元米財務長官でオバマ大統領の首席経済顧問やハーバード大学学長を歴任したローレンス・サマーズ氏は、率直な言動と卓越した頭脳で知られる。先進国は成長の鈍い新たな時代に入ったとする「長期停滞論」を早くから積極的に提唱してきた人物でもある。
サマーズ氏は日本について、近代における長期停滞の最初のケースと指摘するが、そこから抜け出す道筋を描く実験室とも評している。その意味で同氏は日本と世界をテーマとしたこのFT・日経共同特集の理想的な対談者の役目を果たす。
■脱・停滞への実験室 改善、しかし未完成
クリスマス直前の長い電話インタビューで、デフレ(あるいは、本人の言うところの「ローフレーション」)を特徴とする世界に関する理論をさらに掘り下げ、日本政府の対応について率直な評価を下すようサマーズ氏に頼んだ。同時に2025年の日本の姿を想像してもらった。
会話は「アベノミクス」から始まった。ご存じの通り、脱デフレに向けて安倍政権が採用した金融、財政、成長戦略の総称だ。3年間の実験――近現代史における金融の大実験の一つと呼ぶ人もいる――を経た後、サマーズ氏はどんな評価を下すのか。
「私なら『インコンプリート(未完成)』という大学教授の古典的な成績評価を与える」と同氏は言う。「日本の状況が改善したことに疑問の余地はない。だが、着実で適切、かつインフレをもたらす成長がしっかり根づいたと確信する根拠はない」
これまでのところ日銀の金融政策は「概して適切」であり予想インフレ率の上昇に寄与した。「政策効果が衰え始めたのではないかと思うが、これ(異次元緩和)を継続しない理由はない」とサマーズ氏は言う。
安倍政権の財政政策については、柄にもなく外交的な態度を見せ「少し矛盾している」と口を濁した。さらに突っ込んで聞くと、2014年4月に消費税を引き上げるのは間違いだと警告したと述べ、「その後起きたことで私の考えを変えたことは何もない」と言う。
アベノミクスのいわゆる「第3の矢」は、税制改革、農業・電力市場の自由化、コーポレートガバナンス(企業統治)の改善を通じて既得権に切り込む構造改革だ。それぞれの改革自体は有益だが、積極性を欠くとサマーズ氏は指摘する。
話題は中国に移った。中国が投資主導の輸出マシンからサービスと国内消費需要を柱とする経済への移行に腐心する中で、日本は中国経済の著しい減速にどれほどもろいのか。
「中国経済の減速は多くの人の想定を超すだろう。だが、日本への影響はコモディティー(商品)生産国ほどではない。日本は商品価格の下落の恩恵を受ける立場にある。世界の他の地域ほど中国で起きることに敏感ではない」
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