2016-01-10
なぜ中国の経済危機が起こったのか
|昨年以来、中国では株価の暴落が繰り返されています。今年になってからも暴落が発生し、今年から導入したサーキットブレーカーが2度も発動されたため、慌ててサーキットブレーカーを停止するなど、市場の混乱が続いています。その影響は世界中に波及し、先進各国の株式市場も株安になっています。
このような混乱がなぜ起こっているのかを知りたくて、ここ数日、内外の様々な記事を読んでいましたが、十分納得できるものがなかなかありませんでした。その中で唯一納得できたのが、なんと夕刊フジの田村秀男氏の記事でした。
年明け早々から株式市場はチャイナ・リスクで大荒れである。世界最大水準の中国債務は今後さらに膨らむ情勢なのだから、不安がグローバルに伝播してしまう。
「中国、今年は改革の正念場に」(米ウォールストリート・ジャーナル1月4日付)であることには違いないが、習近平政権にとってはそれどころではない。
中国金融のどん詰まりぶりを端的に物語るのは、中国人民銀行による人民元資金発行残高である。昨年後半から急減している。前年比マイナスは実に16年ぶりだ。
人民銀行は2008年9月のリーマン・ショック後、元の増発に増発を重ね、国有商業銀行を通じて資金を地方政府や国有企業に流してきた。大半は不動産開発など固定資産投資に向けられ、国内総生産(GDP)の2ケタ成長を実現した。その結果、10年にはGDP規模で日本を抜き去ったばかりか、党中央は豊富な資金を背景に軍拡にもいそしんできた。東シナ海、南シナ海などでの海洋進出はマネーが支えてきた。党の意のままにできる元資金こそが「超大国中国」の原動力だ。
元膨張を支えてきたのはドルである。リーマン後の米連邦準備制度理事会(FRB)によるドルの増発(量的緩和=QE)に合わせて、人民銀行が元を刷る。グラフはQE開始後、元資金のドル換算値がドル資金発行増加額とほぼ一致していることを示す。偶然にしては、でき過ぎの感ありだ。
人民銀行は自らが定める基準レートで流入するドルをことごとく買い上げては元を発行する。買ったドルはゴールドマン・サックス、シティ・グループなど米金融資本大手に委託して米国債で運用するのだから、北京とウォール街の間には何らかの合意があったとしてもおかしくない。
ところが、FRBは米景気の回復に合わせて14年初めごろから、世界に流れ出た余剰ドルの回収の模索を始めた。QEを14年10月末で打ち切った。さらに先月下旬には利上げした。バブル化していた中国の不動産市況は14年初めに急落、次いで上海株も15年6月に暴落した。
中国からの資本逃避に拍車がかかり、人民銀行は外貨準備を取り崩して元を買い上げ、暴落を食い止める。それでも売り圧力は高まるばかりだ。元の先安予想がさらに上海株売りなどによる資本流出を助長する。
【お金は知っている】習政権にとって“人民元自由化”は自滅の道 日本としては大いに結構 (1/2ページ) - 経済・マネー - ZAKZAK
実はこの記事で一番重要だと思ったのは、人民元とドルの資金発行量増価額を示したグラフでした。リーマンショッ以降、中国がドルに合わせて人民元発行を増やしてきたことがよく分かります。つまり中国は人民元をドルにペッグしていたことになります。この人民元の膨張こそが、ここ数年の中国経済発展の理由でしょう。
実は1980年台後半の日本のバブル景気も、日銀による金融緩和の結果でした。ここ数年、中国経済がバブルではないかと言われてきましたが、そのバブルの理由もこの人民元膨張だったのでしょう。
しかし、昨年に入ってFRBは利上げを模索するようになり、昨年末には利上げが行われました。そのためにドルの発行量増加は止まり、中国もそれに合わせて人民元の増加を止めることになりました。昨年、中国で株価が大幅下落してバブルが崩壊したのはそのためでしょう。日本のバブル崩壊も、日銀による金融引き締めが引き金になっています。
さらに中国ではインフレ率が低下し、経済成長率も下落しています。
その対策として、昨年8月、中国は人民元の切り下げを行いました。為替介入で人民元のレートを維持すると、金融緩和しても効果がなくなるので、これは経済学の教科書通りの政策です。
しかし、その結果資本流出が起こり、資本逃避の懸念が増してしまいました。そして今年の株安も人民元安と連動しています。
中国の通貨、人民元の対ドル相場が下げ止まらず、世界の金融市場を揺さぶっている。急激な元安は中国からの資本流出を招き、同国経済を一段と下押ししかねないとの懸念が広がっているからだ。7日の世界市場では株価が大幅に下落し、原油価格はリーマン危機後の安値を下回った。米国の追加利上げが予想されるなか、元安に歯止めがかかる兆しはない。
このように人民元の下落は景気を刺激するどころか、資本流出を招いて逆効果になっています。これはなぜでしょうか。
FRBがドルの発行量を増やしている間は、中国はドルに合わせて人民元を増やすことで、景気を刺激することができました。しかし、FRBがドルの発行を増やさなくなると、中国が人民元の発行を増やすためには、人民元を切り下げなければなりません。
しかし、中国経済は外資を取り入れることでここまで成長してきました。外資はドルの資金量、つまりFRBの金融政策によって増減しますから、中国が金融緩和しても外資に影響を与えることはできません。もともとFRBのQE終了と利上げで外資の引き上げが始まっていたところで、人民元を切り下げたため、さらに外資の流出を加速させてしまったのでしょう。これが今回の中国の経済混乱のメカニズムだと思います。
このような資金流出を恐れて、今後中国は人民元の切り下げには慎重になるでしょう。ただ、そうなると金融緩和もできなくなり、中国は財政政策や構造改革で景気を回復させようとするでしょう。
昨年末、実際にこのような報道がありました。
中国は、景気支援に向け、金融政策に柔軟性を持たせる一方、財政出動を拡大する。2016年の経済政策の優先課題を話し合う中央経済工作会議の決定事項を国営メディアが報じた。
発表された声明は「積極的な財政政策を強化し、穏健な金融政策を一段と柔軟にすることが必要」と表明。
財政赤字の比率を緩やかに引き上げるとともに、企業の負担軽減に向けた減税を行なうとした。
来年の成長率を「妥当な範囲」に維持するとしたが、詳細には言及しなかった。
政府はまた、インフラ向け支出を拡大するほか、低迷する不動産市場を下支えるため、住宅購入に伴う規制を緩和する。
<サプライサイドの改革>
中央経済工作会議では、新たな成長のけん引役の育成を支援するため「サプライサイドの改革」を推進し、過剰生産能力の削減や不動産の在庫の調整に取り組むとした。
関係筋によると、政府はサプライサイドの改革を推進する一方、需要の押し上げに向けた措置を講じる。
「構造改革の断行には、一定の成長率の維持が必要」という。
関係筋はまた、中国、および世界経済は急激な落ち込みから低成長が長期間続く「L字型」回復となる見込みのため、「需要サイドの政策だけでは、景気支援は不可能」と語った。
また金融リスクへの対応をさらに進め、地方政府の債務リスクを効果的に抑制するとしている。
来年の経済政策ではデレバレッジを重視する方針も示した。
中国の政府当局者は欧米諸国がここ数年ほとんど役立ててこなかった政策を試そうとしている。国内のサプライサイド(供給側)を重視する経済改革だ。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のリンリン・ウェイ記者(北京在勤)は、中国政府が公表した2016年の同国経済の青写真には減税計画が含まれ、財政支出の拡大を押し進めた従来政策からの方針転換をうかがわせていると指摘する。青写真は企業のコスト負担引き下げも視野に入れている。
しかし、「穏健な金融政策」というのは、実際にはかつての日銀のような、"too littile, too late"な金融政策になるでしょう。経済成長が低迷し続ければ、いずれ財政政策も続けられなくなり、逆に増税などの財政緊縮に走ることになるでしょう。そしてサプライサイドの「構造改革」は、デフレやディスインフレの不況に対しては効果がありません。
かつて日本はこのような組み合わせの経済政策を行い、「失われた20年」を招いてしまいました。どうやら中国もその轍を踏みそうな状況です。
ただ、日本はアベノミクスで大規模な「異次元緩和」を行っても、外資の流出を心配する必要はありませんでした。日本の投資は、日本国内の資本で賄われていたからです。日本がこのような間違った経済政策をしてしまったのは、単に財務省、日銀、経済学会などの専門家が間違った理論を信じていたことと、財務省が財政危機を煽ることで利益を得る構造を作り出してしまったからでした。
しかし、中国は外資流出という実害があるために、金融緩和に踏み切ることができません。中国の経済専門家は正しい経済理論を使っても、問題を解決することができないのです。従って中国の経済問題は、日本以上に解決が困難でしょう。
今後、中国はかつての日本のようなデフレ不況に陥ると思います。しかも日本と違い、そこから抜け出す道はありません。中国はこのまま衰退し、「21世紀のアルゼンチン」となってしまうのかもしれません。
ただ、中国共産党がそれを座視することはないでしょう。経済政策で抜け道がないのならば、間違った道であっても軍事的な解決策を模索すると思います。そのような行動は、東アジアに安全保障上の危機を起こすでしょう。
日本はバブル崩壊から7年後に深刻な経済危機に陥りました。中国も同じペースで経済的に衰退するのであれば、2020年代前半には深刻な経済危機に陥るのでしょう。ちょうどその頃、今の習近平体制は政権交代の時期を迎えます。これまでと今後の中国の軍拡を考えると、中国で政治的な混乱と経済的な混乱が同時に起こるこの時期に、太平洋戦争にも匹敵する東アジアの危機が起こるのではないかと、僕は懸念しています。
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