(imaged by ©Makoto Shinkai/CWF・彼女と彼女の猫EF製作委員会)
京都で着々と培われる、未来のアニメ業界の働き方。
先日、京都精華大学で行われた「デジタル作画セミナー」そして「セルアニメ新時代研究部会」。こういったイベントを中心にアニメ産業の活性化著しい京都ですが、そんな京都に新しく設立されたアニメスタジオがあります。ライデンフィルム京都スタジオです。
ライデンフィルム京都スタジオは、京都アニメーション出身の坂本一也さんが室長を務める東京に本社も持つスタジオで、既存のアニメ制作のスタイルを活かしながら新しい就業体系や教育システムの確立を目指さした運営をされています。
今記事ではアニメ産業の情勢が最も活発な京都においてキープレイヤーの一人であるライデンフィルム京都スタジオの坂本一也室長のインタビューを、先日情報解禁されたばかりの「彼女と彼女の猫 -Everything Flows-」の情報と併せて紹介させていただきます。
「産学官の連携」でアニメ産業を後押ししているこの京都という地域の新しいアニメスタジオの考え方とは?
Contents
ライデンフィルム京都スタジオとは?
ライデンフィルム京都スタジオ室長:坂本一也さん
ーーライデンフィルム京都スタジオとは、どのようなスタジオなのでしょうか?
坂本一也(以下、坂本):もともとウルトラスーパーピクチャーズの系列会社のサンジゲン京都スタジオと一緒にライデンフィルム京都スタジオはできました。本格的に稼働したのは去年の1月になります。京都に設立されたのは関西でアニメを発信していきたいという思いからですね。
コンセプトは関西からアニメの企画立案をし、元請けとしてアニメの発信拠点を作っていきたいという事が一つ。そしてもう一つ大事なポイントが「人材の教育」という所です。
現状の東京のアニメ制作現場にはフリーランスが多く、人を育てることが難しい状況があると思います。そこで人材を集めて教育する事が比較的し易いのではないか、ということで関西が選ばれたようです。
ーー確かにフリーでスタジオを転々する事が多い東京の制作スタイルでは、教育システムを構築するのは難しいように思います。
坂本:そうですね。東京で働きたい人が出てくる事はそれはそれで良いことなのですが、それでもなるべく同じ場所で教育して、ずっとアニメ業界で仕事が続けていけるような組織作りをしたいと思っています。フリーランスだと若い時はよいのですが、40代50代になった時に若い頃のように元気いっぱいで働くのが難しかったりする、という話を聞くことがあります。
また組織作りをすることで一人のクリエイターがずっと第一線で働かなくても、仕事のポジションを変えながら働いていくという考えを持つことも出来ます。例えば人材育成をやりながら若いスタッフが働くスタジオのバックアップのようなポジションなどが考えられますね。
ーープロジェクトベースの制作は制作時の一過性の熱量はとても高いのですが、プロジェクトが終わると解散してしまうのでなかなかクリエイター間での関係性が蓄積されないということがあるんでしょうか。
坂本:そうですね。作業中に良いノウハウが生まれたとしても、スタッフがそこで解散してしまうとその後の共有や改善も難しくなってしまう。同じ場所で働き続けることができる組織を作ることによって、ノウハウを蓄積させて様々な問題点を改善していけるのではないかと考えております。フリーランスが悪いというわけではないのですが、制作のマイナス面を解消する為には現場の人間が組織作りをきちんと考えるということをベースにした方が良いのではという考えに基づいています。
就業時間の健全化
坂本:京都スタジオでは仮にフリーランスの方であっても決められた出勤時間を徹底し、徹夜をしないようなスタイルを作ることを第一歩として運営をスタートしています。
現在は15,6人の作画制作陣がいるのですが、制作進行は1人で回しています。なぜこのような体制で出来るのかというと、決まった時間に全員がスタジオにいるからです。制作陣が一日24時間の中でバラバラの時間にスタジオにいるとなると制作進行1人では管理できません。
京都スタジオの所属アニメーターは基本的に就業時間のルールを守っていただける方という前提があります。今後、仮にとても上手い方に入社頂いたとしてもその方が「夕方からしか入らない」という事ではお断りをすることになるかもしれません。
デジタル作画について
スタジオ内の風景
ーー京都では産学官連携でデジタル作画セミナーなどのイベントが開かれていますが、デジタル作画についてはどう思われてますか?
坂本:時代の流れですよね。現状の制作でも「仕上げ」「撮影」「背景」などのデジタルが入っているパートは沢山あります。作画部分だけが取り残されていますね。僕はアナログの人間ですがデジタルにも対応していかなければと思っています。しかし同時に気を付けていかなければと思うのは「デジタル作画はあくまでツール」だという事です。
デジタル作画だからすごいものが描けるということは決して無く、良い作画にはあくまで個人の経験や基礎的な力が必要です。その部分をしっかり分かっていないままデジタル作画をしてしまうと逆にデジタルツールに使われてしまうのではないかなと思います。
例えば足し算や引き算を暗算で出来ない人間に電卓を渡していいのか、という話だと思うんですね。確かに正確な計算は出来ますが、「何故その数字になるのか」という事を考えなくなることはとても危険だと思います。将来的な展望を考えると、今まで何十年も培われてきたキャラクターの動かし方などの技術や考え方を簡単に出来てしまうとなると、考えるということが少なくなり、基礎技術や知識が習得できずそこからの発展は目減りしていく一方ではないかという危惧はあります。
ーーアニメ制作にデジタルが入ってきて作業が楽になると思われていたのが、実際は出来ることの拡大が別の作業を増やしてしまうという事もありますよね。
坂本:4KのTVも出てきましたし現場の紙のサイズが追いついていないという問題も出てくるかもしれません。デジタル作画でしたら細部もどんどん拡大して作画が出来ますが、紙だとそうはいきません。例えばクライアントから小さい部分もしっかり描いて欲しいという事になると今までの作業の比じゃなくなることもあります。
アニメ制作現場における人材教育システムについて、京都を中心としたアニメ産業の今後
ーー例えば京都アニメーションには作画の現場に入る前から人材を教育していくプロ養成塾があり、そのシステムも一要因となって生まれる作画の一貫性や緻密さが沢山のファンを作り出す要因になっていると思うのですが。
モデルケースとしては京都アニメーションが一番優れているという気持ちは僕の中にあります。あれほど良い環境でアニメ制作が出来るところはない。
坂本:そういうスタイルだからこそスケジュール管理やクオリティ維持ができているのだと思います。京都アニメーションを目指すというわけではないですが、京都アニメーションで培った考え方は今の現場に活かしていきたいと思っています。
現場の人間がしっかり考えて一人一人が動くという事が大事だと思っています。
ーーこれからのアニメ産業が育っていく場所として、京都はどうでしょうか?
坂本:京都にはKCC(京都クロスメディア・クリエイティブセンター)さんや京都精華大学さんなど、今後の京都のアニメ産業がどのようになっていくかを考えられている場所がたくさんあります。
地方はこのように行政や教育と協力されているところが多いですが、コンテンツという部分において京都はマンガなどでの前例がありますので色々な事に取り組みやすい環境ではないかと思っています。教育機関や行政と一定の距離を取りながら協力して、京都や関西からのアニメ発信を考えなければならないかなと思います。
ライデンフィルム制作の新作TVシリーズ「彼女と彼女の猫 -Everything Flows-」
©Makoto Shinkai/CWF・彼女と彼女の猫EF製作委員会
<あらすじ>
ある夏の一番暑い日、彼女と、彼女の飼い猫である“僕”の暮らしが始まった。彼女は、通っている短大の卒業を控え、就職活動に追われる毎日を送っている。いつも頑張っている彼女にとって、“僕”と過ごす時間は、互いにひと時の安らぎを感じられる、とても大切なものだった。しかし、家族のことや、友達のこと、将来のこと…いろいろなことがうまくいかず、彼女は次第に傷つき、立ち止まってしまいそうになる。
それでも彼女は、背筋を伸ばし、今日も扉を開けて外の世界へと踏み出していく。そんな大好きな彼女のことを、“僕”はいつまでも見守っていたいと思っていた。
原作は、新海誠監督の自主制作時代の2000年に発表した「彼女と彼女の猫」。
新海誠監督バージョンではモノクロ作品であるのがそう思わせるのか物悲しい雰囲気を感じましたが、鮮やかな彩色が施されたこのイメージボードからはまた一味違った印象を受けますね。
ここからはインタビュー取材の際に撮影させて頂いた素材を一部紹介します。
総作画監督の修正集
©Makoto Shinkai/CWF・彼女と彼女の猫EF製作委員会
©Makoto Shinkai/CWF・彼女と彼女の猫EF製作委員会
総作画監督の海島千本さんの作画修正です。今回の「彼女と彼女の猫 -Everything Flows-」は完全オリジナルのストーリー展開になる作品で、ウルトラスーパーアニメタイム枠で2016年3月より全4話での放送となっています。
©Makoto Shinkai/CWF・彼女と彼女の猫EF製作委員会
©Makoto Shinkai/CWF・彼女と彼女の猫EF製作委員会
©Makoto Shinkai/CWF・彼女と彼女の猫EF製作委員会
©Makoto Shinkai/CWF・彼女と彼女の猫EF製作委員会
©Makoto Shinkai/CWF・彼女と彼女の猫EF製作委員会
オリジナルの新海誠監督バージョンだとデフォルメされていた猫ですが、ライデンフィルムバージョンではこのようにもふもふの猫に!これは坂本さんの希望で、記号としての猫ではなくリアルな動きをする猫にしたいとの思いがあったとのことです。ちなみに坂本さんも大の猫好きだそうで、今回のオファーには二つ返事でオッケーを出されたようです。
©Makoto Shinkai/CWF・彼女と彼女の猫EF製作委員会
主役の彼女は花澤香菜さんが担当されます。
脚本は「彼女と彼女の猫」の小説版を書かれている永川成基さん。小説版はかなりのボリュームになる今作品ですが全4話、トータルで30分ほどの尺でどのような話に新しく生まれ変わるのでしょうか。
監督の坂本さんが「新海作品をリスペクトした上で、新海作品とはまた別の映像表現などに挑戦したい」と語られる今作品、3月の放送がとても楽しみです。
■作品情報
タイトル:「彼女と彼女の猫 -Everything Flows-」
全4話■放送情報
2016年3月・ウルトラスーパーアニメタイム枠(TOKYO MX/BS11)にて放送
TOKYO MX:毎週金曜日 23時00分より放送
BS11:毎週日曜日 25時00分より放送■スタッフ
監督:坂本一也
脚本:永川成基
原作:新海誠
キャラクターデザイン・総作画監督:海島千本
美術監督:田中孝典
編集:グッド・ジョブ
音響監督:鶴岡陽太
音響製作:楽音舎
アニメーション制作:ライデンフィルム京都スタジオ
製作:彼女と彼女の猫EF製作委員会■キャスト
彼女:花澤香菜
黒猫:浅沼晋太郎
友人:矢作紗友里
(取材、記事、撮影:迫田祐樹)