日本で生活する外国人は様々な形で増えている。将来の受け入れ拡大を見据え、外国から来た人が安心して働き、暮らせる環境づくりを始める時期にきている。
埼玉県川口市にある芝園団地。約2500戸のこのマンモス団地の住民のほぼ半数は中国人だ。都内の企業で技術者などとして働く人が多いという。
互いの違いを認める
以前は住民の間の交流は乏しく、ゴミの捨て方や騒音など生活様式の違いからくるトラブルも多かった。そこで自治会が中心になり、外国人にも関心が高い防災講習会などを開いて親睦を深め、その中でマナーも呼びかけてきた。
その結果、商店会が開催するイベントなどは国籍を超えてにぎわうようになった。団地の外からも、大学生らが積極的に参加している。自治会には初めて中国人の役員が誕生した。
お互いの違いや多様性を認め合うことで、国籍に関係なくだれもが住みやすい生活環境がつくられる。芝園の取り組みはその事実を教えてくれる。
芝園団地と同様の問題を抱えてきた地域は少なくない。外国人が2千人以上住み、人口に占める割合が高いといった地域を、警察庁は「外国人集住地域」と定める。現在、愛知や静岡、群馬など13県の65地域に広がっている。
このような地域では住民や自治体、警察、NPOなどが共生のための基盤づくりを手探りで進めてきた。その経験に学び、どうしたら外国人が暮らしやすい社会になるか、様々な観点から考えたい。
まず言葉の問題がある。一定の日本語力を身につけてもらうための支援は欠かせない。
100超の国籍の外国人が工場などで働く群馬県では、群馬県立女子大学の伊藤健人准教授らが日本語教育の拠点として学内に「地域日本語教育センター」を設立した。特色は「生活日本語」という易しく覚えやすい指導にある。
スマートフォンで検索するときは言葉をきちんと入力する必要があるため、「がっこう」「ざせき」などと発音をしっかり学ばせる。漢字は視覚的にとらえ、駐車場で「満」とあれば満車の意味と教える。同センターはボランティアら日本語を教える人材も育てる。日本語学習の支援で大学など地域教育機関の役割は重要だ。
外国人子弟の学びの環境づくりも努力の余地が多い。文化の違いから不登校になる心配もある。浜松市では大学生団体の「WISH」が小学校に入る前の子供たちに、登下校や給食など学校生活を体験してもらう5日間の機会を設ける。「ぴよぴよクラス」と名づけ、実際に市内の小学校を使う。
活動に協力する一般社団法人グローバル人財サポート浜松の堀永乃代表理事は、「保健室がどこにあるか知っているだけで学校になじめるようになる」という。外国人の身になった支援が大切だ。
教育環境づくりをさらに進め、子弟をグローバル人材に育てる学校もあっていい。サイエンス作家の竹内薫さんは日本語、英語に加え、コンピューターのプログラム言語の3つを同時に教える新しい小学校の設立を準備している。
支援の担い手育成を
最先端の教育を提供する環境があれば、日本で働きたいと考える外国の高度人材も増えよう。政府も規制改革などで支援すべきだ。
外国人が医療を受けやすい仕組みも整えなければならない。外国人患者と医師の仲立ちをする医療通訳の役割は大きい。
市民団体の「群馬の医療と言語・文化を考える会」は講習会を開くなど医療通訳の養成や病院への普及活動を進めている。医療通訳には医療の知識や守秘義務などの職業倫理が求められる。各地域が育成に本気で取り組むときだ。
政府は外国人の受け入れ環境整備の司令塔を設けるべきだ。日本語指導者など支援の担い手の養成は、政府が明確に方針を打ち出せば大学や自治体も動きやすい。
外国人住民の多い自治体は、外国人政策を包括的に担う「外国人庁」の設置を求めている。どんなかたちの組織がいいか議論を深めなくてはならないが、縦割り行政の弊害を排し、外国人政策を一元的に束ねる必要はあるだろう。
外国人を労働力としてだけでなく、同じ生活者としてとらえる姿勢は不可欠だ。私たち自身の意識の改革が共生への出発点になる。