作詞 - こだまさおり / 作曲・編曲 - 高橋邦幸(MONACA)
ジャンル Drum'n'bass
BPM 190
○どんな曲?
DCD初出は 2014年第2弾 、アニメ初出は第58話「マジカルダンシング」。
歌唱担当はSTAR☆ANISのゆな氏、ステージがマジカルトイ、66話でのきいのソロステージと相まって、完全なる冴草きいのための持ち歌。
「なるほどマジカルトイ曲!」と膝を打ちたくなる、POPすぎるほどPOPな高速Drum'n'bass。チャイコフスキーのくるみ割り人形から「行進曲」冒頭をサンプリングしてループさせていることが最大の特徴。
○インプレッション
誤解を恐れずに言うと、この曲を聞いた瞬間大爆笑をしてしまった。それは、この曲があまりにPOPであり、そしてDrum'n'bassとして完璧だったからだ。
事実として、マジカルタイムは2015年現在のDrum'n'bassの流行の音からは外れているし、そもそもクラブミュージックとして流通しているDrum'n'bassとしてはBPMが早すぎる(黎明期の物で160前後、00年代以降は175~180付近が一般的なDrum'n'bassのBPMとして扱われている)。それにもかかわらずなぜ完璧、という単語を使ったのか、それを説明するには、Drum'n'bassの歴史を振り返らなければならない。
Drum'n'bassは90年代中盤にイギリスで生まれた。レゲエのレコードをほぼ倍速で再生すると、jungleという音楽が出来上がる(乱暴だが、詳細を語るのは本筋ではないので割愛する)。そのjungleのビート部分を切り刻んでサンプリングし、組み替えた後に、ビートの半分のBPMのベースを乗せればDrum'n'bassの一丁上がり、である。
「レゲエの倍速のブレイクビートと、その半分のBPMのベースを持つ音楽」おおざっぱに言ってしまうと、Drum'n'bassの定義はこれだけである。逆に言うと、定義がそれだけしかないからこそ、 Drum'n'bass は異常なほど広い解釈の余地を残した。
黎明期の楽曲を順に聞いていくとJAZZ的な要素を多く含む曲が多いことに気付くと思うが、それ以降の楽曲リリースを年代順に並べていくと、年を追うごとにDrum'n'bassがさまざまな音楽の要素を取り込み変容していくさまが見て取れる。マイアミベース的な要素を含んだjumpup、テクノ要素を含みよりダークな雰囲気のneurofunk等、その枝分かれを挙げていけばきりがない。あたかもおばちゃんがプレステもXBOXもまとめて「ファミコン」というが如く、色々なスタイルの楽曲がDrum'n'bassというジャンルとして語られるという状況が生まれたのだ。
ほかの音楽ジャンルを取り込んで変化し続けるとともに、さまざまなサブジャンルを生む無軌道さ。それは、Drum'n'bassの面白さの一つである。みんな違って、みんないい。まるでアイカツ!のようなジャンルなのである。
さて、2000年から2005年くらいにかけて、ドラムンベース界にいくつかの出来事が起きる。
1つはブームの到来による大量のカヴァーブートの誕生。既存の有名曲をスマートに、時に強引に(曲の元のジャンルがなんであろうと)Drum'n'bassにremixしてしまう。
「流行っているジャンルはブートが増える」というのはクラブミュージックの不文律のようなもので、それはそれは大量のブートが作成された。
1つは、ハウス、ディスコの文脈とDrum'n'bassを融合したジャンル「liquidfunk」の誕生。それまでの比較的暗く、優等生的な曲か、やや下世話な音が多かったシーンに、アッパーなパーティー感を持つ楽曲が持ち込まれることなった。
最後の一つはグローバル化と、さらなる他ジャンルの取り込み。基本的にイギリスのプロデューサーによって作られていたこのジャンルが、なぜか急激にいろいろな国のプロデューサーによって作られ始め、多様化が加速したこと。ここで語り草になるのは、主にROCK/メタルの文脈とDrum'n'bassを融合させたオーストラリアのアーティスト「pendulum」による楽曲群と、ボサノバとDrum'n'bassの融合を見た「ブラジル生まれの「brazilian bass」というジャンルについてである。
前置きが長くなったが、マジカルタイムは、この2000年代のDrum'n'bassを完全に体現した曲だといえるのだ。
メインのメロディはチャイコフスキー「くるみ割り人形(行進曲)」のメロディをそのままサンプリングしており、これはサンプリングミュージックとしてのDrum'n'bassの側面や、既存の有名曲をremixしてしまうブート的な側面も持ち合わせている。
底抜けに明るい曲調は、90年代の渋く暗いDrum'n'bassから脱却したliquidfunkを連想させるし、
間奏で挟まれるジャズギターのフレーズがさわやかなメロディは完全にbrazilian bassのそれである。このように、0年代のDrum'n'bassの要素をすべて含んでいるからこそ、マジカルタイムはDrum'n'bassとして完璧だといえるのである。
○マジカルタイムから、何を聞く?
上記コメントにもあるように、マジカルタイムは00年代のDrum'n'bassの体現である。ならば、やはりその時代からセレクトしていきたい。
London Elektricity/“Cum Dancing”
イギリスの老舗レーベルHospitalはイギリスの老舗レーベルHospitalは、liquidfunkの大御所といっていい存在だ。主催のlondon elektricityはもともとJAZZ畑の人間で、liquidfunk以前もボーカルの入ったjazzstepを何作もリリースしている。アニメソング、ハードコア界隈に明るい人なら、2011年ごろに話題になった「ロンドンは夜8時」の原曲「meteorites」を書いた人と言えば通りがよいだろう。
cum duncingはliquidfunkの超初期の曲にあたる。曲調は「壮大」に片足を突っ込みかけた感じだ(liquidfunkとはえてしてそういう物ではある)が、使っている音のチープ感はマジカルタイムと通じるところがある。
DJ Marky & XRS Feat. Stamina MC/“LK”
ボサノバとDrum'n'bassを悪魔合体させた主犯、djmarky&XRSによるbrazilian bassの一大アンセム。staminaMCによる男汁満載のヴォーカルが乗ってはいるが、ジャズギターによるリフは完全にボサノヴァであり、しかし175BPMで刻まれるハイハットと低く唸るベースはまぎれもなくDrum'n'bassのそれであることがわかる。Drum'n'bassはおもしろいもので、ハイハットに合わせて乗れば縦ノリのアグレッシブな曲として、ベースに合わせて乗れば横ノリのバウンシーな曲として解釈することができる。brazilian bassはその差が他のDrum'n'bassよりも顕著に感じることができる。疾走感を保ちつつゆったりとした空間にもマッチするこのジャンルが一時期日本でもカフェミュージックとして扱われた時期があったのもうなずける。
Michael Jackson /”Human Nature (Makoto and The Specialist Vip Mix)“
せっかくなのでブートも載せておきたい。drum'n'bassは何でもサンプリングして、なんでもカヴァーするのです、という好例であり、日本人コンポーザーによるマイケルジャクソンの名曲のremix。この曲にもれず、往年のsoul、houseからhiphopまでどんなものでも「BPMを180にしてベースを足せばdrum'n'bassだよ」マジックにかけてしまうのもdrum'n'bassの面白さである。たいていの原曲よりbpmが早くなっているのも笑うポイントである。drum'n'bassはいわば「おもしろかっこいい」のだ。
○近い曲を、どうやって探す?
マジカルタイムから連想して曲を探すのは少し難しい。なぜかというと、ブラジリアンベースというサブジャンルが完全に死語になってしまっているからだ。たとえばサウンドクラウド等でブラジリアンベースと検索すると、HITする大多数はサンバ風味のエッセンスを取り入れたTRAP*かdubstepが大多数となっている。そのため、過去にブラジリアンベースをリリースしていたレーベル名を頼りにコツコツと探していくのが良いだろう。なお、liquidfunkを基調として探したいのであればこちらのジャンル名は生きているため、比較的探しやすいと思う。ただし、前述したようにdrum'n'bassはジャンルの幅が広い。そのため、liquidfunkも振れ幅が広いという事には留意したい。
(注:TRAPは、DUBSTEPに似たHIPHOPの1ジャンル)