スポーツ自転車のメンテナンスの基本
スポーツ自転車の世界では基本的なメンテナンスやトラブルの対処は自分で行うのが常識です。スポーツ自転車店に頼んでも自分でやることを勧められることが多いでしょう。ここではスポーツ自転車メンテナンスの基本を解説します。
保管方法
雨や太陽光は自転車の大敵です。雨で金属部分は錆び、ゴムやプラスチック部分は劣化しますし、オイルやグリスが流れて落ちてしまいます。太陽光はゴムやプラスチックを劣化させます。なのでスポーツ自転車は室内保管が常識です。
室内保管が無理な場合は雨と太陽光を避けられる場所に保管します。それも不可能な場合はカバーをかけます。自転車カバーはダメージを受けやすく、100円ショップなどの安物のカバーだとすぐ破けてしまいます。丈夫なものは何年も持ちますのでケチらないことをオススメします。私は大久保製作所 サイクルカバー 難燃 B1-NF シルバーを3年ほど使ってますが未だ破けてません。
初心者が買うべき工具
自転車の整備には様々な工具が必要ですが、初心者がまず買うべき工具は頻繁に利用するアーレンキー(六角レンチ)とプラスドライバー、そしてパンク修理の際にほとんど必須なタイヤレバーです。その他の工具は必要に応じて買っていけばいいでしょう。
プラスドライバー
プラスドライバーは太さによって1~4番のものがありますが、自転車には2番のものが使われます(他の用途でも2番が普通で、一般家庭に置いてあるドライバーも2番が多いでしょう)。品質が悪いと舐めやすくなりますので、安物は避けましょう。ホームセンターで単体で普通に売ってるものなら問題ありません。私もホームセンターによく売ってるベッセル ボールグリップドライバー 220をずっと使っています。
アーレンキー
アーレンキーは太さがインチ単位のものとミリメートル単位のものがありますが、自転車用に使うのはミリメートル単位の方です。自転車の整備で最も使うのは4、5、6mmのもので、他に1.5、2、2.5、3、8、10mmのものも時々使われます。8、10mmの使用頻度は低いので、始めて買う人は、1.5~6mmの7本セットを買い、必要に応じて8、10mmのアーレンキーを買うのがいいと思います。
アーレンキーは安物だとネジをなめてしまうことがあるので、あまり安いものは避けましょう。万能ツール付属のものも同じ理由で緊急時の利用にとどめるべきです。ホームセンターで1000円程度のセットを買えば大丈夫だと思います。4、5mmのアーレンキーは使用頻度が高いので、これらだけ高いものを買うというのもアリです。通販で買うときは低品質なものを避けるためにホーザン、KTC、パークツールといった定評のあるブランドのものを買いましょう。高級品としてはPBというブランドのものが定番です。
アーレンキーには同じ太さでも短いものと長いものがあり、長い方が力が入れやすいですが、自転車で使う限り短い方でも十分な力をいれることができます。短いものを買って携帯用と自宅用を兼用にしてしまってもいいでしょう。アーレンキーには片方の先が丸くなっているもの(ボールポイント)があり、アーレンキーを斜めに差し込んでボルトを締めることができ便利ですが、必須ではありません。
タイヤレバー
タイヤを外すときにほとんど必須な3本組のヘラです(3本いる理由は使ってみればわかります)。金属製のものとプラスチック製のものがありますが、リムを傷つけることがあるためプラスチック製を使うのが一般的で、オススメです。プラスチック製の中にもいろいろ製品はありますか、率直な話どれでも大差ないと思います。私はパナレーサー タイヤレバーとタックス タイヤレバーを何の問題もなく使っています。
ディスプレイスタンド
自転車にスタンドを付けてない場合は、ディスプレイスタンドという展示用のスタンドがあると自転車を安定した状態で保管できます。自転車を整備する際もこれがあると圧倒的に楽です。特にディレイラーの調整では後輪を浮かせる必要があるため、スタンドもディスプレイスタンドもないとほとんど調整が不可能になります。
ディスプレイスタンドは右の2製品が定番品です。DS-30BLTは後輪のハブに引っかけて、DS-530は下の写真のように使います。
ハブに引っかける方が安いですが、引っかけるのに若干手間がかかります。私はDS-30BLTを使ってますが、その手間が結構面倒なので次に買う際はDS-530タイプの方を買おうと思ってます。他にDS-530と似たタイプのあさひ オリジナルサイドディスプレイスタンドはあさひが現場の声をもとにして開発した製品で、中々よさそうです。
空気圧管理
スポーツ自転車はママチャリと違って空気が抜けやすく、また空気圧が走行性能に与える大きいのでしっかりと空気圧管理をする必要があります。スポーツ自転車用のフロアポンプを購入し、定期的に空気をいれましょう
空気圧管理についてはタイヤの空気圧管理の基本で解説しています
注油
チェーンオイルはある程度走るとなくなるので、定期的にチェーンに注油する必要があります(注油しないと走り辛くくなりチェーンとスプロケットが劣化します)。
オイルの選び方ですが、粘度が高ければ高いほど(つまりドロドロなほど)長持ちしますが、ゴミが付着しやすくなり、ほんの少し走りが重くなります。粘度が低いと(つまりサラサラだと)その逆になります。自転車旅行用には粘度の高いものがいいでしょう。粘度の高いものの定番品はFINISH LINE クロスカントリー ウェットルーブで、とりあえずこれを買っておけば問題はないです。オイルの違いによる走行への影響は小さいので、レースをするのでもなければ神経質に選ぶ必要はないでしょう。
お金がない人は安い別の用途向けのオイルでもかまいません。ホームセンターのオイルコーナーで探してみましょう。ただし粘度が低すぎるもの(CRC556など)はすぐに落ちてしまいますので避けましょう。「チェーンルブ」「チェーンソーオイル」と言った名で売られているものなら大丈夫でしょう。
チェーンの注油は、スポイトタイプのもので一こまずつ注油する方法と、スプレータイプのものでペダルを回しながら一気に塗布する方法があります。後者の方が早いですが、オイルの消費は早いです。
具体的な注油の仕方については基本の基本・・・注油 自転車 サイクルベースあさひが参考になります。
チェーン以外にもブレーキやディレイラーなどの稼働部分は基本的に全て注油するべきですが、それほど頻繁な注油は必要ないので初心者のうちは気にしないでいいでしょう。
注油してはいけない場所
自転車にはオイルより粘度の高いグリスが入ってる部分があり、そこにオイルが入るとグリスが溶けてしまいます。また、ブレーキシューとホイールのそれがあたる部分に油がつくと、ブレーキが効かなくなってしまいます。注油してはいけない場所については自転車の注油禁止個所(サイクルサービスおおやま)が詳しいです。
清掃
清掃自体はあまり動作に影響は与えないのですが、清掃することによりフレームの割れ目などの問題箇所を見つけやすくなるというメリットがあります。もちろん汚れが気になる人は清掃しましょう。
車体の清掃
車体の清掃は基本的には使い古しのTシャツなどの布(ウェスといいます)で拭きます。布は毛羽立たないものでないと、チェーンやギアなどを拭いたときにクズが残ってしまいます。
Tシャツなどの代わりに、SCOTT ショップタオルやクレシア ワイプオールといった不織布の使い捨てペーパータオルも使えます。フレームを拭くのにフクピカなどのケミカル入りの使い捨てタオルを使うという手もあります。
油汚れは下で紹介している灯油やパーツクリーナーで落とします。
泥詰まりなどが酷いときは水をかけて洗っても構いませんが、多少は各部のグリスが流れ出る可能性がありますし、きちんと乾かさないと錆の原因になりますので、あまり頻繁には行わない方がいいです
チェーンの洗浄
チェーンが汚れていると性能が落ちると一般には言われていますが、私は注油さえしていればあまり性能に影響はないように思います。ですが、あまり汚れていては精神衛生上よくないので、たまには洗浄してあげましょう。
チェーンの主な洗浄方法には次の3種類があります
- 灯油漬け
- パーツクリーナーを吹きつける
- チェーンクリーナーを使う
灯油漬けはガソリンスタンドでわけてもらった灯油にチェーンを漬ける方法です。灯油は非常に安く、ものすごくきれいになりますが、この方法を実行するにはチェーンにミッシングリンクというものをつけてチェーンを取り外しできるようにする必要あります。また灯油は保管や廃棄が面倒です。
パーツクリーナーというのは油汚れを落とすためのスプレーで、ホームセンターに行くと格安で売ってます(「ブレーキクリーナー」として売ってることもあります)。これをチェーンに吹き付けて汚れを吹き飛ばし、それでも取れない汚れは歯ブラシなどを使って落とします。吹き付ける際にはパーツクリーナーが飛び散らないようにウェスを当てておく必要があります。この方法は手軽ですが灯油漬けほどにはきれいになりません。
チェーンクリーナーというのは右の写真のようなものです。このプラスチックの入れ物に洗浄液を入れてペダルを回して洗浄します。この方法は非常に手軽でとてもきれいになるのですが、値が張り(本体だけで3000円ぐらい)、洗浄液も専用のものを使うと高いのが欠点です。チェーンクリーナーは右の写真のパークツールのものとフィニッシュラインのものが定番です。
チェーン洗浄の後は絶対に注油してください。
ディレイラーとブレーキの調整
これらは多少コツが入るので、通勤などの利用の場合は数ヶ月に一度自転車屋にやってもらってもいいでしょう。
自転車旅行の場合も現地の自転車屋にやってもらうという手もありますが、輪行後になぜか調整が狂っていたり、スポーツ自転車屋が現地にない場合もありますので、自分でできた方がいいです。
やり方は自転車屋などで教えてもらうか、ブレーキやディレイラーの説明書を見て下さい。本やホームページより説明書を見ながらやった方が確実です。シマノの製品の場合はシマノの公式ページでも説明書を読めます。他のメーカーの製品の場合も公式ページにあると思います。説明書がなければディレイラー調整」で検索したり「ブレーキ 調整」で検索したりして下さい。
ボルトの締め方
パーツ交換やメンテナンスではボルト締めることが多くなると思います。ここではその際の注意点を解説します。
適切なトルクで締める
締める際に緩すぎれば問題なのは当然ですが、きつく締めすぎてもボルトがダメージを受け固定力が弱まってしまいます。ダメージが重なると折れてしまうこともあります。適切なトルク(力)をかけてボルトを締めましょう。実際に必要な力は普通の人が考えているより弱いことが多く、初心者の人は力一杯締めすぎということが多いです。
バイクハンド コンパクト トルクレンチトルクレンチという製品を使うと締め付けの強さを機械で計ることができるので確実です。トルクレンチはホームセンターに売っているものだと自転車用には大雑把過ぎることが多いです。自転車用にはバイクハンド コンパクト トルクレンチのような単位の細かいものを使う必要があります。
とはいえカーボン素材の自転車でなければ基本的に勘で締めてしまって問題はないですし、多くの人がそうしてます。私も今紹介したトルクレンチを持ってはいますが、あまり使っていません。
慣れれば適切なトルクの感覚は身についてきます。より早くその感覚を掴みたければ人に教わるといいでしょう。それが難しい場合は、始めてボルトを緩めるときにどの程度のトルクで締めてあるかを確認するという手があります。自転車屋によってきちんと整備されているのであれば、適切なトルクで締めてあるはずです(個人的な印象では自転車屋も緩むのを恐れて締めすぎる傾向がある気がしますが)。
ネジ山にはグリスを塗る
粘度が高く放っておいても流れないオイルのことをグリスといいます。ボルトのネジ山(固定先に埋まる部分)にはグリスを塗るのが常識です。グリスを塗らないと安定したトルク(強さ)でネジを締めることができなくなります。
グリスはネジ山以外にもシートポストに塗ったりハブに入れたりいろいろ使えますし、安いので初心者の人も一つ買っておくといいでしょう。グリスの種類ですが、お金のある人はシマノ デュラエースグリスがスポーツ自転車専用の定番品なのでいいでしょう。
専用グリスといってもホームセンターに売っている安いグリスとさほど差があるわけではないので、お金のない人はホームセンターで安いグリスを買いましょう(どれがいいかわからなければ「万能グリス」と書いてあるものを買いましょう)。グリス間の差はそれほど大きなものではないので、とりあえずはグリスの種類については気にする必要はありません。私はAZ 万能グリースというのを使ってますが、後3年はなくなりそうもありません。
増し締め
増し締めとは既に取り付けてあるボルトをさらに締めることです。緩んだボルトを発見し、緩んでる場合は締め直すのが目的です。ボルトが緩んでいると最悪事故につながるので一定の距離を走ったら必ず行う必要があります。増締めの頻度は一概には言えませんが、300km走行に一回程度は行った方がいいでしょう。一日10kmの通勤なら一月に一度、1日100kmの自転車旅行なら3日に一回ということです。
増締め箇所についてはギシギシ言ってるな と思ったら増し締め サイクルベースあさひが詳しいです。あさひの記事では「ギシギシ言ってたら増締め」と書いてありますが、ギシギシ言う前に増締めをしておかないと危険です。
その記事に掲載されてる箇所以外にもボトルケージやキャリアのボルトなど基本的に自転車についてるネジ類はほとんど増締めの必要があります。ビンディングシューズやサイドバッグのボルトなど、意外なところが緩んだりすることもありますので注意が必要です。
しかし以下のような調整に使うネジは増締めしてはいけませんので注意してください。
- ディレイラーの調整ネジ
- ブレーキの調整ネジ
- ステムキャップを固定しているボルト(正確には増締めしても無意味です)
車輪の着脱
スポーツ自転車の車輪はクイックレリース方式というものを利用して取り付けられており、工具なしで簡単に付け外しをすることができます。チューブの交換や輪行のために車輪の取り外しは必ずできるようになっておく必要があります。車輪の取り付けが緩いと危険ですので締めるときは注意が必要です。
車輪の着脱方法については車輪の外し方・はめ方 自転車 サイクルベースあさひが詳しいです。
チューブの交換
パンクした際の対処法として必ず覚えておく必要があります。
チューブの交換方法についてはタイヤ・チューブの外し方とはめ方 自転車 サイクルベースあさひが詳しいです。
以上自転車のメンテナンスの基本の解説でした。ここに挙げたメンテナンス技術を全て身につけられれば、メンテナンスに関してはスポーツ自転車の初心者の域を脱したといえるでしょう。
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