本格的な寒さの到来。
灰色の冬雲に覆われている…暖を逃すまいと真っ白な羽根を膨らませたたずむサギ。
「雪の化身」とも言われる。
この時期0度近くまで冷え込む古民家の朝。
ベニシアさんの庭は今ひと休み中だ。
植物たちは遠い春の夢を見ている。
庭仕事の少ない冬の間ベニシアさんは家の手入れをする。
漆塗りのテーブルはつばき油で丹念に磨く。
冬になったらもうほとんどやる事が無くなる。
だから家の中の物を直したりとか磨いたり。
なんか漆鏡みたいね。
見えますね。
丁寧に磨くとかつての輝きを取り戻していく。
ベニシアさんは古い物にこそ愛着が湧くと言う。
手で作ったものでしょ。
何でも物を作るのに時間かかるじゃないですか。
だからそれを大切にしないとアカンと思うのね。
触ると分かるよ。
プラスチックのおぼんを触った時とこれ触った時の手の感じ全く違うのね。
雰囲気があるというかバイブレーションがあるのね。
私たちほとんど多分分かってないんだけどでも気持ちいいのね。
ベニシアさんの書斎にも漆塗りの着物掛けがある。
舞子さんが…いつの時代でこれ使ったんだろうね。
かわいいと思ったのかなあ?これだったらちょうどサイズはスカーフのためにいいと思って。
あとこの色とか梅がついて何て言うのかな遊んだみたいなところがあるから…。
作った人は結構愛情もって作ったと思う。
作った人。
使ってきた人過ぎ去った長い時間に思いをはせて手入れする。
古い物の楽しさはそこにある。
この日友人が遊びに来た。
(藤井)こんにちは。
・あ〜!
(藤井)久しぶり。
久しぶり。
入ってきて。
ちょっとお邪魔しま〜す。
やって来たのは藤井山次さん。
大原で襖や屏風などの修復をしている表具師。
この襖を修復したのも藤井さん。
ベニシアさんがこの家に越してくるきっかけになった襖は当初かなり傷んだ状態だった。
あの時山次が取りに来た時さぱ〜っと出したでしょ。
あ〜急に破っちゃって。
「大丈夫かな?」と思って。
藤井さんの手で生き返った襖。
こうして古い物を直してまたここに置いて頂いてそれをまた見るって事はめったにないんでね。
これを見た時この家を欲しくなったっていうか。
これもしかして大原と思うけど…。
何となくそういう気分で見てるんですけど。
昔多分道とかない川が流れて。
昔襖絵を描く人はしばしその家に逗留したと言う。
大原の自然に心惹かれた旅の絵師がこの風景を描いたのかもしれない。
古い物が大好きな2人の話は尽きない。
大原にある藤井さんの自宅兼工房。
物であふれたこの場所には人2人入るのが精いっぱい。
藤井さんへの修復依頼はひっきりなしにくる。
そのほとんどがロンドンやニューヨークなど海外からのもの。
だから藤井さん英語も堪能だ。
修復作業は屏風などの土台から絵を取り外す事から始まる。
さびてますからねなかなか取れないんですよ。
金具で留められている木枠を外し屏風の縁取り部分であるへりを丁寧に外していく。
紙に力が無くなってるでしょ。
粉になってますもんね。
粉になりますから。
これもう使えない。
はいめくれました。
絵の下に張られている「下張り」と呼ばれる紙を全て剥がす。
これが藤井さんの楽しみ。
これね昔の日記とか判取帳っていうんですか。
古い紙を大事に使ってそれを下張りに使ってますから。
捨てたらもったいないんで。
うまくみんなこれで紙の再生利用を昔の人はしてるんですよね。
昔の人の暮らしの片鱗。
これ書道のね練習したやつだとか。
何やら書いてありますけど…。
何でしょうねえ?ついつい読んでしまい手が止まってしまう事も。
これなんかちょっとこう…絵を練習したのか。
ね。
何か絵とか…。
あのね侍か何かの食事の日記がありました。
あんまりいい物食べてなかったですね。
芋の煮つけとか大根の炊いたのとかメザシとか。
1回だけありました。
僕の記憶の中では。
使い古しの紙すら大切にしていた生活。
その時代をかいま見る。
結局表がこういう状態ですから裏をめくってほらこんだけ直してあるんですよ。
長い年月がたっている屏風ほど修復の跡が多く残されている。
例えば金ぱくも修復跡が明らかに分かるような違う色の紙が貼られていたりする。
藤井さんは「それも歴史」とそのままにして穴が開いた部分のみを修復する。
修復の材料として棚に隙間なく詰め込まれた紙の束。
藤井さんが骨とう市や知り合いを通じて少しずつ集めてきた。
古い紙古い裏紙とか全部コレクションしてあって小さな穴が開いていても全く色の違う紙を入れるんだったら多少でも似た紙を入れておくほうが目立たないし味もありますし。
新しいやつだとどうしても色がねかなり違いますから。
光ったりとか。
経年劣化というか百年二百年たった紙はそれなりの良さがありますから。
これは屏風の裏の紙。
これはあの〜まだ使える古い大きな金紙。
また裏紙とか大体分かってますから。
変に誰かが掃除してくれるとさっぱり分からなくなる。
古いもんだから売ってませんからねこれ。
ほかの人にはゴミに見えても藤井さんには宝物。
これはかなり古い金ですよね。
これやったら全然色が違いますからね。
こういう金の修理のところにこれを貼ったって全く駄目ですから。
だからこれ全部ゴミじゃないんですよ。
全部ストックしてるんですよ。
僅かな金のかけらであっても。
これが僕の一番大事な宝物ですから。
こちらの金は黄色いし。
これは赤いし。
材料がそろわない場合は仕事を急がず納得いくまで何年もかけると言う。
藤井さんが今取りかかっているのは今年3月ニューヨークで開かれるアンティークショーに出品されるものだ。
江戸初期に描かれた桜の屏風。
欠落したところを…加筆言うたらおかしいけど元どおりに近いように戻してやるとか。
あえて変に花や枝を描く事はあんまりしないですけどね。
重ね塗りをしていくときれいにやわらかく盛り上がって。
慌てていっぺんにすると駄目なんでなかなか時間がかかるんです。
乾いては塗る乾いては塗るという作業ですね。
「胡粉」という貝殻を砕いた顔料を塗り重ねグレーに退色した桜と同じ色を作り出し仕上げる。
古い絵だけにいたずら書きのような跡もある。
こういう包丁があるんです。
これはぬれた布とか紙を切るのに使う包丁なんですけどこの先で表面を軽く削り落としてやるとか。
そしてもう一度分からないようにするとかそういう努力はしますけど。
専用の丸包丁で丁寧に表面を削り落としていく藤井さん。
はい。
修復は独自に作り出した顔料で。
これ秘密の液体ですからね。
成分は言いませんよ。
古く見せるためには何を使うかという事ですよね。
いろんなもの混ぜて乾かしてこれとバランスがとれるかといろいろやってみました。
でも毎回違うので。
同じものが二度とないのでそれが毎回使えるとは限りませんから。
その度にどういうふうに古色をつけるかどういうふうに時代を出してやろうかと難しい話ですけどね。
皆さんそれぞれ自分のテクニックを持ってると思いますので。
自分で研究するという事ですね。
あえてこれを習うという事はないので。
藤井さんが表具師の道に入ったのは30歳の時。
高校卒業後西陣織の家業を継いでいた。
ある時知り合いから「修復の勉強をしないか」と誘われ絵を描く事が好きだった藤井さんはすぐさま転身を決めた。
3年の修業後独立。
以来30年。
500双以上の屏風の修復を手がけてきた。
はいジグソーパズルが大好きです。
絶対しませんけど。
それに近い仕事があるんですよね。
裏から見ていればもう穴が開いてスケスケでそれを埋めていくだけでも相当な時間かかりますから。
根気は要る仕事だと思いますけど。
朽ち果てるというかそれに近いような状態でも直せば直りますからなんとか。
この屏風を誰が描いたどんな人が作ったじゃなくて古い物を大事にしてもらうと僕は一番にそう思ってますけど。
だからどんなに無名の作家さんの作品であろうが直すのはちゃんと直してあげようとは思ってます。
絵を描いた人。
その絵を大切にして守ってきた人。
その声に心を傾けて藤井さんは修復する。
そうしてよみがえった屏風はこれからも長い時を生き続けていく。
ベニシアさん愛用の古いミシン。
もともとは山岳写真家の夫正さんが山道具の修理に使っていた。
冬はこのミシンの出番が多い。
好きなものは形を変えても使い続けるというベニシアさん。
今日は古着でベニシア流鍋敷きを作る。
香りがある鍋敷きを作ろうと思ってるのね。
…で最初は袋みたく作ります。
あとでハーブ入れますけど。
大体古い物で作るのね。
鍋敷きにするのは古いかすりの生地。
生地に好みの大きさの型紙を当て待ち針で留めていく。
ちょうどこのナプキンの大きさにしようと思ってる。
次に型紙に縫い代をつけて裁断。
2枚の布を内側が表生地になるように合わせ待ち針を打ちしつけ糸で仮縫い。
子どもの服や家のカーテンこれまでも自分で作ってきた。
…で1つの角を開けますね。
裏返しするために。
あとハーブ入れないといけないから。
手が入ればいいのね。
手が入る大きさ。
仮縫いに沿って縫っていく。
はい出来ました。
あとは布を表に返しハーブを入れるだけ。
この中にハーブ入れるから。
好きなハーブでいいんだけど私はベイリーフとクローブ使って。
そしたら鍋を上に載せたら香りがすごく部屋の中にいい香りが出るから。
鍋敷きの中にハーブを入れるのがベニシア流。
庭でとれたベイリーフとクローブを使う。
そしたらハーブ。
たくさん余ってるベイリーフありますから。
このベイリーフすごくいい匂い。
あとクローブ。
これもすごい。
ベイリーフは枝から外し手でもみ細かくする。
こうする事でより強い香りが出る。
次にクローブをすり鉢で軽く潰す。
あの…こういうふうにやったら香りが出るの。
ドライハーブでもそうだけど…。
細かくなったら先ほど作った布袋にハーブを入れる。
全部入れて。
今度これを留めるようにしますから。
次に鍋敷きをつり下げる事が出来るようリボンを用意。
こういう…リボンをキープして。
こういうものね。
あ〜これでいいかな。
きれいじゃないんですけどいつか使えるかなと思ってキープするのね。
これもそうだし。
仮縫いをしたリボン部分を留め袋を完全に縫い付ける。
そして最後に鍋敷きの中心に刺しゅう用の糸を通し飾り結びを作って完成。
こうしておくと中身が偏らない。
出来ました。
早速温かいスープの土鍋を載せる。
熱で徐々にハーブのスパイシーな香りが食卓を包む。
押し入れで眠っていた服が新しく生まれ変わった。
古いミシンを大切に使っていくために年に一度メンテナンスに出すベニシアさん。
やって来たのは京都市内のミシン修理店。
ふだんは業務用ミシン専門だが古い友人のベニシアさんは特別だ。
(西村)マシンが悪い訳ではないんです。
どこも。
1年に1回ぐらい気ぃ付けてほしいのは今寝させて説明しますけどこれですね。
この釜の部分。
ここに1滴だけでよろしいわ。
あっホント。
へえ知らなかった。
どこもミシンのほうは悪くないですから。
その油だけですからね。
「これだけですか〜」ちゅう話ね。
へえ〜そうか。
やっぱりそういう事分からないと長もちしないもんな。
そうだよね。
これはOKです。
ありがとうございます。
古民家の思い出を紡いできたミシンが元気になった。
庭仕事の代わりにこたつで植物の絵を描く。
四季のある日本で暮らす喜び。
ベニシアさんの冬は楽しい。
2016/01/13(水) 12:25〜12:55
NHKEテレ1大阪
猫のしっぽ カエルの手「古いものを美しく」[字][再]
山々からの凍(い)てつく風が吹きわたる冬の大原。ベニシアさんの庭も眠る季節。普段できない家の中の手入れをするベニシアさん。古着を使ってハーブが香る鍋敷きを作る。
詳細情報
番組内容
山々からのいてつく風が吹きわたる冬の京都・大原。ベニシアさんの庭も眠る季節。ふだんできない家の中の手入れをして、つばき油で漆塗りのお盆や着物をかける衣桁(いこう)を磨き、つやを出す。古いものこそ愛着がわく。ベニシアさんは「手入れをして大切にずっと使い続けたい」という。夫・正さんの母親にいただいた古着を使い、クローブとベイリーフの鍋敷きを作る。鍋の熱でハーブの香りが部屋中に広がり、夕食を彩る。
出演者
【出演】ベニシア・スタンリー・スミス,【語り】山崎樹範
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
趣味/教育 – 園芸・ペット・手芸
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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