企業のM&A(合併・買収)が空前のブームを迎えている。なぜ今、企業は我先にとM&Aに動くのか。証券会社のアドバイザーや弁護士、公認会計士など、大型案件の裏表を熟知するスペシャリストがM&Aの現場を語る。
■痛い目に遭わないために
村崎直子(むらさき・なおこ) 1995年京大法卒、警察庁。99~2001年に米ハーバード大へ留学し、行政学修士号を取得。帰国後は汚職や知能犯罪調査に従事。外務省出向時には国際テロやスパイ取り締まり、拉致問題などの北朝鮮外交も担当。08年ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン、10年クロール日本支社、15年から代表。大阪府生まれ。
クロールは米国で1972年に設立したリスク管理専門のコンサルティング会社です。米中央情報局(CIA)や英秘密情報部(MI6)など世界の有力情報機関の出身者を多数抱え、日本では92年に拠点を設けました。企業の抱える不正や腐敗など表面には見えない「隠れたリスク」を調査し、依頼者に知らせる業務を手掛けています。
最近は企業のM&A(合併・買収)に絡んだ海外企業の調査が増えています。買収の交渉に入った後、買収代金の支払いまでの間に対象企業の調査を行うことが多いです。
依頼の種類としては、対象企業の事業には本当に実体があるかといった基本的なことから、社長の過去の犯罪歴や幹部の汚職、今後起こされるかもしれない訴訟まで、数えればきりがありません。
日本企業は現在アジア新興国などで海外M&Aへの関心を強めています。買った後に痛い目に遭わないためには、まずはリスクの調査が必要です。対象企業の企業価値の把握やシナジー(相乗効果)の調査を行う前に、忘れずにチェックしてほしいですね。
調査の方法ですが、対象企業の公開情報やデータベースの調査が基本です。外部の関係者にも話を聞きます。元従業員や取引先、ライバル企業、そして監督官庁などの政府関係者が貴重な情報を持っているかもしれません。様々な利害関係者に接触し、確度が高いと判断できれば依頼主の企業に情報を知らせます。
その企業のこれまでの歴史もチェックします。新興のオーナー企業であれば、なぜ1代でこんなに企業を大きくできたのか気になりますからね。オーナーの力が強い新興国の企業であれば、官との癒着や賄賂なども調べる必要も出てきます。
数年前、日本のIT(情報技術)企業がインドの同業の買収を検討している際にお手伝いした時の話をしましょう。
この企業が買収を検討したのは現地で数百億円の売上高を計上する同分野ではインド国内の最大手企業でした。地元の政府系企業とも取引があり、日本のM&Aコンサルティング企業から「経営成績が抜群だから」と買収を勧められた案件でした。
いざ調査に乗り出すと、おかしな点がいくつか見つかりました。現地の同業者や取引先によれば、このインド企業は伸び盛りのはずが、最近になって商品の質の低下が進み、顧客が急速に離れているとのことでした。あわせて、かなりの規模の使途不明金も発覚しました。調査を進めて分かったのは、この企業は政府関係者に賄賂を渡すことで売上高の大半を維持していたということでした。
帳簿の数字からはいくら収益力の高い「優良企業」に見えたとしても、汚職を前提にした事業構造であればコンプライアンス(法令順守)の面からは大問題です。当然、私たちの調査報告を聞くと、依頼主の日本企業はあわててこのインド企業の買収を見送りました。
村崎直子、ブリヂストン、丸紅、クロール、びっくり汚職、ランバクシー・ラボラトリーズ、第一三共、日揮
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