文化文政の江戸時代。
町人文化が花開いた江戸でグルメブームが到来。
江戸っ子たちは豊かな食文化を追い求めていく。
中でも人気が沸騰したのが「初物」。
季節ごとに初めて収穫された食材を誰よりも先に食べるのが江戸っ子の心意気だったという。
そして5月。
初物の代表格魚の初鰹の季節がやって来た。
果たしてその熱狂ぶりとは。
私は早速江戸時代にタイムワープをした
え〜アブソリュートポジションN198W641E425S174。
ポジション確認。
アブソリュートタイムB0751470年24時05分11秒。
西暦変換しますと1810年5月3日10時25分18秒。
無事タイムワープ成功しました。
コードナンバー925371これから記録を開始します。
沢嶋雄一。
彼はタイムスクープ社より派遣されたジャーナリストである。
あらゆる時代にタイムワープしながら時空を超えて名もなき人々を記録していくタイムスクープハンターである。
江戸近郊の山。
道無き道を進む若い男がいる。
早朝相模湾で今年最初の初鰹が取れたという。
男はこの先の山道を初鰹を運ぶ早馬が通るとの情報を得ていた。
彼は初鰹を誰よりも先に入手するためある作戦に出た。
江戸の魚市場に届けられる前に鰹を買い取ろうというのだ。
今回の取材対象は初鰹入手に情熱を傾ける江戸っ子たち。
その奮闘ぶりに密着ドキュメントする
え〜この時代の人々にとって私は時空を超えた存在となります。
彼らにとって私は宇宙人のような存在です。
彼らに接触するには細心の注意が必要です。
私自身の介在によってこの歴史が変わる事もありえるからです。
彼らに取材を許してもらうためには特殊な交渉術を用います。
それは極秘事項となっておりお見せする事はできませんが今回も無事密着取材する事に成功しました。
平吉21歳。
江戸の札差に勤める奉公人である。
彼の主人武蔵屋文右衛門は無類の食通であった。
その食道楽の世話役として平吉は日々食材の調達に走り回っている
とてもとても。
なるほど。
もうかれこれ十何年ですかね。
ここ数年江戸では空前の初物ブームが沸き起こっていた。
中でも初夏の初鰹は「女房を質に入れても食べたい」と言われたほど人気があった。
江戸の市場へ運ぶ初鰹の運搬ルートは2とおり。
通常は船で運ばれる。
だが馬を使い陸路で運ばれる事もあったという。
平吉は昨夜から海の時化はまだ収まらないと見て賭けに出た。
今年最初の初鰹輸送は船ではなく陸路を使うと予想したのである。
果たしてその読みは…。
遠くから馬が駆けてきた
あいすいません。
すいません!何だ!?甚だあいすいません。
なに?武蔵屋とな?へえ。
まさしくそれは荷物を運ぶ早馬だった
これを譲るわけにはいかん!お主は何を考えておった。
平吉の早とちり。
それは鰹ではなく果物のびわだった
では急ぐでな。
あの!初鰹?ご存じですか?早馬?いや知らぬ。
読みは外れ完全な空振り。
鰹は船で運ばれた。
しかしここで諦めるわけにはいかない。
平吉は船が着く市場を目指し急いで江戸に引き返す
こちら沢嶋。
本部応答願います。
(古橋ミナミ)はい本部古橋です。
初鰹の件ですが船で運ばれた場合のルートをアップして下さい。
初鰹の流通経路ですか?はい。
了解しました。
すぐにアップします。
鰹ですが江戸湾では取れないので相模湾沖や房総沖で取れる鰹が江戸に運ばれてくる事になります。
三浦や鎌倉などの31か所の港に揚がった鰹は主に八挺櫓の早船押送船に乗せ換えられ一刻を争うようにして日本橋本材木町の新場魚市場へと直送されます。
日本橋本材木町ですね。
はい。
ありがとうございます。
初鰹ブームはとどまる事を知らず年々買い取り競争が激しくなっていた
悔しい思いをしている。
ライバルの呉服商大黒屋に先に買われてしまったからだ。
「今年こそ初鰹を手に入れろ」。
それは平吉に課せられた至上命令だった。
失敗の許されない平吉に休んでいる暇はなかった。
すぐに市場のある日本橋を目指す。
だが…
分からんやつよのう。
間もなく通すと言うておるであろうが。
予期せぬ事態です。
今橋の上で事故が起こっていて通行止めを食らっていますね。
果たして間に合うんでしょうか。
そしてそこにいたのは…
彼もまた橋で足止めを食らっていた。
初鰹を狙って魚市場に出向くのは間違いない
市場までの距離はおよそ400m。
幸か不幸かライバルと並ぶ事になってしまった
お前前に出るな。
何なんでぇ!しょうがねえじゃねえか。
そうなっちまったんでぇ。
知ってんのか。
知らねえから言ってんだよ。
初鰹の競りは既に始まっているかもしれない。
通行が許可されるのをイライラしながら待つしかない
俺が先でぇ。
平吉亥三郎火花を散らす2人の奉公人。
この競争絶対に負けられない。
橋の上に散乱した荷物が片づけられていく。
そしていよいよ…
よ〜し。
ついに初鰹獲得レースがスタートした。
市場に向かって猛然とダッシュする男たち。
目指すは今年の初鰹を扱う問屋だ
平吉と亥三郎が同時にゴール。
2人とも我先にと買い取りの交渉に入る
京橋の呉服商大黒屋の者でございますが…。
蔵前の札差武蔵屋の奉公の者でございます。
果たして初鰹は?
お若いのお若いの!初鰹を頂きたいんでございます。
(笑い声)おう着きましたぜ。
それで今から…。
片づけ?武蔵屋さんに大黒屋さんといっちゃあっしらにとっちゃ上得意でございますから便宜を図ってさしあげてえが…
一歩遅かった
残る初鰹は仲買人の元に
(平吉)売れた?さあどうでございやしょう。
だが既に仲買人から末端の棒手振りに売られてしまっていた。
棒手振りとはてんびんを担いで魚を売る小売商人だ。
2人は棒手振りを探し走り回る。
そしてついに…。
街の一角に人だかりが。
大急ぎで近づいていく。
まさしくそれは棒手振りだった。
初鰹を求める客で現場は大混乱となっている
(千吉)下がれ!ほら下がれ。
そしてついにその姿を現した
目や耳はタダだが口は高くつく。
残った初鰹は僅かに1本のみ。
早速競りが開始された
早くも一両をつける客が現れた。
だが…
そうだ。
いくらありゃいいんでぇ?二両!?
とその時。
亥三郎が勝負に出た
が平吉も負けられない
(平吉)この場で払うぜ。
おお!それでこそだ!
しかし…
とうとう三両まで跳ね上がった。
同時に2人が同じ値段をつける事態
二両って先に言ったのは俺だぜ。
おめえが三両と言いやすいように下地を作ってやったんだ。
譲るのはおめえの方だろうが。
何訳の分かんねえ事抜かしやがんでぇ。
購入権をめぐりもめ始める2人。
両者一歩も譲らない
おめえがはっきりしねえから…。
あっしははっきりしてやすぜ。
三両は2人にとって予算枠ギリギリだったのだ
そこで売り手が解決策を出す
後腐れは無しですぜ。
俺が先に言ったんだろう。
俺が表だ。
勝負の草履投げ。
表が出れば亥三郎裏が出れば平吉の勝ち
運命の瞬間。
果たして…?
今年の初鰹はこちらのおにいさんに決まりました!
決まった!初鰹はついに平吉の手に。
ライバル大黒屋との勝負今年の対決は武蔵屋の勝利で幕を閉じた
1812年の記録では歌舞伎役者の中村歌右衛門が初鰹を1本三両の値段で買い取ったという。
初物特に初鰹はバブルと呼べるほど獲得合戦は過熱していた
お気をつけなすって。
任務をやり遂げた平吉にやっと安堵の表情が浮かぶ。
主人の元に届けるため帰路を急いだ。
ところが…。
再び目の前に亥三郎の姿が
何訳の分かんねえ事言ってんだよ。
頼むよ!
亥三郎が泣きついてきた。
彼もまた主人に仕える奉公人。
手ぶらで帰れば厳しいお叱りが待っている
あんな祭りは1回きりよ。
なりふり構わず亥三郎が懇願する
それはこっちも一緒だよ!お願いだ!
(平吉)ちょっとちょっと!やめろよそういうの。
そして…
(平吉)当たり前だ。
しょうがねえ。
平吉!うわっ!
亥三郎が卑劣な行為に出た。
平吉を殴り初鰹を奪っていく
平吉は亥三郎の前にいた男たちに助けを求めた
彼らも加わり亥三郎を追いかける
運よくそこは追跡を助けてくれた男たちが住む長屋だった
そうはいかねえなあ!早くしろよ。
多勢に無勢と判断したのか威勢のよかった亥三郎も観念する。
初鰹は無事に戻った
ちょっと待てよ。
何すんでぇ。
だとしたら虫がよすぎるぜ。
だが平吉にとって思わぬ事態が起きる。
長屋の住人は先ほどの競りで一両をつけた者たちだった
気持ちも分かるんだけどねてめえも自分が欲しくて買ったわけじゃねえんだ。
彼らが初鰹を欲しがるのには特別な事情があった。
その訳とは…
いや昔からなんでぇ。
ただ…そしたらこいつらがよ…。
それは長屋の住人たちのあつい人情であった
頼むぜ。
頼む!このとおりだ。
けどな…。
「けど」だ?「けど」…何でぇ?
それでも平吉は譲るわけにはいかない。
主人の命令を成し遂げる事が最優先事項なのだ
しかし長屋の住人たちも引き下がらない
おい。
よし。
気性の荒い彼らがなんと実力行使に出た
そうだよ分けてくれんのかよ?ごちゃごちゃ言ってたって始まらねえや。
(平吉)そんな…。
心配するな。
最悪の展開。
目の前で競り落とした初鰹がさばかれてしまう。
むしろが広げられついに…。
だが…
それは鰹ではなかった
どういう事だ!?ちくしょうあの野郎!
悪知恵が働く亥三郎の手口。
食材として買っていたコイと初鰹をすり替えていたのだ。
まんまとだまされた。
亥三郎の行方を追って聞き込みを開始する
ちょっと見てないねえ。
くそ…向こうへ行こう。
とその時…
向こうだ!
町なかを流れる運河。
そこには大黒屋の奉公人たちと共に食材を船に積み込もうとしている亥三郎の姿があった。
長屋の住人たちが初鰹を奪い返そうとする。
船着き場は大混乱となる。
亥三郎たち大黒屋チーム対する長屋チーム初鰹の争奪戦が始まった
え〜今ですね長屋の方々と亥三郎さんたちの間で初鰹をめぐっての争奪戦が繰り広げられています。
果たしてどちらの手に渡るんでしょうか。
長屋の若者が鰹をつかんで抜け出てきた。
だが大黒屋奉公人たちが追いかけ奪い取る。
後方にいた仲間にパス。
それをもらい受けた亥三郎
鰹を持つ手を伸ばした。
その先には大黒屋の船が
行かせるな!
しかし長屋住人も諦めない。
必死に奪い返し形勢逆転
どちらも一歩も引かない激しい争奪戦
大黒屋が後方にロングパス。
絶好のポジションに亥三郎がいた
初鰹を載せた船が岸を離れていく
とうとう大黒屋の手に渡ってしまった。
残された両者がもつれてそのまま地面に倒れ込む。
彼らを残して平吉は船の行方を追う。
立てかけてあった釣りざおから何かをひらめいていた。
釣り針を使って鰹を引っ掛け奪い返すつもりらしい
えっ?何ですかい?すいませんちょっとお借りします。
私はその様子を詳細に映像に収めるべく極小の使い捨てカメラナノカムを釣り針に装着させてもらう事に
ありがとうございます。
ええ。
平吉の初鰹奪還作戦果たしてうまくいくのか?
橋の下を通過しようとする大黒屋の船。
こちらには気付いていない。
平吉はタイミングを見計らって釣り針を下ろす
釣り針に仕掛けられたナノカムの映像。
ゆっくりと船が近づいてくる
風が吹き釣り針のコントロールが利かない。
亥三郎の着物に引っ掛かりそうになるのを巧みによける
上下の距離感覚がなかなかつかめない。
再びチャレンジ。
絶妙なポイント。
奪還成功!
やりやがったな!
初鰹がやっと手元に戻った。
主人の元に走っていく平吉。
初鰹の争奪戦はこうして幕を閉じた
帰還した平吉は何事もなかったかのように初鰹を主人に差し出す
そうかい。
へえ。
それでも何とか…。
それはご苦労だったね。
いえ…。
そして…すぐさま初鰹はさばかれひいきの客人たちに振る舞われる事になった
皆さんさあ箸をつけて下さい。
江戸の鰹の味わい方は今とは違う。
刺身にしてからしを付けて食べるのが一般的であったという。
江戸中期の豪商紀伊國屋文左衛門も初鰹を買い占め大勢の客に振る舞ったという。
江戸っ子の見栄であり富裕層のステータスだったのだ。
それは奉公人である平吉にとって決して味わう事のできない食文化であった。
がその時だった
主人の文右衛門が思いがけない行動に出た
平吉の苦労を察した主人の気遣い。
だが平吉は…
へえ。
足早に目的の場所に向かう平吉。
その行く先は…
あれからどうしてたんでぇ?どうもこうもねえんでぇ。
おお…。
いいのか?これ。
(平吉)ああ。
初めて初鰹を食べる父親と父親の体を気遣う息子
うめぇか?
その親子を見守る住人たち
ありがとな。
享楽に浮かれる人々とは対照的な彼らの姿が印象的だった
それにおめえさん知らねえかもしれねえですが…それはおいしそうですね。
ええ。
そうですか。
ごめんなすって。
これだけ高値がつき江戸っ子を熱狂させた初鰹も1か月後には値段が50分の1まで暴落したという。
人々を熱狂させ時期が2016/01/13(水) 01:30〜02:00
NHK総合1・神戸
タイムスクープハンター セレクション「熱狂!初ガツオ争奪戦」[字]
「タイムスクープハンター」のアンコール放送。江戸時代、カツオの初物の入手に競いあった男たちを密着取材する。縁起物をすぐに食べたいために大金を投じての争奪戦。
詳細情報
番組内容
時空ジャーナリストの沢嶋雄一(要潤)は食文化が花開いた江戸時代にタイムワープをした。今回の取材対象は江戸っ子の初物ブーム。「珍しい初物を誰よりも先に食べたい」と大金を投じての争奪戦が繰り広げられた。特に人気だったのが魚のカツオである。「初ガツオを食べれば750日は長生きする」と言われたくらいだ。平吉は主人からカツオの入手を命じられ、ライバルである亥三郎と壮絶な獲得合戦を展開する。
出演者
【出演】要潤,杏
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
ドラマ – 国内ドラマ
バラエティ – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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