経営×ソーシャル
ソーシャルのいま
【第5回】 2016年1月12日
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武田 隆 [エイベック研究所 代表取締役]

個人の孤独感を助長する、ソーシャルメディアが持つ「矛盾」

誰かとつながることを促すはずのソーシャルメディア。実は孤独感を助長しかねない側面を孕む

「ソーシャルメディアは人と人とのつながりを促す一方で、個人の孤独感を助長しかねない側面も孕んでいる」――。前回の連載では、ソーシャルメディアの爆発的成長の陰に隠れてあまり語られることのない、しかしネット社会を生きる私たちが必ず立ち至らざるをえない問題を指摘した。自分というものを理解してくれない社会と距離を置き、より深くつながれる仲間たちとネット上のコミュニティを築く。だがその行為が、ますます社会との断絶を深めるというパラドックス。今回はその点について掘り下げて考えてみたい。

「価値観×関係構築」のエリアにある
修学旅行の夜のような親密空間

前回の連載で、ソーシャルメディアの4つのエリアには、それぞれ問題が潜んでいることを指摘しました。

 「現実生活×関係構築」のエリアでは「終わりなき日常」が続き、「現実生活×情報交換」のエリアには「表象のコミュニケーション」が生まれます。また、「価値観×情報交換」のエリアには「マイノリティ以前の孤独」が強化される危険性があります。

 さて、最後のエリアである「価値観×関係構築」のエリアにはどのような問題が隠れているのでしょうか?

※後で見ていくように、「価値観×関係構築」のエリアに潜む問題は個人の孤独と深くかかわっている。

 価値観と関係構築のソーシャルメディアが重なることで、匿名性が担保された自由な発話環境と唯一性を求める親密な思いやり空間とが融合します。

 自分のことを理解してくれるだろうという期待。無視はされないだろうという安心。話すことの恐怖を和らげてくれる仲間。これらがみんなの公的な空間への発話を支える勇気につながり、発話する人を無視や攻撃から守る「思いやりの空間」をつくります。思いやりの空間は、発話の場であると同時に心の拠り所になるような場所でもあります。

 修学旅行の夜を思い出してみてください。夜更けにどこかの部屋に集まってクラスの好きな女の子を言い合おうということになる。しかし、最初は誰も口を開きません。

 しびれをきらしたせっかちなやつが口火を切ります。すると、場に安心感が生まれ、誰からともなく告白が連なる。場に告白が蓄積されることで、親密な空気が生まれます。そのような空気が参加者に安心感を提供し、さらなる告白を促していきます。

 自分の発話が求められていることを忘れていた人々が、自分に適した親密な思いやりの空間を見つけることによって、自分の内面深くに隠れていた欲求に気づかされる。告白のような発話から物語が噴水のように吹き上がる。しかし、この価値観と関係構築のエリアは、ソーシャルメディアにおいて現在のところ最も未発達なエリアといえます。

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武田 隆(たけだ・たかし) [エイベック研究所 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


ソーシャルのいま

ソーシャルメディア・マーケティングの第一人者である筆者が『ソーシャルメディア進化論』を出版してから早4年。ソーシャルメディアを取り巻く状況は大きく変化した。一体何が変わり、何が変わっていないのか。当時の状況を振り返りつつ、現在の状況について考察を深めていく。

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