【戦後70年談話が支離滅裂になっていたその簡単な事情背景】
 
 【米国の舎弟・子分・フンドシ担ぎのつらい立場,韓国なんぞ相手にしたくないけれども,親分に命じられればそうするほない安倍晋三の幼児性,その面目躍如】


 ①「慰安婦合意:米NSC『オバマ大統領が日本に圧力わえた』-米NSC安保副補佐官が明らかに-」(『朝鮮日報』日本語版,2016年1月7日 08:11)

 バラク・オバマ米国大統領が韓日間の従軍慰安婦の交渉過程で,日本政府に対し積極的な措置を用意するようかなりの圧力をくわえていたことが分かった。これは,米国家安全保障会議(NSC)のベン・ローズ安保副補佐官が〔2016年1月〕2日,ハワイでのメディア会見で,オバマ大統領の水面下での役割を詳細に説明したとワシントンの外交消息筋が伝えたものだ。オバマ大統領は当時,ハワイで年末年始の休暇を過ごしており,ローズ副補佐官は大統領に同行していた。

 ローズ副補佐官は「オバマ大統領はこれまで一貫して元慰安婦と韓国国民の正当な不満を解決する措置をとるよう,日本を督励してきた。とくに,日本が『歴史の遺産』という点をよく胸に刻み,積極的な解決方法を出すよう促した」と述べた。昨〔2015〕年4月の訪韓時に従軍慰安婦問題について「恐ろしくて実にひどい人権侵害だ」と批判したオバマ大統領が,今回の慰安婦交渉の過程でも日本政府に圧力をかけたということだ。
 補注)ここで出ていた表現『歴史の遺産』とは,より正確には「負の遺産」という意味である。 

 ローズ副補佐官は「オバマ大統領は韓国に対しても,慰安婦問題を解決して日本と良好な関係をもつことが韓国の利益に合致するということをはっきり述べた」とし,同大統領が韓国の説得も行っていたことを明らかにした。(ワシントン=ユン・ジョンホ特派員)
 註記)http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2016/01/07/2016010700643.html
 
 この記事,とくべつに驚くような報道ではない。事前に,多分そうであったと思われていた内容である。2007年4月時点ですでに安倍晋三は,ブッシュ(息子:大統領)相手に慰安婦問題では「謝罪」のことばを明確に披露していた。そして今回は,アメリカにそのとおりにやれといわれ,黙ってしたがったに過ぎない。
 註記)本ブログではとくに,2015年12月29日「安倍晋三は従軍慰安婦問題を認めたくない個人の立場であるが,日本国首相としては正式に認めるほかない公的な立場にある」を参照のこと。   

御厨 貴画像2 それゆえ,御厨 貴(放送大学教授)が最近の『日本経済新聞』(2016年1月5日朝刊「〈経済教室〉分断危機を超えて (2)  来れ 次世代の政治家 愉快感覚を取り戻せ」として寄稿していた文章のなかでは,安倍晋三の政治はこう論評されていた。
 出所)画像は御厨 貴,http://dot.asahi.com/wa/2015100700081.html?page=2

 この寄稿は,安倍晋三がまるで「不愉快の政治家」であると断言しているかのようにも受けとれる文章を書いている。以下(後段)の引用中には出てこない段落なので,ここではさきに,その部分のみ引用〔書き出〕しておく。→「それはありていにいえば,安倍政権のさきがみえないことにある。すなわち,安倍政権の統治の継続性と将来イメージの明確性にかかわる」ことなのである。

 安倍晋三は「美しい国」(美国という表記はアメリカを呼ぶとき,東アジアの韓国・中国などにおいて当てられている漢字である)と,自国を称賛したい気分でもって,さらにはその美しい国が「ふつうの国」たりうる基本条件であるかのようにして,自己満足的・自己陶酔的に語ろうとしてきた。だが,そのすべてが幻想・盲信のたぐいであることは,この国の現状をよく観て,将来をしっかり展望しようとすれば即座に,否応なしに思いしらされるはずである。

 アベノミクスとは登壇直後からアホノミクスであった。一事が万事であり,その要領でもってそのすべてが「アベコベミクス風の政治と経済」になるほかなかった。そうした運命〔それとも宿命〕におかれていたのである。この事実は,安倍晋三が政権を握ってから3年も経過した現在では,いちいちこまかく説明するまでもなく,よりいっそう明確になりつつある事実である。トリクルダウンなどといった譬えは,庶民(とくに貧困層)にとってみれば「〈当たりくじ〉のない宝くじ」を買わされるような事象を意味していた。

 安倍晋三は,住民税を払えていない所得層の世帯にはそのうち3万円を給付するなどと,2016〔今〕年7月に待っている参議院選挙を意識した「エビ・鯛作戦」を実行しようとしている。だが,庶民をこれほど「バカにするのもほどほどにしろ」と,批判しておくほかない。これが「幼稚と傲慢」「暗愚と無知」の首相,安倍晋三の政治・経済政策の実例的な一環である。

 さて,前掲の「御厨 貴の寄稿」から従軍慰安婦問題に関する箇所など(この文字色として)を引用する。
 
 この3年間の安倍政権のありさまを考えると,それはよくみえてくる。安倍政権の醸し出す雰囲気は,成果を出しているか否かにかかわらず,なんとなくそうかという感じであり,やったなあという達成感をもたらすものではない。
 補注)この指摘(評価)の方法は遠慮しがちの中身に聞こえる。安倍晋三が怒らない程度・範囲でしか「この首相を批評できない」「支配体制側に基軸を置く学者(知識人)の限界・制約」が明確に感得できる発言である。

 安倍晋三が安保関連法制で強行突破した2015年中における国会運営は,安倍自身にとってみれば「やったなあという達成感をもたらすもの」そのものではなかったか? 国民側が受けている安倍晋三の印象と,また,この首相自身の意識次元で考えているはず論点が確実にあった。それでもまだ,「安倍政権の醸し出す雰囲気は,成果を出しているか否かにかかわらず」などと,〈仮定形〉を使いながらする話法は奇妙である。この筆法は論点ボカシであるとの感想を述べておく。

 いまも支持率はほぼ50%を維持するが,政権支持の理由となると,驚くべき内容の項目がトップを走りつづけている。はたしてそれはなにか。つねにもっとも多いのは「前政権よりまし」という評価である。このあられもない理由が3回の国政選挙を経て,いまなおトップたることに,政権も国民もメディアも三者三すくみで,不愉快の情を禁じえない。
 補注)したがって,今〔2016〕年7月の参議院選挙までに,よりまともな野党勢力が結成・形成されることになれば,その場合は安倍晋三政権は大敗する可能性があるとまで,専門家の立場からは分析・予測されている。他党(野党)勢力がだらしないのであって,安倍晋三がとくにすばらしい・すてきな政治家であるわけは,もともとからない。

 安倍政権は,そもそも古き良き時代の自民党政権の復活として登場したのではない。「自民党結党60年」を安倍晋三首相が素直に「還暦おめでとう」という感じでお祝いする気持ではなかったことにも,それは見てとれる。
 補注)いまの安倍晋三政権下における自民党は「日本会議」に参加する閣僚が大多数を占めるくらい,極右・反動性の濃厚な内閣を構成している。往事(?)の自民党政権時代みたく,保守・右翼政党であってもそれなりの守備範囲でもって,広く「右から左までの政治思想」を抱く国会議員たちを抱えてはいない。

 その内閣は,もっぱら単細胞的な極右,それも昔のナチ(国家〔国民・民族〕社会主義労働者党)註記)を猿真似的に模した立場(ただしこれに相当するような政治思想を本当にもちあわせているかどうかは「?」)を誇示する連中が大部分を占めているのだから,日本国における政治状況は深刻な重篤状態に追いこまれている。
 註記)ナチのドイツ語表記は Nationalsozialistische Deutsche Arbeiterparte(略称:NSDA)である。ドイツのところを「日本」に入れ替えて自称する政治団体が存在するが,泡沫的な政治団体である。ところが,この政治団体の代表者たちとツー・ショットの写真を記念撮影するような閣僚たちもいたのだから,そのバカさ(危険さ)加減は突出している。しかし,それが現政権の真相(面相)の一端(面妖さ)でもある。

 安倍首相が本当に手がけたいのは,祖父たる岸 信介元首相が着手したものの,それ以後の自民党政権が長く棚上げしてきた「憲法改正」「歴史認識是正」といった国家価値やイデオロギーを前面に押し出す路線による状況規定にほかならない。「自民党60年」は,安倍首相にとっては本来の自民党のとるべき路線からの逸脱の60年といってよいから,素直には祝えない愉快ならざる事態なのである。

 だから安倍首相は「戦後70年」談話にあれほど固執したのだ。こちらは気迫で押せば変えられるものかもしれぬ。だから「歴史認識是正」の第一歩として「あの戦争は日本の侵略戦争ではなかった」という歴史に対する状況規定をどうしても手がけたかった。

 註記)あの侵略戦争を「侵略していない戦争」だったといいたい安倍晋三の政治意識は〈虚妄・虚構〉どころか,まさしく〈狂信・誤信〉の戦争観である。台湾・朝鮮を植民地支配し,中国東北に傀儡国家「満洲国」を建国させ,その後も中国各地で戦争を継続させ,アジア・太平洋地域の広範囲にわたり大東亜・太平洋戦争をしてきたのである。

 それでも,その戦争地域になった国々の側で,旧大日本帝国からの侵略戦争はなかったなどと倒錯した見解は,どこからも出てくるわけがない。21世紀に日本の首相を務めているこの安倍晋三の政治意識は,まったくに旧来風の帝国主義者そのものである。「戦後レジーム」の否定を盛んに唱えている安倍であるが,ときに未来志向を口にもする彼であるが,脳細胞の質的状態は完璧に近いほど〈化石的思考〉の能力にのみ長けている。

 ② 大正期における小日本主義の政治思想

 明治以来の大日本帝国はそれでは,1945年の敗戦時まで,いったいなにをアジアの諸国・諸地域でおこなってきたのか? 「主権線」(=日本)だとか「利益線」〔もしくは「生命線」〕(=植民地・支配地域)だとかいったごとき,侵略を正当化するための国際政治観念を創作しておき,これによって,アジアにおける日本のその「主権」を護るといいはっていた。

 隣国(他国)を軍事侵略し,植民地支配下に置き,これを「利益線」として侵略・確保しておかねば守護できなかったのが,「主権線」の日本国であったと想定していた。とすると,敗戦後から現在までの日本国は,いったいどのように理解され,位置づけられればよいのか苦しむほかなくなる。

 安倍晋三は,過去における「日本の侵略行為」を認めたくない立場に固執する。過去における旧大日本帝国主義が記録してきたその侵略の実績を,必死になって正当化・合理化したいのである。アジアの周辺諸国からは当然のごとく,非難・批判が集中する。それでもなお安倍はそのようにこだわっていたいのだから,病膏肓に入ったと診断されてよい重篤患者的な〈極右侵略主義〉である。この「安倍晋三の精神構造」は,以前より明白でありつづけている「彼自身内の問題点」であった。

 つぎにここでは,石橋湛山の「小日本主義」を想起しておくのが好都合である。

 初期の大正デモクラットは,日本の帝国主義的な発展を図るためには,自国を名実ともにイギリス型の近代的な帝国主義国家にする必要があるとして,内政=「立憲主義」と外交=「帝国主義」との統一的な促進を力説した。彼らは,欧米先進国なみの資本主義化と立憲主義的な政治体制を完成するとともに,従来の武断的な帝国主義政策から「実業上の帝国主義」,つまり移民や貿易,さらには資本輸出を中心とした平和的に経済的な対外膨張政策へと転換させる三浦銕太郎画像必要があるとした。このような路線を徹底させ,侵略的な領土拡張主義,植民地主義を厳しく批判した雑誌こそ,三浦銕太郎らの『東洋経済新報』であった。
 出所)右側画像は三浦銕太郎,http://murubu.com/fstory/GRP/SGP/PGE3

 イギリスの自由主義,功利主義の立場に依拠したこの三浦銕太郎らは,自由かつ対等な諸個人の政治的・経済的な,内外にわたる自由な競争を保障するような体制の実現を理想とした。この見地から,普通選挙を前提とする政党内閣制の実現や領土拡張主義,保護主義に対する商工立国主義,自由貿易主義を主張したばかりか,大正期には民族自決や満州(中国東北地区)などの植民地の放棄も唱えた。しかしながら,このように武断的な対外膨張主義に反対したとはいえ,彼らは貿易や資本輸出を中心とする経済的な対外進出には積極的な態度を表明していた。
 註記)https://kotobank.jp/word/小日本主義-1339992
 
 三浦銕太郎〔ら〕による「小日本主義」の主張は1920年代に至って彼を継承して主幹となった石橋湛山のもとで,植民地全面放棄論に発展した。1919年,朝鮮における三・一独立運動にさいして湛山が執筆した社説「鮮人暴動に対する理解」は,「鮮人暴動」すなわち三・一独立運動を世界的規模での新しい民族運動の一環として位石橋湛山画像2置づけていた。「凡(およ)そ如何なる民族と雖(いえども),他民族の属国たることを愉快とする如き事実は古来殆どない」として民族自決を原理的に承認した。
 出所)左側画像は石橋湛山,http://webronza.asahi.com/photo/photo.html?photo=/S2010/upload/2013011800005_1.jpeg

 また,その独立運動の原因を朝鮮人による「独立自治の要求」にもとづくものとの認識を示し,日本の植民地支配それじたいを問題とし,彼らの反抗を緩和する方法は自治付与しかないと結論づけたものである。この主張は「小日本主義」を民族自決主義にもとづく植民地政策批判へと一歩前進させるものであった。
 註記)http://www.weblio.jp/wkpja/content/小日本主義_小日本主義の概要

 以上のような「日本政治思想史における伝統の一系譜」は,安倍晋三といういま〔21世紀〕のこの首相とは,トント縁のないままにある。いまの日本国のこの首相に対して,三浦銕太郎や石橋湛山並みに政治思想・社会理念を求めるのは「木に縁りて魚を求む」に等しいゆえ,あえて高望みはしない。だが,明治史以来のこの国の歴史展開において「アジア諸国に対する侵略という事実を主観面的に認めたくない」安倍晋三の政治的立場は,この首相に対する個人的な好き嫌いの感情とはまた別次元に厳在する〈深刻な問題=日本国の難点〉を明示している。

 ともかく,敗戦後の日本はアメリカ軍を中心とするGHQ支配下のもと,隣国における内戦勃発(1950年6月発声)を千載一遇の好機として与えられ,20世紀後半期においては経済大国にまで到達できる契機も与えられていた。三浦銕太郎や石橋湛山の主唱は,敗戦後の日本においてこそ,まがりなりにという留保を付けながらも実現されていた。この歴史の事実については,あらためて注目しておかねばなるまい。

 さて,つぎの ③ に長々と引用するのは,『日本経済新聞』2016年1月9日朝刊が「8面の全部」を当てて報道するかたちでもって,この日本経済新聞なりに総括していた〈従軍慰安婦問題に関する特集記事〉である。この8面に配置された「紙面全体の各内容」が,どのような方途において議論されているかは,つぎの画像も参照してもらいつつ,紹介してみたい(ただし見出し部分しか読みとれない程度にしか写っていない)。日本経済新聞など購読していないという人も多くいるはずであるから,きっと参考にしてもらえると思う。
『日本経済新聞』2016年1月4日慰安婦問題特集面
 なかでも注目なのが,安倍晋三の発言「韓国,相手にせず」である。かといって,この安倍晋三はオバマの指示には逆らえない。その程度の「日-韓-米」の政治的な三角(力)関係である。以下,『日本経済新聞』2016年1月9日朝刊8面「慰安婦問題特集」を全面紹介しておく。なお引用では区切りをつけるために適当に番号を振ってある。
 
 ③「慰安婦問題合意-日韓,未来志向手探り」(『日本経済新聞』2016年1月9日朝刊8面「特集」)
『日本経済新聞』2016年1月9日朝刊8面画像1
 日韓両政府は2015年末の外相会談で,旧日本軍による従軍慰安婦問題の最終解決を確認した。最大の懸案だった課題を乗り越えたことは,外交や経済で協力関係を深める土台になる。北朝鮮による4回目の核実験を受け,さっそく連携に動き出した。ただ竹島(韓国名・独島)の領土問題など多くの懸案も横たわっており,未来志向の関係強化はなお手探りだ。

 1)最大の懸案で前進 対北朝鮮の連携の土台に
 
 「慰安婦問題での合意があったからこそ,この重要な機会に緊密な連携を確認できた」。北朝鮮による核実験から一夜明けた〔2016年1月〕7日,安倍晋三首相は韓国の朴 槿恵(パク・クネ)大統領に電話を入れた。首相が「こういうときだからこそ,日韓や日米韓の安保協力は重要だ」と強調すると,朴氏は「今年を韓日の新時代の元年にしたい」と応じた。

『日本経済新聞』2016年1月9日朝刊慰安婦問題画像2 国連安全保障理事会による制裁決議の採択に向けて緊密に連携する方針で一致した。

 核実験当日の〔1月〕6日には,岸田文雄外相と尹 炳世(ユン・ビョンセ)外相が電話ですばやく連絡をとり,連携を確認しあった。外務省幹部は「3年半も首脳間で話ができなかった時代が続いた。冷え切った日韓関係を思えば隔世の感だ」と感慨深げに語る。

 日韓首脳の電話協議に先立つ9時間前。オバマ米大統領は首相に電話で,慰安婦問題の合意に触れ「首相の勇気と決断に祝意を申し上げる。今回の決断で,日米韓の協力が平和と安定に大きく貢献できる」と述べた。米国を含めた3カ国の連携が本格化する。

 北朝鮮の核実験は,日韓の結束を強める結果になった。

 日韓の外交・防衛当局は,北朝鮮の動向をにらみ情報交換を密にしている。日米韓3カ国の防衛当局は8日に局長級によるテレビ会議で,北朝鮮を核保有国とは認めないことを確認。核実験が安保理決議に違反し,地域の脅威であるとの認識を共有した。北朝鮮の弾道ミサイル発射実験の可能性も意見交換した。

 日韓は経済協力の前進も探る。〔2016年1月〕12日には外務省の次官級による「日韓ハイレベル経済協議」を約1年ぶりに開く。韓国が参加を検討する環太平洋経済連携協定(TPP)や,中国を含めた3カ国が締結に向けて交渉中の自由貿易協定(FTA)などをめぐって意見を交わすとみられる。

 日米が主導するTPPでは現在の12カ国に続く第2陣に韓国がくわわれば,経済分野で中国に対抗する枠組が強化される。日中韓のFTAでは自由化の水準をめぐる3国間の隔たりはなお大きいものの,日韓が連携することで中国の歩み寄りを促す展開も期待できる。

 2)なお火種も 少女像や徴用工くすぶる   
『日本経済新聞』2016年1月9日朝刊慰安婦問題画像3
 北朝鮮への対応で連携する日韓両国だが,多くの課題が残っている。

 慰安婦合意をめぐっては,ソウルの日本大使館前にある慰安婦を象徴する少女像の扱いが引きつづき課題になる。尹 炳世(ユン・ビョンセ)外相は2015年12月の岸田文雄外相との共同記者発表で,少女像について「適切に解決されるよう努力する」と表明。岸田外相は「適切に移設されるものだと認識している」と述べたが,韓国では元慰安婦や民間団体が強く反発した。

 韓国政府は「少女像は民間が自発的に設置したもので政府があれこれいえる事案でない」としている。いかに国内を説得できるかがカギになる。
『日本経済新聞』2016年1月9日朝刊慰安婦問題画像4
 領土問題の対立は深い。島根県の竹島は1952年から韓国が一方的に実効支配を続ける。日本は「歴史的事実に照らしても国際法上も明らかに日本固有の領土だ」との立場。2012年には李 明博(イ・ミョンバク)大統領が現職大統領で初めて竹島に上陸を強行した。

 戦時中に日本企業で働かされた韓国人の元徴用工らの損害賠償訴訟の問題も火種だ。最高裁に相当する韓国の大法院が2012年,日本企業への個人の賠償請求権は有効と初めて判断。以来,韓国各地で元徴用工が賠償を求める提訴が相次ぎ,日本企業の敗訴が続いている。

 韓国が2011年の東日本大震災後,福島などの水産物輸入を禁止している問題も未解決だ。日本は韓国の対応は不当として2015年8月に世界貿易機関(WTO)に提訴した。

 軍事面での日韓協力関係はまだ弱い。現在,自衛隊と韓国軍が防衛秘密を共有する場合,米国を介する必要がある。日本は直接,防衛秘密を共有するのに必要な軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の交渉再開を呼びかける方針だが,韓国には慎重論が漂う。韓国政府は世論の動きを見極めて判断する構えだ。

 自衛隊と韓国軍の間で燃料などを融通しあう日韓物品役務相互提供協定(ACSA)も締結できていない。

 3)【検証1】 「韓国,相手にせず」首相  朴氏は就任以来,「外圧」で譲歩を迫った
 
 安倍首相と朴氏の2人だけの首脳会談には,朴氏の大統領就任から約32カ月を要した。ボタンのかけ違いは2013年2月の就任式当日にさかのぼる。

 この前年の8月,韓国で政権末期の李 明博(イ・ミョンバク)大統領は竹島(韓国名・独島)に上陸。日韓関係は一段と冷えこんだ。大統領就任式に臨んだのは安倍政権ナンバー2の麻生太郎副総理。

 歴史認識問題をめぐり,朴氏が「歴史の直視」を求めると,麻生氏が「日韓には立場の違いがある」と反論した。同年4月には麻生氏が靖国神社に参拝。朴氏は就任早々,威信が傷ついた。

 首相は国会答弁で「我が閣僚はどんな脅かしにも屈しない」と麻生氏を擁護した。「安倍・朴」関係は出だしで大きくつまずいた。
 補注)朴 槿恵側からの「歴史の直視」要求が「脅かし」になるというのは,安倍晋三側における不思議な過剰反応である。同じことを安倍晋三は,オバマからも「要求」されてきたのだから……。こちらは多分「勧められた」とでも解釈しておけばよいに違いあるまい。

 原則主義でしられる朴氏は就任以来「日本側がまず努力すべきだ」との姿勢を鮮明にし,米国などの外圧で日本に譲歩を迫る戦術にシフトしていく。2013年9月にヘーゲル米国防長官に「歴史に逆行した発言をする日本の指導部のせいで信頼関係を築けない」と批判。日本では「告げ口外交」と受け止められ嫌韓論が広がった。「韓国なんか相手にしないでいい」。首相は周囲に漏らした。
 補注)そうである,安倍晋三の日本国は「アメリカにだけ相手にしてもらえればいい」というわけであるらしい。

 日韓にはかねて腹案があった。2012年の民主党政権で佐々江賢一郎外務次官(現駐米大使)が韓国側に示したいわゆる「佐々江案」だ。

  (1)   首相のおわび,
  (2)   駐韓日本大使が元慰安婦と面会,
  (3)   日本の政府予算を使った元慰安婦支援,

の内容とされる。2013年末に日韓政府の関係者が会ったさい,韓国が「佐々江案ではダメか」とただすと,日本は「安倍首相は民主党政権の案はのめない」とつれなかった。

 1965年の日韓国交正常化から50年となる2015年。1月に「日韓の年ですね」と周辺が語りかけると,首相は「どうだろうね。とりあえず6月の記念式典を目標にやってくれ」。韓国への不信はぬぐえなかった。

 朴氏は2015年を慰安婦問題を解決できる「事実上,最後の機会」とみていた。革新系の野党第1党が手ぐすねをひくなかで越年すれば「日韓50年」のテコがなくなり,慰安婦問題を解決できなかったとの攻撃にさらされるのは明らかだった。

 転換点となったのが,〔2015年〕4月の安倍首相の米議会演説だ。韓国が求めた植民地支配や謝罪に言及しなかったにもかかわらず,米国で一定の評価を受けたからだ。韓国は6月22日に東京とソウルで開く国交正常化50年式典に向け安倍,朴両首脳の相互出席構想を日本に打診。「年内決着」への命脈をつないだ。

 このころ首相は側近の谷内正太郎国家安全保障局長を韓国に派遣。水面下で交渉を進めた。「この段階で合意寸前まで達していた」(日韓政府筋)という。

 だが直後に表面化した世界文化遺産への登録問題をめぐる対立が水を差す。韓国が植民地時代に朝鮮半島出身者が施設で働いた「徴用工」の歴史に関する表現で「強制労働」を意味する「forced labour」を使おうとしたことに岸田文雄外相が激怒。この表現は最後は使わなかったが,慰安婦問題の決着はもち越した。

 4)【検証2】  「年内に対処を」朴大統領 2015年11月の首脳会談が事態を打開する

 事態が大きく動いたのは11月2日の首脳会談だ。朴氏は青瓦台で安倍首相に慰安婦問題へのみずからの思い入れを粛々と訴えた。「この問題への対処は『年内』をめざすことでどうですか」。首相は「年内と決めるのはいかがか」と押しとどめた。年内といって決められなかった場合の負の影響を懸念したからだ。

 一方で,朴氏の意向もくんだ。調整の結果「早期の妥結をめざして交渉を加速」で折りあった。4日に自民党の谷垣禎一幹事長と会談したさいには「年内にまとめられたらいいのだが……」と語った。年内妥結への自信はまだなかった。

 慰安婦問題で首相の決断を引きだした大きな要因は,〔2015年〕12月17日の産経新聞前ソウル支局長の無罪判決だった。

 韓国政府は首相がこの判決に重きを置いているとの思いを強めていた。ここが勝負どころとみた韓国外務省は裁判所に日韓関係に配慮して善処を求める文書を送った。裁判長がそのまま読みあげる異例の展開をたどった。慰安婦問題の年内解決をめざす朴氏の強い意向があった。

 「韓国は本気だ」とみた首相は〔12月〕22~23日に谷内氏をソウルに再派遣。朴氏が信頼を寄せる李 丙琪(イ・ビョンギ)大統領秘書室長と談判した。首相が重視したのは,最終解決への確約だ。側近に「ぶりかえさないことが大事だ。謝罪に終止符を打ちたい」と語った。

 日本の歴代首相が元慰安婦に送った手紙で言及した「道義的な責任」から「道義的」を落とし,ただの「責任」とした。日韓で読み分けられる玉虫色の決着だった。「これならいいよ」。首相は〔12月〕24日,帰国した谷内氏の報告にうなずき,横にいた岸田氏に訪韓を指示した。「私が責任をもつからいってきてください」。

 慰安婦支援で新設する財団に関しては,当初1億円超の拠出を主張したが,20億円以上を求める韓国に配慮し,10億円程度とした。「年内解決ができるなら10億円は安い」。そう語る側近に首相は納得した。

 朴氏は合意後,ただちに国民向けのメッセージを出し「韓日関係改善の観点,大局的な観点から理解してほしい」と訴えた。

 5)「仲介者」米,中国にらみ和解を後押し   

 将来世代に重荷を残すことがあってはならない。2015年11月,ラッセル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は3年半ぶりの日韓首脳会談後に安倍晋三首相が記者団に話したこの言葉をノートに書きとめた。従軍慰安婦問題の解決を「日韓両国の国益であり,米国の国益である」と主張してきた米側が同問題の解決に手応えを感じた時期でもある。

 日韓首脳会談以降,ラッセル氏は「1回の首脳会談であらゆる問題が解決するとは思わない」とあえて期待値を下げるような発言をした。慰安婦問題が進展するとの確信があったためだ。伏線はあった。2015年4月と10月にワシントンでそれぞれ開いた日米と米韓の2つの首脳会談だ。

 「過去は克服できる」。オバマ米大統領は首相に慰安婦問題を念頭に日韓関係に改善を促し,韓国の朴 槿恵(パク・クネ)大統領には「歴史に関する課題」を指摘し,歩み寄りを求めた。米側が脅威と位置付ける中国への抑止力になると期待するのが日韓との連携だ。

 南シナ海での人工島造成など中国の挑発が露骨になるにつれ,日韓の関係改善が米側にも急務になった。妥結を想定した日本の「歓迎」声明の発表要請に即座に応じたのも,慰安婦問題が蒸しかえされるのを好まない米側の立場が表われている。

 「歴史的合意を歓迎し支持する。日韓の勇気と政治的決断を称賛する」。ケリー米国務長官は〔2016年1月〕6日,岸田文雄外相に電話をかけ,慰安婦問題解決への祝意を示した。ケリー氏が直接,岸田氏に伝えたいとの要望を踏まえ,実現した電話協議だった。

 6)【キー・ワード】1「日韓請求権協定」  
 
 韓国が日本による植民地支配から独立するにあたり,両政府が1965年に双方の債権・債務の関係などを清算するために結んだとり決め。日韓両国が外交関係を樹立する根拠となった日韓基本条約に付随して締結した。

  (1) 日本が韓国への経済協力として無償3億ドル,有償2億ドルの計5億ドルを供与する。
  (2) 国民の財産・請求権問題は完全かつ最終的に解決されたことを確認する,との内容。

 この協定をもとに日本政府は慰安婦問題について「完全かつ最終的に決着済み」としている。

 7)【キー・ワード】2「アジア女性基金  」
 
 元従軍慰安婦への償い事業を目的に政府が出資して1995年に設立した財団法人。民間資金を原資に元慰安婦1人当たり200万円の「償い金」を支給した。国情に応じて1人当たり120万~300万円の医療・福祉支援事業もした。2007年に解散した。

 韓国では元慰安婦 61人に「償い金」と医療・福祉支援事業を提供。日本政府による公式補償を求め,受け取りを拒んだ元慰安婦も多かった。

 外務省はフォローアップ事業としてNPOを通じて元慰安婦に定期的に医薬品などを届けている。

 8)「専門家の見方」

 a) 日本,静かに見守るべき- 谷野作太郎・元駐中国大使
 慰安婦問題をめぐり,日韓関係は何年か身動きがとれない状態が続いていた。今回の合意は大変良かった。北朝鮮の核実験を受けて日韓首脳がすぐに電話協議できたのは,この合意があればこそだ。関係改善に向けた大きな一歩になった。強い思いが両首脳にあったのだろう。岸田文雄外相も大変努力したと聞いた。

 「最終的かつ不可逆的な解決」で合意したことも評価したい。かつてアジア女性基金の立ち上げをもって日韓間では決着したが,韓国はその後ひっくり返した。国際約束を「情の世界」でひっくり返すやり方は安定した日韓関係に寄与しない。

 悩ましいのはソウルの日本大使館前にある少女像の問題だ。今回の合意ですべてが済んだと必ずしも楽観はできない。韓国国内で沈静化し,本当の意味での解決には,もう少し時間がかかる。

 今回の合意を受け,韓国政府が事態を沈静化させる方向で努力していることを評価したい。日本としては韓国側の努力を静かに見守るということだろう。日本側でも不用意な発言は慎むことが大事だ。合意には米国も関与している。不用意な言動をすれば,せっかく仲介の労をとった米国の立場を悪くする。

 b)  韓国,不満多いが合意守る- 趙 世暎・韓国東西大日本研究センター所長
 従軍慰安婦問題の合意は,韓日両政府がたがいに相手に強く出る戦術による負の側面がしだいに大きくなっていると意識した結果だ。国交正常化50年の勢いを生かそうという意図が双方にあった。

 韓国が設立する財団に日本が10億円を拠出する代わりに慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」などで合意した。結果的に50年前の請求権協定の方式を繰りかえしてしまった点で物足りなさが残る。財団は韓国政府が被害者の共感と理解をえられないと出だしから難関にぶつかりかねない。

 慰安婦問題をめぐる雑音は簡単にはなくならない。合意後に経済や安全保障分野で実用的な協力の動きが活発になりうるが,韓国国内の反発で思いきった措置をとるには限界があるだろう。

 韓国の立場では不満が多く残る合意だが,正式に合意した以上,国内世論の反発にあっても韓国政府は合意を守ると思う。問題は安倍政権の姿勢だ。日本政府が請求権協定で解決されて法的責任がないと繰りかえせば,韓国内で今回の合意への批判が強まっていくだろう。歴史修正主義的な言動を自制し,新しい不和の火種をつくらないことも大事だ。

 東アジアの地域秩序が米国と中国の主導のもとでつくられていくのは韓日双方にとって望ましくない。調和のとれた安定した地域秩序をつくるため韓日両国が悩みを共有する努力がいつになく重要だ。戦略的な対話を続けなければならない。

 c)  米は相互理解を助けた- ビクター・チャ 米戦略国際問題研究所(CSIS)韓国部長

 米国は今回の合意を本当に歓迎している。同盟国の中核である日韓がさまざまな問題について対話し,最前線で協力できるようになってほしいと思っていたからだ。米国が(慰安婦問題の)裁定を下すための仲介役を担ったとは考えていないが,日韓が自分たちの方法で解決できるよう相互理解の手助けをやってきたのはたしかだ。
 補注)この段落のいいかたは奇妙である。アメリカ側は大いに仲介役として関与していたけれども,そうは考えていない「相互理解の手助けをやってきた」といいわけしている。このどちらの表現方法でもその内実は同じと解釈するほかない。アメリカ側の関与を過小にみせたい意向がにじみ出ている。

 米国が慰安婦問題にとり組む理由に中国への懸念が明白にあったかはわからない。米国は日韓との協力は,共通の利益になると繰りかえしてきた。歴史問題がその障害になってきたことは否定できない。私が強調したいのは,米国は中国や北朝鮮の存在にかかわらず,日韓の和解を求めてきたということだ。

 北朝鮮への対応で日韓に戦略的な溝があるとは考えていない。ただ,対中国については,少し複雑だ。南シナ海のような問題で韓国の立場は日本のように前のめりではない。韓国は対北朝鮮での中国との協力と,南シナ海で航行の自由を脅かす中国の活動を分けて考えなければならない。当事者でないだけに航行の自由をめぐる韓国の意見は信頼される。

  --以上,途中にいろいろ寸評も入れたいところであったが,最小限に禁欲しておいた。あとは,天木直人のつぎのような指摘(批評)を入れておけば,本日におけるこの記述の論旨にとっては好都合である。

 ④「日韓合意は米国が日本に圧力をかけて実現させた動かぬ証拠」(『天木直人のメールマガジン』2016年1月10日第26号)

 2016年1月7日の朝鮮日報オンライン(CHOSUN ONLINE)が報じていたことをネット上で流れる情報でしった。
 註記)http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2016/01/07/2016010700643.html この記事が ① の引用・紹介になっていた。
ベン・ローズNSC副補佐官
 米国家安全保障会議(NSC)のベン・ローズ安保副補佐官が去る2日,ハワイでのメディア会見で,オバマ大統領の水面下での役割を詳細に説明したと。ローズ副補佐官は,「オバマ大統領はこれまで一貫して元慰安婦と韓国国民の正当な不満を解決する措置をとるよう,日本を督励してきた。とくに,日本が『歴史の遺産』という点をよく胸に刻み,積極的な解決方法を出すよう促した」と述べたというのだ。
 出所)画像はベン・ローズ安保副補佐官,http://blog.livedoor.jp/nappi11/archives/4502745.html

 ワシントンの外交筋が朝鮮日報のワシントン特派員に伝えたらしい。 “朝鮮日報オンライン” は韓国最大の発行部数を誇る『朝鮮日報』の日本語ニュースサイトだ。いい加減なことを書けるはずがない。もしベン・ローズNSC副補佐官の語った事が事実ならきわめて重大な意味をもつ。こんどの日韓合意の裏には米国の意向が強く働いていただろうことはいまや皆が内心そう思っている。

 そのことがこの発言で裏づけられたのだ。その意味は大きい。しかしもっと重要なことは,韓国よりも日本の方に圧力をかけたといっていることだ。つまり,安倍首相の歴史認識に圧力をかけたといっている。これはきわめて重要な発言である。これほどの重要な発言をなぜ日本のメディアは伝えようとしなかったのか。

 オバマ大統領のハワイ休暇に同行したベン・ローズ副補佐官が不用意に口を滑らせたのなら,なおさら見逃せない重大発言だ。いまからでも遅くない。大手メディアはオバマ政権やベン・ローズ副補佐官に取材して,発言の真偽をたしかめ,日本国民に教えるべきだ。

 それをしないようなら,大手メディアは安倍政権に都合の悪いことは報道自粛していること,間違いない。
 註記)http://movement.main.jp/modules/d3forum/index.php?post_id=3413
 出所)http://foomii.com/00001/2016011008154030801