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2010-08-05

[][]初野晴『退出ゲーム』角川文庫

退出ゲーム (角川文庫)

退出ゲーム (角川文庫)

「きみたちがこれから経験する世界は美しい。しかし同時にさまざまな問題に直面するし、不条理にも満ちている。僕は成島さんが無理に吹奏楽の世界に戻らなくてもいいと思っている。だがもし、立ちどまった場所から一歩を踏み出すきっかけをだれかがつくってくれるのなら、それは大人になってしまった僕じゃなくて、同世代で同じ目の高さの君たちの役目であってほしいんだ」(P107)

初野晴「ハルチカシリーズ」1作目です。

廃部寸前の吹奏楽部で、普門館を目指す熱血脳味噌筋肉少女のフルート吹き・穂村千夏と、中性的で明晰な頭脳を持っているがとある秘密を持っているホルン吹き・上条春太の二人が、部員集めに奮闘しながら、様々な「事件」に出会う、という連作短編です。

この作品は、いわゆる、「日常の謎」というジャンルとして、分類されるかもしれません。

このジャンルとしては北村薫や加納朋子、そして米澤穂信などが有名ですが、「日常を舞台にしたミステリ」として、この『退出ゲーム』もさまざまな「謎」が主人公たちに降り注ぎます。

消えた青い鉱石、全面「白」のルービックキューブなどなど。

いわゆる「トリック」を中心としたがっつりしたミステリではないかもしれませんが、「謎」と「謎が解けるときのカタルシス、あるいは苦い後味」は読みごたえがありますし、その「謎」については、米澤穂信『さよなら妖精』に近しいものを感じました。

一方でハル・チカの二人を中心とした「部活青春もの」としてもよくできています。

廃部寸前の吹奏楽部、一話一話進むごとに加わる部員など、宇佐悠一郎『放課後ウインドオーケストラ』を彷彿とさせますが、小説だからこそ描写できる各キャラの内面や各楽器の蘊蓄、そして吹奏楽部の「雰囲気」が巧みに書けています。

作者は「僕にとって願望のファンタジーに近い、箱庭的な世界」*1と言っているそうですが、確かに「理想の文化系クラブ」という雰囲気が良くでています。

脳味噌筋肉・イケイケゴーゴーのフルート・チカ、そのハルにどつかれるホームズ役のホルン・ハルタを中心に、個性豊かなキャラクタが数々登場。また、「生徒会ブラックリスト十傑」や「発明部」など怪しい文化系クラブなど、「学園もの」としてもにぎやかで楽しく読めます。

ちなみに、本作でフジモリの白眉は表題の「退出ゲーム」です。演劇部の変人部長と対決する羽目になったチカたちのエピソードですが、ロジックと機転が鍵を握る「退出ゲーム」そのものも面白かったですし、ホロリとする結末もまたよかったです。

「日常ミステリ」と「部活青春もの」が絶妙にブレンドされた佳作だと思いますし、このシリーズを追いかけてみたくなる、そんな作品に出会えました。オススメです。

【ご参考】宇佐悠一郎『放課後ウインド・オーケストラ』集英社 - 三軒茶屋 別館

放課後ウインド・オーケストラ 1 (ジャンプコミックス)

放課後ウインド・オーケストラ 1 (ジャンプコミックス)

*1:P293解説より

muhamadomuhamado 2010/08/05 01:30 本文中の著者の名前が「靖」になっちゃってます。

フジモリフジモリ 2010/08/05 23:38 >muhamadoさん、はじめまして。
「この誤字は読者を試してたんだよ!」などど照れ隠しもできないほど赤面もののお恥ずかしいミスでした。
速攻、修正しました。
ご指摘ありがとうございます。これからもよしなに。

せーちゃんせーちゃん 2010/08/07 01:46 初野晴さんはもっと評価されて欲しい作家
№1です。
このハルチカシリーズなんかも
ラノベレーベルから出て
作品に合った絵師と組めば
即アニメ化、100万部の破壊力が
あるほどの素晴らしい作品だと
思うのですがいかんせん知名度が・・・。

今月末には第三弾が出版されるみたいなので楽しみです!

フジモリフジモリ 2010/08/07 10:37 >せーちゃんさん、初めまして。コメント、ありがとうございます。
初野晴という作家は今回はじめて知りましたが、個人的にはここ最近読んだ小説のなかで上位に位置するぐらいHITした作品でした。思わず本屋を梯子して『初恋ソムリエ』を探して買ったぐらい。この本もまた良かったです。
3巻も発売ですか。楽しみですねー。

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