「自分は人見知り」「傷つきやすい」「すぐ緊張する」と自称する人は多い。改善するためにはどうすればいいのだろうか。

2015年に30周年を迎えた人気劇団「演劇集団キャラメルボックス」製作総指揮・加藤昌史氏は、昨年12月に著書『人の前へ出る仕事の人へ。』を上梓した。一般の会社員でも日常的に取り入れられるコミュニケーション術や、考え方・行動のアイデアが詰まった一冊だ。

加藤氏はこれまで4000ステージ以上、劇団の公演前に観劇マナーを楽しく伝えてきた「しゃべりのプロ」でもある。そんな加藤氏に、人見知りの克服法や、失敗を力に変えるには、なりたい自分になるにはどうすればいいか、「前向き」に生きるとはどういうことかを語ってもらった。(編集部)

『人の前に出る仕事の人へ。』(ぴあ)

『人の前に出る仕事の人へ。』(ぴあ)

人見知りをどう克服するか?

よく「自分は人見知りだ」と自称する人がいますが、程度の差はあれど、みんなそうですよ。何も特別なことじゃない。それでも“自分は”人見知りだと思うなら、自分のことばかりに目を向けすぎ。人見知りであることも、人前で緊張することも、相手じゃなく自分の問題ですよね。相手にどう思われるかより「自分が自分のことをどう思うか」を気にしているんじゃないでしょうか。

人見知り克服の第一歩は、初対面の人と話したり人前に立ったりするときに緊張するのは普通のことなんだ、と理解すること。向こうも緊張しているのだという想像力を働かせて会話をすることです。

自分だけがと思うか、相手もそうだと思うか、小さな差だと感じるかもしれませんが、ここが行動や考え方の分かれ目になります。

人前で話しても緊張しない方法

僕は、キャラメルボックスの公演の際、舞台に立って観劇のマナーを伝え始めて30年になります。回数としては4000回以上やっているけれど、いまだに緊張しますよ。キャラメルボックスの役者たちもそうです。人前に立つ仕事の人ですら、そういうものなんです。

緊張するのって、「下手なことを言ったら笑われる」「失敗するかも」「間違えたらどうしよう」という不安があるからですよね。でも、当たり前のことですが、間違えるのは自分だけではないし、失敗しない人なんていません。役者たちも失敗を恐れているし、どの役者も失敗はします。

失敗はチャンスではないけれど…

失敗はチャンスだって言う人もいるけれど、チャンスなんかじゃない。誰だって傷つくものです。落ち込んで何もできなくて、横になって底の底まで行ってしまうこともあるかと思いますが、そこで自分を慰めてはいけません。失敗を受け止めて、何がよくなかったか、どうすれば繰り返さずに済むか、正面から策を練る。

失敗はチャンスじゃないけど、終わりでもない。大きな失敗をして、初めて気持ちが楽になるところがあるんです。「失敗はしてしまうものなんだ」「誰でも失敗することはあるんだ」と身を持って実感し、理解することで、恐怖心が薄れるんです。

「こう話すべき」と思い込まない

もうひとつ、話すときに大事なポイントは、「こういうふうに話すべき」という、べき論にとらわれないことです。

惹きつけるスピーチをする人っていますよね。例えば、故スティーブ・ジョブス。あの人のスピーチは、話のうまさではなく、自分の中から湧き出る喜びをただ伝えようとするところが魅力。iPhoneをはじめて発表したときも、ほんとに子供みたいに嬉しそうだった。性能もいいしサイズも小さいんです、みんなに使ってほしいんです、と。僕も彼の話しぶりに憧れました。

でも、そういう憧れの対象を見つけても、「あの人のように話すべき」とは思わないでください。真似するよりも、自分のスタイルを見つけたほうが話しやすいと思います。

「前向きに生きる」とはどういうことか?

僕のポリシーは、「常に上機嫌であれ」。ドイツの経済学者アドルフ・ワグナーの「仕事をする時は上機嫌でやれ。」という言葉が元で、キャラメルボックス劇団員の基本でもあります。改めてそれを実感したエピソードをお話します。

僕はあるとき、人生を終わりにしたいと思うほど不幸な出来事に見舞われました。それでも、やらなくてはならない仕事は押し寄せてくるし、劇団の公演も近づいてくる。予定された仕事のなかには、大学の児童教育学部の人たちに向けた講演が入っていました。日程はもう決まっているので、つらくても、やらざるを得ません。

絶望の淵に立たされた状態で、人前で話をする。想像すると、キツいですよね。それでも、やるからには暗い顔はできないし、したくないと思いました。「常に上機嫌であれ」と思って生きてきたから、いまさら暗い顔はできないと。

同じことをするなら、悲しい顔、暗い顔をするより、笑ったほうがいい。東日本大震災のあとに気仙沼が復興していくのを見たときも、そう感じました。現地の人々は、悲しみとショックに立ち止まることはできない。明日のために、日々を続けていくために、やらなきゃいけない仕事がある。過酷な状況で、しかし彼らは笑っていました。

絶望を友達にして生きる

絶望したからなにもしないのか、絶望しても今なにをするかを考えるか。生きていく以上、選択肢はこの二つしかないだから、絶望を友達にして生きていく道を選びたい。

前向きになろうと思ってなるんじゃない。後ろ向きになるわけにいかないから、結果的に前向きなんですよ。いつでも自分の後ろには断崖絶壁があると想像してみてください。ポジティブになると考えるのではなく、後ろに下がったら断崖絶壁だから落ちてしまうから前に踏み出すしかない、という発想に変えるんです。

自分を過大評価しない

自分を変えたいと思うときに、大きな目標設定をする人が多い気がします。きっとみなさん、大きいことをやろうとしすぎてるんじゃないでしょうか?

大きすぎる一歩を設定して、あれができなかった、これができなかったと後悔するというのは、それができると思っているから。要は、自分を過大評価しすぎている。逆ですよ。できることのほうが少ない。

じゃあ、「私なんてダメなんです」と言う人は、自分の身の丈を正しく理解できているのかと言うと、そうではない。むしろ、もっとダメ。「私なんて」というネガティブな表現を使うのは、慰めてもらおうとしているってことですよね。このろくでもなさを自覚したほうがいいです。

「私なんて」と言いそうになったら、「私だって」に変えて、「がんばる」と続けるんです。人に「がんばれ」と言うのは批判されがちだけど、自分を奮い立たせる意味で使うなら間違っていない。がんばって、小さい一歩を積み重ねていけばいいんです。

目標は「分解」して設定する

大きい一歩を設定しそうになったら、分解してみましょう。例えば「財布を忘れない」という目標があるのなら、「サイフは必ず右ポケットに入れる」「帰る前にポケットを触る」と分けて設定する。そして、実践できたら自分を褒めるんです。

実はこの例は僕の実体験なんです。よく紛失していたのに、このルールを決めて以来、もう10年間は失くしていません。誰も褒めてくれるようなことじゃないけれど(笑)、続けていたら自信に繋がるし、自分を褒めることで嬉しくなってくる。騙されたと思って、一週間やってみてください。今日も6時に起きられたとか、そんなことでいいんです。自分ができることをひとつ、自分で褒めてあげることで明るくなれる。踏み出す一歩は小さくていいから、積み重ねるという意識を持ちましょう。

常に上機嫌であれ

日々いろんなことで落ち込むだろうし、自分は不幸だと思っている人もいるかもしれない。でも、自分の不幸なんて、実はたいしたことないんですよ。この先、もっとひどいことが待ってますから。東日本大震災だって、地震学者の人以外は、誰も予想していなかった。きっとこの先も、大きなショックを味わう出来事が待ち構えている。

だからこそ、「常に上機嫌であれ」をお勧めします。着々と乗り越えていきましょう。そうして小さな一歩を積み重ねていく――それがポジティブに前を向いて生きていくということなんだと思います。

(下司 智津惠)

加藤昌史(かとう・まさふみ)
1961年生まれ。人気劇団「演劇集団キャラメルボックス」の製作総指揮として、企画から運営まで手がける。
「人の前に出る仕事の人へ。」は、2015年1月に大学で行った講演のあと、伝えきれなかったことをツイッターに毎日ひとつ投稿したものをベースに、140文字のメッセージと、「コミュニケーション」についての内容をまとめたもの。
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