どこからがアウト? 法律からみたPTA――憲法学者・木村草太さんに聞く

「PTAは保護者の義務だからしょうがない」「PTAの役員を断れない」そう思い込んでいませんか? しかし、PTAの活動の中には違法性が疑われるものもあるのです。憲法学者・木村草太さんがPTA活動はどこからがアウトなのか解説! 大塚玲子著『PTAをけっこうラクにたのしくする本』(太郎次郎社エディタス、2014年)に収録されたインタビュー「なにをするとアウト? 法律からみたPTA」を転載したものです。(聞き手 / 大塚玲子)

 

 

強制加入はダメ?

 

強制加入や非加入者へのいじめなど、「違法PTA」(違法行為をするPTA)の問題を指摘している、憲法学者の木村草太さんに、お話を聞かせてもらいました。PTA がやっていいことと、やっちゃいけないことって、どう判断すればいいのでしょうか?

 

 

――PTAって、保護者を強制加入させることはできないんですか?

 

団体に加入するっていうことは、ひとつの契約なんですね。契約が成立するのは「両当事者が合意をした場合」です。逆にいうと、両当事者が合意していなければ、契約は成立しないわけです。

 

したがって、PTA は保護者を強制的に会員にすることはできない、ということになります。

 

 

――PTAは強制加入団体じゃないということですね?

 

強制加入団体というのは、法律で「なにかをする条件として、なにかの団体への加入が義務づけられているもの」なんです。

 

たとえば、「弁護士として営業するためには、かならず弁護士会に入らなければいけない」とか、「ある団地の区分所有者になるのであれば、かならずその団地の管理組合に入らなければいけない」とか、そういうものですね。

 

PTA の場合、「子どもが学校に入るなら、かならずこのPTA に入らなければいけない」というような法律はないので、強制加入団体ではありません。

 

 

――では、PTAが任意加入だと知らない保護者の口座から、会費を給食費といっしょに引き落としたら、まずいですか?

 

そうですね。その人とPTA とのあいだで、加入の契約が成立しているか、いないかという問題がありますが、どちらにしても、会費は返されなければなりません。

 

まず、契約が成立していないのであれば、引き落とされた会費は「不当利得」ということになるので、民法のルールに従って、PTA は会費を返さなければいけません。

 

もし契約が成立していたとしても、おそらく「詐欺の契約」ということになって、取り消せるでしょう。取り消しになった場合は遡及するので、やはり会費は返さなければいけないことになります。

 

「詐欺の契約」っていうのは、たとえば、詐欺のリフォーム業者がやってきて「消防法上、これをやらなきゃいけないことになってます」といって契約させられたような場合ですね。当然、取り消せます。

 

 

――そうすると、訴えられることもありえますか?(汗)

 

ありえるでしょうね。その場合、被告は「PTA」になるでしょう。法人格をもっていなくても、団体の長がいて、組織化されていれば、被告になりえるんです。

 

もし訴訟があれば、PTA は確実に負けます。合意もないのに、契約上の債務があるといってお金を引き落としているわけですから「振り込め詐欺」といっしょです。裁判所から代表者(PTA 会長)に通知がいって、「会費を返してください」ということになるでしょう。

 

ただし、全額返すことになるかは、わかりません。もしその保護者が、PTA からすでになんらかのサービスを受けていれば、実費を相殺して一部返金になるかもしれません。

 

 

PTAと名簿

 

――ところで、いまPTAに入らない人は、病気など個人的な事情を役員に伝えなければなりません。それがいやで、やめたいと言いだせずに、追いつめられる人も多いようですが……。

 

これはPTA が任意加入でやっていれば、起こりえない問題ですね。

 

そもそもの問題として、一連の個人情報保護法令により、学校は、保護者や児童・生徒の名簿を、PTA に渡してはいけないんです。ですから、PTA は本来、自分から「入りたい」と言ってきた人の名前や連絡先しか、把握していないはずなんです。そうすると、PTA に入りたくない人が、そのことをPTAに伝える必要は、最初からないはずなんですよね。

 

 

――学校は、保護者や子どもの名簿をPTAに渡しちゃダメなんですか?

 

ええ。名簿というのは、目的の範囲でしか使ってはいけない情報ですから、学校はPTA という別の団体に名簿を出してはいけないんです。

 

学校だけでなく、保護者も同様で、学校からもらったクラスの名簿を、PTA に伝えてはいけません。なぜならそれは、保護者が学校との関係で使う目的でもらった名簿だからです。

 

たとえば、私はいま、団地管理組合の会計理事をしているので、加入者全員の名簿を持っています。それをリフォーム業者の人に「はい、どうぞ」ってあげたらアウトですよね。あるいは、私がリフォーム業をやっていたとして、その名簿を使って営業したとしたら、それもやっぱりアウトです。

 

 

――なるほど、アウトですね。これも、もしかすると訴えられる可能性はありますか?

 

ありますね。「個人情報の第三者提供」ということになり、1件あたり数千円の損害賠償というのが、判例上の基準です。もし、クラス30 人分の名簿をPTA に流したとしたら、4000 円× 30 人分で、12 万円の損害賠償ということになります。

 

 

――学校全体だと、かなりの額ですね……。では、PTAは本来、どうやって名簿をつくればいいんでしょうか?

 

任意加入にして、申請書を集めて名簿をつくることです。そうすれば契約が成立して、いまある問題は、全部なくなります。

 

名簿というのは、そもそも、申請書を集めないことにはつくりようがないんです。名簿がつくれなければ、団体って存在しないのといっしょなんですよ。会員の人数だって、わからないんですから。【次ページにつづく】

 

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vol.186+187 立憲主義と民主主義

・木村草太×荻上チキ「2015年、日本の立憲主義と民主主義は揺れたのか?」

・吉田徹「『野党って何?』を考える」

・橋本努「憲法改正を視野に入れた立憲主義は、いかなる価値に服すべきか――安保法制案はまだ熟していない」

・大屋雄裕「立憲主義という謎めいた思考」

・稲葉振一郎「プロセス的憲法理論から共和主義へ?」