北田教授と記者との質疑応答
北田曉大・東京大学教授
北田教授:野党の第一党であり、「リベラル」という名を名乗る政党が、いったいどういう政策を打ち出しているのか、世の中では全く認知されていないし、実際にもよく分からない。与党である自民党と、野党第一党である民主党の政策の違いが全く見えないという深刻な事態に、危機感を感じている。
しっかりとした政策を打ち出す、リベラルな野党政党ができてはじめて、他党との協力や連携という展開が考えられると思う。われわれが政策提言を行う対象を、維新や共産、社民党にまで広げることも可能だが、さしあたって民主党への政策提言に絞って活動することが得策だと考えている。
ーSEALDsの学生らが、同じようにシンクタンクを立ち上げて、政策提言を行うと発表していることについて、どう考えているか。
北田教授:SEALDsの学生らがシンクタンクを設立するという話は、私も昨日、知った。リベラル懇話会の動きと彼らの活動は相反する動きのように捉えている人がいるかもしれないが、私自身はそのように考えていない。
私たちのメンバーの中にも、国会前の抗議行動に足を運んだメンバーもたくさんいるし、SEALDsの学生たちに協力的な研究者もいる。一方で、一定の距離を置く研究者もいて、個々の信条により、さまざまな立ち位置がある。
SEALDsの学生たちは安保法制に注目しつつ、社会運動を通じて、社会にどう呼びかけていくかという活動を行っているように思う。逆に私たちは、社会運動や選挙・政局をどうにかしようという部分は苦手というか、よく分からないと感じている。
自らの専門領域である人文科学や社会学、社会政策学や比較文化研究、歴史学といった知的資源を結集して、私たちにしかできないことに取り組んでいきたいと考えている。「象牙の塔」の中に眠っていた小難しい理論やデータを引っ張りだして、わかりやすく紐解き、具体的な政策提言に繋げていくようなことがそれに当たる。
「リベラル懇話会」のメンバーに名を連ねている学者や研究者は、もともと政党に政策提言を行うという意識はなかったと思う。10年前であれば、学者なのだからアカデミックな場所でがんばりたいと思っていただろうし、政治からはむしろ距離を置きたいと考えていた人がほとんどだと思う。
本来は、こんなことをしたくなかった。「象牙の塔」にこもって、研究に没頭していたかった。にもかかわらず、こうして行動を起こしたというのは、今の政治に対する相当な危機感があったからだ。私たちが学んできた学問の知識は、今、こういうところで使わなかったら、いったい何のために大学や研究機関が存在しているのか。そう問われているように感じる。
ー設立のプロセスやメンバーの選考は、どうなっているのか。
清水晶子・東大准教授
これらの問題を考えるにあたっては、経済学や社会学、特に、少子化や家族制度、労働などの領域とジェンダーやセクシャリティの問題が関わってくると考えた。一つ一つの問題を個別に捉えるのではなく、連続したテーマとして、パッケージングして話し合うことが重要という考えから、それぞれの専門領域を持つ研究者に声をかけた。最初の4人が中心となって、必要な分科会や話し合いの内容を一から考えていくうちに、気がつけばこんなに大所帯になっていたという経緯がある。
ー安全保障や外交などについては、政策提言をおこなわないのか。
北田教授:安保法案については、すでにたくさんの専門家がいろいろな場所で議論していることもあり、専門外の我々があらためてこの問題を議論し直す必要はないと考えている。また、反安保法案の大きな議論が生まれたことは事実だが、それによって見えにくくなっている問題があるのではないかと考えている。
具体的に言うと、安保法案が成立してしまったいま、今度は憲法24条、いわゆる「家族政策」に関する憲法改正の動きが出てくるのではないかという懸念がある。そこで、一つの大きな軸として「労働」「少子化」「ジェンダー」に関する問題に取り組むという構想は、最初から頭の中にあった。
ー今回の設立タイミングは、次の参院選をにらんだもなのか。
北田教授:遅くとも2016年の夏には、参院選が行われる見込みなので、選挙戦をにらんだ動きを意識していないとは言えない。私たちがこれから行う予定の政策提言は、民主党のマニフェストに反映されることも考えている。
しかし、選挙戦を踏まえたマニフェストに対する政策提言だけが、設立の目的ではない。安保法案の問題が大きな議論になったころ、次の選挙で争点となるべきさまざまな論点が見えにくくなってしまったと感じたことが、一つのきっかけだった。選挙の争点が見えにくくなったことで、このままでは自民党が多くの票を持って行ってしまうのではないかという懸念を抱き、準備を進めることになった。
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