去年の年の瀬。
作業服を着た一団が福島県葉町の神社を訪れました。
おはようございます。
(一同)おはようございます。
まずこの場をお借りしまして福島第一原子力発電所の事故に伴いまして大変長きにわたりご迷惑ご不安おかけしてる事を深くおわび申し上げます。
まことに申し訳ございません。
彼らは東京電力の社員たち。
初詣を控えた神社を清掃するためにやって来ました。
原発事故のあと失われた地元との信頼関係。
東京電力は業務として清掃活動を行っています。
会社を支えてきたベテラン社員たちがこれまでとは大きくかけ離れた仕事に携わっています。
見えた。
抜けた抜けた。
会社が起こした原発事故。
東京電力の社員たちはどう受け止めているのか。
原発事故の被害者と最前線で向き合う社員たちを追いました。
かつて7,600人が暮らしていた福島県葉町。
5年前の原発事故によって全ての住民が避難を強いられた町の一つです。
去年9月除染やインフラの整備を進めてきた国は避難指示を解除しました。
住民が少しずつ戻り始めていた11月中旬。
清掃活動を行う東京電力の社員たちに同行しました。
作業は必ずおわびの言葉から始まります。
弊社ですね福島第一の事故で多大なるご迷惑ご不便をおかけしておりましてまことに申し訳ございません。
本日はこの10名でですねお片づけのお手伝いさせて頂きますのでよろしくお願いします。
失礼します。
小林ヨウ子さんと幸喜さん夫婦です。
今も自宅から50キロ離れたアパートで避難生活を送っています。
4年半の間手をつけられなかった家はネズミに荒らされていました。
東京電力は住民の避難先にチラシを配り清掃活動の依頼を受け付けています。
掃除や家具の移動など住民の要望にできる限り応えます。
作業は全て無料で行っています。
事故の前夫婦が大切にしまっていたものを一つ一つ指示を仰いで処分していました。
いいですか?古い書類の整理を始めた小林さん。
その脇で社員がじっと待ちます。
片づけを進める中で事故の前に配られた原発の広報誌が出てきました。
安全だと信じてきた原発。
小林さんは改めてそこに書かれていた事を確かめようとしていました。
社員たちは行くさきざきで原発事故が4年半の間にもたらしたものを目の当たりにする事になります。
(取材者)こういう活動についてはどう思われます?葉町から南に40キロ。
福島県いわき市。
清掃活動を担当している東京電力福島復興本社の事務所です。
こちらは屋内の片づけ除草の受付なんですけども。
住民からの依頼は一日数十件に上ります。
福島復興本社が設置されたのは2013年1月。
3,300人の社員が原発事故で被害を受けた住民の対応などを行っています。
賠償を担当する福島原子力補償相談室。
除染を行う除染推進室。
そして清掃活動などを行う復興推進室。
復興推進室には原発周辺の市町村ごと13グループに分かれそれぞれ10名程度の社員が配置されています。
東京や各地の支店から異動を命じられて来る多くが50歳前後のベテラン社員。
これまでのキャリアに関係なく慣れない清掃活動に2年から3年従事します。
社員の一日は朝7時半に始まります。
必要な道具を身に着けて現場に向かいます。
ゴーグルやマスク長靴などおよそ200人分。
東京電力が清掃活動という新たな業務のために購入しました。
葉町を担当するグループの最年長…3年前東京の多摩支店から転勤してきました。
では改めましておはようございます。
(一同)おはようございます。
この度は弊社の原子力発電所の事故によりまして大変なご迷惑そしてまた今現在もですね多大なご心配をおかけしております事を心より深くおわび申し上げます。
まことに申し訳ございません。
早速作業の方始めさせて頂きますんでよろしくお願いします。
この日の作業は空き地の草刈りでした。
津波で自宅を流された依頼者の親戚がここに新たに家を建てる事になっています。
午後になって雨が降り始めました。
避難指示が解除されてから依頼が急増し予約は1か月先まで埋まっています。
忠地さんは作業を続ける事を優先しました。
忠地さんは長野県出身。
5歳の頃自宅に通った電気に感動し高校卒業後東京電力に入社。
長年電気メーターの検針など料金関係の仕事に携わってきました。
50歳の時発電所の必要性をPRする仕事に就きます。
見学希望者を福島第一原発に案内する事もありました。
安全性を説明してきた訳ですよね。
「こういう場合はどうなるの?」っていう質問に対してもそういう時にはこうだよっていうそういう答えがありましたからだからそれが違ってたという事についてはうそをついちゃったなっていうそういう思いがありますよね。
償いあるいは報わなくちゃいけない。
そういう気持ちが最初に起きたと。
忠地さんは今会社の事務所があるいわき市に妻と2人で暮らしています。
ここ好きなんですよ。
この土手がね。
福島に来て3年。
散歩の道すがら顔見知りもできました。
こんにちは。
また。
地元の人と挨拶を交わすようになっても忠地さんには言いだしにくい事があります。
原発事故以来東京電力の社員である事を人前で堂々と明かす事ができずにいます。
秋に行われた東京電力の人事異動で新たに17人が清掃活動に配属されました。
葉町グループの…入社以来30年以上変電設備を管理する技術者として働いてきました。
腰をうまく体を振ってやる。
そうすると30分ぐらい全然疲れないで刈れます。
まず最初に習うのは草刈り機の使い方です。
(笛の音)草刈りは住民からの依頼が最も多い仕事の一つです。
宍倉さんの初仕事の日。
依頼者は九州に避難している老夫婦です。
帰宅する準備の手始めに納屋の中にあるものは全て処分してほしいという依頼でした。
作業開始から1時間。
子ども用の自転車が出てきました。
少しずつそこにあった家族の暮らしが見えてきました。
「ちびの家」と書かれた犬小屋。
餅つき用の臼。
自宅に戻れないまま5度目の正月が過ぎようとしていました。
住人の人にとってはやっぱり東電は憎たらしい存在なのかなって感じで思いました。
福島への転勤を機に宍倉さんは初めて単身赴任生活を送る事になりました。
妻と子どもを千葉の自宅に残し1Kのアパートに住んでいます。
夕食は毎日コンビニで買ってきた弁当です。
月に1〜2度妻が手料理を送ってくれます。
毎日少しずつ食べています。
5年前自分の会社で起きた原発事故に大きな衝撃を受けました。
テレビの映像ですかあの水素爆発のあの事故を見た時は「東京電力は明日からどうなっちゃうんだろう。
潰れて俺たちは路頭に迷っちゃうんじゃないかな」っていうのは一番最初に思いましたね。
このまま…まあ人生じゃないですけどもやはり多大な迷惑もかけて会社としては成り立っていかないんじゃないかなっていうのが率直に思いましたね。
宍倉さんはいつか自分も福島に異動する事になると覚悟してきました。
あんな重大事故をやったのにお前は全然関わらなくてそれでも東京電力社員なのかって自分の中で何か葛藤みたいのがあったような感じがあったんでそれだと自分で会社生活よかったのかなって形…。
悔いが残るのは嫌なんですよね。
葉町グループ最年長の忠地さんです。
定年を前に避難者の力になりたいと福島にやって来ましたが厳しい現実に直面しています。
4年半の間に避難先で生活基盤が出来町に戻らないと決めた人が増えています。
避難指示解除から4か月で葉町に戻った人はおよそ400人。
全住民の5%にすぎません。
まあきつい時もありますよ。
ありますけどそれは自分がへこたれないようにね。
少しずつ少しずつやるしかないと思うんです。
途中でやめられないですからねこれは。
こちらのお宅です。
この日忠地さんが向かったのは以前片づけを手伝った小林さん夫婦の家でした。
おはようございます。
我々ご挨拶させて頂きますのでよろしゅうございますか?弊社福島第一原子力発電所の事故によりまして多大なご迷惑そしてまた…。
何度目の訪問であっても住民へのおわびから始まります。
まことに申し訳ございません。
小林さんの自宅の清掃はまだ終わっていません。
週に一度避難先から通って片づけを続けていました。
この日忠地さんが頼まれたのは庭の草刈りでした。
以前のように果物やハーブを楽しめる庭に戻してほしいと求められました。
土の中に根を張り巡らせた雑草は一本一本手作業で抜いていきます。
よかった。
きれいになった。
4年半ぶりに本来の庭の姿を取り戻しました。
一仕事終えた忠地さん。
人の気配がしない近所の様子を聞いてみました。
近所の人が戻らず生活環境も整わない。
小林さんもまたいつ帰るのか決めかねていました。
(一同)おはようございます。
12月住民からの依頼は途切れる事なく続いていました。
心より深くおわび申し上げます。
まことに申し訳ございません。
この日受けた依頼は塗装の仕事で使っていた作業場の片づけ。
依頼者は作業場も自宅も解体しほかの町に移住する事を決めていました。
はいありがとうございました。
原発事故の被害者と接する中で忠地さんは決めた事があります。
「あと5年65歳までは福島にとどまり清掃活動を続けていく」。
事故を起こしたお前らは加害者だろうと見られてるって事ですよね。
それは悲しいですよね。
悲しいというか…。
僕はそこをもう少し許して頂きたいというところから…。
ちょっと甘いですかね考えが。
どうでしょうか。
許される…。
う〜ん許されないと思いますきっと。
許してくれない。
いろんなもんめちゃくちゃにしちゃいましたんでね。
もうそれは何か許してもらえる…もらえそうにないですね。
ええ。
東京電力福島復興本社。
これまで葉町で行ってきた清掃活動は延べ1,200件。
終わりは見えません。
私どもにできる事ございましたらご相談頂きましてお手伝いさせて頂きたいと思います。
本日はどうもありがとうございました。
2016/01/14(木) 00:24〜00:54
NHK総合1・神戸
NEXT 未来のために「社員たちの原発事故/東京電力 復興本社」[字]
原発事故で荒れ果てた町。家屋や庭の清掃を毎日行うグループがある。東京電力のベテラン社員たち。信頼回復のため送りこまれた。いま何を思い活動に従事しているのか—。
詳細情報
番組内容
原発事故による避難指示が解除され、住民の帰還が始まった福島県楢葉町。5年近く放置されてきた家屋の掃除や、庭の草刈りを毎日行っているグループがある。東京電力「復興本社」の社員たち。地元住民からの信頼を回復するため、ベテラン社員が数年交代で送りこまれ、業務として清掃活動を行っている。会社が起こした原発事故。その被害者に最前線で向き合う社員たちはいま、何を思い活動に従事しているのか…。3か月密着した。
出演者
【語り】高瀬耕造
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
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