2016.01.13 13:00
2015年12月5日、リクルートが運営するオープンイノベーションスペース「TECH LAB PAAK」にて、Googleが取り入れたことで話題になった「マインドフルネス」の体験会が実施された。この体験会のレポートを主催者インタビューとともにお届けする。
主催者 熊谷祐氏
今回のイベントを主催した熊谷祐氏は、マインドフルネスな状態を「今この瞬間・この状態をありのまま観察し、認識できること」だと言う。事実、ハーバード大学の研究によると、人間が起きている時間の約46.9%は目の前の現実とは全く別のことを考えているそうだ。
46.9%の注意散漫な状態を意識的にコントロールできるようになったとしたら、その利益は計り知れない。そのため、生産性向上、円滑な人間関係の構築、メンタルコントロールといった観点から近年注目を浴びているのがマインドフルネスだ。マインドフルネスの定義に関しては諸説あるが、認識力や集中力を強化するための「脳のエクササイズ」と言えるのではないだろうか。
このマインドフルネス、スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツも実践し、Googleも会社として取り入れているという。
Googleでは「Search inside yourself」という講座名で2007年から取り入れられている。Google初期から在籍するエンジニアのチャディー・メンタンが、世界的ベストセラー本になった「EQ こころの知能指数」の著者ダニエル・ゴールマンの講座を受け、マインドフルネスに基づくカリキュラムを作り上げたのがきっかけだ。
CNNの番組「60 minutes」にてGoogle副社長は、コストをかけずに生産性が上がる講座であると主張。Googleのエンジニアのドウェインは、マインドフルネスのトレーニングにより身につけた感情コントロール方法が、父親の死による悲しみや仕事のストレスを上手く乗り越え、管理職へ昇格するために役立ったと語っている。
主催者 青砥瑞人氏
共同主催者であり、UCLAで神経科学を専攻した青砥瑞人氏は、マインドフルネスの意義と効用について脳科学の観点から以下のように説明してくれた。
「脳には何千億個という脳神経細胞ニューロンというものがあります。それぞれの細胞が独立して生きているので、僕たちが思った通りにすべての細胞が動くかというとそうではありません。だから、今この瞬間に集中するというのは脳科学的に言っても非常に難しいことなのです。」
しかし熊谷氏は、脳は筋肉と同様にトレーニングで強化できると言い「気づくこと」の重要性を語った。
「マインドフルネスには様々な効用がありますが、一番大事なのは気づく力の向上です。目の前のことに集中すべき時、気づけば他のことを考えてしまっていることがありませんか? トレーニングによって自分の認識力を高めることができます。」
「今この状態を正しく認識しよう」(体験会スライドより)
熊谷氏は2014年に早稲田大学を卒業し、学生中に起業を経験。現在はフリーランスのグロースハッカーとして活動する傍ら、今年4月の創業に向けて旅行系サービスをリクルートのTECH LAB PAAKにて開発中だ。また、青砥氏は日本の高校を中退している。数年後、単身渡米しUCLAに一目惚れ。猛勉強の末、UCLAにて神経科学を専攻した後、脳と教育への情熱から2014年DAncing Einsteinを起業した。マインドフルネスを接点に意気投合した二人に迫る。
体験会では、三種のエクササイズを実践した。プログラムは初心者でも徐々にマインドフルネスに対する理解が深められるよう、丁寧に構成されている。
時間とともに深く集中していく参加者たち
①「呼吸のマインドフルネス」
姿勢を正して着席し、深呼吸しながら自分の呼吸に意識を集中するエクササイズだ。第一セットは二分間、主催者からのアドバイスなしで行われた。簡単に聞こえるかもしれないが、120秒間「呼吸だけを考える」のは不可能に近い。気づけば小さな雑音に反応してしまうものだ。
第二セットは五分間。今度は「呼吸に集中するために、下腹部や鼻など、自分の体の一部を意識し続けるように」というアドバイス付きだ。抽象的な事象に意識を集中させる時は具体的なものと結びつけることで、意識の集中や焦点を引き戻しやすくなるそうだ。参加者は「意識の移り変わりがはっきりと意識できるようになった。アドバイスなしの初回とは全く違った。」と、効果を実感していた。
②「身体のマインドフルネス」
二番目のエクササイズでは自分の身体を部位ごとに細かく認識し、順番に集中する部位を切り替え続けていく。例えば、一口に「顔に集中する」と言っても自分が意識しているのが目なのか、鼻なのか、それとも眉間なのかに関しては人によって違うだろう。私たちは日常で大まかにしか、自分の集中の焦点を意識していない。身体のマインドフルネスとは、自らの大まかな認識を再分割し、より精細な認識を獲得するためのトレーニングになる。参加者は、「意識する体の部位を切り替える時、気が散ってしまう。」と、集中を保つことの難しさを語った。
③「感情のマインドフルネス」
このエクササイズで実践したのは、「最近、自分が強い感情を抱いた経験を思い出しながら、顔に意識を集中すること」だ。私は、嬉しかった経験を思い出したため、頬の筋肉がわずかに上がったことに気づいた。怒りの経験を思い浮かべた参加者は、顔が全体的にこわばっていたそうだ。比較的簡単にできたと感じたが、今回のエクササイズは以前の二つとは目的が違うという。
呼吸・身体マインドフルネスは、外部からの刺激に負けないよう内部に集中するための取り組みだが、感情のマインドフルネスは「内部の中で、顔と自分の経験という二つの対象に集中する」点で異なる。顔や感情に集中したことで、呼吸だけに集中していた時には得られなかった「外部の刺激を意識しない」状態になりやすい。意識の焦点次第で集中の質を変えられる。それに各自が気づくことができたかが、今回の真に重要なポイントだった。
熊谷氏、青砥氏は、一日わずか三分でもマインドフルネスを継続することが大切だと繰り返していた。「脳が鍛えられる」と聞いても、それを日常で実感するのは多少時間がかかるだろう。しかし筆者自身、たった三つのエクササイズを経て、「気づくこと」の重要性を痛感することができた。ビジネスシーンにも活かすことのできるスキルではないだろうか。