年初から神経質な相場展開が続いています。
そこでしばしば議論されることは、中国経済の減速が世界に与える影響です。これについては別のところに書いておきましたので、そちらを読んでください。

「中国発の世界同時株安で始まった2016年の相場、1990年の日本のバブル崩壊との類似性、そして今後の米国株と日本株の行方は?」

むしろ今日紹介したいのは、債券市場と株式市場の接点において、いま何がおきているか? という問題です。

これについては下のブルームバーグの動画が、たいへん秀逸にいまの状況をまとめています。



登場するのはトレーシー・アロウェイ記者、インヤン・ファン記者、そしてアンカーのアリックス・スチール(ピンクの服の人)です。

はっきり言って、トレーシー・アロウェイが目立ちはじめると、それはマーケットが危機に瀕していることを暗示していると思います。なぜなら彼女はクレジット市場の配管部分を解説させたら、ピカイチだからです。いわばマニアックな裏方というわけです。

その彼女の説明を、市場が必要としているということは、とりもなおさず、クレジットというキカイの、ご機嫌が斜めだということに他ならないのです。

トレーシーはフィナンシャル・タイムズ出身です。お堅いフィナンシャル・タイムズとは思えないShooting from the hip(曲撃ち)のスタイルで、ヘッジファンドの動向をカバーするブログ、FTアルファヴィルを立ち上げたメンバーのひとりです。リーマンショックで世界がひっくり返っていた当時、切れ切れのレポートで「アジェンダ・セッター」の役目を果たしました。

残念ながら、その後、オリジナルのFTアルファヴィルの執筆メンバーは離散し、それに伴ってイケイケだったFTアルファヴィルも精彩を失ってゆきました。

ついでに説明すれば動画に登場するキャスターのアリックス・スチールは、元ジム・クレイマーのザ・ストリート・ドットコム出身で、今、注目すべきキャスターのひとりだと思います。

全般的に、ブルームバーグのチームは切れ味が良くなっている印象があります。とりわけコンテクスチュアライゼーション(文脈の意味づけをすること)が素晴らしいです。

前置きはそのくらいにして動画で議論されていることを要約します。(収録は12月25日)

トレーシー:「ジャンク市場の破壊」というのは、少し言い過ぎだ。市場参加者にとって大きな懸念は、ジャンク市場の変調が投資適格債にも飛び火するのではないか? という不安だ。投資適格の格付けを受けた企業の発行する社債は、普通、安全だと考えられているので、そこが毀損しはじめると、これは大騒ぎになる。実際、最近、投資適格債の投信市場からは資金の流出が続いている。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのデータによれば、直近の週で35億ドルの流出となっている。

アリックス:沢山の会社が社債を発行し、調達したおカネで、自社株を買い戻している。ゴールドマン・サックスの「自社株買戻し指数」とS&P500指数を重ねてみると、それらの線はピッタリ一致している。もし企業が社債を発行できなくなると、一体、どうなってしまうのか?

インヤン:2009年以降、米国の会社は2兆ドルもの自社株買戻しを行ってきた。実は、米国株の上昇の原因の殆どは、この自社株買戻しだと主張する投資家も多い。

アリックス:それは投資家が以前より企業のバランスシートに注意を払うようになっているという意味か?

インヤン;そうだ。投資家はバランスシートの強い企業を求めている。それと同時にキャッシュをどのような使い道に投入しているかを精査するようになっている。

トレーシー:過去5年ほど、投資家は株主還元を優先する企業の株を好んで買ってきた。株の投資家は、企業が社債を発行して債券の投資家からおカネを集め、それでもって自社株を買い戻してくれるという行為に無上の喜びを感じてきた。だが、そのような行為を歓迎するムードに変化が出始めている。投資家は企業のバランスシートの質(クオリティー)により注意を払い始めている。先ほどのグラフで示したように、投資適格債投信は不人気になり始めているのだから、このゲームはそう長く続かないかもしれないという懸念を市場関係者は抱き始めている。

アリックス:BBB格付けの企業でアウトルックが「ネガティブ」な企業(堕ちた天使)と、逆に格上げ候補の企業(ライジング・スター)の数を追ったグラフをみると、落ちた天使の数が増え、ライジング・スターとのギャップが拡大しつつある。

トレーシー:最近、サード・アベニュー・クレジット・ファンドが閉鎖に追い込まれた。あれと同様のことが投資適格債のファンドマネージャーにも起こりはじめたら、たいへんなことになる。

インヤン:投資家は質を求めると同時に成長を探している。去年、M&Aが盛んだったのは、そのためだ。

トレーシー:2008年の金融危機のときはTEDスプレッドが随分話題になった。当時、スプレッドが急拡大したのだが、今回もそれが拡大しはじめている。TEDスプレッドとは、米国政府が3か月物のTビルを発行する際のコストと、米銀がLIBOR(銀行間貸借市場)で借金する際のコストとの差(スプレッド)のことを指す。それは言い換えれば、どれだけ銀行がおカネを借りにくくなっているか?という尺度だ。普通、これが拡大すると銀行にストレスがかかっていることを示唆する。しかし今回はちょっと違う。たしかにLIBORは上昇したが、これはFRBが利上げしたからだ。むしろTビルの利回りが上昇しなかったという点の方が異常なコトだ。その理由だが、リーマンショック以降、行政はメガバンクや投資銀行に対し、Tビルに代表される安全な短期資産を多目に持つよう仕向けてきたことにあると思われる。だから今回、TEDスプレッドが拡大しているのは、かならずしも銀行にストレスがかかっているからではない。
(以下略)


下は最近のTEDスプレッドのチャートです。

1

これをもっと長期で見ると、このようになります。(最近の部分を赤マルで示しておきました)

2