闇のなかの光
ここはボクだけの世界。
頬をなでる風も、活力を与える太陽も、体を支える地面もない。
在るのはボクを包みこむ漆黒の闇だけ。
ここにはボクを縛るものは何一つない。
あ、違った。
縛る必要はない、だった。
だって、ボクの体はもうないんだから。
どこかに置いてきたんだから。
そんなこと、ボクは気にしてなんていなかった。
ただ、たった一つだけ、教えてほしいことがあった。
ボクはどうやってここにきたのか?
でも、答えてくれる人はここには誰もいない。
だから、こんなことは考えないようにしている。
あ……。
また間違えた。
考えても消えちゃうんだった。
もうほとんど忘れちゃった。
家族も、友達も、今まで大切にしていた思い出だって、全部忘れちゃったんだ。
覚えているのは、自分の名前だけ。
ボクの名前は、ま……。
あれ?
だめだ。
消えていく。
これでボクの記憶はなくなった。
残っているのは、意志だけ。
でも、それも消える。全てがなくなったら、きっと、この世界は本当の意味でボクだけのものになるはずなんだ。
だから怖くなんてない……。
「そんなのウソだ」
だれ、誰かいるの?
誰かいるなら、もっと声を聞かせてよ。
ボクとお話ししようよ。
「それは無理。まさとには時間がないから。早くここから逃げるんだ」
まさと、って誰?
キミ以外に誰か近くにいるの?
「違う、キミがまさとだ」
ボクがまさと?
じゃあキミは誰?
「ボクは……。名無しだ」
何それ、答えになってないよ。
名前教えてよ。
「しょうがないな。……そうだ」
なにぶつぶつ言ってるの?
早く教えてよ。
「まさとが一番知りたがってたこと、教えてやる」
え。ボクが知りたがってことって、何?
「まさと、思いだせ。お前がここに来たのは間違いなんだ。お前は帰らなきゃいけないんだ」
帰る……。
どこに帰るの?
ボクの居場所はここじゃないの?
「違う。ここはお前のいるべき場所じゃない。早くお母さんたちのとこに帰るんだ」
お母さん。
なんだろう。とても引っ掛かる言葉。
忘れちゃいけない、何か大切なものだった気がする。
「そうだ。まさとなら思い出せるはずだ。大切な記憶は簡単には消せないはずだ」
……だれ?
優しく微笑んでくれてる女の人が見えるよ。あれ、今度はとても悲しそうにしてる、今にも泣きだしちゃいそう。
「きっとその女の人が母さんだ。まさとは母さんに会いたいか?」
会いたい!
まだ、何も分からないけど、会いたい気持ちがボクを作っていくみたい。
どうやったらそこに行けるの?
「ただ、そのまま思い出せばいい、まさとの本当の居場所もそこにあるはずだ」
よく分からないけど、やってみる。
……女の人以外にも、たくさん人がいる。
みんな泣いてる。
女の人が白い服の男の人を睨んでる。
あ、何か聞こえた。
えっと、ま……さと。
ボクの名前みたい。
みんながボクの名前を呼んでる。
……そうだ。ボクは車にひかれたんだ。
母さんのかわりに車の前に飛び出したんだ。みんなのいる場所はたぶん病院で、ボクはベットの上にいるはず。
やった、思いだせた。
ボク、思い出したよ。
だったら、ボクはなんでここにいるの?
ボクは、もう死んじゃったの?
もう戻れないの?
(そうだよ。まさとはここから帰れない。一生ボクといるんだ)
え。何でボクの中から声が聞こえるの?
キミはだれ?
(そんなことどうだっていい、全て忘れろ。忘れて闇に身を任せろ)
やだ、やだよ!
もう忘れたくない。
(あきらめろ。闇に……ボクに全てをゆだねろ!)
いやだ。
ボクは帰るんだ。
キミこそボクの中からとっとと出ていけ!
(うぅぅ。ま、まぶしい。光……ジャマダ。オマエナンテ、イラナイ。イラナイ!)
「まさと、まさと。どうした、しっかりしろ」
え。キミは名無し?
じゃあ、さっきのは何だったの?
「頑張ったな、まさと。お前は闇に勝ったんだ」
闇に勝った?
何のこと?
「……つまり、帰れるってことだ」
帰れるの?
本当に?
どうやるの?
「まさとの体を見つけるんだ」
体をさがせばいいんだね、やってみるよ。
…………んん、見つからないよ。
どうして?
「まさと、焦るな。さっきみたいに、思いだすみたいにしてみろ」
うん、分かったよ。
さっきはおもわずうれしくなって、焦っちゃったんだ。
今度は落ち着いてやってみる。
……みんなの声が聞こえる。
周りの音も聞こえてくる。
外は嵐みたい。
ボクの側にある窓が風で揺れていて、雨は窓を叩いてる。
耳元から機械の音がする。
ピ、ピって、規則正しく同じ間隔で音が鳴ってる。まるで心臓の鼓動みたい。
なんだか熱い、もしかしてこれが体を見つけるってこと?
ボクは帰ってこれたの?
…………!
痛い痛い痛い、痛いぃぃぃぃ!
腕や足の骨にひびが入ってる、動いてないのに激痛が脳に響いて吐気がする。
肋骨が筋肉や臓器に突き刺さってる。
刺さった骨が肉を裂く。
裂かれた肉が外気に晒されて痛い。
こんな状態じゃ何も考えられない。
こんなのいやだ!
助けて、誰かボクを助けてよ――。
(ならば、再び闇に落ちてこい。さすれば、全て消してやる。……さぁさぁ、早くこい)
どうして、キミがここにいるの?
消したはずなのに。
(残念だったな。ボクはどこにでもいるんだよ。さぁ、お前はボクと一つになるしかないんだよ)
そんなの絶対いやだ。ボクは母さんに会うんだ。
(そうはいかない。だったら、もっと苦痛を与えてやる。そしてもう一度、闇に取り込んでやる)
あれ以上の痛みなんて、耐えられるわけない。
(そうか。まさとが壊れようが、関係ないがな。覚悟はいいか、いくぞ)
「お前なんかに、まさとはやらない」
(く、なんだこの光は、ボクが、闇が消えるだと……。そうか、お前がまさとをここまで連れてきたのか。お前だけでも飲み込んでやる!)
「あぁ。最初からそのつもりだ」
「まさと、痛みをおそれるな。そんなものはまやかしだ」
……名無し。
ボク、頑張るよ。
(ふざけるな。二人ともキエロ!)
「そうはいくか。まさとを、大事な半身は決して渡さない!」
ボクは激しい痛みに耐えながら、闇と光の激突を見た。二人の正体はまるでボクそっくりだったが、全然違っていたんだ。
光のほうは名無しなんだろうけど、思わず叫んでた。
おにいちゃんって……。
「まさと、まさと、まさと!」
女の人の声が聞こえる。なんだかひどく懐かしい声だった。
「ただいま、母さん……」
ボクは重いまぶたを精一杯開き、母さんの顔を見る。
その時、母さんの瞳から一滴の涙が頬を流れた。
ボクの声を聞いた母さんは、ボクをおもいっきり抱きしめてきた。力が強すぎて少し痛いけど、なんだか気持ちが落ち着いてくる。不思議な気分だ。
「母さん。ボクに兄弟っていた?」
「……兄がいるはずだったわ。まさとは本当は双子だったのよ。産まれても、二人ともすぐに泣かなかったの。お兄ちゃんが死んじゃったら、まさとが勢いよく泣いたわ。まるでお兄ちゃんが死んだのが分かったみたいに大声でね。お兄ちゃんは、まさとの声を聞いてなんだか嬉しそうだったわ、不思議よね」
母さんの声は穏やかで澄んでいて、まるで自分に言っているみたいだった。
「名前ってあったの?」
「まさき、って名前にするつもりだったわ」
とても悲しいはずなのに、母さんは全部教えてくれた。ボクはそんな母さんがとても誇らしかった。
「母さん、まさき兄さん助けてくれてありがとう」
(終)
この作品は、私なりに人の死と生の狭間であるのではないかと思うある種の戦い? を表現してみました。
分かりにくい文章で申し訳ありません。
最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございました。
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