(英エコノミスト誌 2016年1月9日号)

書店関係者の失踪は香港の自治に関する疑問を投げかけている。

香港で出版社員5人失踪、「習主席の恋愛本」絡みで中国当局が拉致か

1月3日、香港で、書店関係者5人の失踪に抗議してデモ行進する市民ら〔AFPBB News

 慎ましさは香港の銅鑼湾の派手な店頭にはあまり馴染みのない特徴だが、小さな書店の目立たない入口は、その店の最近の悪評を覆い隠している。薬局と衣料品店に挟まれた「銅鑼湾書店」は、中国の秘密諜報員による拉致疑惑にまつわる謎と、旧英国植民地の中国統治下での自治に関する激しい議論の的になっている。

 踊り場のある階段を上ったところにある書店の扉は、今は鍵がかかっている。

 ポツリポツリと書店を訪れるのは、ここ数カ月で姿を消した書店関係者5人に関するニュースに興味を持つジャーナリストや通行人だ。

 多くの香港人は、中国本土の諜報員が関係しており、失踪した男たちは店のゴシップ本が原因で標的にされたのではないかと心配している。最近販売されている書籍の題名には、『2017年習近平(国家主席)崩壊』や『習近平と長老たち:頂上決戦』などがある。

香港の「高度の自治」が失われたら・・・

 中国が1997年に英国から香港を取り戻したとき、中国は「高度の自治」を香港に与えることに同意した。遠慮なく共産党を批判する人たちは、本土の批判者たちによく起きるように、警察によって「行方不明」にされることを恐れずに自分たちの意見を自由に表明することができた。それだけに今回の一件に大きな関心が寄せられている。

 「夜中のドアのノックは、香港で我々が心配しなければならないことではなかった」。香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(最近本土の実業家によって買収された新聞)のコラムニストは、こう書いた。「だが、もし今心配するなら、我々の生活様式の終わりだ」