■AIM■
心臓関連突然死と警告症状
Warning symptoms are associated with survival from sudden cardiac arrest*1
なかなか興味深いテーマ。突然死なんて言ったって実は突然死じゃねーだろ〜?という批判的な態度から生まれたstudyです。突然死の原因はなんと言っても心血管関連。生存率は7%と低く、これは医学が進歩してもあまり改善していないのだそうです。どうやったら改善するだろう?と考え、やはり突然死の前に何かしらの症状があるのでは?と仮説を立てました。その症状が何かが分かれば早期の予防的介入が可能かもしれません。
論文のPECOは、
P:北アメリカのオレゴン州で2012-2013年に心臓関連の突然死を発症した35-64歳の成人839人
E/C:突然死発症4週間以内の警告症状の有無
O:退院時生存
T:住民レベルの後ろ向き観察研究
結果:
839人の突然死患者が組み入れられ、平均52.6歳、男性75%
警告症状があったのは全体の51%の430人だった。多いのは胸痛・呼吸困難。
男性は胸痛が多く、女性は呼吸困難が多い
症状が起きている時間は93%が突然死の24時間以内
症状のある患者の中で、救急車を呼んだのは81人でわずか19%だった
救急隊を呼んだ患者の生存退院率は32.1%で、呼ばなかった患者の6.0%と比較して優位に生存率が高かった
多変量解析で生存退院と関連したのは救急隊を呼ぶ OR 4.82(2.23-10.43)、ショック可能リズム OR 16.21(5.48-10.44)、bystanderCPR OR 4.28(1.32-13.77)だった。
(本文より引用)
なかなか興味深いです。突然死の人も半分は前触れ的な症状があると言うことですね。男性では胸痛が50%、女性では呼吸困難が31%ですから、これらの突然死前の症状には注意する必要があるかもしれません。とりあえず、本研究から分かる分かりやすい結論は救急車呼べです。
✓ 突然死の患者には発症1日以内に警告症状がある患者が50%はいる。症状がある人は救急車を呼ぶと退院時生存率が高くなる
ビタミンやミネラルサプリメントにお金を使うのはもうやめよう
Enough is enough: stop wasting money on Vitamin and mineral supplements*2
エディトリアルのみですが、がつんとメッセージ性があったので載せておきます。今回AIMにサプリ関連の研究が3つ一気に発表されたんだそうで。
1つめは、Fortmannさん達が、USPSTFのビタミンサプリメントの予防効果についての推奨を更新するために、マルチビタミンの研究3つと個別のビタミンの24研究の40万人以上の患者データを検証した結果、ビタミンサプリメントは全死亡・心血管疾患・悪性腫瘍を減らさなかったと結論づけました。
2つめは、Grodsteinさん達による連日のマルチビタミンが認知機能低下に関連するかを検証したPhysician’s Health StudyⅡの結果でした。12年のフォローアップの結果、マルチビタミンはプラセボと比較して、認知機能や言語記憶に有意差は出ませんでした。この研究の服薬アドヒアランスは非常に良好で、規模も大規模であり、最近のレビュー結果とも矛盾しない結果でした。ビタミンB・E・C・ω3脂肪酸など多数のサプリメントが検証されていますが、どれも効果がありませんでした。
3つめは、Lamasさん達による、心筋梗塞既往のある患者さんに対する高容量の28種類含有のマルチビタミンの効果を検証したTACT(Trial to Assess Chelation THerapy)です。4.6年間フォローアップされ、マルチビタミンとプラセボを比較して、心筋梗塞の発症率は有意差がありませんでした(HR 0.89:0.75-1.07)。 この研究はアドヒアランス不良やドロップアウトが問題でした。過去のレビューやガイドラインでもビタミンサプリは一次・二次予防それぞれで推奨されていません。
メリットがなく害が出るかもしれないにもかかわらず、米国では年々使用率が増えており、1988-1994年は30%だった使用率が、2003-2006年には39%になっています。米国のサプリメント業界は潤っており、2010年には年間売り上げは280億ドルにも及びます。これ以上のエビデンスの蓄積は不要であり、使用に反対する根拠は十分と言えます。メッセージはごく単純で、ほとんどのサプリメントは死亡を減らさず慢性疾患も予防しないということです。唯一異なるのはビタミンDの転倒予防効果が報告されているものの、臨床研究の結果はまちまちで一定していません。世界中でこれほど広く使われるにはもう少し検証が必要です。
✓ ほとんどのビタミン・サプリメント製剤は、死亡を減らさず、慢性疾患も予防しない
■NEJM■
再発性多発軟骨炎の眼・耳合併症
Polychondritis with auricular and ocular involvement*3
症例レビュー。是非この耳一発で診断できるようになると良いですね。いわゆるMillian’s ear signですね。一度まとめています。
症例は46歳男性。1ヶ月前から両耳の痛みと耳介腫脹があり、それに引き続いて両眼の発赤・疼痛・羞明が出現。全身評価では右手首にに疼痛あり。身体所見では両耳の発赤と疼痛があるが、耳朶部分はスペアされており、関節変形は認めなかった。右鼓膜は混濁し、眼科診察では、両眼の鬱血と炎症を認め、結膜・上強膜・強膜の炎症を認めていた。鬱血部分はフェニレフリン点眼薬では改善しなかった。結果として強膜炎の診断で矛盾しない結果だった。採血上は特記なく、プレドニンと局所ステロイド、麻酔性点眼薬で対応し症状は改善した。
(本文より引用)
✓ 再発性多発軟骨炎で両眼に症状が出ることがある
甲状腺結節レビュー
Thyroid Nodules*4
さて、NEJMレビュー。今週からC先生怒濤のレビュー更新です。とりあえず少しずつアップしていこうと思います。
■疫学■
・甲状腺結節は人口の4-7%に認められ、結節全体の8-16%が悪性腫瘍と言われていた
・近年、超音波検査の普及に伴い無症候性が多く見つかる
・超音波では感度が高いが、無症候人口の67-100%に見つかったという報告も
・慢性甲状腺炎が結節様になったり、ヘモクロマトーシス・転移性甲状腺腫様・傍甲状腺嚢胞・脂肪腫なども鑑別
■甲状腺癌リスク■
・一親等内に甲状腺の家族歴
・小児期〜青年期の放射線曝露歴
・過去に甲状腺癌の組織診断が出ている
・18I-FDGで甲状腺に吸収亢進
・MEN2ないし髄様癌の家族歴
・血清カルシトニン>50-100pg/ml
・核反応事故の近隣住民
■結節径と良悪性■
・結節の自然歴は様々で大多数は不変
・992人の甲状腺結節の前向き多施設観察研究(JAMA 2015;313:926-935)では5年で15%が径増大、19%が径減少、悪性化は5人でこのうち径増大は2名のみ
→径不変=良性でもないし、径増大=悪性でもない
■病歴と身体診察■
病歴:
・頭頚部放射線照射歴、甲状腺癌家族歴、甲状腺/乳/大腸の癌家族歴はCowden症候群
・一親等内に乳頭癌家族歴があると結節が悪性である可能性
・急速な増大は癌を疑うが出血でも起こりうる
・嗄声の出現は喉頭神経浸潤を示唆
・嚥下困難や前頸部違和感は悪性結節による圧排を示唆
身体診察:
・視診では正中・側面を確認
・鎖骨上・下顎のリンパ節腫脹を確認する
・硬くて可動性不良なら悪性>良性を疑う
・大きく硬い両側性の甲状腺腫瘤→甲状腺癌の転移を疑う
■検査■
血液:
・結節を認めたらTSHを測定→機能性の有無を確認
・機能正常ならTPO・TG抗体測定の適応ではない
・血清サイログロブリンは有用ではない
・血清Caは髄様癌を示唆しうるが、米国甲状腺学会はルーチン測定を推奨していない
画像:
・甲状腺結節全例で超音波施行が推奨
・数・径・性状・頸部リンパ節腫脹を評価
(本文より引用)
・強く悪性を示唆するものでない限り、ルーチンでのCTやMRIは適応なし
・TSH低下時のみI123ないしTc99mシンチで検索
FNA:
・性状/切除適応判断の上で感度・費用対効果が高く有用
・一つの結節辺り2−5穿刺が推奨
・ATAガイドライン:中リスク以上では10mm、低リスクで15mm、超低リスクでも20mmを上回ったらFNA適応
・結節が多く10mm以上→発癌リスクありFNA適応
・エコー所見による悪性疑い度合いとその際のFNA適応の大きさは異なる
(本文より引用)
病理:
・Bethesda分類に準じ専門科が解釈すべき
・診断不可能の評価された場合は1−2ヶ月内に再検し診断確定を
・良性:癌の可能性は低い。フォロー中に径や数が増える等疑わしい所見が無ければFNA再検は不要。但し結節の径が多い程偽陰性が増える(5−10%)
・悪性〜悪性疑い:悪性率94-100%〜53-97%
■対応■
・FNAは重要だがまず臨床/超音波所見ありき
・経験ある病理医が「良性病変のみ」で、超音波所見も正常なら️1−2年おきの超音波を推奨
・超音波で悪性疑いで、FNAで中間リスク、臨床経過や身体所見が悪化なら、6−12ヶ月で追跡。体積50%増/面積20%/径2mm増→FNA再検(※必ず全て調べて時系列変化を把握すること)
■甲状腺全摘の適応■
・悪性PPVの高い遺伝子変異(BRAF変異etc)
・FNAで悪性か悪性疑い
・両側に結節があり少なくとも一方が手術適応のとき
・小児期に頭頚部に放射線曝露があるとき
・結節>4cm
・基準を満たさないが合併症のため追加手術を回避したい時
・症例数の多い施設で行うのがbetter
・低Ca血症の発症頻度 0.2−1.9%、嗄声発症頻度 0.4%、全例でT補充が永続的に必要
■よく分かっていない部分■
・10mm以下の結節でもエコー所見や臨床所見で癌の疑いならFNAを推奨しているが、そのアプローチが予後を改善するかは不明
・40mm以上で良性を示唆する場合は手術可否はcontrovertial
(乳頭癌は径と無関係だが濾胞癌は径とリスクが相関、4cm以上の結節はエコー正常でも径と癌リスクが相関する)
・生検で境界悪性の時に分子学的検査を行うか否か
・良性となった時の適切なフォローアップ期間、FNA再検の是非はcontrovertial
・過剰診断・過剰治療、偶発的に見つけた微小な乳頭癌
・ケースシリーズでは臨床所見さえ無ければ経過観察しても摘出術と遜色ないという報告、積極的治療に取って変わるかもしれないがデータ不十分
■ガイドライン■
・ATA:甲状腺結節の診断と治療に関しての記述。
・「分子検査は臨床・画像検索の上に行えば有用だが利害を患者家族と相談して決めるべき。」
・このレビューはATAとAACEガイドラインに準じている
■Key clinical points■
・甲状腺結節はcommonで大半は良性
・良悪の判断はエコーとエコーガイド下FNAが有用
・癌化のリスク:分類不能の異形成/分類不能の濾胞性病変で14%、濾胞細胞新生物(確定+疑い)で25%。分子学的追加検査を要する
・良性の場合は経時的な増大傾向や/臨床・画像で悪性を示唆する所見が無ければ経過観察
・悪性ないしその疑いの場合は甲状腺摘出術の適応
✓ 甲状腺結節へのアプローチ法を整理しておく