このブログで書いてきました通り、これまで本屋開店への準備をしてまいりました。いま、その形が出来上がりつつあるのですが、本日は書ききれなかった事、伝えきれない事など。
マニアックな話で、普段より専門的、テクニックによった話が多いです。おまけに長いですので、興味がある方がいらっしゃれば読んでくださいという感じです。
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ここまで書いてきて、お金の事にはあまり触れませんでした。生々しいことなので避けてきたのですが、恐らくは皆がぼんやりと気にかかっている事ではないでしょうか。
本屋を作るにあたっては大まかに言って下記のお金の支払いが必要になります。
①
物件取得の金額(月の家賃に加え、敷金+礼金など)
②
内装工事の金額。業者により様々かと思います。通常は工事業者が電気やガス、空調システムなどの諸々の設備工事を間に請け負い、まとめてやり取りするケースが殆ど。
(但し、業者によりここの分け方は様々です)
③
設備費(本棚、備品、その他運営に関する資金/カフェなど他業種を併設して行うならば、その金額も含まれる)
④
商品仕入代金(本の仕入、その他)
⑤
運営に関する資金(人件費、予備費、消耗品費など)
「店を開くには」というような本を買ってみると、そんな事がつらつらと書かれており、実際に開いた人のインタビューなどが載っていますが、「結局ケースバイケースなんだな」という事しかわかりません。実際に始めてみると、想像外の「こんなお金も必要なのか!」という事が多く発生します。
個人で一から始める場合は、決められたフォーマットや、企画書通りに物事が運ぶという事はまれで、出てきた事案にどう対応するかという事が求められます。
きちんと決まり通りに動く社会に慣れていると「こんなので本当に良いのかな」と心配になりますが、とにかく使えるものはなんでも使って、あり合わせのもので何とかするという構えが必要です。お金と質と、はかりにかけなければならないことがその都度発生しますので、何が譲れないのかがずっと問われたような気がしました。
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①と②に関しては、その経緯を細かく書きました。これは場所と自分の趣向をよく考え併せた上で、事前リサーチを行う(と言っても、歩いてピンとくるかどうかという程度ですが)のが良いかと思いますが、その上に運の要素が大きくかかってきますので、とにかく粘りです。
現実的には、従来書店の出店地とされていた駅前の一等地は、家賃が殆どの場合高く、他の業種に負けてしまう事が多いです。いかに二等地・三等地でも人に来て頂くモデルを作れるかがこれからの書店(特に路面では)には重要かと思いました。
③は値段を抑えようと思えば工夫次第で何とかなる部分です(自分で内装まで行える人は②とも絡む話です)。Titleでは什器・備品などは裏技を使いました(書けません…)。
厨房まわりだけでなく、本棚なども中古屋さんがありますので、調べればすぐに出てきます。ただ、イメージと合う合わないもありますので、そこはDIYの可能性含めて考えましょう。
④が重要です。Titleの初期在庫は最終的に約1万冊ほどです。それだけの数の本を仕入れるのはかなりの金額になるのですが、工夫次第ではここも抑えられます。
一般に本は取次という問屋と契約し、そこから仕入れをして取り寄せるというシステムです。売れなかったものは殆どの商品が返品可能で、返品したものは仕入をしたものより差し引かれますので、殆どの中小書店は、そうして月の支払いをやりくりしていると思います。いわば他の商売とは異なり、最初の元手が大きく必要ですが、そこからは調整がある程度効くというものです(ただしこの事は原則論で、変化の予兆は色んなところで現れています)。
これだけの大きなお金は払えませんので、初回の仕入れ値の支払いを抑えるために、二つのやり方を取りました。
・直取引
・出版社との長期(常備)契約の個別契約
「直取引」は、上記のように問屋を通さず出版社と書店が直接取引を結ぶというものです。取次を通さない分だけ、出版社と書店の取り分が増えるうえ(契約によりますが)、委託契約を結べば、年に何度かの売上調査を行い、売れた金額のみを精算するだけなので、書店にとっては在庫として支払う金額が少なくなるメリットがあります。ただし、年に何度かとはいえ、店内に散らばった在庫をカウントして報告、支払いという面倒がありますので、そうした手間を考えなければなりません。
「長期」「常備」とは一般の方には耳慣れない言葉ですが、今回のパターンで言うと支払いを後にする、そして支払い時期に全てその商品を入れ替えてまた次の年度を迎えるというものです(ああ、説明しずらい…)。
そうすることで、書店は在庫金額の負担を減らすことができ、版元は自社の商品をある一定期間、ずっと置いておくメリットが出てきます。Titleではあらかじめ自店のコンセプトに合った出版社が分かっていたので、そこと交渉して出来るだけこうした条件を付けて仕入れる事にしました(もちろんすべての出版社が対応してくれる訳ではありません)。
そのためには、出版社と交渉する必要があり、こうした店を作りたいという説明が必要です。後の問屋の窓口の開設の話とも絡みますが、予め店の商品コンセプトを固めておくと、説得力と必死さが増します。どのような出版社と深く付き合うかは、店の方向付けに大きく関わります。
Titleでは、こうした二つのやり方を取りながら、初回の支払金額は、仕入れた商品の70%弱に抑えております(高額な専門書の出版社に多く助けて頂きました)。
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取次に支払うのは、商品の支払いだけではありません。取次はこちらがお金を支払う前に商品を送るため、お金の回収が出来ないリスクを避けるための信認金を、取引予想金額を計算した上で、前もって預けます。
随分前には、それがものすごい金額のように言われておりましたが、今回口座を開設してみると、理由も含め妥当なものだと感じました。
取次は全く門戸を開いていないという訳ではありません(商売なので当たり前ですね)。それよりも、どうしたら本の売上の底支えが出来るかと考えているので、気運としては出来るだけ取引を増やしたいと思っています。
今回やり取りを行い、取引高の大小というよりは、信頼関係を問われているのかと思いました(支払いより先に商品を送るので当然の話です)。これは考えようによっては、本だけに頼らない少額の取引(例えば月に新刊本は100万も売れなくても、他の売上でそれ以外の部分を賄うなどのケース)でも、納得させるだけのモデルと期待感があれば、新刊本の問屋と取引を行える可能性が増えているのかもしれません。
(もちろん商品の輸送にも人件費やガソリン代、商品を置いておく倉庫代などコストがかかっているので、例えば他の店がない離れたお店に本を届けるのは、割に合わないという現実もあります。それをお互いどう歩みよるかだと思います。あと、取次にはもう少し新規の取引を増やすための、明朗さが必要なのではないかと思っています)
最後⑤ですが、これは忘れがちですが、月々の支払いになるので、予め準備金に入れておくのが大切です。消耗品(カバーや袋)などは、どの程度までお金をかけるのかはコンセプトによります(本来は書店の「サービス」なので)。もっと言えば、お金をかけないところには、それをコンセプトに合わせて「かけない事が当然」のようにしてしまうのも良いかと思います。
色々と書きましたが、こんなにめんどくさい事をやっているのだから、お店の中身はあれこれ反応を考えずに、思った通りにするのが良いと思います。
儲けるためだけにやっているのなら本屋でない方が儲かると思いますし、譲れない何かを持っている方が個人店の場合はお客さまに伝わりやすいと考えています。