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[FT]独創貫いたデビッド・ボウイを悼む(社説)

2016/1/12 14:30
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 「Lazarus(ラザロ)」のようなタイトルの曲を亡くなる数日前にリリースするのはデビッド・ボウイだけだろう。そのミュージックビデオ(インスタグラム世代用にスクエア画面になっている)で同氏は目に包帯を巻いてベッドに横たわっている。そして「誰にも盗めないドラマが俺にはある/誰もが俺のことを知っている」と歌った。死に際にしても同氏は一歩先んじていたのだ。

ボウイ氏の生まれ故郷・ロンドン南部ブリクストンに追悼のため集まった人々(11日)=AP
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ボウイ氏の生まれ故郷・ロンドン南部ブリクストンに追悼のため集まった人々(11日)=AP

 11日この69歳の歌手兼アーティストのガンによる死が――世代を問わず世界中に――与えた衝撃を見れば、同氏の作品が人々の人生にいかに深く入り込んでいたかが分かる。落ち着かず曖昧で、常に変化する同氏の人格は1968年に「スペイス・オディティ」で現れ、以降数十年間、何百万人をもあっと言わせ、魅了し続けた。

 ポピュラー音楽とははかないもので、自分の最盛期を超越して長続きするアーティストはほんのわずかだ。生存する人物の中で最も尊敬する人物として同氏が2009年にいたずらっぽく挙げたエルビス・プレスリーと、1980年に40歳で射殺されたジョン・レノンの2人は、ボウイ氏のほかにそれを成し得た人物だ。ボウイ氏は音楽的才能と歌詞の素晴らしさに加え、ビジュアル面の芸術家的手腕でそれをなし遂げた。

■破壊と創造で限界を押し広げた

 破壊的イノベーションはハイテク企業のモットーであり、起業家らは産業を変革する方法を模索している。ボウイ氏は常に、それをほぼ普通の決まりごとのように行ったイノベーターで、一つの演技や音楽スタイルに人々をなじませることはほとんどないままで、次のスタイルに移ったのだ。「ジギー・スターダスト」から「シン・ホワイト・デューク」まで、同氏は前作で創造したものを常に脱ぎ捨ててきた。

 また、金融分野でも革新の才能を発揮し、インターネット上の著作権侵害がレコード音楽の収入に影響を与えることを抜け目なく予見し、アルバムのバックカタログの著作権料(ロイヤルティー)を証券化し97年には5500万ドルの「ボウイ債」を発行した。同債は10年後に清算されたが、音楽やその他の業界でこれを模倣した債券の発行が行われた。

 他にも――ビートルズをはじめとして――独創性が高く、その音楽スタイルもアルバムごとに変えるアーティストは存在した。だが、ボウイ氏は自身の音楽だけでなく人格やアイデンティティーも塗り替えた点で唯一無二の存在だ。まばゆいメークで両性的イメージをもてあそび、それまでの社会と文化の限界を押し広げた。

 トーキング・ヘッズからセックス・ピストルズやザ・スミスに至るまでの英国や欧州、米国のシンガーやバンドに同氏が絶大な影響を与えたのは必然だった。同氏はソウルからジャズまでの影響を受け、常に音楽業界の中で抜きんでていた。一方で、特に活発に創作活動を行った1970年代から80年代にかけては新たな世代のファンを魅了した。これらの世代にとって同氏の重要性は明らかだ。

 当時アーティストがいつまでも新鮮でいられるかどうかは予測がしにくかった。同氏が60年代後半に歌手として活動を始めたとき、同氏が70歳近くになってもまだ活動を続け有名であり続けると、また、ローリング・ストーンズがツアーでスタジアムを満員にすると誰が予想できただろうか。だが、つかの間のヒット曲――はかないポップミュージック――にみえたものは生き続けた。ボウイ氏は変化し続けた一方で、耐え続けもしたのだ。

 英国は同氏のアーティストとしての努力による絶大な恩恵を受けた。同国の音楽や演劇、デザイン、広告などの創造的産業は2013年には同国経済に770億ポンド貢献し、170万の雇用をもたらしている。かつて製造業の周縁にあった活動は――心地よい娯楽として――英国が認める中心産業となり、経済的に有望な産業となった。

 ボウイ氏はこの文化、経済両面の変遷において極めて重要な存在だった。同氏(の音楽)と共に育った世代は現在、政府や企業を運営しており、同氏がなし遂げたことの偉大さを理解している。だがそれは、同氏の死の知らせを悼む声があふれてやまない数多くの理由の中の一つにすぎない。同氏はかつて「時は自分を変えるかもしれないが、時間を遡ることはできない」と歌った。同氏はその人生において多くを変えた人物だった。

(2016年1月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.


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