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今の仕事10年後もあるか~”みん就”創業者のキャリア像

1月14日 16時55分

野口恭平記者

就職活動の情報交換サイト「みんなの就職活動日記」。40歳より若い世代で、就職活動を経験した方は、お世話になったという人も多いのではないでしょうか。このサイトを立ち上げた、伊藤将雄さん(42)は、その後さまざまなキャリアを経て、現在は、ビッグデータを分析するベンチャー企業「ユーザーローカル」の社長を務めています。
「自分の仕事は10年後もあるか?」。いっときの成功に安住せず、常に自分に問い続けて、ITの最先端の波をとらえてきた伊藤さんに、若い世代へのメッセージを聞きました。(経済部 野口恭平記者)

「みん就」創業期は”趣味”だった

伊藤さんが立ち上げた就職サイト、「みんなの就職活動日記」、略して「みん就」は、就職活動に取り組む学生が、説明会や面接の情報、エントリーシートの書き方、それに合格体験記といった就職活動にまつわる、さまざまな情報を共有するサイトです。
実質的にサービスを開始したのは1997年、伊藤さんはまだ学生でした。現在、企業ごとに約2万6000社の掲示板があり、累計の書き込み総数は900万件以上に上ります。私も9年前、希望する企業の面接の様子などを知るため、情報収集に使っていたのを覚えています。

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:サイトを立ち上げた経緯や、当時の反響をお聞かせください。

伊藤:小学生の時から趣味でプログラミングを勉強していました。このサイトを作ったのは自分の就職活動が終わったころでした。就職活動って、友達みんなが同じ業界に進むわけではないのでとても孤独じゃないですか。それを解決できる、みんながつながって情報を交換できる場所をつくりたいなと思ったのがきっかけです。

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崇高な思いとかは特にありませんでした。サイトを立ち上げた当初は掲示板1つだけでしたが、すぐに業種別に5~6業界の掲示板、次に約30業界、そして大手企業ごとに個別の掲示板・・と拡大していきました。
中でも”ブロードバンド革命”ということばが使われた2000年の初めには一気に利用者が増え、アクセスは前年の10倍に増えました。この頃はまだ仕事の合間の”趣味”の延長線上でした。

ニュース画像「みんなの就職活動日記」(1998年5月)

定年まで働くつもりが3年で転職

大学を卒業後、伊藤さんは経済誌の記者として大手出版社に就職します。「みん就」はあくまで趣味と割り切り、株式会社化する考えはなかったということです。その後のキャリアを考えると意外に思えますが、出版社には、定年退職まで働くつもりだったと言います。いわば「普通のサラリーマン」だったわけですが、入社から3年後、転機を迎えます。

:出版社から、大手IT企業に転職したのはどうしてですか?

伊藤:大学を卒業した時は、普通に就職してそのまま定年退職まで同じ仕事をしていると思っていました。転職を考えたのは、あるきっかけがあったんです。入社後、2年目、友人と沖縄旅行に行きました。
当時はネット通販がはやるとは全く思っていませんでしたが、沖縄の土産物屋へ行ったら、お店の方から『楽天市場というサイトで泡盛を売っているんだ』という話しを聞いて衝撃を受けました。
実はネットがそんなにすごいことになっているんだと。旅行から帰るとすぐに楽天に話を聞きに行きました。三木谷社長とも話す機会があり、ネット業界の可能性を感じて即座に転職を決意しました。

大手企業を辞めて大学院へ

伊藤さんは楽天に入社後、エンジニアとして、携帯電話の通販サイトの立ち上げなどに携わります。そのかたわら、趣味で続けていた「みん就」は、ますます利用者が増加。サーバーの維持に月10万円出費するほどになったことから株式会社化を決断します。そして、勤め先の楽天に会社を売却。数億円を手にしました。ここで伊藤さんは2度目の転機を迎えます。伊藤さん32才の春のことでした。

:大手企業で成功していたにもかかわらず、大学院に進んだそうですね?

伊藤:コンピューターの業界ってものすごい時代の変化が早いので、本格的に一度勉強をし直したいなと思ったのです。今で言うビッグデータなんて言葉はありませんでしたが、テーマに掲げたのはデータ分析です。

当時は多くのサービスがデザインもプログラミングも1人で行っている、まさに趣味のような世界でしたが、ネット業界に参入してくる会社が増えてくると、経営、プログラミング、営業、デザインと分業が行われるようになってきた。
ネットという新しいビジネスを行う中で、職種が別々の人たちがサービス設計するにあたって、サイトの見られ方やサービスの使われ方を、共通の観点で分析する必要があるんじゃないかと考えたのです。

大学院で学んだことをもとに、伊藤さんは、新たに会社を立ち上げました。ビッグデータを分析する事業で、現在は、700社以上のコンサルタント業務を行っています。企業のホームページのどの部分がよく見られているかを分析するサービスで、IT技術の最先端の波を的確にとらえ事業化に成功しました。大学院進学という自分への投資が実を結んだ形です。

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伊藤さんが開発した「User Insight」

クリックの位置などから、ページのどこがよく読まれたかを分析するツール。サーモグラフィのように赤→黄→緑→青で表示。
企業のWebページのコンサルティングなどに活用。

自分の仕事は10年後もあるのか

:最後に、経歴を踏まえて、若い世代にアドバイスをお願いします。

伊藤:すべての人が転職したり大学院にいったりする必要はないと思います。普通は高校や大学時代に学んだ自分の能力をベースにして、社会に出て、最初の3年間に学んだことの延長線で仕事を続けていくじゃないですか。でもその仕事が10年後もずっと存在するとは限りませんよね。
今はITを中心に世の中が大きく変わっていく時代、安定は前提とせずに、例えば大学院に入り直して新しいことを学んでから、次の10年間仕事をするといった考え方も必要なのではないかと思います。

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取材を終えて

今から30年前の小学生時代からプログラミングを趣味で行っていたという少し特別な事情はあるかもしれませんが、ネット通販やビッグデータと新しい技術を敏感に察知して、転職や大学院入学などに踏み出していった経歴は多くの人にとって自分のキャリアを考え直す模範となるのではないかと感じました。
特に「今の仕事が10年後もあるかどうか分からない」という危機感は私たちメディア業界にとってもひと事ではなく、常に新しいことにチャレンジしていかねばならないと肝に銘じたいと思います。


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