国を挙げて「女性活躍」が掲げられ、さらには女性だけでなくあらゆる人の「活躍」がスローガンになっているニッポン。すべての人が活躍する社会をつくるためには、まさに「ダイバーシティ」を正確に理解する必要がある。ところで、ダイバーシティって、何? 当サイト人気コラムニストの河合薫さんに、新著『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社)で経営学視点のダイバーシティ論を提示した入山章栄早稲田大学ビジネススクール准教授が迫る。(構成:片瀬京子)
入山章栄氏(以下、入山):今日はありがとうございます。最近、河合さんが日経ビジネスオンラインの連載で書かれた““家事ハラ””についての記事、私も共働きなので、興味深く読みました。自分では家事を頑張っているつもりでも、たまに妻に注文付けられると「カチン」と来ることが私もあるんですよね(苦笑)。でもそれは自分の心の隅でどこかに、「家事をやってあげている」という心理があるのかも、と反省しましたね。
河合薫氏(以下、河合):あれは男性からかなり反響がありました。「褒めて育てて欲しい」という意見には少々切なくなりましたが……(笑)。家事ハラもそうですが、パワハラ、マタハラといった新しい言葉が生まれる背景には、それまでないがしろにされてきたり、仕方がないとあきらめられていた問題の存在があります。
また、イクメンやイクボスのように、刷り込まれた価値観を変えるために産まれる言葉もあります。こういう言葉なしに「女性も男性も働いているのだから、子育てにも同じように取り組みましょう」と言っても、なかなか男性は参加しません。ただ、どちらの場合も言葉だけが一人歩きするようになると、思考を停止させる言葉になる。
例えば、女性の管理職比率を30%にしたいなら、それに伴って男性の育児休業取得率を上げるための施策を積極的に導入しなければならないのに、そちらは置いてけぼりで。なぜ「イクメンなのか?」は忘れられてしまうんです。
ダイバーシティは単なる手段
入山:実は拙著『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』でも取り上げたのですが、グローバルとかダイバーシティという言葉もそうですね。注意を喚起するには便利なのですが、一方で思考停止にもなりやすい。便利な「ラベル」がついた瞬間、その本当の意味や背景を考えなくなりがちです。
河合:ダイバーシティと言われると、企業のトップは「当社はダイバーシティを大事にします」と言いますよね。
入山:しかしそれは本来、ゴールではなく手段であるはずです。
河合:そうなんです。「ダイバーシティを大事にする」って、そもそも何のためのダイバーシティなのか? なぜ、ダイバーシティを大事にしたいのかが置き去りにされるんです。ビジョンも同じです。「環境に優しい」とか「グローバル」といったマジックワードをビジョンに掲げる企業が結構ありますけれど、ビジョンとは、その会社がどうあるべきか、何を目指していくかの道しるべですから、会社が10あれば、ビジョンも10あっていいはずです。