1970年代後半から80年代前半にかけて映像コンテンツの権利者と家電業界がまっこうからぶつかった「ベータマックス訴訟」。このときの権利者側の主張の変形版が、息を吹き返しつつある。
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”テレビ放送局のコントロールによって無料放送の録画を禁止する機能を運用したい”とする提案が、主要なテレビ放送局から現在進行形で出されているのだ。
■ 4Kの本格化に合わせて規制を強化?
官民一体となって、高画質放送である4Kデジタル放送を検討している次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)は技術仕様や放送・サービスの運用規定について仕様をまとめているところだ。
なぜ、このタイミングなのか。
今年は放送衛星がCSからBSへと切り替わる際、新たな技術も盛り込んで4Kによる本格放送に向けての第2段階に入る。
BS衛星での4K放送開始のカウントダウンが始まる中、民放キー局は揃ってこれまで議論にもなっていなかった”無料放送の録画禁止”の盛り込みを提案し、譲ろうとしていない。議論は紛糾している模様だが、問題は他にもある。
消費者がテレビ放送を楽しむスタイルを大きく変える可能性があるこうしたルール決めに際して、その議論の過程が公開されていないばかりか、消費者側の意見を届ける手段すら用意されていないことだ。
テレビ番組の録画に関して、コンテンツオーナーやテレビ局が抵抗したのは今回が初めてではない。もっとも広く知られているのは、家庭向けビデオレコーダーが普及し始めた時代に起きた、ハリウッド映画スタジオとソニーの8年に渡る係争だ。
家庭向けビデオレコーダーが登場しはじめると、米国ではこれを映像産業の敵と見なして著作権(コンテンツ複製権)を巡る争いが起き、ソニーや録画機を宣伝した広告代理店、録画した番組を楽しむ視聴者が訴えられた。
このときにソニー創業者の盛田一夫は、「タイムシフト」という造語を生みだし、現在は録画機能の正当性や機能の本質を表現する言葉として広く使われている。タイムシフトは、放送枠という時間に拘束されたテレビ放送を、好きな時間に楽しめるのがビデオ録画機の機能であること端的に示している。無料で放送される番組を個人が私的利用の範囲で複製し、放送時間外に楽しむことは著作権侵害に当たらないとした。これがいわゆる「ベータマックス訴訟」の顛末である。
それ以来、テレビ放送をタイムシフトして視聴者が自由な時間に楽しむことは、著作権侵害にあたらず、自由に行えることが運用ルールとして定着。生活スタイルの中にも溶け込んでいる。
■ 放送する側での制御が可能に
ただし、ベータマックス訴訟当時とは異なる点もある。デジタル放送になり、放送側で「番組の蓄積・記録・コピー制御」を行うことも可能になった。技術的には録画の可否を、放送局側がコンテンツごとに決めることができる。録画機は放送局が設定した複製条件に従って、録画の可否や複製範囲の制御を変えるように設定されている。コピーワンスやダビング10などは、こうした複製制御における運用規定の一部で、技術的には今すぐにでも”複製禁止”――すなわち、録画が不可能な放送が行える。
しかし、上記のような過去の判例や利用者の慣習などがあり、機能として盛り込まれてはいても、録画禁止という機能は運用されていなかった。技術的には可能なものの使ってこなかったということだ。
この”無料放送の複製禁止”の運用を可能にするルール改変が行われていることが発覚したのは、昨年12月25日に発行された「高度広帯域衛星デジタル放送運用規定」で、無料放送と月極有料放送の複製禁止について「T.B.D.」と記載されたためだ。T.B.Dとは「To Be Defined」の略で「未決定」という意味。つまり、運用不可という従来のスタンスを変えることが話し合われていることを示している。
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