(仮題)機動私兵クロニクル   作:放置アフロ

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キキ・ロジータの仕返し(前編)

 UC.0097年、8月。東南アジア、ラオス山中。バルク村より北東20キロの地点。

 ふたりの視線の先、およそ2キロの距離を隔てて、岩山に船が()()していた。ただの船ではない。白亜の船体にミノフスキー・クラフト・システムを内蔵し、大気圏内を海原を進むように飛行できる。
 雲と朝霧が混ざり、ときおりその巨体を抱きかかえていた。

偽装(カムフラージュ)されてるガ、ワタシのデータベースは65%の確立でペガサス級揚陸艦グレイファントムと適合していル」

 女の口から出たのは電子音声だった。

「ブ、ブーっ! 惜しいですが違いますね。ゲルクさんの頭にあるデータ、最後まで確認してみてください」

 答えるのは、声変わりする前の少年に聞こえる。

「『グレイファントムは83年のデラーズ紛争におけル核攻撃デ大破。翌年、廃艦処分』カ。ではアノ船はなんダ?」
「ホワイトベース級機動戦艦、その3番艦セントールですね。レア物ですよ」
「確かカ、モシェ?」
「『第一次ネオ・ジオン戦争の後、残党掃討のために地上へ降下。93年、アジアで作戦行動中に消息を絶つ』と。ぼくの内部記憶(データベース)は95%の確立だ、っていってますね」

 岩の頂に腰かけた青年モシェは単眼鏡を外し、隣の岩に立つ彼女を見上げる。長身の女、ゲルクに向け、ふわっ、と笑う。ショートボブから伸びたモシェのもみあげが、風に黒く揺れた。
 子供っぽさと中性的雰囲気を漂わせるモシェの必殺技も、しかし、女に通用しているのかわからない。
 異様であった。
 彼女、ゲルクの頭部はチタン・セラミック複合材の球体で覆われていた。目に当たる部分はごく細く水平にスリットが入っている。ときおり、内部でチカチカと人工的な光が点いては消えていた。
 つや消し黒(マットブラック)の表面処理は見る者に、硬く、不気味な印象を与えていた。黒い仏像の顔、その上半分といえば思い描きやすいだろうか。
 もっとも、モシェはサイボーグの異形も気にかけている様子はない。相変わらず、にこにことゲルクを見上げている。

「しかし、正体が何にせヨ、アレがジオン残党のネグラになっているというのハ、笑えない状況ダ。時に現実は冗談よりタチが悪いナ」

 昨年勃発した第三次ネオ・ジオン(ラ プ ラ ス)戦争で、この山間部を飛行するサブ・フライト・システム、―モビル(M)スーツ(S)の移動補助を主目的とした航空機―が目撃されていた。そのゲリラが座礁した船に潜んでいる可能性が高い。
 モシェとゲルクは民間(P)軍事(M)警備(S)会社(C)に所属し、ある事情でジオン残党を掃討しなければならない事態になっていた。

 麓に下りると、連邦軍から貸し与えられたホバー・トラック、そして2体の巨人が膝を折り曲げて駐機されている。

「にしても、74式トラックは骨董品だよ。ま、MSもどっこいだけどさ」

 ため息しつつも、モシェの黒目は輝いている。瞳に鮮やかなディープ・ブルーの機体が映り込んでいた。

「ブルー・ヘイズル1号機かぁ・・・・・・。やっぱり、ガンダム頭は趣味的だなぁ」

 確かにガンダムではある。だが、伝説のRX-78ではなく、余剰パーツで組み上げられた陸戦型ガンダム(RXー79)である。

「なのに、ヘイズルって呼ばれるなんて」
「ヘイズルとは確か、ティターンズの試験部隊ガ『敵に与える心理効果の研究』で、ジムにガンダムヘッドを搭載した機体の事だろウ? コイツは傍流とはいえ、ガンダムであることに違いはなイ」

 モシェが『待ってました!』と言わんばかりの顔になった。

「その通りです! ただこの機体、一年戦争中はジムヘッドだったんです」
「ナゼ、そんなややこしいコトをすル?」
「ぼくも詳しくは知りません。戦闘で破損して予備パーツがなかったのかも。
 気になるのが、このRX-79XX-1って型式は連邦軍も存在を否定してまして、マニアの間でも長年の議論の対象になってるんですよ。ひょっとすると、終戦間際に旧サイド6で破壊されたRX-78NT-1かな、とも思いましたがあれは試験的にオール・ビュー・モニターを採用されていたので違いますし。他にもRX-78XXっていう機体がですね、ゴビ砂漠の・・・・・・」
「オイ、ソノ話長いのカ?」

 仏像の無表情と冷たい電子音声が、突っ走るモシェを制動する。おたくには辛い。

「えと、・・・・・・すいません。
 で、このブルー・ヘイズル1号機はキャリホルニア・ベース攻略戦で大破して、倉庫にほったらかしにされてたんです。それがグリプス戦役後、ネオ・ジオン侵攻への備えで二線級配備されることになったんですが……。大変だったみたいですよ。他の陸ガンからパーツを取っ替え引っ換え、何とか一機組み上げたんです」
「ソレがコイツか?」
「はい。元はガンダムなのに、ジム頭だったからガンダムに戻っても、ヘイズルって呼ばれるわけです」
「なるほどナ。『英雄の子、日陰に追いやられ雑兵として死シ、軍神になりて転生するも、偽リの烙印を押されル』と言ったところカ」
「うわー、なんですか! 詩人ですね」
「おしゃべりは終いダ。始めよウ」

 モシェはブルー・ヘイズルの昇降ワイヤーに足をかけ、ゲルクはもう一機、カーキ色に塗られたジムⅡへ向かう。
 このジムも基地司令のガンダムに対する憧れなのだろうか、V字アンテナを装備した頭部だった。しかし、ガンダムは連邦軍の力の象徴でもある。頭部とはいえ、いや頭部だからこそ、簡単に量産型に付けられるものではない。
 V字アンテナは通常型ジムヘッドに飾りとして、無理やり取り付けられている。

「コッチはまるで『オオカミの皮をカブりそこなったヒツジ』ダ」

 ジムはヘイズルⅡ2号機と呼ばれていた。


「キキさーん、ありがとー。戦闘が始まるから隠れといてねー」

 モシェはブルー・ヘイズルを起こしながら、眼下の少女に叫ぶ。

「わかってるよ! ジオンの一つ目なんかさっさとやっつけてよね」

 地面に立つ16、17歳くらいの娘が、こまっしゃくれた感じで答え返す。バンダナでアップにした銀髪が風に揺れていた。

「帰りは村に寄るんだろ!」

 モシェを見る彼女の黒目は、先ほどMSを語っていたモシェと同様輝いていた。

「時間があったら、ね」

 黒髪を手でかきながら、モシェは隠れるようにコクピット・ハッチを閉じた。
 完全に密閉された空間が暗くなると、無線の呼び出しランプが光っていた。
 
「あれは惚れられたな、モシェ君よ」
「イケメンの辛いところだなぁ。もげろよ」

 ホバー・トラックの支援要員、スティーブとルイスだ。

「実はぼくもまんざらじゃないんですよ、へへ」

 モシェもよだれを垂らしそうな声で答える。
 が、

「ただ、・・・・・・」

 ふと、口をつぐんだ。
 連邦軍基地から東に直線距離で50キロ、バルク村はあった。モシェらは村人に協力を頼み、ゲリラの潜伏地点と思われる山までの道案内をしてもらうことになった。
 その案内人があの娘である。

「ちらっ、としか見てないんですが、見送りに来てたあの娘のオヤジさん、すごい目付きでしたよ」

 父親の憎悪と怒りがモシェに対するものなのか、あるいは搭乗するガンダムか、あるいは連邦の私兵(PMSC)なのかはわからない。

「ケンカしたら相手が『片足の東洋人(イエロー)』でも、勝てそうにないですね」

 父親には右足がなかった。





 ウォンゼィチットという名は言いにくいし、長ったらしいと思う。村人たちも親しみを込めて私を「オン(じい)」と呼んでくれるし、こっちの方がありがたい。
 村に居ついてもう20年近く経つ。
 私は独立戦争の第三次降下作戦でマレーシアに降りた。ひどいところだと思った。何度も帰りたいと思った。アジアで最後の便がラサから上がったと聞いたとき、見捨てられたと感じた。
 だが、人生の3分の一をここで過ごすと、悪くないなとも思えてくる。
 なにより、ラオスは私にとって先祖の土地だ。不法滞在と罵られようと、ティターンズが弾圧しようと、骨を埋めてやるんだと、肝も座ってくる。
 事態が変わったのは、4年前。当時はラサに隕石が落ちた直後で、異常気象がしょっちゅう起きていた。あの日の嵐もそうだ。
 衝突音も落雷のひとつだと、村人たちは思った。嵐が過ぎ去って仰天した。村の裏山にでっかい戦艦が座礁してたんだ!
 ジオン残党狩りをしていた船が雷にやられて山にぶつかった、と思った。実際は違った。嵐に乗じて反撃に出た残党に落とされたんだ。
 やがて、残党軍も村にやってきた。最初こそ村人は警戒していたが、一度ティターンズに焼き討ちされたことがある私たちは、食べ物も事欠く彼らに同情的だった。まぁ、よくも連邦艦を沈められたものだ。
 それから村人と残党の共同体が作られるのに、時間はいらなかった。


 最近、また村人が増えて畑はいくらあっても足らない。今朝も夜明け前から、出ようと思っていたが、霧が濃くて山仕事は遅らせるほかなかった。
 ようやく、地面が見えるぐらいになってきたので、家を出る。()()()を引いた足でも、愛機までの道のりは遠くない。
 うっすらとした霧越しに、山の稜線と重なるそれが近づく。しばしば思うが、こいつは重機にしてはデカ過ぎる。

「今日も頑張るか、ゴッタン!」

 親しみを込めてそのシルエットを呼ぶ。正体は水陸両用MSゴッグの上半身に、自走砲マゼラアタックの車体(ベース)部を無理付けし、キャタピラ化した「何か」だった。
 二人でも動かせるが、開墾作業程度では私一人でやることがほとんどだ。MS側のコクピットは車体の操縦もできるように改造してあった。

 突然、ゴッグタンク後ろの山が動いた!
 山の稜線と思ったのは、巨人―モビル(M)スーツ(S)だった。シルエットだけだが、細身の影は連邦軍のものだ。
 それはゴッグタンクの丸い頭部を鷲掴(わしづか)みにして揺すり、反動を利用して後ろにひっくり返した。
 正面にいたオン爺も巻き上げた泥土をかぶりながら、転ぶ。

「ソコでじっとしてなさイ、ポンコツ」

 巨人がスピーカーでののしる。女の電子音声は、まるでMSそのものがしゃべっているようだ。でかい脚を高々と上げ、頭上をまたぎ、村の中心へと向かっていった。その後をホバー・トラックが追っていく。
 いよいよ地響きを立てる足音や、騒ぎ出した家畜が村人に異常を知らせているだろう。
 だが、戦える者はほとんどいない。一年前の第三次ネオ・ジオン(ラ プ ラ ス)戦争で出払ってしまったのだから。帰ってきた者はいない。
 いや、ひとりいた。しかし、よそ者だ。彼が乗ってきたMSも整備不良で調子が悪い。

「あの娘たちを奪い返しに来たか」

 拳を握るが、ぶるぶると震えるだけで、何もできない。

(ポンコツ・・・・・・)

 先ほどの罵声がよぎった。
 独立戦争のときは地雷を喰らって脚を悪くした。
 デラーズ紛争はここではなかった。遠すぎた。二度のネオ・ジオン戦争もそうだ。
 一年前、ガランシェール隊とかいう、ネオ・ジオン一派の呼びかけにも応えなかった。なぜ、戦わなかった?
 脚のせいか? 老いたせいか? 土地に未練か? 命か? すべてだろう。

「チクショー!」

 不自由な脚に悪態をつき、オン爺はゴッグタンクに向け走る。





 敵の接近を知り、ゲリラは家を飛び出した。
 スマルツァMP-71(サブマシンガン)マズラMG74(機関銃)、連邦から分捕ったM72A1(突撃銃)を持つ者もいる。
 すべて役に立たなかった。
 朝の静寂を突き抜く轟音。ヘイズルⅡ2号機(ジ ム Ⅱ)が手にする90ミリ・マシンガンの掃射。
 それはむき出しの土の道に、一列の弾痕をうがってゆく。地上高10メートルから繰り出される火竜の吐息は歩兵はもちろん、あらゆる戦闘車両にとって脅威だった。

「無駄ナ抵抗はやめなさイ。武器を捨て投降しなさイ」

 お定まりのセリフだが、ゲルクの電子音声で棒読みされると、不気味なプレッシャーがあった。

「さっさと広場に集まれ! 武器はそこにひとまとめに捨てろっ! 両手は上げておけ!」

 ホバー・トラックの車上からは、ガンナーのスティーブが6連砲身のにらみと共に怒声を上げる。20ミリ・バルカン砲でも人間を肉にするには、十分すぎる威力だ。
 赤ん坊を抱いた母親や、敵意を見せる10歳にもならぬ少年、といった非戦闘員ばかりで、

「あのキキという娘の言うとおりだっタ。コレで麓の村は制圧。あとは山腹の厄介な船だけカ」

 ヘイズルⅡの足元に小山となった銃火器をモニターに見下ろしたゲルクは、別行動中のモシェを思った。

 と、

「後ろから、キャタピラ音! さっきのMSもどきかよッ!」

 オペレータ・ルイスの無線が耳を打つ。
 調整されていないキャタピラはガチャガチャとうるさく、ガスタービンもうなってばかりで前進速度は遅々としている。マフラーが吐く黒煙は、時代錯誤もはなはだしい外燃機関のようだ。

「やる気らしいナ。止まらないと撃ツ」

 警告の3.0秒後、ゲルクはトリガーを絞る。マシンガンから巨大な真鍮色の雨が降り、ゴッグタンクは激しく火花と、装甲片を散らしていった。





 顔を隠すようにしていたアイアン・ネイル(巨大な爪)に命中、老朽化したいくつかが弾け落ちたが、ゴッグタンクはそのまま突っ込んでくる。

「さすがゴッタン、なんともないぜ!」

 ゴッグは元々、機雷にも耐えられるほど頑丈にできている。
 アイアン・ネイルの隙間から、敵のジムⅡが弾切れを起こして、弾倉が飛び出すのが見えた。

「せめて一太刀!」

 敵機が弾倉交換を終え、マシンガンを構えなおす。
 ゴッグタンクが両腕を大きく横に広げた。
 まさに、

「よく狙え!」

 と、見せるために。
 マシンガンの砲口の動きが止まった。
 刹那、ディスチャージャーのスイッチを押す。ゴッグタンク腰部から二条の閃光が(はし)る。
 光の正体はメガ粒子砲ではなく、ただの夜間用HID(ライト)だが、思いがけない目くらましに敵は棒立ちになった。
 ようやく、ジムⅡが動き出すと何を思ったか、マシンガンを足元に落とした。
 いまさら、降参? 笑わせる!
 ゴッグタンクのフレキシブル・ベロウズ・リム(伸 縮 自 在 な 腕)を限界まで引くと、高速で突き出した。コクピットなら一撃でつぶせる!
 恐れや憎しみを越え、自然に雄叫びを上げていた。

「ジィ―――ク! ジ・・・・・・」

 高エネルギー・ミノフスキー粒子の輝きがモニターの正面から、夢のように広がった。





 ゴッグタンクの頭部の中心、モノアイにはサーベル・グリップが()()、後頭部からピンク色の長大な光刃を見せていた。
 ヘイズルⅡはマシンガンを投棄すると、抜く手も見せずにビームサーベル一閃、ゴッグタンクの目を焼き尽くす。
 しかし、燃え残ったウォンゼィチット(オ ン 爺)の意思が乗り移ったかのように、慣性のままゴッグタンクは止まらない。とっさに、ヘイズルⅡはサーベル・グリップを離すと、両手で押しとどめる。
 大質量の突進を食い止めるヘイズルⅡの足首までが、泥の地面に沈んだ。
 背後の村人たちもどよめきとも、わめきともつかぬ声を上げ、腰を浮かしかける。

「が、がんばれ、オン爺!」

 少年が叫ぶ。
 残念な結果になった。
 ヘイズルⅡは上半身に大きくひねりを加え、ゴッグタンクを横へ投げ転がす。巨大なボディが脇のぼろ家(バラック)をなぎ倒しながら突っ込んだ。路面の抵抗を失ったキャタピラが激しく空転し泥を撒き散らすが、やがてそれも止まった。
 コクピットのゲルクは、ふっ、と鼻で(わら)う。

「『ジーク・ジ』なんだっテ? ウフフ、『ジ・エンド』カ」

 ヘイズルⅡを回頭させると、霧と雲間に見え隠れする機動戦艦(セントール)を見やり無線を送る。

「モシェ、そちらの調子はどうダ?」





「今、頂上に着いたところですよ」

 ブルー・ヘイズル1号機は機動戦艦(セントール)が座礁した側の反対から、ワイヤーガンを使って山を登っていた。
 岩肌に張り付きながら、モシェはブルーの左側頭部からシュノーケル・カメラを伸ばし、下をうかがう。目もくらむような光景だが、横たわるセントールがよく見えた。下からは真上を見上げない限り死角になるし、小さなカメラを発見される可能性は低い。

「こちらも片付いタ。村人を拘束し次第・・・・・・」
「戦艦の砲は動かせんのか!?」
「無理ですよ! 主機も火が入らないのに」
「方向音痴のバロンはどこだ!? 格納庫に呼び出せ! MSを早く・・・・・・」

 ゲルクとの暗号無線の途中、ジオン残党の会話を受信した。シュノーケル・カメラを素早く格納する。

「ゲルクさん、聞きました?」
「オープン回線とは、連中焦りまくってるナ。だが、待てヨ、モシェ。ワタシが行くまデ・・・・・・」
「今なら奇襲できます。仕掛けます!」

 モシェはフットペダルを踏む。
 背部メインスラスターから軽く青い炎を見せ、ブルーが空中に機体を躍らせた。
 すぐに自由落下が始まる。
 モシェには内臓が上に持ち上げられる感覚も大したことがないのか、口元には笑みすら浮かべている。その目はHUDの高度表示を追った。
 下方センサーが障害物(セントール)を察知し、【衝突警告】を発する。
 まだ笑っているモシェは、ホワイトベース級(セントール)の特徴的な左右カタパルト、その左舷側に狙い定める。
 あわや、墜落というところで、フットペダルを床も抜けよ、と踏み抜く。一転して逆方向のGに血が一気に下がり、視界が暗くなる。
 常人()()()そのまま失神していた。
 ホワイトベース級(木 馬)()()()基部にハードランディングしたブルーは逆噴射でも落下速度を殺しきれず、膝のショック・アブソーバーは底突きせんばかりに収縮する。さらに、両手両膝を甲板上につき、ようやく耐える。
 立ち上がったブルーは艦橋を見上げ、上半身を反らし仰角を取る。
 即、胸部バルカン砲を放つ。威嚇射撃。曳光弾の火線が窓を擦過していった。
 砲撃音が木霊(こだま)となって、尾を引く。

「降伏か死か? 好きに選べ」
 
 モシェは外部スピーカーで最後通告する。
 永遠のような短い時間、オープン回線は沈黙を続けた。

(マスター)(ゆる)してくださるだろうか・・・・・・」

 つぶやくモシェが、操縦桿のトリガーに力を込めたとき、

(久シブリデスネ)

 気持ち悪いほど生暖かい風が、モシェの精神を揺らしていった。声はコクピットの中から聞こえてきた。
 背筋に冷たい汗が浮く。
 殺気を感じ取り、機体を回頭させながら無線に問わずにはいられなかった。

「ゲルクさん、何か言いましたっ……!?」

 ブルーの背後、カタパルトの先に巨人がいた。流れた雲が漂う、その中に。
 エメラルドの一つ目が燃える。炎刃が陽炎(かげろう)を見せる。
 まとわりつく雲がうっとおしい、とそいつは突撃した。

「マラサイっ!? いや違うッ、こいつは!」

 ハリネズミのように尖った肩。赤熱刀(ヒートサーベル)を携えた右手。

(・・・・・・炎ノ精霊サン)

 声の余韻の中、紫のMS、イフリート・シュナイドはヒートサーベルを高々と振り上げた。
 次の瞬間、うなりを上げてブルーに襲い掛かる!




 しばらくハーメルンを使ってなかったら、自称「番人」みたいのが即効で沸いて笑った。


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