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ストーカーですか?
「じゃあ、優里花バイバーイ。」
「また明日ね!バイバイ!」
友人と学校の校門でいつもの挨拶をした。
辺りはもう真っ暗だった。何故なら今日は部活の大会で、もう既に午後9時を回っていた。
(早く帰んないと、ママ心配するかなぁ。)
学校は比較的住宅街から離れているところに位置している、2キロ位先の駅員さんが居ない小さな駅まで街頭は100メートル単位にチョコチョコっとあるだけなので正直心許ない。
でも、この時の私は油断していた。
暗い中帰るのなんか塾で何度もしてるし、こんな片田舎で何か起こるとか考えた事なかった。
だから、背後から聞こえて来る足音に気づいた時は単にコンビニに買い物に出た人か何かだと思った。
でも、この辺には駅前にしかコンビニが無いと友人が言っていたのを思い出し、では塾か?と思えば周りは田んぼで背後は中学校と我が高校しかない。あとは山だ。
という事はあれか?年配の方の夜間徘徊というやつか?
私はそれだったらいけないと立ち止まった。
(自分にもアルツハイマーの祖母が居たので、他人事だと思えず声をかけることにした。)
だから、私はこの時老人にしては足音がしっかりと地面を踏みしめる規則正しい物だったとか、自分が立ち止まった時と同時に足音が止むという可笑しな事態にもスッカリ気が付かなかった。
否、気づいていたのかも知れないが私の正義感が(人によってはお節介という)無視して歩いてゆくというのができなかったのだ。
そして、振り返ったところに居たのは鼻息を荒くしたマスク姿の男性だった。
私はその荒い呼吸とマスク姿から、風邪か何かをその男性がひいているのだと思った。
「……あの、大丈夫ですか?」
フラフラと男性がこちらへ歩みを進める。
私は救急車を呼ぼうと制服のポケットからスマホを取り出す。
「今、救急車呼びますから!だいじょ……、っっ!!」
私がスマホの画面に気をとられていると、腹が熱くなった。
火傷とかそんな軽いもんじゃ無い、じくじくなんてまどろっこしくない急激な熱さ。しかもの熱いところから熱い液体が流れている感覚がある。
「……へ?」
目の前に、マスク姿の男性がいた。目の前というよりも鼻の先と言った方がいいくらいに密着していた。かろうじて荒い呼吸の合間に何か喋っているのが聞こえる。
「優里花が悪いんだ……ぼ……僕の優里花なのに、僕だけの優里花なのに……振り向いてくれないから……!!」
ああ、これがストーカーという奴か。
私は何故か冷静になっていた。
ストーカー男が私から離れると同時に膝から崩れ落ちた。腹の熱い所からさらに熱い液体が流れた。男が持っているとそれは所謂包丁というものではないか。この時初めて、自分がストーカーによって刺されたんだと理解できた。
「……へへっ!優里花がぼ……僕のいう事を聞かないから……!はははっ!!」
そんな事を言って男が走り去ってゆく。
未だ優里花が握っているスマホからは大会先から帰って来るバス内でついさっきまでしていたゲームのBGMが流れていた。
「……、あはは。刺されちゃった……。私死ぬのかなぁ……。」
普通ならば、警察なり救急なりに電話するべきなのだが、私はスマホの画面を力なく見つめていた。
主人公が所属する吹奏楽部と、生徒会をメインとしたスマホゲームとしてはやりがいのある恋愛シュミレーションゲームだ。
その名も『私と彼は反進行』略して『彼反』
私自身吹奏楽部であるために、めちゃくちゃハマった。
全ルートをクリアしたばかりで、隠しルートは家で攻略サイトを見てからやろうと思っていたためにオープニングの画面で止まっている。
「……どうせ死ぬのなら、『彼反』の世界に生まれ変わりたいなぁ……。」
こんな事を考えるくらいに私の意識は朦朧としていた。
エンドレスに流れる吹奏楽演奏のBGMを聴きながら目を瞑り、意識が無くなった。
これが、優里花だった私の人生最後の瞬間。
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