと想いますが、読んでるだけでもハードな日々です。
いよいよ窮地に
サブプライム問題の深刻化からわずか3カ月。エスグラントはいよいよ窮地へと追い込まれた。信じられないスピードだったが、マンション以外の物件がぴくりとも動かなくなった。エスグラントのために、株を担保にレバレッジをかけて開発に張っていた個人の資金繰りも立ち行かなくなった。
離婚も経験
いや、娘との別れはつらすぎるな・・・いま、会わせてもらってるんでしょうか。ビジネス的な面とかを考慮し、例えば嫁に負債を背負わせないために離婚のような法的判断をすること、これは経営者なら万一に備えて考えたことはなかろうかと。しかし、娘と会えない、これはちょっと私もしんどいですね。。「そのような事が起きないよう、がんばろう」そう思い直した一文でもあります。とんでもないエクスペリエンスですね。
リーマン・ショックの発生
リーマン・ショックの前に、エスグラントは身売りし、ユニマットグループとして経営を建て直していたところ。その後にリーマン・ショックでとどめを刺された形で、一気に破綻の道を進んでいくわけです。
私にも一応、資金繰りに窮して人を当たったり、それでも給与は絶対払わなくてはと財布をすっからかんにしたこともありますが、そんな想い出と重ねて読むにつれ、吐き気されしてくるパートです。なんでこんな想いをしながら本を読まなくっちゃいけないんでしょうか。特に栄光パートとの比較をしちゃうとね。いやぁ、素晴らしい読書体験です。
地獄の日々
先ほどの「離婚」もそうとうな地獄でしょうけども。支払いの督促に、返済リスケジュールの打ち合わせなんてマジ地獄なんですが、これがまだまだ地獄の始まりで、底が見えないのがまた当時の金融情勢の底なし加減を表していますでしょうか。
ここで定番アイテム「ガラスの灰皿」が出てきますが、ここでは自分の側にさりげなく寄せることで、回避。よかった。結局その後、別の人に「ガラスの灰皿」投げられるんですけどね。。本書では、もう何人でてくるんですかってくらい、必至に資金回収に望む人物や、死に体の会社から少しでも旨味を吸い取ろうと近寄ってくるハゲタカ・ヤクザまで、魑魅魍魎な様相。
役員を切り刻んでいく
ここで、創業メンバーの役員までを切り刻んでいきます。ここで切られる役員は、その後の動向で言えばそのほうがよかったわけで、いろいろと案じます。
地獄の忘年会
栄光パートでは、麻布十番貸し切りで豪華なゲスト、権威ある表彰式だった忘年会。渋谷の安い箱を借りて実施した忘年会では、「社員が次々に表彰状を丸めて床に投げつけている」なんて、これヤバすぎませんか。
いたたまれなくて、その場にいれないと思うのですが。
ストレスで髪の毛が抜けた記憶はないな・・・私もまだまだあまちゃんなのでしょうか。シャワールームでむせび泣いたことも無いし、タイル張りに殴りかかって白いタオルを鮮血で染めたこともないな。
人が本当に追い込まれて、一人で抱えているとき、どうなるのか。自分の光栄だけを残す晩年の自伝書ではありえない部分まで照らされており、どのシーンも、移動中、風呂、睡眠前と私の脳裏に思い出されるのです。
民事再生
そして民事再生を申請。会社を民事再生したことはありますか?当日どんな感じになるのか、知ってますか?場合によりけりとは想いますが、こんな感じだそうです。
まだ会社の再起の可能性が1%でもあるならと。誠実に全てを片付けようと。最後は銀行にとどめを刺され、民事再生を選択する杉本氏。
杉本氏本人は、自己破産
民事再生はおろか、自己破産エクスペリエンスなんて、したことないのでわからないのですが、債権者の罵声はこのようなバリエーションになってくるのですね。
さらには、きっと味方と思っていた弁護士からも突きつけられる辛辣なメッセージ、上から目線、敵視、蔑む目線というのは、またしんどかったのではなかろうかと。というか当番弁護士で自己破産する人は、こんな感じになっちゃうんですね。(当番弁護士以外で自己破産というのもなかろうが。。)
栄光と地獄を刮目し、ビジネスの活力にしよう
杉本氏の栄光と地獄を、一面しか切り取っていないので、彼の努力や誠実さ、著名な経営者から可愛がられた人柄など、十分に描ききれていません。しかし、たった1620円の本書でジェットコースターのようなビジネス体験を得ることができるのだから、なんともコストパフォーマンの良いこと。
どんよりと暗い部分の多い描写を見ながら、そしてちゃっかり疑似体験を楽しみながらも、自分の中でなにかストンと落ちて、ああビジネス頑張ろうかな。そう思わせてくれます。ここまで記事を読んでいただいた方がいましたら、「THE READING EXPERIENCE」の視点が広まるといいなと思っています。
「30歳で400億円の負債を抱えた僕が、もう一度、起業を決意した理由」というタイトルにあるように、その理由についてはぜひ本書を手にとってください。
30歳で400億円の負債を抱えた僕が、もう一度、起業を決意した理由
- 作者: 杉本宏之
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2014/07/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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