暖冬のせいで遅れて冷気が来たのか、ここ最近の寒いこと寒いこと。
こんなときは南国が舞台の小説でも読んで頭の中だけでも暖かくなろう。
青い海と空の南国にトリップできる爽やかな小説なら、だんぜん景山民夫の『遠い海から来たQOO』がおすすめ。
舞台はフィジー!
主人公の洋助は東京生まれで、小学4年生から生物学者の父に連れられフィジーのパゴパゴ島に移り、現在は小6くらいの年齢。
そもそもフィジーとはどこぞ、と思い調べてみたところ、オーストラリアの右上辺りにある330ほどの離島からなる国でした。パプアニューギニアとか、あの辺りですね。
↑パゴパゴ島Pago Pago - Wikipedia, the free encyclopedia
(作品中はフィジーに属するという設定になっていますが、本当はサモアのトゥトゥイラ島の位置にあるとのこと。実際のパゴパゴ島はアメリカ領サモアの首都。)
小説の中では漁師6世帯程度しか住んでいない無人島や珊瑚礁に囲まれた離島となっています。
内容はシンプルなので一文でまとめられます。
フィジーの離島で父とイルカと犬と生活している少年が、流れ着いた首長竜の子供(COO)を育てながら、彼を解剖するために捕まえようとする政府から守るためにバトる話です。
話の流れ自体は単純なので、あとは主人公の成長と動物たちとの心の通じ合いにほっこりし、それからクーが奪われるや否やのかけひきやの戦いにハラハラドキドキし、そしていつかは海に帰さなければいけないクーとの別れにウルウルすればよろしい。
楽しみ方
でもちょっと待って。
話の筋がシンプルだからこそ、細部の書き込みが引き立ちます。内容だけサラッと読んで終わりにするにはあまりにもったいない。
そんなわけで、見どころを軽く5つ。
1、自在に海を駆ける少年の目線
ジェットスキーで通学していると仲良しのイルカが寄ってきて並走してきて、透き通った青い海に潜ると珊瑚の花畑の中に色とりどりの熱帯魚が泳いでいて。岩陰からウツボが顔をのぞかせ、あごをなでてやると気持ちよさそうな顔をして泳ぐ。
砂浜に向かって駆けていくと、犬が後から付いてきて海ではイルカがジャンプして遊ぼうと待っている。
主人公は泳ぎや潜水の名人な海と生きる少年であり、海洋生物学者の父により海の生き物についても知識があるため、自由に泳ぐことができるのです。その主人公の見ている景色を描いているシーンの多いこと。
その風景の描き方が上手いのか、実際に見ているような感覚になります。手に取るような描写が、南国気分にさせてくれる。
ここで「海のトリトンか」と思ってしまったあなたは、おめでとうございます昭和生まれです。
2、クーの可愛らしさ
6千年前に絶滅した海洋首長竜というと、ジュラシック・パークのような巨大でいかついのを想像しますが、クーは本当にちっちゃくてカワイイ。
最初は50cmくらいの大きさで「クー」と鳴く。人懐っこくて主人公を信頼しきったイタズラ好きのクーは、その憎めないキャラで作品中でも主人公に父に、それからクーの存在を教えた3人の人間をメロメロにした挙句、イルカまでも夢中にさせてしまうのです。
しかしなんといっても、読者をクーのファンにさせてしまうから、後のクーの奪還劇にハラハラしてさせることができるわけで。
3、離島の風景
パゴパゴ島はテレビもなく店もなく、さえぎる物は何もない青空の下に電気も午前中は止まっているという有様。必要なものは本島のスーパーに買い出しに行ったり、学校も週2、3程度片道2時間かけて通学しなければいけないような海と少しばかりの畑しかない小さな島。
素敵なのは、その不便さを誰も嫌がっていないところ。
そんな何もない常夏の島での生活にちょっと憧れますよね。でも別にずっと住みたくはないでしょう?
読書のいいところの一つは、違う人生を追体験できるところです。
この小説は物が溢れて慌ただしい日本からの逃避に最適。有給もロクに取れない、こんな世の中だから。
4、マニアックな機械のウンチク
作者の趣味だと思われる、バイクや車、ジェットスキーと後半の諜報機関や政府との戦いで使われる銃や潜水艦などの製品名や機能などの説明が妙に詳しい。それいらんだろ、と思うところまで丁寧に・・・。
特にジェットスキーは離島における不可欠な交通手段で、多分我々の車に近い存在。ちなみに主人公の洋助が乗っているのはカワサキ440で、当時最新型の550CCのがほしいそうですよ。
そこらへん、好きな人は好きかもしれません。
5、環境問題への責任・野生の生物と共存する意味
環境問題については、そもそもクーの存在を消そうとしている政府はクーの一族(絶滅したとされていたプレシオサウルス)が住むと推測された海域で水爆実験を行いたいわけです。そこしか人間に害の出ない場所がないから。だから希少生物であるクーの存在が明るみに出てしまうとまずい。
そこまでして核実験をする意味はあるのか?主人公の言葉がささります。
「どうして、そんなことまでして、つまりさ、他の国に嫌がられてまでさ、フランスは、いや、フランスだけじゃないよね、アメリカもソ連も中国もイギリスもやってるんだろうけど、そんな苦労までしてさ、核実験なんてやらなきゃいけないんだろう?せっかくの自分の国の領土の、こんなきれいな海を汚してまで」
野生生物との関わりについては、洋助とイルカたちやクーの関係を見ていて感じるところがあるかも。
「野生動物は野生で生きる」これが大原則であり、仲良しでも毎日一緒に過ごしていたとしても、よく見ると主人公も父親も一定の距離を保っているのですね。主人公はまだあまりそれが上手にできないけれど、でも理解はしています。
後半は生物保護ネタも絡んで来るのですが、そこらへんの線の引き方というか、そういうものが自然の少ない場所に住んでいると曖昧になってきてしまうもの。
けっこう、深いんですよね。
主要登場人物(+恐竜・犬・イルカ)
ここは飛ばしてもらってもいいですが、カラッとした人間関係が魅力的で、要は見方はみんないい人で敵はムスカばりにわかりやすく悪役です。
ザ・シンプルで登場人物が少なく読みやすい。
味方
・クー:絶滅したとされているネッシーのような首長竜の子供。生まれてすぐパゴパゴ沖に流れ着き、目をあけた瞬間に見た洋助を親と思いこむ。「COO」と鳴くからクー。
・洋助:主人公。しっかりものの海と一緒に生きるたくましい少年。ツッコミ。
・徹郎:主人公の父で妻と死別。海洋生物学者。会話におけるボケ担当。
・キャシー:日系三世の海洋ジャーナリスト。美人でその道では有名な才媛。
・トニー:オーストラリア人で観光機のパイロット。たまに送迎や物品を届けてくれるナイスガイ。
・クストー:洋助の飼っているゴールデンレトリーバー
・ブルーとホワイトチップ:主人公と仲良しのイルカ。ブルーは真青で綺麗な雌イルカ、ホワイトチップは背中に白い斑点のあるイルカ。後にクーの面倒をみてくれる。
敵
・SDECE(フランスの諜報局)
・イギリス・フランス政府
以上だ!
蛇足ながら、私は主人公と父親のこの会話のシーンが好きです。
「そう、そのことは何を意味していると思う?」(父)
「さっき父さんが言った、(中略)気象異変は、海中の生物にはそれほどの影響を与えなかったってこと」
「正解!副賞はペアで行くサイパン三泊四日の旅だ」
「なんでフィジーにいるのにサイパンに行かなきゃならないんだよ。」
おわりに
旅行系のエッセイでも強い景山民夫ならではの実際にそこにいるような気分にしてくれる、後味のすっきりとした小説。かなり全体的に読みやすいので、普段本を読まない人でも難易度は低いはずです。
子どもの頃に見た人もあるかと思いますし、私も初読は小学生のときでした。しかし大人になってから読むとまた見えるところが変わりますね。当時は話の筋とか冒険の部分にしか目がいっていませんでしたから。
ちなみに直木賞受賞作ですし、アニメ化もされている有名な作品なのでまだ見ていない方はぜひ。
ジョジョでお馴染みビーチ・ボーイズのココモかサーフィン・U・S・Aを流しながら読むと効果倍増!脳内が完全に南国。サーファー・ガールも良い。
The Beach Boys - Kokomo (1988)
同じ著者の旅行しているような気分で楽しめるエッセイもおすすめ。こちらもさっぱりと笑いながら読める感じ。