「盗みたくないのに、スイッチが入って盗んでしまう」-。経済的な理由などでなく、衝動を抑えきれずに万引を繰り返す病気「窃盗症(クレプトマニア)」。再犯率も高いが、県内には専門的な治療を行う施設などはなかった。そうした中、昨年12月、弁護士らが県内唯一の支援団体「KAなら」を発足させた。“病気”という側面を認識した上での再犯防止に向けた取り組みを進めている。(山崎成葉)
■盗品価格は数千円以内、患者の多くは女性
平成27年版犯罪白書によると、窃盗罪の再犯率は覚せい剤取締法違反に次いで高い。22年の出所者(9855人)の5年以内の再犯率(26年)は46・1%(4542人)と、半数近くにも上り、捜査関係者が「癖(へき)」とも表現するほど。だが、「窃盗症」の治療など行う支援施設は全国的にも少なく、先進的な治療を行っている「赤城高原ホスピタル」(群馬県渋川市)では20年以降、1370人が受診している。
患者には女性が多いといい、摂食障害(過食症、拒食症)など、他の病気と併発する傾向が高い。同院でも、摂食障害での入院患者の約半数に万引した経験があったが、盗品の価格はほとんど数千円以内だったという。
経済的な理由や、所持する目的さえないのに盗みを繰り返す特徴がある窃盗症は、精神的ショックや生活上の変化などが引き金となり発症するケースが多いという。同院での治療の核は、自助グループでのミーティング。再犯したら報告し返金、罰金を科すという誓約書を作成するほか、物品のため込みがないかをチェックしたり、窃盗犯の裁判を傍聴させたりする。病気に向き合うことで、「回復」が期待できるのだという。
■批判はしない「言いっぱなし」が原則
専門的な治療を行う施設や支援団体がなかった奈良県内では昨年12月、法テラス奈良法律事務所の松井大輔弁護士(33)らが、当事者と家族、弁護士ら支援者でつくる支援団体「KAなら(クレプトマニアクス・アノニマス)」を発足。同月上旬、当事者の30代~60代の男女5人を含む計約10人で最初のミーティングを開いた。
代表も務める松井弁護士には、仕事で窃盗症患者とみられる被告人と接した経験があった。「盗みたくないのに、衝動に支配されて盗んでしまう」などと打ち明ける様子が「本当に苦しそうで、つらさがひしひしと伝わってきた」と話す。
窃盗症などの依存症の治療には、批判はしない“言いっぱなし”が原則のミーティングが有効とされる。同会でもそうした会を、週1回、1時間半ほど開催。参加資格は16歳以上で、匿名も可能で、今後は、当事者だけで解決できない課題を家族や支援者で共有し、法律相談などにも応じる方針だ。
松井弁護士は「互いに体験談を話し、共有することで、それぞれの問題解決につながっていけば」と期待する。
■短期間での治癒難しく
窃盗罪には、10年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる。だが、執行猶予期間中に再犯を繰り返す窃盗症患者は多く、松井弁護士は「病気なので、刑事的処罰だけでは解決されないのではないか」と指摘する。
近年は執行猶予中に万引で逮捕され、地裁で実刑が言い渡された事件の控訴審で、執行猶予付き判決になった事例もあるという。松井弁護士は「病気という性質を考慮しての司法判断が、徐々に見受けられるようになってきた」と話す。
短期間での治癒は難しいのが依存症の治療で、患者は長期間の治療を継続することが必須となる。だが、赤城高原ホスピタルでは、患者の約7割が3カ月以内に治療を止めてしまうといい、竹村道夫院長は「唯一確実に治療を受けられるのは、刑事裁判の進行中」と指摘。改正刑法で薬物使用者を対象に導入が決まった「刑の一部の執行猶予制度」を挙げ、「窃盗症患者にも同様の制度があれば」と話した。
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