ねえお父さん、サイバーパンクって何?
え? サイバーパンク? 人間の自我とかが、うーん……。
こんな経験、ありますよね。サイバーパンクとは何なのでしょうか? これは難しいゼンモンドーのようなものです。答えは無いのかもしれません。発想を変え、そこに属するものから類推していってはどうでしょう。「サイバーパンクって何?」と聞かれたとき、「ブレードランナーとかでしょ?」「ニンジャスレイヤーみたいなやつでしょ?」と言えばだいたい伝わるからです(ニンジャスレイヤーは、サイバーパンク・ニンジャアクション小説なので、構成成分のうちの30%前後がサイバーパンク由来です)。
ということで、ニンジャスレイヤーを読んだ事があるけど、それ以外のサイバーパンク作品に触れた事がない、という人のために、3本の偉大なサイバーパンク映画を入門用として厳選しました。なお、あらすじの用語はニンジャスレイヤーを知っている人向けにわかりやすく書き直してあります(正確ではありませんので、詳しく知りたい人は本編を見てください)。
◆ブレードランナー(1982)◆
高層ビルディングが林立し、過剰広告とネオンカンバンと雨に包まれたロサンゼルス。刑事デッカードは、宇宙での重労働から脱走して地球に逃れロサンゼルスに潜伏するレプリカント(人造人間)の捜索と処刑を命じられる。己の内側に虚無を抱えながら、一人また一人とレプリカントを破壊してゆくデッカード。レプリカント達は自分の寿命を延ばす手段を求め、レプリカント製造業の暗黒メガコーポ、タイレル社の社長を狙う。
ブレードランナー ファイナル・カット 製作25周年記念エディション [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
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レプリカント、謎の日本語、巨大ネオン都市、でかい銃、ハリソンフォードと、サイバーパンクに欠かせない諸要素が詰まった始祖的作品。ディックの小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を原作としている。美術にシド・ミードが関わっている。
「謎の日本語が氾濫する暗黒メガロシティ(雨ばかりだとなお良い)で車が空を飛び、ハードボイルド男が銃を構え、スモトリやオイランが登場すると即座にサイバーパンク」という映像的テンプレートを完成させた、記念碑的サイバーパンク映画作品である。LED傘を差して行き交う人々、ビル街の巨大ディスプレイに映る強力わかもとの文字や、屋台の爺さんの「ふたつで十分ですよ!」など、視覚と聴覚の両面から、サイバーパンク世界の息吹を我々に伝えてくれる。これらのミームは、後年の無数の作品へと連綿と受け継がれ、オマージュとして引用されてゆくこととなる。
レプリカントの自我、人間の自我など、サイバーパンク的なテーマを描き出したワビサビももちろん素晴らしいが、ブレードランナーという映画が我々のニューロンにもたらした最大のインパクトは、やはり何と言ってもあの巨大で胡乱でスリリングなサイバーパンク都市そのものなのではないだろうか。ニンジャスレイヤーの舞台である「ネオサイタマ」は、それをさらに極端に推し進めた暗黒のサイバーパンク・ディストピア都市である。「ブレードランナー」がなくてもボンド&モーゼズはニンジャ小説を書いていただろうが、サイバーパンク・ニンジャ小説にはならなかっただろう。それほど偉大な作品なのだ。
◆JM / Johnny Mnemonic (1995)◆
記憶屋のジョニイは脳内UNIXに機密データを格納して運ぶ非合法ビズを営んでいた。ある日、ジョニイはこれまでで最も危険かつ価値のあるデータの運搬を請け負ってしまい、暗黒メガコーポの刺客や、恐るべきヤクザのタカハシなどに命を狙われることとなる。カラテの強い女や、ヤク中のイルカなどに助けられながら、やがてジョニイは脳内のデータに隠された驚くべき真実を知り……。
ヤク中イルカ、ヤクザ(たけし)、キアヌリーヴスと、サイバーパンクに欠かせない主要素が希釈限界濃度まで詰まった危険な作品。その他にもジャックイン(LAN直結的なもの)やサイバースペースへのダイヴ(コトダマ空間認識能力的なもの)、サイバネ武器の数々など、ニンジャスレイヤー好きならば見逃せない要素が多数。なお、こちらも有名なギヴスンの小説「記憶屋ジョニイ」を原作とした作品である(脚本もギヴスン)。美術にシド・ミードが関わっている。
「キアヌが奇妙なヘッドマウント装置をつけて歯をくいしばると、即座にサイバーパンク(鼻血が出るとなお良い)」という視覚的テンプレートを完成させた、記念碑的サイバーパンク映画作品でもある。この要素は4年後に公開されたサイバーパンク・マイルストーン映画「マトリックス」へと連綿と受け継がれてゆく。ボクの活躍を見てね!
◆マトリックス(1999)◆
暗黒メガコーポに勤務しながらこっそりハッカーをしていたネオは、ある日「マトリックスが見ている」「白ウサギについてゆけ」という謎のIRCメッセージを受信。メッセージを辿った彼はモーフィアスと名乗る謎の男と接触。「この世界は仮想現実だ。真実を受け入れる勇気はあるか」と選択を迫られる。真実を受け入れたネオは奇怪なカプセルの中で目覚め、モーフィアスと過酷なカラテ修行を行い、銃弾をブリッジで回避する。仮想現実とディストピア真実世界をカラテで切り抜ける、激しいイクサが幕を開けたのだ。
その後、JMからわずか4年で、恐るべきサイバーパンク映画が誕生する。マトリックスである。カラテ、01ノイズ演出、キアヌリーヴスと、サイバーパンクに欠かせない要素が希釈限界濃度まで詰まった危険な作品だ。
「キアヌが奇妙なヘッドマウント装置をつけて歯をくいしばると、即座にサイバーパンク(鼻血が出るとなお良い)」という視覚的テンプレートを忠実に受け継ぎ、さらにキアヌに対してカラテ要素までも付与している点は、まさにサイバーパンク・エンタテイメントの総決算的な作品と言えるだろう。確実にJMの延長線上にある作品である。JMが無ければマトリックスは生まれなかったと言っても過言ではないのだ。
このようにJMからマトリックスまでを見終えると、あなたはきっとブレードランナーの奥ゆかしさ、ワビサビへと再び回帰したくなるだろう。そして間もなく現実世界に2020年が到来することに思いを馳せるはずだ。我々の2020年は、ブレードランナーで描かれた未来のようにエキサイティングだろうか?
◆未来へ◆
いかがだったでしょうか。今回は入門編ということで、とっつきやすいメジャーどころだけを選りすぐり、特にアイコニックなシーンや要素だけを大まかに紹介してみました。結局のところサイバーパンクのアトモスフィア醸成に最も重要なのは、ガジェットとパーツであると考えたからです。好評であれば、詳細な掘り下げレビューも執筆される予定です。
繰り返しますが、これらの作品はニンジャスレイヤーを楽しむにあたって絶対に必要な参考資料、というわけではありません。ただ、これらを基礎知識として知っていると、より文章で表現されたイメージを脳内に描きやすくなったりするはずです。サイバーパンクという言葉に何か敷居の高さを感じている人がもしいれば、まずは何も考えずこれらの映画を見て「ウワーサイバーパンクカッコイイ!」というサイバーパンク初期衝動を味わってほしいと思います。サイバーパンクは胡散臭くて面白くてかっこいいのです。
今後も「ニンジャ参考資料」のコーナーでは、音楽や映画、あるいはコミックなど、ジャンルを問わず、ボンド&モーゼズのインタビュー・アーカイヴを手掛かりに、ニンジャアトモスフィアをブーストする作品を探す旅を続ける予定です!
(Tantou)