(「バイオリン協奏曲」)「ららら♪クラシック」今回は…凜とした空気感の中に静かな情熱をたたえた名曲です。
シベリウスは北欧フィンランドを代表する作曲家。
森と湖の国フィンランドは豊かな自然に恵まれた美しい国です。
そんなフィンランドの国民的英雄として愛されたシベリウス。
ところがある時期彼はフィンランドから逃れようとしました。
一体シベリウスに何があったのか?作曲家人生のターニングポイントで書かれたこの「バイオリン協奏曲」。
名曲誕生までの物語です。
「ららら♪クラシック」今日はシベリウスの「バイオリン協奏曲」です。
フィンランドを代表する作曲家の本当に名曲ですよね。
それでは本日のゲスト篠原ともえさんです。
(一同)よろしくお願いします。
篠原さんはシベリウスのふるさとフィンランドに行かれた事があるそうなんですけど。
はい。
一度行った事があるんですけれどほんとに自然が豊かでもうおとぎの国。
絵本の中に自分が飛び込んだみたいな景色なんですよね。
極北なので「極夜」というんですが夜がすごく長くて…。
極夜っていうのは…ず〜っと夜っていうのが極夜なんですね。
フィンランドの夜空は本当に……という印象なんですね。
そのままファンタジーの国みたいですね。
確かにフィンランドっていうとねサンタクロースとか空想が広がるような世界も感じますけども。
サンタクロースにムーミンですか。
ああそうですね。
そうですね。
なんかすごく…もしかしたら今日の曲とは非常に大きな共通点かもしれません。
フィンランドを代表する作曲家のシベリウスなんですけど篠原さんご存じですか?私詳しくはないんですけれどもフィンランド大好きなんで今日勉強させて頂きたいと思います。
是非好きになって頂きたいですね。
そうですね。
それではシベリウスがなぜこの曲を書く事になったのかそこから見ていきましょう。
今年生誕150年を迎えた…ふるさとフィンランドでは国を挙げてのお祝いムード。
シベリウスは今もフィンランド国民に愛されている作曲家です。
彼が活躍を始めた19世紀末フィンランドはロシアの支配下にありました。
民族意識が高まったこの時期国民は独立を目指す熱気に満ちあふれていました。
そんな時代にシベリウスはフィンランドに古くから伝わる伝説や神話など民族的な素材をもとに愛国的な作品を書きます。
中でも祖国愛を描いた彼の代表作「フィンランディア」はロシアの圧政に苦しむ人々を勇気づけたのです。
こうしてシベリウスは独立運動を音楽で担う存在としてフィンランドの国民的英雄となったのです。
しかし彼が本当に望んでいたのはフィンランド国内にとどまらずもっと広い世界で認められる作曲家になる事でした。
そこでシベリウスは作風を変え民族主義的なテーマから離れてより普遍的な作品を書き始めます。
ところが彼の思いとは別にそれらの作品もまた「愛国的な作品」と受け止められてしまうのでした。
「世界で認められる作品を作りたい」。
シベリウスが次こそはと取り組んだ曲…。
(「バイオリン協奏曲」)それがこの「バイオリン協奏曲」だったのです。
バイオリンを愛し自ら高い演奏技術を持っていたシベリウス。
彼にとってバイオリンこそが思いの全てを伝えるのにふさわしい楽器だったのです。
民族主義的作曲家からの脱却を図った勝負の一曲。
「バイオリン協奏曲」にはシベリウスの魂の叫びが込められているのです。
叫びが聞こえましたね。
どこの国でも愛国心ってすごく強いレッテルなのでこうやって貼られてしまうとなかなか剥がせなくなっちゃうんですよね。
やっぱり苦悩していたんでしょうね。
篠原さんもご自身がシノラーとしてほんとにシノラーというジャンルのような形で活動されていましたけど今だいぶイメージが変わりましたよね。
大人です。
しっとりとした。
10代の時はシノラーファッションすごく自分で好きで自分で考えてスタイリングしていたんですがだんだんそれがいろんな自分になってみたいっていうのが年齢とともに出てくるわけですよね。
こだわりを持ってお洋服をスタイリングしててもキャラクターが注目されてしまったりみたいなギャップの葛藤はシベリウスみたいにちょっとあったのかなというのはありますね。
人から「こういうあなたはイメージでしょ」っていうふうに押しつけられているみたいな気はしてたんですか?押しつけられていると思わなかったんですけど「こういうふうに笑顔を届けるのが私の役目だ」っていうふうに思っていたので10代の時は。
なんかそれ以外の自分は誰も認めてくれないんじゃないかみたいな不安はちょっとありました。
でもそれつらいですよね。
実はすごく泣き虫だったりしたのでこっそり泣いたりとか…。
どこで?なんか楽屋の隅とかこっそりトイレでとか…。
今日楽屋で泣いてないですよね?泣いてないです。
今日ご機嫌です。
「ららら♪」って思いながらやって来ました。
だからシベリウスもきっとあったんですよ。
いや何を書いても「愛国的」なんて言われたらたまらないと思いますね。
でもその中で自分の言葉で語れる楽器と出会うというかこれで書ける勝負できるっていう楽器とのやっぱり結び付きも大きいですよね。
そうですね。
じゃあバイオリンが応援団だったんですねシベリウスの。
自分が世界にこれで羽ばたけるっていう。
そうですね。
勝負作でバイオリン・コンチェルトを選ぶんですもんね。
それではシベリウスの勝負の一曲「バイオリン協奏曲」その結果はどうなったんでしょうか。
こちらをご覧下さい。
シベリウスの勝負の一曲「バイオリン協奏曲」は自らの指揮で初演されました。
その結果は…なんと大失敗!シベリウスの思いが強すぎたのです。
あれもこれもと詰め込んだ曲は長く複雑となりバイオリン・ソロは…更にソリストの力不足という不幸も重なったのです。
自分の未熟さを感じたシベリウスはこの曲を封印してしまいます。
すさんだ生活を送るシベリウス。
心の中ではこのままでは……と感じ始めていました。
見かねた友人のアドバイスに従いシベリウスは生活環境を変えたのでした。
移り住んだ土地は湖のほとりの静かな森。
そこは電気も水道もない自給自足の生活を強いられるような場所でした。
そんな環境で献身的にシベリウスを支えたのは…2人が生活した家は妻の名前から「アイノラ」と呼ばれました。
豊かな自然に囲まれたアイノラでの生活はシベリウスの音楽に大きな影響を与えます。
そこにあったのは…そよぐ風揺れる木の葉流れる水…。
余計なものがそぎ落とされたそれらの音は自然の息遣い大地から湧き出てくる音でした。
シベリウスは気付いたのです。
自然の中に身を置く事で内から湧き出てくる音こそが自分の音楽だという事に。
創作意欲を取り戻したシベリウスは封印していた「バイオリン協奏曲」の改訂に取りかかったのでした。
それがシベリウスが目指した「バイオリン協奏曲」であったと言えます。
(「バイオリン協奏曲」)こうして生まれ変わった「バイオリン協奏曲」はシベリウスの新たな音楽への第一歩となります。
それは世界への第一歩でもありました。
その後も自然豊かなアイノラで創作活動を続けたシベリウスは世界で認められる作曲家となったのです。
自然が味方をしてくれたという感じですよね。
電気も水道もないんですからね。
その音を聞くためにというか。
ちょっとねえ…すごい大変だったと思いますね。
でも美濃さんもよく自分の周囲にある自然の音がモチーフになるっていうふうにおっしゃってるじゃないですか。
自然の音に耳を傾けるっていうのもそうですしなんですかね…うん…。
音が教えてくれるっていうわけじゃない…。
集中ももちろんできるじゃないですか静かな方がね。
ちょっと今日は空気が昨日よりも濃い気がするとかそういう自分の…実際に行かれてやっぱりそういう感覚っていうのはありました?私フィンランドでオーロラの音を聞いたんですよ。
これほんとなんですよ!普通はねこう揺らめくだけで音はしないっていうふうに言われてるんですけど小さなカラフルなオーロラがウワーッて拍手みたいに。
もう夜空にあふれてたんです。
どんな音がするんですか?何ていうのかな柔らかい心の拍手みたいな音だったんです。
それが実際に「あっ聞こえる」というよりもなんか私の…それ音楽にしてもらえればねえ。
ほんとにそうですね。
だから私だけがほんと特別に聞いたオーロラの喝采だったのかもしれませんけど特別な瞬間でしたね。
でもシベリウスもそうやってフィンランドの自然とか星を見ながら自分の音楽のモチーフにしていったんでしょうね。
欠かせないものだったんだと思います。
クラシックにまつわる素朴な疑問にお答えしま〜す!お答え頂くのは音楽の事なら何でもお任せ!みんな男の作曲家ですね。
女性の作曲家はいなかったのでしょうか。
実は…それではその人たちは一体どこへ行ってしまったんでしょうか。
例えばロベルト・シューマンの妻であるクララ。
彼女は国際的なピアニストとして非常に有名です。
しかし作曲の才能もあった事が知られているんですね。
ところが当時は彼女の作品は…それはどうしてかと言いますと…なるほど〜!実際にはすてきな作品がたくさんあったのかもしれませんね。
残念。
さて時代は変わって今はどうなんでしょう?この番組の美濃さんも女性の作曲家ですけれども今となっては女性が作曲できるというのはもう当たり前の事になりましたね。
これからは女性作曲家にも注目ですね!番組ではクラシックにまつわるあなたの疑問・質問をお待ちしていま〜す!
(「バイオリン協奏曲」)今日の名曲…世界で認められる作曲家になるためにシベリウスが勝負を懸けた一曲です。
この曲を完成に導いたのはフィンランドの自然でした。
静寂の音がどんな音符になったのか。
作曲家の美濃さんが解説します。
さあこの曲最初の部分が特に大切です。
一瞬にしてね北欧の凜とした空気感に包まれますのでその辺りを詳しく今日は見ていきたいと思います。
今日はですねスタジオにバイオリニスト8人の皆様にお集まり頂いています。
よろしくお願いいたします。
(一同)よろしくお願いします。
さあこれがこの曲の冒頭部分なんですけれども出てくる楽器はこのソロのバイオリンの他に第1バイオリンとそして第2バイオリンと。
バイオリンだけなんですね。
オーケストラのバイオリンパートの絶妙なずらし。
これ一つで作品の世界観が決まるのです。
実はこのバイオリンも第1が2つ第2が2つという事で4つのパートに分かれています。
まずは第1バイオリンの上の人どんな動きをしているかというと…そして第1バイオリンの下のパートは…今度第2バイオリンを見ていきたいと思います。
第2バイオリンは上のパートが…そして下のパートは…これ実は使ってる音は…基本になる3つの音だけなんです。
第1バイオリンと第2バイオリンの楽譜を重ねてずらしてみると…ぴったり!同じ音の繰り返しを1つの音の分だけずらして組み合わせているのです。
一緒に演奏してみるとどんな音になるんでしょう。
スーッとほんと心に響き渡ってく感触がありました。
心地のよいずらし方ですよね。
重なり合ってあえてずらす事によってよりこうザワザワと複雑で…。
ドラマチックな始まり!ドキドキします。
でも静寂な音。
何かを考えさせられるような響きがしてきますよね。
同じ動きをしているバイオリンパートのちょっとした乱れが自然の微妙な移ろいを感じさせます。
こうした静かに同じ事を繰り返しているオーケストラのバイオリンパートがですね実はしばらくすると反乱を起こします。
え〜?どんな印象ですか?後半になって広がったような感じ?広がりましたか。
ええ。
広がりを感じさせるもととなったのはこの6か所の音。
レファラの3つの音しかない世界にドとシの音が入り込んでいたのです。
ほんとに微妙ですよね。
ダイナミックな変化ではないですよね。
もう一度ちょっとね耳を澄まして音を聴いて頂きたいと思います。
雰囲気が少しずつ変化しているという部分がこのシベリウスの仕掛けた反乱の部分です。
バイオリン・ソロを際立たせ聴く者を一気に惹きつける「不調和」の音とは。
続いてソロ・バイオリンですね。
最初のこの音に注目をしたいと思います。
実はオーケストラはレとファとラという非常に安定した基本の和音の中に音が存在しているんですね。
この音の上にソロ・バイオリンが登場してきますので聴いてみましょう。
(篠原)はい。
どうですか?すごい強い意志を感じました。
伝える力があるなって思いましたね。
オーケストラがつくったこのザワザワとした空気感をよりピリッと。
(篠原)貫く感じがありましたよね。
緊張感もありますし鋭さが…。
でも厳しい鋭い音ですよねこれ。
その理由はオーケストラのバイオリンパートが奏でるレファラの調和し安定した響き。
そこにその響きとは調和しないソの音でバイオリン・ソロが始まっているからです。
バイオリン・ソロを際立たせより厳しい空気感をつくり出しているのです。
ではシベリウスが追究した静寂の音に是非耳を傾けながら演奏を聴いて頂きたいと思います。
それではシベリウスの「バイオリン協奏曲」第1楽章をカット版でお聴き下さい。
何だか想像していたものと全然違いました。
もっと穏やかで自然の豊かな感じを奏でるものかと思ったら力強かったり激しくなったり自然そのものの強さとあと時に怖さみたいなものも奏でられてましたね。
やっぱり静かだし冷たい炎みたいなものを感じますね。
透明感ありますしね。
冷たいんだけど炎っていうまさにほんとにそういう表現がぴったりかもしれないですね。
でもそのギャップですごく激しい音階からフワッと柔らかくなる時なんかこう深呼吸をしたくなるような。
実際フィンランドの景色とかってほんとにもう体じゅうで浴びたいような大自然なんですよね。
そういう母国の愛を音で奏でたっていうのがすごくこう五感でちゃんと響き渡ってくれるような。
フィンランドの星は見えました?フィンランドの星見えました!こう瞬いて…雨の日もあるし曇りもある日もあるけど「私たちはここにいるよ」みたいなメッセージ。
私には聞こえました瞬きの音が。
静寂の中に身を委ねると新たな世界が広がるかもしれませんね。
2016/01/14(木) 10:25〜10:55
NHKEテレ1大阪
ららら♪クラシック「静寂から生まれた音〜シベリウスの“バイオリン協奏曲”〜」[字][再]
今回はシベリウスのバイオリン協奏曲。生誕150年を迎えたフィンランドを代表する作曲家シベリウス。彼が作曲家として勝負をかけたこの曲。その誕生までの物語です
詳細情報
番組内容
今回は、シベリウスのバイオリン協奏曲。生誕150年を迎えた、フィンランドを代表する作曲家シベリウス。しかし、ある時期、国民からの過剰な期待に悩み、もがき苦しんでいました。そんな彼を救ったものとは何だったのか?作曲家として勝負をかけた1曲、バイオリン協奏曲誕生までの物語に迫ります。【ゲスト】篠原ともえ【演奏】青木尚佳(バイオリン)渡邊一正(指揮)東京フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)
出演者
【ゲスト】篠原ともえ,【出演】バイオリニスト…青木尚佳,指揮者…渡邊一正,管弦楽…東京フィルハーモニー交響楽団,【司会】石田衣良,加羽沢美濃,【語り】服部伴蔵門
ジャンル :
音楽 – クラシック・オペラ
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
劇場/公演 – ダンス・バレエ
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