何とも残念な数字である。日本産科婦人科学会と国立スポーツ科学センターが去年、女性のスポーツ選手の健康調査を公表した。対象は各競技のトップクラスや大学生らだった。

 体操や新体操に取りくむ女性の無月経の割合は、一般の大学生に比べて10倍近かった。陸上の中・長距離や、自転車の長距離走など持久系種目では49・1%が疲労骨折を経験していた。一般は4・3%だった。

 多くの女性選手が体の異常を抱えながら競技している実態が浮き彫りになった。

 国会のスポーツ議員連盟は「女性アスリート支援のためのプロジェクトチーム」を設け、先月に初の勉強会を開いた。

 女性選手の鍛錬と健康とを両立できる方策を広く考えたい。教育の場を含む社会全般でもっと意識を共有すべきだろう。

 競技によっては無月経と疲労骨折は、低栄養や女性ホルモン低下などで関係していることがあるとされる。選手や指導者には正しい知識が欠かせない。

 医師らは一部のスポーツの現場に、次のような考えがあるのではないかと指摘する。

 体形が競技の採点に直結するとして十分な食事をとらない。能力を最大限発揮するために、必要以上に体重を制限する。「煩わしいから生理がなくていい」と考える選手さえいる。

 不妊や骨粗鬆症(こつそしょうしょう)になれば、将来に大きな影響が出る。中学校の部活動などの早い段階から健康について関心を払い、誤った認識は改める必要がある。

 スポーツ庁は去年11月に山口市で開いた「運動部活動指導者サミット」で、「スポーツ女子における月経異常とその対策」という論題を初めて設けた。中学校、高校の運動部顧問らに向けた取りくみを強めたい。

 日本産婦人科医会、日本産科婦人科学会などは一昨年から婦人科医師の研修を始めた。スポーツ障害として患者を診ることが少なかった医師に意識を高めてもらおうという活動だ。研修はこれまでに14府県で開かれ、選手受け入れに積極的な医師はネット上で紹介されている。

 関連する団体は「女性アスリート健康支援委員会」を組織し講師派遣などで後押しする。

 8月にリオデジャネイロ五輪が開かれる。それが終われば20年東京五輪・パラリンピックに向けた動きが加速する。

 健康に寄与するはずのスポーツが健康を損ねてはいけない。

 スポーツをすることも、健康な生活を送ることも人々の大切な権利である。女性選手を守る努力を重ねていきたい。