残業ゼロに取り組んで見えてきた
「社員たちが残業したい理由」
そこで「まずはできるかどうか把握するために、私も含めて、試しに実施してみましょう」と申し上げ、トライアルとして1週間、実施してみた。すると、前言に反して8割の社員が、残業をしないで予定した業務を完了した。「残業しないで、業務が完了できるはずがない」ということは、メンバーの思い込みであったのだ。
「見事に完了してくださって、すばらしいですね。完了できなかった方もいますが、あと少しですし、納期の変更が可能な業務が含まれていますので、それは私の方で調整しますね」と成果を確認した。続けて、「では本格的に、定時で業務を完了することを実施していきましょう。完了できなかった業務は、先送りしていきましょう」と伝えると、メンバーは一様に顔を曇らせ、定時で業務完了することの懸念をますます濃くした表情になった。
さらに聞いてみると、「1日2時間程度残業することは苦でないので、残業させてもらえないか」「これまで残業することが習慣だったので、定時で帰ることはやりにくい」という漠然とした懸念から、「時間内に終わらせるというプレッシャーが過度にかかる状況はつらい」「帰る時間の裁量を与えてもらいたい」という具体的な理由まで挙がってきた。
ひいては、「一定時間でできるかどうか明白になってしまうので、いやだ」「夫が帰ってくる時間にちょうど合うので、残業したい」「残業代を見込んで生計を立てているので、経済的にたいへん困る状況になる」という本音も出てきた。
その後に人事部長として従事した国内企業、外資系企業においても、返ってくるリアクションは同様のものであった。他の人事部長にお聞きしても、同様の経験をしているという。
すなわち、残業を増長させ、常習化させている要因には、社員側の、時間内に業務完了させることのプレッシャーから逃れたいという思い、時間で測定される厳格なパフォーマンス管理を回避したいという本音、残業有無も自己裁量にしたいという過度な裁量への期待、ひいては個人の経済的事情を社内ルールより優先させてしまう不適切さなどの問題があるのだ。こうした社員のマインド自体が、残業を常習化していると結論づけざるを得ないのだ。
こうしたマインドを持つ社員に対しては、残業時間管理と、残業時間に応じた健康維持策だけでは、残業問題を解決できない。残業時間管理と健康維持策が不要だとは言わないが、これだけでは明らかに不足なのだ。
「適度な休憩もとり、ある程度の時間管理の裁量も与える中で、ただし、残業はしないで定時で集中して仕事をする」――このことを徹底することは、どう考えても適切なことであり、いわば、当たり前のことである。
私が言いたかったのは、この当たり前のマネジメントを普通にやっていきましょうということだ。しかし放任になると、プレッシャーから逃れ、厳格なパフォーマンス管理を回避したぬるま湯の中で、残業が常習化する要因になってしまう。