人口360人余りの小さな島。
村の生き残りを懸けた話し合いが始まっていました。
若者たちのアイデアに地元の住民から厳しい反発の声が上がりました。
日本が直面する人口減少。
50年後には8,000万人近くまでに減りおよそ半数の自治体に消滅の可能性が指摘されています。
人口1億人を維持するため政府が地方に求めたのが地方版総合戦略。
自治体ごとに人口減少対策を募り独創的なアイデアには交付金をつけるとしたのです。
そのために集められたのが69人のキャリア官僚や大学教授コンサルタントたちです。
人口5万人以下の小さな市町村の求めに応じて派遣され戦略作りを手助けします。
中でも最も困難が予想されたのが人口減少が加速する新潟県の粟島。
日本海に浮かぶ365人の村です。
村が生き残る戦略とは何か?自分たちは何をすればいいのか?小さな島の挑戦を見つめました。
年に一度の島民総出の祭りでにぎわう粟島浦村。
去年4月この島に派遣されたコンサルタントの阿部剛志さんです。
村の新参者は祭りで一芸を披露するのが習わしです。
(拍手)大将お任せでいい?年明けタラでいいかい?タラでいいですよ。
じゃあよろしく。
いくよ〜!
(笑い声)阿部さんはシンクタンクに勤めています。
離島で雇用対策に携わってきた経験を買われ村の戦略作りを任されました。
しかし村は基幹産業の民宿業が衰退。
民宿の数は最盛期の70軒から33軒に減っています。
更に25年後には40歳未満の成人女性がたった2人になると見込まれ人口減少が全国で最も進むと指摘されています。
こうした厳しい状況の中村の人と協力して作らなければならない総合戦略。
そのための人材は不足しているうえ完成までに与えられた時間は僅か1年です。
こんばんは「クローズアップ現代」です。
日本の多くの市町村は人口減少が進んでいる最前線です。
産まれる子供の数や移住してくる人々を増やしたい。
もっと明るい未来に向けて地域にはどんな可能性があるのか危機感を抱きながら今国が今年度中の策定を求める地方版総合戦略作りにあたっている地方自治体が少なくありません。
国が用意した交付金は総額1,000億円です。
国に優れた事業と認定されれば最大8,000万円の交付金が下りる予定です。
地方の課題をお金で解決する事は容易な事ではありません。
これまで行われてきた地方活性化策の中には効果が疑問視されるものも少なくないだけに本当に地域に変化を生みだせる戦略を各自治体は描けるのか問われています。
去年10月末で策定を終えた自治体は43%。
残された時間は3か月です。
今夜ご覧頂くのは生き残り戦略を住民自身の手で時間をかけて描いている自治体粟島浦村です。
政府が派遣した官僚などの支援を受けながらスピーディーに策定を進めた自治体が多い中粟島浦村のあえて時間をかけた取り組みはどんな再生への手がかりをもたらしているのか?その姿をじっくりとご覧頂きます。
全国の自治体の中で最も早く総合戦略を作り上げた一つが人口1万1,000人の鹿児島県長島町です。
この町は100億円の売り上げを誇る基幹産業のぶり養殖を生かした戦略を打ち出しています。
その先頭に立ったのは総務省のキャリア官僚井上貴至さん30歳です。
就任から4か月。
全国の先行事例から学んだ48の事業を盛り込んだ戦略を発表しました。
(井上)おはようございます。
その一つがぶりを全国の消費者向けにブランド化して売る通販誌の発刊です。
養殖事業の利益を拡大させ雇用を増やすねらいです。
更にぶりの売り上げの一部を利用した奨学金制度を設立。
将来町に戻れば学費の返済を免除するという仕組みで人口減少を食い止める作戦です。
長島町をはじめ去年10月末の時点で総合戦略を国に提出した自治体はおよそ43%に達していました。
独自の事業を掲げ多くは交付金の配布を受けています。
一方戦略の要となる基幹産業が衰退している新潟県の粟島。
総合戦略はいまだ白紙のままでした。
まず問題は戦略作りを担う人材です。
コンサルタントの阿部さんは「戦略は住民自らが描く事が何より大切」と考えていました。
阿部さんが目を付けたのは移住者を中心とする40代までの若い世代でした。
今阿部さんが期待を寄せるのが3年前に新潟市から移住してきた青柳花子さんです。
村の保育士を手始めに民宿の手伝いや観光船の乗務員とさまざまな仕事を経験。
定住を考えるほど島のファンならばとアイデアを考えてもらいました。
出てきたのが1泊素泊まり2,000〜3,000円程度の格安料金で若者が長期滞在できる宿泊施設です。
島の暮らしを満喫してもらいそこから定住につなげる事を目指します。
しかし格安のゲストハウスをつくるという花子さんの計画は住民たちの間に波紋を広げていました。
島の民宿はどこも一律料金。
1泊2食で7,020円が約束事でした。
7,020円になったわけですから次は7,140円になるのかな?そういうふうな計算のもとで…。
小さな島で客を奪い合わないよう編み出した民宿経営者の知恵でした。
組合で役員を務める三富葉子さん。
今回の計画で新たな宿泊施設が出来れば共倒れしかねない事を懸念しています。
島民たちの慎重な姿勢の背景には国が長年行ってきた地方活性化策への不信感があります。
80年代には国の事業で特産品の加工場を造り島外の企業に経営を託しました。
しかし採算が取れず数年で撤退しました。
ふるさと創生事業では1億円の交付金の中から婚活パーティーを開催。
カップルは生まれず1回限りで終わりました。
住民の不信感が拭えない中今度こそ一過性に終わらない取り組みが村に求められていました。
期限まで残り4か月を切った11月のある日。
ゲストハウス計画に対する住民たちの不満が噴出しました。
花子さんが事業計画の詳細について話している時の事でした。
実家が民宿を経営するこの男性。
多くの民宿が経営に苦労する中花子さんが国の交付金を受けて参入する事に憤っていました。
(取材者)花子さんあれですか…ちょっと厳しかった?厳しいじゃないです。
島の現実を前に花子さんは計画の見直しを迫られました。
今夜のゲストはコミュニティーデザイナーの山崎亮さんです。
地域づくりに大変お詳しくいらっしゃるんですけれどもこれだけ人口減少将来の予測が厳しい島ならば外から来た方のアイデアを大歓迎するかと思いきやかなり抵抗感が強かったという姿がまざまざと見えるんですけれどもどのようにご覧になられました?365人これは大変だなというのが率直な感想ですね。
これぐらいの人口というのはVTRの中でも旅館の三富葉子さんおかあさんがねおっしゃってたみたいにみんな親戚みたいなものなんでしょうね。
なのでこういう強いつながりの中で何かを動かしていこうと思う時には家族のような関係の中からどういうふうにそれを新しい方向へつむぎなおしていくのかという事が大切になると思いますね。
例えば何かの事情でお母さんが入院しなきゃいけなくなっちゃった。
こうなってくると子供さんたちが例えば家事を手伝うとかねお父さんの役割が少し変わってくる。
それぞれの人間関係と役割が変わってくるところがすごく大事でそのあとお母さんがまた家に戻ってきた時には長男たちが例えばすごく立派になってるねとかね自ら主体的に動くようになってきたね。
こういう状況をいかに生みだしていくのかこういう事が大切になってくると思いますので。
家族関係をうまく揺さぶれるかというとこですけれども今見ますと外から来た変化をもたらしてくれそうな人に対する不信感あるいは「あなたの本気度はどこまであるんだ」って問われる。
その島の人々の気持ちその気持ちの背景には何があるんですか?これもやっぱりまず一つは家族だとすると外から入ってくるものに対してはどうしても拒絶感があったり新しい変化というものを少し懐疑的に見るという気持ちはこれ自然と生まれる事だと思います。
なおかつこれまで地方創生あるいは地域活性化という事でやってきた事業がちょっと不信感を抱かせるような結果に終わってしまっているという事も体験的に皆さん感じられてる事が多いんだろうと思いますね。
なのでまた次も駄目なんじゃないかとかあなたは例えば国の補助でそれをやろうとしてるのかというような事がどうしても気になっちゃうのでその本気度を確かめたくなるという気持ちが湧いてしまうんだと思いますね。
何か外から来た人が特別扱いされるというような事でまなざしが厳しくなる。
そういう例も見てこられたわけですか?例えば2007年からおつきあいさせて頂いてた島根県の海士町という島まあ地方活性化の中では大変優れた実績を残されたんですけれども我々が関わった当初はやはり役場の人たちが外から入ってくる移住者ばっかりに優遇策を出しているんじゃないかという話をとてもよく聞きました。
さあその花子さんのプロジェクトですけれどもその後どうなったのかご覧下さい。
ゲストハウス計画を提案した青柳花子さんは使えそうな空き家を探していました。
しかし島外から移住してきた花子さんに物件を貸してくれる村の人は一向に現れません。
何回でも…。
(青柳)何回でもお願いする。
何回でも来る。
(阿部)家の場所覚えたよ。
花子さんは阿部さんと共に計画の見直しを進めていました。
宿泊料金は民宿に準じるなど島のルールに寄り添う事。
更に運転資金は交付金に頼らず自前で調達する事に決めました。
12月花子さんたちの熱意は島の空気を少しずつ変え始めていました。
空き家を貸してもよいという人が現れたのです。
本当にありがとうございます。
あ〜うれしい!
(男性)一生懸命花子がやってたんでよ。
その20日後。
花子さんは阿部さんと共に練り直した計画を手に民宿の組合長を訪ねました。
図面をもとに計画の詳細を説明。
村の正式な事業計画として認めてほしいと迫りました。
花子さんの計画は民宿と共存し観光の再生につながる計画と認められるのか?村は若い世代の新たな挑戦に懸けてみる事にしました。
花子さんのプロジェクトはその戦略に書き込まれて動きだすという方向に今なってるわけですけれども人間関係が濃密でそしていろいろな古いルールがある地域というのはここだけじゃなくて日本全国にあると思うんですけどそういった中で理解を進めて本当の変化をもたらしていくうえでのどういうプロセスを踏んでいけば着実に進んでいくんですか?まずはやはり誰かが持ってきたものをやろうという事ではない事。
これとても大切ですね。
先ほどの家族や親戚の例で言うとお母さん入院してる間にお手伝いさんを雇いました。
それでお手伝いさんが全部やってくれたら多分子供さんたちの自立も変わらなかっただろうし役割も変わらなかった。
だからやはり本人たちがこれをやるというふうに言いだしたかどうかという事とこの人たちと一緒にやりたいと思えるような仲間をちょっと時間はかかるけれどもつくる事ができたかどうか。
この辺りはすごく大切になると思いますね。
コンサルタントの阿部さんは40代までの移住してきた人たちを中心としての話し合いを重ねた。
その中でその気づきなどあるいはその理解こういうやり方もあるんだというのはどういうふうに生まれてくるものなんですか?まずやはり情報を知る事が大事でしょうね。
情報を知らないとなかなか新しい発想が出てきませんのでこれから島の人口はどれぐらいになるのかそれからもし人口が減ってしまうんだったらどんなやり方があるのか全国や世界の事例をみんなに知って頂く。
その中から自分の生活実感とこれならできそうだなと思う事を組み合わせて動きだす人たちをサポートしていくと。
ちょっと時間かかるんですけどねこのやり方はとてもいいんじゃないかなと思いますね。
これなら自分たちの町でできそうだという事を自分たちに言わせる。
その人たちに言わせるという事ですか?外から来た人が「これでうまくいきます」と言っちゃうとどうしてもやっぱり「じゃあお手並み拝見といこうか」という感じになっちゃいます。
もし失敗した時も責任を外部化してしまう事になりますので本人たちができる。
そしてやると。
要望や陳情型の意見ではなくて提案・実行型の意見ですね。
そういうものを住民の中からどういうふうに出していくかが大切になると思います。
本当に提案されたものが実行できるかそれは人間関係が大事だというふうにもおっしゃったんですけどもどこを見てらっしゃる?どういう人を見てらっしゃるんですか?地域の中のとても気持ちが強い人とそれからそういう人をサポートするのがうまい人。
こういう地域の人たちをどういうふうに組み合わせると新しい力が生まれてくるかこういう事をずっと見てます。
なのでやっぱり人と人のつながりをどういうふうにつくっていくのか最初にそれを見てそのあとつながった人たちが地域資源とどういうふうにつながると新しい事業が生みだされるのか?人と物の関係を見るのはその次ぐらいかもしれないですね。
この戦略作りあと3か月。
この1年で取り組んできたわけですけれども本当に時間が十分あったんだろうかというふうに思ってしまうんですけれども。
そうですね。
確かに1年間で作りなさいと言われてしまうと住民参加で進めるという時間がないように思われるかもしれません。
もしこの10年5年の間住民と対話をきっちりとしてきた自治体であれば逆に言うと充実した中身をすぐに提案する事ができる。
ひょっとしたら国に時間が足りないんじゃないかと文句を言うよりも自治体自体が町民ときっちり対話をしてきたかどうかここが問われてるのかもしれないですね。
これは役場の中で作るものではなくて住民と行政この話し合いですね。
そうですね。
それがないと続かないんじゃないかと思います。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
山崎亮さんと共にお伝えしました。
2016/01/13(水) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「小さな島の大きな決断〜地方創生の現場から〜」[字]
“消滅の危機”にある人口365人の新潟県の離島で始まった人口減少を食い止めるプロジェクト。若者リーダーが講じた起死回生の策とは?生き残りに向けた格闘を追う。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】コミュニティデザイナー…山崎亮,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】コミュニティデザイナー…山崎亮,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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