【雑記】・「80年代少年ラブコメブームの謎」
最初のオタクムーヴメントは、だいたい77~78年頃から始まる。
これは調べれば調べるほど、そう確信できる。
もちろん、前兆のようなものはあるが(「トリトン」ブームとか)、「スター・ウォーズ」、「うる星やつら」、「未来少年コナン」、「翔んだカップル(少年ラブコメの元祖的作品)」などはみんなこの時期に始まっている。翌年にはガンダムである。
で、それだけでは「単なる特殊なシュミの拡散」という話だけで終わってしまう。
実は(?)この「78年頃」を契機として、ひとつのブームが80年代初頭に花開く。
それが「少年ラブコメブーム」である。
・その1
・「翔んだカップル」(1978年~)少年マガジン
・「みゆき」(1980年~)少年ビッグコミック
・「ときめきのジン」(1980年~)少年キング
・「タッチ」(1981年~)少年サンデー
・「胸さわぎの放課後」(1981年~)少年マガジン
・「The かぼちゃワイン」(1981年~)少年マガジン
・「さよなら三角」(1981年~)少年サンデー
・「キックオフ」(1982年~)少年ジャンプ
・「きまぐれオレンジロード」(1984年~)少年ジャンプ
これだけの作品が、サンデー、マガジン、キング、ジャンプという人気少年週刊誌で80年代前半に連載される。
「チャンピオンがねーじゃねーか」という人がいるかもしれないが、恋愛、青春をテーマにした作品としては「ふられ竜之介」という作品が1980年、連載されているし、「750ライダー」も少年ラブコメの要素が強かった。
もっと正確に言えば70年代の「愛と誠」も恋愛を扱った作品だし、みやわき心太郎の「はつ恋アルバム」という作品も見つけたりしたが、とにかくブームとしては70年代後半から80年代に始まったといって間違いないだろう。
しかし、謎なのは、これらの作品が現在のギャルゲーだとかハーレムもののマンガ、アニメ、ラノベに直接関係があるかというと、その確証がない、という点にある。
直系で関係があると思われるのは、SF仕立てでアニメファンにも人気があった「うる星やつら」と「きまぐれオレンジロード」だろうか。
しかし、「うる星」はギャグ的要素も強く、「恋愛要素」が読みたくて読んでいた読者ばかりではないとも思われる。
そして「きまぐれオレンジロード」の頃には、「少年ラブコメには一定の需要がある」と、送り手が確信した時期で、すでに、まがりなりにもシーンは「完成」している。絵柄もいわゆるアニメ絵で、現在の萌えアニメとは直接つながっている印象だ。
だが、「うる星」と「きまオレ」が少年ラブコメのオリジネーターで、だれもがそれを参考にして後続の作品を描いたわけではないだろう。
その辺が、なかなか謎なのである。
・その2
そしてこの「少年ラブコメブーム」における作品群は、はっきり言うが、それほど、ものすごく面白い作品が目白押し、という感じではなかった。
少女マンガのコンテクストを理解して、自分のものにしていた高橋留美子とあだち充を除き、どれもが見よう見まねで、どう評価していいかわからないものが多かった。
このあたりは、しがらみのある評論家とかは言いにくいだろうから私が書くが、ほとんどたいして面白くなかったのである。
だが、それには理由がある。少女マンガは短編が主流であり、少年マンガは長編が主流であったため、少年マンガ家が、少女マンガのマネをしようにもできなかったのではないか。
だから連載のヒキが三角関係のバランスが崩れたりまとまったりの繰り返しとか、なんだかそういうのがダラダラ続くのが多かった。
別の言い方をすれば、少年向けのエッチなマンガも80年代、少年ラブコメとともに並行して描かれているが、エッチな要素があれば間が持つし、ドタバタにもできるから読んでいて拙くてもそれほどつまらない、と思った作品はない。
他にも、「ウイングマン」などの、SFアクションにラブコメを取り入れた作品や、「ストップ!! ひばりくん!」のように、ラブコメ要素がうまく盛り込まれすぎていて「少年ラブコメマンガ」として認識されていないものもあるが、ややこしいのでここでは置く。
で、何が言いたいかというと、この「少年ラブコメ群」を認識しないと、後の「萌えブーム」が見えてこないのだが、だからといって、「萌え」と80年代少年ラブコメブームが直結しているかというと、そうとも言いきれない、ということである。
・その3
まず、80年代少年ラブコメマンガ家でも、妄想度が少なめの作家であった柳沢きみおは、大人の恋愛を描くマンガ家になった。
彼はオタク大嫌い、アイドル大嫌い、を公言していることもあるし、後続の作家があまり参考にしたとも思えない。
同時に、ラブコメも描いていたがあまりパッとしなかった国友やすゆきも、青年誌で成功している。国友やすゆきも、作風からアニヲタとは無縁なようである。
「80年代の少年ラブコメを描いていた作家」と限定すると、その後も継続して似たような作品を描いているのはやはり作風のしっかりしていたあだち充と高橋留美子くらいか。他の作家の作品のうち、何作かの続編があるのも知ってはいるが……。
原秀則は、青年誌に恋愛ものを描いていたが。
どうも、この辺がよくわからないのである。
「少年マンガに恋愛要素が導入された」のはものすごく大きな事件であり、なおかつ、70年代後半からのオタクムーブメントと無縁ではないはずだ。
簡単に、当時の言葉で言えば「ネアカ」ということであり、「ポップ」ということである(「翔んだカップル」はちょっと違うが)。
つまり青春を謳歌する、ということだ。
ここでまた面倒なのが「学園青春ドラマ」の存在だ。おそらく元祖的なものとしては1965年からの「青春とはなんだ」や同じ系統だという「これが青春だ」があげられるだろう。
舟木一夫の曲「高校三年生」は1963年の作品であり、「青春時代」を特別視する傾向は60年代からあることがわかるが(「若大将シリーズ」だってあるし)、それと80年代のポップさはちょっと違うのだ。
「青春もの」というのは、恋愛にかぎらず人間関係、勉学、進学、親子関係なども含んだ、むずかしい年頃の男女の問題を取り上げていたが、「少年ラブコメ」はとにかく「恋愛」だけに特化していたし、70年代までにあった、一種の「クソマジメさ」が、なくなっていったのだ(「翔んだカップル」は、なかなかシリアスな展開となるが、これのドラマ版はまったくのコメディだったのだ)。
・その4
最近思うのは、80年代前半のメジャー青年誌によるラブコメマンガブームに近いようで遠い、SFマンガだとかファンタジーマンガだとか、そっちのラブコメ要素が継承発展されたのではないか、ということだ。
それらは「恋愛マンガ」とはカテゴライズされないので見過ごされがちだが、美少女を必ず出すことは必須となっていたし、美少女が出るなら恋愛要素も取りこまねばならない。
しかし、それって個人的にはどうにもつまらない話なのだ。
80年代少年ラブコメと比較すると、そりゃーSFファンタジーマンガにスパイス程度に恋愛要素を盛り込んだほうが、ごまかしはきく。
しかし、80年代の少年ラブコメの泥臭さを経ずして、現在の(男の子向けの)恋愛エンターテインメントが成立している、というのがどうにも気に食わないのである(笑)。
あ、長い割にはつまらない結論になってしまった。
こんな日もあるさ。
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