ものすごく仲のいい友人がいまして、付き合いだけで言うと25年ほどになります。
例えるならそうですね、メロスにとってのセリヌンティウスっつっても過言じゃないっつーか。竹馬の友っつーか、馬鹿の友っつーか。
この25年間でケンカしたのは1回だけです。
中学の時に、おりが貸した英語の教科書に落書きしてきましてね。英文の上にカタカナ振ってるんですよ。「お前ふざけんなよー」っつって。
Thank youのところに思いっきりカタカナ振ってました。「それくらいわかれよ!」って意味でも腹が立ったんですけど、なによりもイラっとしたのが『テンキュー』って書いてたんです。
「お前カタカナ振ってるくせに、なにネイティブなフリしようとしてんの?」っつって。『サンキュー』程度ならまだ可愛げありますけど『テンキュー』とか書かれたらもうね、温厚なメロスも激怒するよね。
不思議なもんでカタカナ振られてると、朗読するとき「テンキュー」って読んじゃうんです。不可抗力ですよ、あんなの。幸か不幸か、それ聞いたクラス一同は大爆笑。
まぁ、ウケたしイイかな。そこは彼に感謝です。どうも、テンキュー。
おりの中で、彼に対する信頼は非常に大きいです。
もしおりに彼女ができたとして、橋の左側で彼女が、橋の右側で彼が溺れてるってなったときに、一個しかない浮き輪を迷わず彼女に投げられる関係性というか。
彼なら大丈夫!っつって。「人に迷惑かけてんじゃねーボケー!」くらいの感じといいますか。そういう信頼関係があるんです。
一緒に焼肉を食べに行ったら、彼がトイレに行ってる間にタレに色々仕込むくらいのやつです。タレに砂糖と塩をふんだんに入れます。そんな彼の名は『さとう としお』です。
嘘です、ごめんなさい。信じてくれた人、テンキュー。
そんな彼がね、1週間後に31歳の誕生日を迎えるんですよ。
中学の時とかは大したものもあげられなかったんでアレですけど、高校生にもなれば「何が欲しい?」って聞いたりして、これまでやってきたんですね。
しかし成人を過ぎて、もはやそんな可愛らしい関係は終わりまして。「何が欲しい?」って相手に聞くことは、もう負けなんです。「ベガルタ仙台にメッシが欲しい」とか始まりますから。
なので、日常の会話からリサーチして、相手の欲しいもんをプレゼントするっていうね。いわばサプライズ合戦みたいなのが始まったわけです。
最初の頃は「あの時の会話、憶えててくれたんだー」的な喜びなんですけど、何年か経つと「アイツをいかに追い込むか」っていう闘いに変わります。
いわゆる『サプライズされなかった者勝ち』みたいな。いかに相手のサプライズを避けれるかのPK合戦です。
おりね、去年の1年間、少しのヒントも出さないことを徹底してたんです。彼の前で『欲しい』ってワードを一切出しませんでした。
そしたら、おりの31歳の誕生日に何も連絡が無いっていうね。「うそー!!!」っつって。そもそも自分が誕生日だったってのも、仕事終わってアパートに帰ってきて親からの電話で気付いたんですけど。
「アイツ、今年、忘れてんじゃん!!!」っつって。あの、ちょっと険悪な感じに振る舞って実はサプライズのやつでしたーってパターンじゃないじゃん!っつって。
『コウヘイは死なず、ただ消え去るのみ』って感じじゃん!っつって。めちゃくちゃ衝撃的でした。
ところでコウヘイって誰?知り合い?
こっちは普段から「予定ない」とか「祝ってくれる恋人もいない」とか自虐ネタを言えるのも、彼がいるからだったのに、それすらなくなって途方にくれましたよ。
もう「お前が貼るケータイの保護シート気泡だらけになーあれ!!!」くらいの黒魔術唱える勢いでしたよ。というか唱えてましたよ!
そしたらまさかの1日遅れで「誕生日おめでとう」って言われて。「こいつ忘れてやがったな?」って思って若干イラっとしたんですけど、バースデーカードにはちゃんとした日付が書かれてました。
しかもプレゼントは『活動量計』で、まさに気になってたアイテム。さらに購入日が印字された保証書付きでした。
もう完全にやられたーって思いまして。もうこんなんされたら2日遅れたところで所詮パロディーじゃないですか?彼のアイディアありきのもんになるじゃないですか?
「じゃあ早めるか?」ってことも考えたんですけど、それも結局、彼のアイディアありきのもんだなーって思って。それはもう我慢なんねーっつってね。
一応、プレゼントは用意してケーキも注文済みです。あとはサプライズをどうするかってことだけなんですけど、なんか色々考えすぎたら逆に面倒になってきまして。
「妹の結婚式にさえ出れたら戻ってくるよー」なんて言ったものの、なんか雨とか降ってきたし、川とか氾濫してるし。なんなら山賊とかに襲われて、もう超しんどいんですけど?っつって。
だからね。とびっきりのサプライズをお見舞いしてやろうかなと。
いっそのこと、彼の誕生日パーティーに、主役の彼のこと呼ぶのやめようかなーって思ってます、はい。