科学技術の分野で、日本の研究者は国際共同研究の流れに乗り遅れ気味で、日本発の論文は質・量ともにさえない――。

 そんな現状分析に立って、2016年度から5年間の科学技術政策の根幹を描く「第5期科学技術基本計画」がまとまった。近く閣議決定される。

 計画づくりは科学技術基本法に基づく。「21世紀も日本は科学技術に支えられた国をめざすべきだ」との考え方が党派を超えて支持され、1995年に全会一致の議員立法で成立した。

 だが、翌96年度からの4期20年を経て、これまでの成果は不十分と言わざるをえない。新計画が「諸外国も科学技術イノベーション政策を一層強化する中で、我が国の科学技術の立ち位置は全体として劣後してきて」いると記述する通りだ。

 その原因への言及は不十分ではあるが、「科学技術イノベーションの基盤的な力の強化」に向けた課題として、まず人材、特に若手研究者をめぐる問題をとりあげたのは研究現場の実感に沿っている。

 学生が大学院博士課程への進学を避けるようになってきている。世界的に博士号取得者が着実に増える中、日本に特異な現象である。高い授業料を払って博士課程を終えても、企業の雇用は少ない。大学や研究機関は不安定な任期付き雇用が大半で、2年ほどで次々に研究成果をあげ続けなければならない。

 ノーベル物理学賞を受けた梶田隆章さんは昨年、研究開発投資の充実を政府に求める提言書に他の受賞者とともに名を連ねた。「米国の大学院生は給料をもらって研究をしている。優秀な人には早く落ち着いた研究環境を用意すべきだ」という。

 第5期計画は、世界に先駆けた「超スマート社会」の実現など、科学技術を生かした社会の華々しい青写真も描く。だが、どんなにすばらしい未来図も、新しい知識や技術を生み出す人々が細り、疲弊してしまっては実現するはずがない。

 新計画の実施にあたっては、何よりも研究者育成の立て直しに注力するべきである。

 新計画には、女性研究者の採用割合を3割に▽40歳未満の大学教員を1割増やす▽研究開発型ベンチャーの新規上場数を倍増といった数値目標も盛り込まれた。

 しかし、政府の研究開発投資は、第2期以降ずっと国内総生産比1%を目標としながら未達成で推移している。財政事情は厳しいにしても、優先順位をつけながら着実に目標に近づけて科学技術の振興を図るべきだ。