昨年大みそかのボクシングWBA世界フライ級タイトルマッチは、王者の井岡一翔(26=井岡)がV2を達成し、大団円を迎えた。昨年4月にベルトを奪い取ったファンカルロス・レベコ(32=アルゼンチン)を11回TKOで撃破。世界戦では約2年3か月ぶりのKO劇で視界が大きく広がった形だが、今後はさらなる強敵が待ち構える。2016年、若武者はどんな相手と拳を交えることになるのか。
一翔はフライ級になってから初のKO勝利に「映像を見たけど、自分が思っていたのと変わらない動きができていた」と納得の表情で振り返った。
現在、日本人の世界王者は合計9人。「その中で注目してもらえるのは簡単じゃない。最後まで勝ち続けて、生き残って、一番強いボクサーになれるようにしたい」と存在感をアピールすることに必死だ。大みそかの試合の前から「唯一無二」の表現をよく使うようになったのも、ボクシング界での生存競争を見据えてのことだ。
今回の試合で、前王者のレベコ陣営が保持していたオプション(興行権)を消化。今後は相手を自由に選べる「選択試合」の割合が増える。
「勝ち続ける」ことを優先させるのならば、世界王座への挑戦権のあるランク15位以内から“安パイ”を選んでくるのも作戦の一つだ。
だが、真の意味で「生き残って」いくためには、安易に勝てる相手を倒して防衛を重ねても高い評価は得られない。世界のボクシング界が認める強敵を退けてこそ、名声を高めることができる。そこで関係者から名前が挙がったのがゾウ・シミン(34=中国)だ。
北京&ロンドン五輪のライトフライ級金メダリストでトップランク社とも契約するゾウの名前は誰もが知るところ。
昨年3月にはIBFフライ級王者のアムナット・ルエンロン(36=タイ)にプロ初の黒星を喫したが、アムナットには一翔も14年5月に3階級制覇に失敗するプロ唯一の黒星を付けられているという共通点もある。
大みそかのレベコ戦は相手側がオプションを持っていたため、事実上相手を選ぶ余地はなかった。そんな事情があったとはいえ、平均視聴率は7・7%と「想定した中で最低ライン」(TBS関係者)にとどまった。やはりオプションを持つレベコ陣営が指定した相手と戦った9月のV1戦も「想定より2~3%悪い」(同)数字だった。
レベコとの初顔合わせだった4月は「3階級制覇達成」の快挙もあり、平均15・0%(数字はいずれも関東地区。ビデオリサーチ調べ)をマーク。
注目を集めるには、対戦相手やタイトルマッチに何らかの「付加価値」が必要だ。そうなるとWBAフライ級暫定王者のスタンプ・キアトニワット(18=タイ)との「統一戦」も候補に挙がる。
今後はオプションの縛りがなくなるので、相手を自由に選ぶことができる。
だからこそ、ファンにテレビ中継を見てもらうため、ネームバリューのある相手と戦い、勝つことが求められる。
それができて初めてなれるのが「唯一無二の存在」。今後の一翔に課されたハードルは高い。
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