近代日本を代表する思想家内村鑑三。
代表作「代表的日本人」は世界に向けて英語で書かれた本です。
開国から僅か50年で大国との戦争に次々と勝ち抜いた日本が好奇と偏見の目で見られていた時代。
キリスト教徒だった内村があえて日本の歴史的偉人たちと向き合った意味とは。
強い意志を感じますね。
現代の日本に響く内村のメッセージに迫ります。
(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…早速ですが今回から扱う名著ご紹介しましょう。
こちらでございます。
英語だ。
訳すとこちらです。
著者は内村鑑三。
明治時代に世界に日本を紹介するために英語で書かれた名著なんです。
内村鑑三さんは何回かクイズ番組で出てきて俺答えられなかった記憶がありますけど聞き覚えはちゃんとあります。
その彼がなぜ日本の歴史的偉人たちを書いたのかそしてどんなメッセージが込められているのか見ていきたいと思います。
指南役をご紹介しましょう。
批評家の若松英輔さんです。
(一同)よろしくお願いします。
専門は近代日本の精神史。
内村鑑三を読む事は現代の日本を考える事につながるといいます。
さあこちらが内村鑑三のプロフィールでございます。
1861年江戸時代の末期に下級武士の子として生まれて札幌農学校でキリスト教に出会って洗礼を受けるんですね。
卒業後アメリカに留学しまして帰国後教師をしたりするんです。
そんな西洋に行って学んできた彼がなぜ帰ってきて日本人日本の内側の事を書くのかという。
内村はこの時代に留学したとても数少ない人の一人なんですけども海外ではあんまりいい思いもしなかったんですね。
それはこの時期は日本というのが戦争にまい進していく時代でもあったわけですよね。
ですので日本人が持っている本当の平和の心みたいなものが伝わらずに…それを何ていうんでしょうか…この「代表的日本人」という本だったんだと思うんですね。
海外の人の日本に対する興味というのは大ざっぱでどんな感じなんですか当時。
興味というかとても驚きだったんだと思うんですね。
ついこないだまで鎖国していた国が急速に近代化すなわちその軍備を増強し人を教育しと力を持ってくわけですね。
ですので…前にこの番組で岡倉天心の「茶の本」というのを勉強した時にも新渡戸稲造が「武士道」の本を最初出して岡倉天心は「武士道ばかりじゃないんですよ」という日本のもっと心みたいなところを見てほしいって「茶の本」を出した。
ここで習った知識を急に披露するのはすげえ恥ずかしいですけどその流れと言いますかその時代ですよね。
同じ時代で新渡戸稲造は内村鑑三の友人でもありましたけどもやっぱり新渡戸稲造と岡倉天心がいたというのがこの本が出てくるとっても大事な土壌になってます。
やっぱりそうなんだ。
それはもうものすごく大事な。
ちょっとその「代表的日本人」が出された時代をこちらにまとめました。
最初に刊行されたのは明治の中ごろ。
1894年当時は「JapanandtheJapanese」つまり「日本と日本人」という題名でした。
最初はちょっと違う題だったんですね。
同じ年に日清戦争1904年には日露戦争が起きています。
内村は1903年に新聞に「戦争廃止論」を寄稿しているんですね。
こういう流れの中でこの「戦争廃止論」みたいのを出すという事はすごいですね。
日清戦争の時には内村はまだその「義戦」というのがあるかもしれないと言ってたんです。
要は戦争というのはもしかしたら正しい戦争というのはあるのかもしれない。
大義の義って事ですか。
事によったらですね。
しかし内村はこの日露戦争を前にした時にいやそんな事はないと。
これはとっても文字どおり命懸けだったと思うんです。
だってその不敬から始まりねそのムードの中戦争しない方がいいと言うのはまあ非国民そのものですもんね。
1908年日露戦争のあとに「RepresentativeMenofJapan」というふうに変えるんですね。
この題名は実は…。
内村よりちょっと50年ぐらい前の人のエマソンという人の本が参考になってると。
こちらだそうです。
エマソンという人の本なんですけどこういう人で題名が「代表的人間像」。
ほ〜「代表的日本人」に対してこっちは「代表的人間」なんですね。
エマソンはプラトンからゲーテまで。
ですので時代と文化と領域をほんとにさまざま架橋した人を選んでるわけですね。
内村はそれをぐっと日本という世界に圧縮して描いてみたと。
いや俺の国だって人間の代表がいるんだよって日本人の代表を知ってくれという強い意志を感じますね。
とても大事だと思うのは…ちょっと難しい。
どういう事ですか。
これはとても大事な事だと思うんです。
…という事を教えてくという事になるんだと思うんです。
俺の事を見てくれという事は人の事も尊重するというか。
そういう事。
そこがとっても大事なんです。
開かれてるんですね。
ちょっとぐっとくる。
内村が取り上げた「代表的日本人」5人出てくるんですがご覧頂きましょう。
こちらです。
明治維新の指導者西郷隆盛。
そして江戸時代の名藩主と言われる上杉鷹山。
それから農政改革者の二宮尊徳。
そして儒学者の中江藤樹。
あと鎌倉時代の僧侶日。
この「代表的日本人」を読む際のポイントを若松さんに3つ挙げて頂きました。
まず最初はこちらです。
全く逆入ったんです。
僕心の中のスケベ根性だと1冊で5人分の偉人伝が読めてお得だみたいなとこちょっとあったんですけど。
まずここで言う偉人というのは我々とはかけ離れてるという意味だと思うんですけどね全然内村はそういうふうに描いてないですね。
我々とほんとに同じ人間で…この人はすごい人だみたいな書き方はしていないんですね。
していないんです。
ですので我々が何かこうほんとにこの5人の人と会って語って対話していくように読み込んでいけるようにこの本ができてるというのがとても魅力的なとこだと思いますね。
さあそして2つ目まいりましょう。
あ面白そうちょっと。
ほんと。
これは5人全員を等しく読むという事はなかなか難しいと思うんですやっぱり。
この中で本当に気になる一人を探すという事だと思います。
その人とよくつきあってみる。
そうすると5人とも結果的には仲良くなれるんじゃないかなと思いますけど。
そして読書のポイント3番目。
本というのはやっぱり…それは何か読んでいくと何となくそういう感じがつかめてくると思うんです。
僕はこの本というのは高校生が読んでもこの本は面白いと思うんですね。
余命が限られてもう自分の人生がある所で終わってしまいそうだという人が読んでもある喜びがあるんだと思うんです。
古典というのはそういうものです。
ちょっともう楽しみ。
もう楽しみですね。
さあそれではまず今回最初に取り上げて頂くのはどの方でしょうか。
最初はやっぱり西郷隆盛ですね。
内村も一番最初にこの本の最初に書いている人物でもありますし内村とやっぱり同時代人でもありますね。
それでは「代表的日本人」西郷隆盛の章を朗読でお聴き頂きましょう。
朗読は俳優の筧利夫さんです。
江戸城の無血開城を実現し明治維新に貢献した薩摩藩士西郷隆盛。
幕末生まれの内村鑑三にとって西郷は同時代の英雄でした。
しかし内村はまるで「聖書」に出てくる聖人のように西郷を描き出しています。
ちょっとこちらが今朗読された部分ですけれども重要なキーワードがあると若松さん。
「静かなる細い声」。
これはですね「旧約聖書」がございますけども「旧約聖書」の「列王記」という本の中に出てくる一節なんですね。
それは預言者に神が語りかける時の声なんです。
「預言」というのは何かを予報したりする予言じゃなくて。
こちらの預言はその神の言葉を預かり人々に知らせるという人間の事を預言者と言うわけですけどもそういう声が西郷の所に訪れたのだと。
自分がとても尊敬する…そうとしか思えないんだと。
この「静かなる細い声」というこの一節を英語で表現しますと外国人の人たちはすぐ分かりますから。
「StillSmallVoice」って書けばキリスト教文化圏の人たちはちょっとこれはすごいぞという事になるわけ。
すごい人物がちゃんと日本にいるんだという事が分かる。
じゃあそこまで工夫したなら「神の声」じゃないんですか?「神」という言葉を使うのに内村はとっても慎重なんですよね。
「神」という言葉を使うとある限定されたものを表現していく事になるし神を信じてない人たちとの対話を拒絶する事になりますよね。
うわそれはすごいなあ。
何かそうですね。
言われてみればこれが神だって言われちゃうと僕なんか神を信じてないからそうすると何か方向性が決まっちゃうじゃん。
僕の中での固定概念にちょっとなりますね。
「天」。
なるほどね。
この「天」というのはどういう意味に捉えたら。
これは英語では内村は「Heaven」って書いてます。
天国?天国って意味でもあるんですけどまず「Sky」じゃないって事です。
Skyというのは空ですね。
天というのは方向じゃないんですよね。
もう少し大いなるものという感じだと思うんですね。
何か分かります。
うまいな。
これは訳したのは誰なんだろう。
訳した人も大変優れた翻訳だと思いますね。
「天」はすごいですね。
そうですね。
そこから西郷隆盛が森の中で声を授かってるとするとまあ神秘的な。
…とも言えますし神秘的であるとともに日常的であるという言い方もできますね。
この2つが一緒にあるというのはとっても大事だと思うんです。
天の声を聞く人西郷隆盛の章はこう始まります。
長い鎖国を経て開国したのも天の命によるものと考えていた内村は今こそ日本は世界に開かれていくべきと書きます。
すごい。
もうこの西郷の章は冒頭からその日本という国が天より与えられた使命について書いているんですね。
今の内村のこの一節ってとても現代的でもありますよね。
それを表現するのに一番最初に西郷隆盛を持ってきてるというのがとても面白いと思うんですね。
これがその日本の受けてる天からの命とするならばそんな単純な話じゃないのかもしんないんだけど今起こってる大きなテロとかももしかしたら頑張って日本が間に入ってできる事があるかなってちょっと思ったり。
内村がもしこの時代に生きていたら間違いなくそういう事を言ったでしょうね。
彼がとても大事にした言葉で「二つのJ」というのがあるんですね。
内村は自分はこの「二つのJ」のために生きるって言ったわけなんですね。
この「二つのJ」の一つのイエス・キリストというのは彼にとっては自分たち以外の全てのものたちという事だと思いますやっぱり。
「Japan」というのは自分とその仲間。
もう一つのJというのはその仲間以外の人々って事ですよね。
ですので彼にとって「日本の平和」というのはないんだと思うんですやっぱり。
さてこの天の使命を西郷は聞いていくという事なんですけど西郷が大切にした事というのはどういう事なんでしょう。
「待つ」という事なんですね。
内村のこの本を読み解いていく時に…動詞?動詞。
具体的にどういう事ですか動詞に注意する。
例えば「待つ」というのがそうですね。
そうか待つというのは単に止まってるだけではなくて何かを準備する事でありそしてそれをじっと見つめてその意味を深める事でありってだんだんだんだんその一つの言葉の中に奥行きが見えてくるって事だと思うんです。
おしゃべりの世界だと「黙る」ってすごいんです。
あっ同じだと思います。
次のしゃべるタイミングまで待つしゃべらないってこの時間の使い方のうまい人は話芸の天才なんですよみんな。
「待つ」はすごいです。
待つ人西郷のエピソードご紹介したいと思います。
「代表的日本人」の中で内村が紹介したのは無欲で控えめ常に何かを待つ西郷の姿です。
ここ今最後出てきたとこですけども。
「ひとの家」というのはいろんなふうに読む事ができるんですけど「時代」というふうに置き換える事もできますね。
西郷でいえば「薩摩藩」と「藩」というふうに置き換える事もできますね。
そこが自分を呼んでくれるまでずっと待ってるんだというんですよね。
そこは何かここにひと言も書かれてませんけどこの後ろに「天」というのがあるのが何となく分かりますよね。
すごい分かります。
誰かが偶然出てきて自分を見つけてくれるという事は天命という事と一緒ですよね。
そういう事なんです。
それも何かその歴史の中で江戸の終わるタイミングを待ってた事と玄関先で必ず呼んでくれるタイミングはあるんだと思って待つ事をすごいですね同居させる感じ。
しかし西郷はただ待つだけではなかったんですよね。
内村が西郷自身の言葉として紹介したのがこちらです。
若松さん内村がこの言葉を引用した意図というのはどういう事だと思われます?生涯の中には待ってるだけではなくて何度か自分で機会というものを作り出していかなきゃいけないという時がやっぱりあるんだという事を内村は鮮明に我々に教えてくれるんだと思うんですね。
ただこの「我々」というのはやっぱり無私の我々という事だと思うんです。
ですので無私の機会なんですよね。
この言葉とその森の中にいる西郷さんや雨の日はだしで帰っていく西郷さんや全部入ると何かすごいね。
次回は対照的な2人上杉鷹山と二宮尊徳に内村が見た共通点を探ります。
若松さん次回もどうぞよろしくお願いいたします。
2016/01/13(水) 06:00〜06:25
NHKEテレ1大阪
100分de名著 内村鑑三 代表的日本人[新]全4回 第1回「無私は天に通じる」[解][字]
「代表的日本人」の冒頭に登場する西郷隆盛。「自己をはるかに超えた存在」と魂の会話を続け、そこに照らして自らの生き方を問い続けた西郷の「敬天愛人」の思想に迫る。
詳細情報
番組内容
「代表的日本人」の冒頭に登場する西郷隆盛。明治維新の立役者として知られるが、実は徹底して「待つ人」だった。真に必要に迫られなければ自ら動かない。しかし一度内心からの促しを感じたなら、ちゅうちょすることなく決断し動く。それこそが西郷という人物の神髄だった。それは、折にふれて「自己をはるかに超えた存在」と魂の会話を続け、そこに照らして自らの生き方を問い続けた「敬天愛人」という信条から発するものだった。
出演者
【講師】批評家…若松英輔,【司会】伊集院光,武内陶子,【朗読】筧利夫,【語り】小口貴子
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ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
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